「史上最悪のゲーム」との呼び声高い『Desert Bus』を利用したチャリティーイベント「Desert Bus for Hope」が日本時間11月10日午前3時より始まる。2007年にコメディーグループLoadingReadyRunが始めたこのイベントは、これまでに440万ドル以上の寄付を集めている。寄付金は全てゲーム業界の慈善団体であるChild’s Playに贈られている。
『Desert Bus』は95年頃にSega CD(北米版メガCD)向けに制作されていた『Penn & Teller’s Smoke and Mirrors』というオムニバスゲームに収録されているゲームのうちのひとつだ。
ゲーム内容は砂漠のバス(Desert Bus)の名の通り、アメリカのアリゾナ州ツーソンからネバダ州ラスベガスまで、約580キロの長い長い一本道をひたすら運転するというもの。ときおり、標識や岩が現れる以外に風景に変化はなく、他の車とすれ違うことも無い。
ほぼほぼ変わらない風景をただ走り続けるゲームプレイは単調そのものだが、ただアクセルボタンを固定して放置することは許さない。バスは少しずつ右に寄っていくので、プレイヤーは常にバスを正規のルートに戻さなければならないのだ。バスが道路から離れると、コンテニューもなくスタート地点まで戻されてしまう。
そしてバスは最大時速72キロで走行するので、ラスベガスに到着するまでに最低でも実時間で8時間はプレイしなければならない。ポーズもないので、一度コントローラーを握れば後はひたすらプレイすることになる。ちなみに、このゲームは目的地に着くと1ポイント獲得でき、最大99ポイントまで増えると言われているが、これを達成するには33日間運転し続ける必要がある。
『Penn & Teller’s Smoke and Mirrors』は結局発売されずにお蔵入りとなったが、レビュワー向けに配布されたソフトが存在し、2006年にあるレビュワーからインターネット上に流出したことで注目されることとなった。そんな『Desert Bus』に目を付けたのが前述のLoadingReadyRunで、寄付によって配信時間が伸び続けるチャリティーイベントという無謀な挑戦は、2018年に12回目を迎える。
イベントのルールは簡単で、1時間毎に規定の寄付金額に達していれば、さらにもう1時間運転が続くというものだ。しかし、ゲームをプレイし続けるのは多大な苦痛を伴うので、1時間毎に必要となる寄付金額は7%ずつ増えていく。
最初の1時間は1ドル、次の1時間は1.07ドルに増え、10時間後には1.84ドルになる。運転が4日を超える頃には延べ1万ドルが必要となり、1週間をすぎる頃には100万ドル以上の寄付が必要となる。なお、長時間にわたり運転風景を眺めるのはやはり退屈なのか、ホストたちはドライバーそっちのけでダンスパーティーをしたり、お酒を飲んだりして過ごす。
2017年は65万ドルを集め、158時間、日数にして6日と14時間、バスは砂漠を走り続けた。2018年のイベントでは19名のドライバーがエントリーしており、ひとりひとりに割り当てられた運転時間は12時間となっている。
なお『Desert Bus』には、当時巻き起こっていたビデオゲームの有害性に関する主張に反論するために作られた作品でもある。よりリアリティを増していくゲームは、リアルな暴力を描くだけではないことを示そうとしたのだ。『Desert Bus』がチャリティーイベントに使われている理由は、無意味に思えるゲームプレイだけではないのかもしれない。
発売されることのなかった『Penn & Teller’s Smoke and Mirrors』だが、2011年には「Desert Bus for Hope」を支援するため、AndroidとiOS向けに『Desert Bus』が単品でリリースされた。これらの収益は全てChild’s Playに寄付されている。
また、2017年には無料でプレイできる3Dリメイク版『Desert Bus VR』までリリースされた。VRヘッドセットを持っていなくてもプレイできる。3D化によって演出が強化され、元のゲームの虚無感をそのままにほんの少しだけ遊びやすくなっている。
「Desert Bus for Hope」まで後2週間となった。ホストが苦しむ姿を見たい人、単純に寄付しようと思う人、このイベントに賛同する人は是非協力してほしい。
文/古嶋誉幸