【更新 2019/3/21 13:25】 ディズニーの広報担当は海外メディアGamasutraの取材を受け、今回の一件がLucasfilm Gamesの復活を意味するものではないと回答した。Electronic ArtsやNetMarbleのようなパートナーとのライセンス事業を継続することを強調しているという。名前が同一である理由は不明となっている。
【原文 2019/3/20 16:43】 欧米で1980年代から1990年代にゲームスタジオとして大きな存在感を見せ、その後ディズニーの買収によって2013年に内部開発を取りやめ、実質的にブランド名となった「LucasArts」(ルーカスアーツ)。そのLucasArtsがかつて名乗っていた「Lucasfilm Games」という名の開発スタジオを、現在ディズニーが設立しようとしていることが明らかになった。
これはディズニーが3月11日以降から公開している採用募集ページから判明したもので、募集されているスタッフはいずれも開発職となっている。現在はプロデューサーやアートディレクターなどを募集しており、PC、コンソール、スマートフォン、AR、VRなどが開発プラットフォームに含まれている。
正式発表こそないものの、Lucasfilm Gamesという名前からLucasArts系列の開発スタジオであることは間違いと見てよいだろう。内部開発をやめたLucasArtsの再出発。募集要項を見る限り、少なくてもサンフランシスコとバーバンクに、スタジオは設立される見込みだ。
LucasArtsとは?
LucasArtsは、『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』などのフランチャイズをビデオゲームで管理する会社として、Lucasfilmのグループ会社「Lucasfilm Games」としてジョージ・ルーカス監督によって設立された。既存の映画IPに留まらず、非常にチャレンジングなゲームを矢継ぎ早に発売し、1980年代、1990年代のアメリカを代表するゲームスタジオとして知られている。
スタジオのデビュー作は1984年の『ボールブレイザー』。日本ではポニーキャニオンからファミリーコンピュータに1988年移植されている。これは1対1で対戦するサッカーとエアホッケーを足したようなゲームだが、最大の特徴は主観視点と分割視点で対戦相手の視点も同時に画面に映し出されていること。現在プレイしてみても、非常にユニークなゲームだ。
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— NeoHabitat Project (@NeoHabitatProj) August 14, 2018
Several regions were just added to Neohabitat, restored from the original database archive: Capture the Flag (a prototype game), and the Money Tree (if you find it in the woods, you can pick 100T from it…) #c64 #RetroGames @TheMADE #onlinegames pic.twitter.com/XmrvKm3d15
※『Habiat』復元を目指すプロジェクト
1986年にはオンライン仮想コミュニティゲーム『Habitat』をリリース。MMORPGの先駆的作品とされ、日本では『富士通Habitat』としてFM-TOWNSから1990年にサービスが開始した。アメリカでサービス開始後、日本のPCゲーム雑誌「ログイン」で頻繁に特集されることになり、日本にオンラインゲームの先見性を紹介した。1980年代後半に日本人ゲームクリエイターがたびたびオンラインゲームの構想を持ち出しているのは、この『Habitat』の影響がある。日本人にオンラインゲームの夢を抱かせた最初のゲームといえるだろう。
アドベンチャーゲームの確固たる地位を築く
1987年の『マニアックマンション』で、ポイント&クリックアドベンチャーのゲームエンジンを開発。以後、1990年代の欧米では「アドベンチャーゲーム=ポイント&クリック」としてフォーマットが確立した。ゲームエンジンは「SCUMM」(Script Creation Utility for Maniac Mansion)の愛称で知られており、ゲーム内部でパロディのように頻出しているので、ファンの間ではとてもよく知られている。
1990年のLucasfilmグループの再編で「LucasArts」として改名。1990年代にはSCUMMを使った『モンキーアイランド』やスティーブン・スピルバーグが構想したのをアドベンチャーゲーム化『The Dig』、また欧米では現在でも歴代アドベンチャーゲーム1位にたびたび挙げられる『Grim Fandango』を発売し、アドベンチャーゲームといえばLucasArtsといえるほど、確固たるブランドを確立した。
また同時期はFPS、シューティングゲームの開発にも成功している。西部劇をFPSに落とし込んだ『Outlaws』、『Star Wars: Dark Forces』から派生する「ジェダイナイト」シリーズは高い評価を得る。『スターウォーズ レベルアサルト』は初期CD-ROMゲームのキラータイトルとなった。他にもアクションアドベンチャーでは『トゥームレイダー』風の『Indiana Jones and the Infernal Machine』、シミュレーションゲームでは『Battlehawks 1942』や『Afterlife』など、代表作は枚挙にいとまがない。
2000年以後、苦難の道へ
しかし2000年以降に陰りが見え始める。この時期、映画『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が公開され、映画が新三部作として再出発したが、映画に合わせたゲームが粗製乱造されてしまった。中には評判も悪くないゲーム版『スター・ウォーズ エピソードIII シスの復讐』などもあるものの、その影響もあって2004年には大規模な人員削減が実施されることとなる。なお、アドベンチャーゲームのスタジオTelltale GamesやDouble Fineは、この時期のLucasArtsの元スタッフが集まって設立された会社だ。
以降LucasArtsは、デベロッパーというより、パブリッシャーやブランド名として存在感を放つことになる。特にBioWareが開発した『Star Wars: Knights of the Old Republic』は高い評価を得ている。日本未発売に終わり、悔しい思いをした『スター・ウォーズ』ファンも多いだろう。
2012年には親会社Lucasfilmをディズニーが買収。さまざまなゲームが企画されていたが、2013年に全てのゲーム開発をキャンセル。以後は、Disney Interactive StudiosやEAなどに開発を引き継ぐか、ライセンスを供与する方針に転換。1980年台から長く続くゲーム会社としてのLucasArtsの歴史に幕が下ろされた。
しかし冒頭で伝えた通り、ディズニーがゲーム開発スタジオとしてLucasArtsを再結成させる意向のようだ。リーダー職のような人材から募集しており、ほとんど一からの出直しに近い。しかし、欧米ではLucasArtsで生まれ育った人がいるほど、人気と歴史がある会社である。その看板を背負ってゲーム開発をしてみたいと思う優秀な人材が集結してくることだろう。これは”新たなる希望”なのか”帰還”なのか、それとも”覚醒”なのかわからないが、「LucasArts」改め、新生「Lucasfilm Games」の動向にこれから要注目だ。
ライター/福山幸司