2019年5月、WHOは新たな依存症として認定した「ゲーム障害」は、2022年1月からアルコールやドラッグと同じ治療が必要な疾病となる。それを受け、イギリスでゲーム障害を治療するクリニックを10月より開設することを、英ナショナルヘルスサービスが発表した。同クリニックではゲームだけでなく、ギャンブルやソーシャルネットに関連する問題で苦しむ人々も対象としている。
治療の対象者は13歳から25歳までの若者だ。臨床心理学者、精神科看護師、セラピスト、小児および若年者の治療を専門とする精神科医が協力して治療に当たる。治療はロンドンの「National Centre for Behavioural Addictions」(国立行動嗜癖センター)で行われ、かかりつけ医から紹介を受けた患者は直接、あるいはSkypeにて面談を受けることができる。
ゲーム障害は、2018年に改訂されたWHOの「疾病、傷害及び死因の統計分類」(ICD)にて、ギャンブルと同じく「中毒性の行動による障害」として登録された。具体的には、(1)ゲームをプレイする時間や頻度を自身で制御できず、(2)ゲームの優先度が生活の他の活動より高く、(3)個人や社会生活に悪影響が出ているにも関わらずゲームを継続またはエスカレートする状態で、これらが12ヶ月以上続く状態を指す。ただし、症状によっては12ヶ月以下でも例外的に認められるとされている。
これに対して米国のエンターテインメントソフトウェア協会、欧州インタラクティブ・ソフトウェア連盟、英国インタラクティブエンターテイメント連盟らビデオゲームの業界団体は、より深く研究が必要で決定は早計であると強く反発。心理学者のアンソニー・ビーン氏はCNNに対して、ビデオゲームが不安やうつ病のメカニズムとして使われていることを語っている。つまり、順序が逆で、うつ病の結果としてゲームに依存するということだ。うつ病の治療が進むにつれてゲームへの依存も改善されていく。加えて、WHOの基準は範囲が広すぎ、程度の軽重を計る基準が無いことを問題点として挙げている。
センセーショナルな文面でゲーム障害は新たな疾病として紹介されることもあるが、少なくとも上記基準でゲーム障害として認定されるほどの症状を抱える患者は、ゲームファンのうちの極めてわずかな割合でしかないことは明白だ。前述のCNNによるWHOへのインタビューでは、無数にいるゲームファンのうち障害として認められるのはごくわずかだとしている。
海外メディアVideo Games Chronicleにて、神経科学者のナスターシャ・グリフォン氏はビデオゲームが他の趣味と比べて中毒性が確かにあるという証拠はほとんど無いと語っている。この問題を扱うのは非常に慎重になるべきで、十分に研究がなされないままうつ病や不安の発生源としてのレッテルを人々がビデオゲームに貼る可能性があると警告している。日本では事実無根の「ゲーム脳」が真剣に問題視されていた歴史を振り返れば、特にメディアはゲーム障害に対して誠実に取り組む必要があるだろう。
「ゲーム障害」世界各地の症例・事件まとめ──WHOの国際疾病認定は何を意味するのか?失明や死亡事例も
すでに多くの研究が行われているテーマではあるが、今なお実態解明といえる包括的な研究結果と言えるものが知られていないというのも、ゲーム障害を過度に不安に思う気持ちを後押ししていると考えられる。ゲームが生活を脅かす障害を生み出すと認定されたことは残念ではあるが、本当にゲームが障害を引き起こすのか否かは、疾病認定されたからこそ研究がより深く進むことに期待したい。
ライター/古嶋誉幸