ギリシャ共和国の首都アテネから西に20キロメートルほど、エーゲ海に浮かぶサラミス島。美しいビーチを持つサロニカ諸島で最大の面積をもつ島で、大きな事件が起きた。この島から『Pokémon GO』のポケモンがすべて消え去ってしまったのだ。
『Pokémon GO』はNianticがリリースしたスマートフォン用位置情報ゲーム。スマホのGPS機能とAR技術を組み合わせ、現実世界で『ポケットモンスター』の世界を楽しめる。地図上にはアイテムや経験値が手に入る「ポケストップ」や、プレイヤー同士が奪い合う「ジム」そしてもちろん捕まえることの出来るポケモンが設置される。プレイヤーはそういったスポットに実際に移動しながら、自分のポケモンを増やし戦闘を行う。
人口4万人ほどのセラミス島でも『Pokémon GO』のコミュニティは形成されており、50人から100人の地元のプレイヤーたちが美しい島を歩きながら遊んでいた。
事件が起きたのは今年の初旬だ。『Pokémon GO』が利用しているユーザーの手で編集可能な共同開発地図「オープンストリートマップ」が更新され、セラミス島を含むサロニコス湾一帯が「Natural = bay」(湾)とタグ付けされた。更新されたデータは本作にも反映され、自動的にルールが適用された。
@NianticHelp Any idea why we have been spawnless since last October in Salamina , Attica , Greece. Raids, lures incences etc work properly and everyone can catch Pokémon spawned in that way. However all wild spawns have vanished and our community has lost any incentive to play. pic.twitter.com/a0rPWTJqLZ
— Nikos Ladoukakis (@NLadoukakis) June 29, 2019
結果、セラミス島の現状をRedditに書き込んだGiannhsblazer氏によれば、このタグがつけられた場所は海域として処理され、ポケモンが1匹も出現しなくなったという。この状態はすでに現在まで7ヶ月続いている。
島ではポケモンを出現させるアイテム「おこう」や「ルアーモジュール」を使ってポケモンを出現させるか、今の手持ちのポケモンでレイドバトルを行うことしか出来なくなっている。
プレイヤーたち自身も対策に乗り出しており、Nianticにサポートを求めているが、ポケモンをよく探すか、あるいは別の場所でプレイするようにという機械的な返答しか得られていない。アテネから約20キロメートルと、「直線距離で見ると車なら数十分で(ポケモンがいる場所に)向かえるのでは?」という質問に対し、セラミス島在住のLemery69氏は、フェリーを利用するため片道1時間から1時間半ほど掛かると返答している。また、フェリーの便も1時間に1本で最終便が18時と、利便性はよくない。
海外メディアPolygonによれば、この地域に住む人々は協力してこの事態に懸命に立ち向かっており、アテネに行くプレイヤーが現地でポケモンを捕まえ、地元で他のプレイヤーにプレゼントしているという。地元のプレイヤー同士の絆は強くなっていくが、やはりまともにゲームがプレイできないという状態ではゲームを離れていく人も少なくないという。
すでにオープンストリートマップのタグは修正され、この地域でポケモンの出現をブロックする「Natural = bay」のタグは適切に設定され直している。あとはNianticが現在の地図データを反映するか、あるいは「Natural = bay」のタグの処理を変更すれば、この地域に住む人々はふたたび通常どおりに『Pokémon GO』で遊ぶことができる。
2019年3月にはすでに報告されているこの問題は、それ以降もプレイヤーが協力して問題に対処し続けてきたが、Nianticはいまのところおおやけに動きを見せていない。ゲームが正常に動作しなくとも7ヶ月間コミュニティが生き残るというのはひとえに現地のプレイヤーたちの努力の賜物だが、それでも限界はある。
ライター/古嶋誉幸