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「ゲーム障害」世界各地の症例・事件まとめ──WHOの国際疾病認定は何を意味するのか?失明や死亡事例も

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 世界保険機関(以下、WHO)は1月5日、ゲームへの依存を断ち切ることができない「ゲーム障害(Gaming disorder)」を、国際疾病分類(ICD-11)に認定する見通しを発表した。スイス・ジュネーブ における会見にて明らかにされた。

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(Photo by Getty Images)

 ゲーム障害(依存)においては、おおまかに“社会生活に影響が出るほどゲームに没頭してしまう”ような症例が挙げられており、こういった状態が12か月間にわたって続くとゲーム障害に該当することとなる。

 WHOがゲーム障害をICDに認定した発表に対しては、ゲーム業界団体であるエンターテイメント・ソフトウェア協会(ESA)が「世界20億人以上がゲームを楽しんでおり、客観的な依存症は証明されていない」と抗議。
 SNS上では、「それなら自分もゲーム障害では?」といった冗談から、「○○障害」大喜利を始めるユーザーまで、さまざまな反応が見られた。

ICD-11 Beta Draft(英語) 

 さて。このニュースを見て、「WHOがゲーム依存を新たな病気として認定した」と受け止めた読者もいるかもしれない。
 だがそもそもWHOのICD認定は、各国で独自の名称が付けられている“既知の病態”を世界的に統一し、統計や対応策のフィードバックなどを管理するための分類なのである。
 つまり今回、WHOがゲーム障害を認定する以前から、世界各地にて少なくともWHOはゲーム障害の症例を認識していた状況だったと言えるだろう。

 この記事では、WHOが国際疾病分類として認定したゲーム障害のニュースに、すでに各国が対策を取りつつあるゲーム障害の背景をプラスしてみよう。

文/Nobuhiko Nakanishi
編集/ishigenn


韓国ではいち早く対策進む。強制シャットダウン法も

 おそらく韓国は、国民のあいだでゲーム障害の症例が顕著に表れた国のひとつだ。
 20世紀後半、政府主導によってIT先進国となった韓国では、同時にネットゲームに関する専門官庁が作られた。
 続いて2000年代前半にはインターネット依存に関するカウンセリングセンターが設立されており、ゲーム障害を予見したリスク対応は極めて早かったと言える。

 しかし2002年には光州のPC房(日本におけるネットカフェ)で、24歳の男性が86時間連続でゲームをプレイし続けて死亡した。

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2002年にBBC Newsが報じたPC房のニュース。長時間ゲームを遊んで急死した例の多くは、長時間同じ態勢でゲームをし続けることにより血栓が発生するロングフライト血栓症(エコノミークラス症候群)が原因。これはほかの行為障害【※】により発生する健康被害とは違う、独特の症状と言える。
(画像はBBC News South Korea’s gaming addictsより)

※行為障害
反社会的、反抗的な行動を6か月以上にわたり続ける障害のこと。WHOではICD-11の前のバージョンであるICD-10に分類されている。

 その後もゲームが原因での死亡事故は韓国で多発。Timesでも当時の様子がまとめられているが、2005年には1年間で10名が死亡するなど、政府の対応の想像を超えた速度でゲーム障害は社会問題化していく。
 全国的な調査や、安価に対応する専門の医療施設の開設などを進めるも、それだけでは抜本的な解決には至らず、その後も2000年代にはゲーム障害による死亡案件は頻発に報じられている。

 そしてこの社会問題化を背景に2011年、韓国では16歳未満の青少年が午前0時から午前6時までのあいだにオンラインゲームをプレイすることを禁ずる法案「シャットダウン制」が可決された。
 非常に強力な公権力からの規制であるシャットダウン制は、ときに韓国のゲーム産業そのものの衰退を助長した過剰な方法だと評されることもある。

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CNN Newsによるシャットダウン制可決のニュース。
(画像はCNN News South Korea pulls plug on late-night adolescent online gamersより)

 ネット先進国であった韓国は、同時にゲーム障害の先進国でもあり、青少年の健康と産業の発展のバランスをどう取るか、現在進行系でシビアな舵取りを迫られてる。

市場の成長とともに問題増える中国。症例は子供から軍人まで

 現在もっともゲーム熱が強い国のひとつである中国
 ゲーム市場規模が世界一の規模へと成長した代償として、ゲーム障害が大きく社会問題化している国でもある。
 2000年代からは、韓国と同様にネットカフェや自宅での長時間オンラインゲームでの死亡例が報じられるようになった。

 ゲーム障害が発生していった経緯は韓国と似ているが、ゲームプレイの軸がスマートフォンアプリに移行しつつある昨今、ゲーム障害の軸足もそちらへと移りつつあるのが中国でのユニークな事情だ。

 とくに例としては、2015年にテンセントが配信を開始したMOBA『王者栄耀』が挙げられる。

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『王者栄耀』
(画像は『王者栄耀』公式サイト より)

 プレイ人口が2億人と母数が多いこともあるが、未成年の子供が親のカードを使って課金コンテンツを購入したり、ゲームの影響から自分が飛べると勘違いしたプレイヤーが高所から飛び降りて足を骨折する事件などがいくつか報じられ、未成年に対する悪影響が問題視されてきた。

 こういった問題を受けテンセントは2017年7月、12歳以下のプレイヤーが遊べる時間を1日2時間、12歳以上の未成年は1日2時間に制限するなどの対策を開始した。
 しかし、そもそもIDでの管理統制が韓国ほど強くない中国では、その実効性に関して疑問視する向きもある。

 また、『王者栄耀』の中毒性は未成年にだけ影響しているわけではない。
 昨年、人民解放軍新疆軍区は、兵士の『王者栄耀』のプレイを禁止。事前予告なしの軍事演習時に、ゲームに興じていて警報に気づかないなど不祥事が重なったため、軍隊の弱体化に繋がるというのがその理由だ。

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『王者栄耀』禁止令に関するニュース。日本ではあまり報道されないが、新疆ウイグル自治区は根強い民族問題にさらされ続けている、安定しない地域でもある。
(画像はRadio Taiwn International 中共解放軍迷手遊 傳新疆駐軍下達禁令より)

 直近でも2017年10月には21歳の女性が長時間プレイにより右目を失明するなど、ゲーム障害による事件が収束する気配はいまのところない

300万人のゲーム障害患者がいるとも言われる欧米。一方日本では

 ネット環境の整備スピードという意味では韓国とさほど違いがないアメリカでも問題は大きく、2009年には8歳から18歳までの未成年300万人がゲーム障害であると予測したアイオワ州大学の研究データも報じられた
 EU圏でもゲームが原因の死亡事件はあったが、韓国や中国のような事件例と比較すれば、
ゲームプレイが致死レベルの重篤な状態に至るケースは少ないようだ。
 日本も同様にゲーム障害とされる症例
は多いが、ゲームを直接の原因にした死亡例はいまのところ見られない。

 だからといって欧米や日本での問題が、韓国、中国に比べて小さいという意味ではない。
 日本では海外に比べてスマホアプリに対して課金する額が突出して高いという特徴がある。
 前述したテンセントの『王者栄耀』の課金システムが、おもにゲーム内スキンなどのゲームの勝敗に関わらない部分で利益を上げているのに対し、日本のスマホゲームではいわゆる「ガチャ」による課金システムに大きく偏っている。

 もちろん、ガチャはICD分類においてすでに認定されているギャンブル障害に近いものがあり、今回提起されているゲーム障害とは一線を画すものと考えた方が良いだろう。
 ただし逆に考えれば、日本のスマホアプリはゲーム部分とガチャ部分、その両方で依存の対象とされる可能性があると言える。

障害の顕在化の在り方と対応策さまざま

 死亡や身体的な問題が注目されがちな「ゲーム障害」だが、ほかの依存症と同様に奇異な行動や暴力的な衝動に走る例も多い。
 ゲームを止められた子供が暴力的な言動を行うようになり、親族を殺害する例は各国で等しくみられる。無理にゲームを止めようとした結果、子供が自殺、あるいは自傷行為に及ぶ例も。
 ゲームに熱中する親のネグレクトも同様だ。中国ではゲームをする費用を捻出するために、自分の子供を売るという事件
も発生した。

 ただしこれらはアルコールや薬物などの物質嗜癖、性行為やギャンブルなどの行動嗜癖【※】とほぼ似通った異常行動であり、原因をゲームそのものや作品の内容と結びつけるのは無理があるだろう。

※物質嗜癖/行動嗜癖
社会的な損害をかえりみず特定の物質や行動に依存してしまうこと。

 障害に対する対策も各国で少しずつ違いがある。
 一般的にはカウンセリング、専門の更生施設でゲームから隔離された生活を送ることや、閉鎖病棟への入院など、ほかの依存症と比べてもほぼ変わりない内容だ。

 ただし中国では、矯正施設に入れられた少年が死亡することが複数回起きるほどカリキュラム内容が苛烈であり、現在は禁止されているものの対象の子供に電気ショックを与えるなど虐待に近い内容もあったという。

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中国の軍隊式ブートキャンプは国内外で大きな批判に晒されている。反省の弁を述べさせながら電気ショックを与えるといった方法論は、共産党による「自己批判」の構造によく似ていると言えるだろう。ほかにも中国ではツボへの指圧など、東洋医学的アプローチも行われている点が興味深い。後述する母親を椅子に縛って餓死させる話も伝えられている。
(画像はBBC News Teen’s death at Chinese internet addiction camp sparks anger
より)

 韓国では2018年に入ってすぐ、閉鎖病棟に放火して逃げた子供がすぐにネットカフェでゲームをプレイし、その最中に保護される事件が起こった。

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少年が放火してまで得たゲームのプレイ時間は1時間だけ。行動に関するリスクリターンが考慮の外に置かれているのは、依存症患者の典型的な行動原理だ。
(画像はsegye.com ‘게임중독’ 정신과 병동 입원 환자 병원 나가려 방화より)

 中国では施設に入れられた少女が、その恨みで母親を椅子に縛って餓死させるなど、懲罰的な隔離にどれだけ意味があるのかは不明だ。

 ほかにも、ゲーム障害というわけではないが、フィンランドで行為依存症を克服するためにドーパミンをブロックするという点鼻薬が開発されていたり、ウィーンではスマホの動きをアナログで代替させるガジェットも販売されている。

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フィンランドの国立健康福祉研究所では、ゲーム障害と同じ行為障害の範疇にあるギャンブル依存に対する即効性のある特効薬として点鼻薬が実験されている。主成分のナロキソンは阿片、ヘロインなどの薬物中毒に利用されているもので、ドーパミンをの生成を抑制する効果がある。
(画像はThe Guardian Nasal spray aimed at tackling gambling addiction to be trialled in Finlandより)

 ただ結局のところ、こういった依存症の対策に何がもっとも有効なのかという決め手はまだ見つかっていない。

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デジタル要素の一切ない、アナログ式代替スマホ。ひとつ185-195ユーロ(26000円程度)。デジタルよりアナログの方が高くつく時代なのかもしれない。
(画像はKLEMENS SCHILLINGER商品ページより)

 ESAはゲーム障害の疾病認定への抗議において、「20億人以上がゲームを楽しんでおり」という言葉を使った。個人的な考えに留まるものの、逆に20億人以上が楽しむほど魅力的な娯楽であれば、依存性は少なからず存在するのではないだろうか。耽溺できるほどの中毒性を持たない娯楽など、そもそも誰もやらないのだ。

 そういう意味では今回の疾病認定は、問題の本質的な部分の実態解明と今後の施策に影響を与える一歩であり、それは業界的にも歓迎されるべき動きなのではないかと思う。
 ゲームに対するイメージの低下うんぬんはある程度あるだろうが、どんなメディアが何を言おうと、事実は個々人で考える時代だ。問題意識の共有に意味がないということはないだろう。

 最後に。余談になるが、ICDでは同性愛が疾病として認定されていた過去があり、1990年に外された。病気の概念も時代とともに変わる。18世紀ヨーロッパでは、本を読むことに熱中することが身体的、精神的悪影響を与える中毒として考えられていたそうだ。ゲームはどうなるのだろうか。

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インタビュアー・著者
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Nobuhiko Nakanishi
大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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