The Chinese Roomは、一人称視点アドベンチャーゲーム『Dear Esther』のiOS版を2019年内に発売すると発表した。いわゆる“ウォーキングシミュレーター”と呼ばれるジャンルを世に広めた歴史的作品が、ついにモバイルでも楽しめるようになる。
We are excited to announce that Dear Esther will be arriving to iOS devices in 2019!
— The Chinese Room | Still Wakes The Deep out now 🎮 (@ChineseRoom) August 8, 2019
Our fans mean everything to us and we can’t wait to have you and a new generation of players exploring its mysterious Hebridan isle in its mobile debut!
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『Dear Esther』は、当初は『Half Life 2』のMod作品として2008年に配信された作品で、2012年にPC向けの製品版、そして2016年にはコンソール版が発売された。一切の説明がないままに、とある不思議な孤島でゲームはスタートする。プレイヤーはエスターという女性への手紙を読み上げる男性の声をときおり聞きながら、宛もなく島を探索し続けることになる。
本作が特徴的なのは、ただ孤島を歩くということにフォーカスしている点だ。作中には解くべき謎も倒すべき敵もいない。ゲームをクリアしても島やプレイヤー自身の正体も明確には明かされない。プレイヤーは、島で見て聞こえるものに感じ入り、ときおり聞こえてくる男の独白を紡ぎ合わせて、自分なりの答えを求めることしかできない。
もともとイギリスのポーツマス大学を拠点にしたThe Chinese Roomが、芸術・人文科学研究会議の支援を受けて開発したという、めずらしい経緯を持つ本作。そんな実験的な作品は、はたしてゲームであるのかどうかという議論を巻き起こし、当時は“ただ歩くだけのシミュレーター”として「ウォーキングシミュレーター」とも批判された。
だが、ただ歩き回りストーリーを追うだけの「ウォーキングシミュレーター」は、美しいビジュアルおよびサウンドと意味深な作品構造を持つ『Dear Esther』での議論を経て、その後ジャンルとして一定の確立を得ることになる。2003年には『Unreal Tournament 2003』用のModとしてメアリー・フラナガン氏が開発した『[domestic]』という似た作品が発売されているが、後にリリースされる『Gone Home』や『Firewatch』、『The Stanley Parable』といった作品は、『Dear Esther』に連なる作品であると言えるだろう。
なお今回配信されるiOS版で大きなネックとなるのは、おそらく日本語版はリリースされないだろうという点だ。PC版ではPLAYISMより日本語版がリリースされていたが、現在は購入できず、コンソール版となる『Dear Esther: Landmark Edition』も日本では未発売だ。
しかし、Mod版のリリースから10年が経ったいま、本作をプレイしたことがないという方も少なくないだろう。言語の壁はけっして低くはないが、『Dear Esther』のiOS版リリースを機に、ぜひ一度プレイしてみてほしい。
ライター/古嶋誉幸