ユニバーサル・スタジオ・ジャパンで建設中の「スーパーニンテンドーワールド」やオフィシャルストア「Nintendo TOKYO」のオープンなど、近年任天堂の持つIPをゲーム以外にも活用している任天堂だが、2019年の文化功労者の一人に選ばれた任天堂の代表取締役フェロー宮本茂氏は高い目標を見据えている。
10月、文化功労者に選ばれた際に行われた京都新聞やNikkei Asian Reviewのインタビューで宮本氏は、大先輩であり憧れとしてミッキーマウスを挙げている。
マリオのキャラクターは一貫性とゲーム作りを念頭に置き、好きな食べ物などゲーム制作でしがらみになるものを極力排したという。これは例えば前のゲームでマリオが好きだった食べ物を、後のゲームでは急に嫌いになれないというような理由だ。しかし、それは「宮本氏のマリオ」で窮屈さもあったという。
そこで氏はマリオの厳格なキャラクター付けをやめ、様々なキャラクターとして自由に設定することにした。より多くの聴衆に楽しんでもらう機会を作ることにしたのだ。このアプローチでゆくゆくは、ミッキーマウスがウォルトディズニーの死後もずっと親しまれてきたように、氏の死後もその時代のクリエイターたちの手によって長く愛されるキャラクターになることを期待している。
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多くの人に愛されることが、そのまま多くのお金を生むフランチャイズになるわけではないが、ひとつの指標になることは確かだ。今年8月にTitlemaxが「THE 25 HIGHEST-GROSSING MEDIA FRANCHISES OF ALL TIME(史上最も売れたメディアフランチャイズトップ25)」として興味深い調査結果を報告している。
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この調査では、『ミッキーマウス』や『ハローキティ』を抑えて『ポケットモンスター』が920億ドルと頭ひとつ抜いてトップになっていることがわかる。前述の4位までの作品と比べるとグッズ(Merchandise)の売り上げでは一歩及んでいないが、トレーディングカード、各種チケット、コミック、そしてもちろんビデオゲームなど、多角的な商品展開が成功へとつながっている。
ただし、ミッキーマウスについてはディズニーランドが世界的に展開している割に、チケット売り上げ(Box Office)が少なすぎるように見える。あくまでミッキーマウスとしての売り上げということかもしれない。そのためこの数値だけですべてを判断するのは早計だが、ひとつの指標としては使えるだろう。
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一方、『マリオ』フランチャイズは8位となっている。上位のほかの作品と比べ顕著に異なるのは、総売り上げの80%以上がビデオゲームの売り上げという点だ。ビデオゲームの売り上げだけで比較すれば、『ポケモン』が170億ドルに比べて『マリオ』が300億ドルと2倍近い差だ。あくまで仮定ではあるが、『ポケモン』と比較したとき、『マリオ』はグッズ展開でまだまだ大きな伸びしろが潜んでいると見ることができるだろう。言い換えれば、『マリオ』が愛される可能性のある市場はまだ広大だということだ。
宮本氏がお金の面だけでの成功を狙っているわけではないことは重々承知だが、「より多くの聴衆に楽しんでもらう機会」は売り上げの面から見ても十二分にあることがわかる。そういった機会のひとつとして「スーパーニンテンドーワールド」や「Nintendo TOKYO」があるのだろう。
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上記のインタビューにて「子どもを夢中にさせるおもちゃは、親の『敵』。」と語る宮本氏。親がディズニー映画を子どもに見せるように、任天堂なら安心だと言ってもらうという目標だが、まだまだ先は長いと考えているようだ。氏はインタビューの最後に「すでに作り出したものではなく、世界中の人々を笑顔にする新しいものを作るつもりです」と語っている。
90年以上の歳月をかけ、子どもたちだけでなく大人にとってもヒーローとして愛されるようになったミッキーマウスのように、マリオも長い年月をかけて今以上に愛されるヒーローとなっていくだろう。
ライター/古嶋誉幸