文化庁による訪日観光客向け新事業「メディア芸術×文化資源 分散型ミュージアム」は、福岡空港で2月9日(日)より、シミュレーションゲーム『Mountain』の展示を開催している。国際線旅客ターミナルビルの2Fプラザに展示されており、開催期間は未定。公開時間は福岡空港の開館時間に準ずる。
『Mountain』は、山を”一つの生命”としてとらえ,その生涯を観察するメディアアート作品。ゲームを開始した際に、プレイヤーはいくつかの質問に答えていき、その回答によって山の”個性”が決定される。山が生成されると、プレイヤーができる操作は「景色を回転させる」、「カメラの拡大・縮小」のみとなる。
プレイヤー自身の分身ともいえる山の一生が描かれる本作は、ときに「山岳信仰」として山を崇め、また異なるときには山を利用しながら生きてきた人類の歴史を意識させる。また、ゲームを通して「山とは何か」、「人類とは何か」を問いかける、いわゆる存在論を問う作品でもある。
福岡空港での展示のテーマは「大宰府」で、重要な関連史跡の一つである「宝満山」を作品モチーフに本作を展示することになったという。福岡空港へ行く機会がなければiOS、Steam、itch.io、Humbleでも配信されているので、興味があれば山をのんびりと眺めてみてほしい。
福岡空港における開催概要、作者のデヴィッド・オライリー氏およびクリエイティブ・プロデュースを行うヴォロシティについては以下のとおり。
【福岡空港 開催概要】
日時:令和2年2月9日(日)~
場所:福岡空港(福岡県福岡市)国際線旅客ターミナルビル2Fプラザ
内容:「大宰府」をテーマにアーティスト デヴィッド・オライリーのヴィデオ・ゲーム作品を展示。
公式ウェブサイト: https://jmadm.jp/
福岡空港では,「大宰府」をテーマに,世界最大のメディア芸術の祭典「アルス・エレクトロニカ」で大賞を受賞し,世界的な活躍をみせるアイルランド人アーティスト デヴィッド・オライリーの作品を令和2年2月9日(日)より展示します。
今から1300年以上前に築かれた大宰府は,九州の中心地のみならず,東アジアとの交流拠点を担う国際都市であり,“西の都”と呼ばれるほど古代日本において重要な拠点でした。こうした史実や,関連史跡の文化的価値が評価され,2015年4月には文化庁により日本の文化・伝統を語る遺産として「日本遺産」に選ばれています。
今回の展示では,国際都市として新たな文化を受け入れ,時代と共に変遷してきた大宰府を考える上で重要な関連史跡の一つである「宝満山」を作品モチーフとしました。「宝満山」は,古来より神が降り立つ山として崇められ,国家的祭祀が継承されてきた大宰府を守護する霊峰であり,修験道の聖地でもあります。それだけでなく農民の文化を形づくり,そして中世には軍事拠点になるなど,その役割を変えていきました。
宝満山の変化の履歴が今もなお遺跡として存在し,それらを介して観ることにより,大宰府を多面的に知ることができる,日本,東アジア,ひいては世界の繋がりを感じることができると考えています。
今回展示するデヴィッド・オライリーの《Mountain》は,山を一つの生命としてとらえ,その生涯を観察するゲームアート作品です。ゲームの冒頭ではこんな言葉が投げかけられます。“You are Mountain. You are God.” 山という存在を時には崇め,時には利用しながら共に生きてきた我々の歴史を意識させるとともに,山とは何か,生命とは何かを考えさせます。
本作品を通じて,宝満山を含む大宰府とその関連史跡に興味を持っていただければ幸いです。日本を訪れたこのタイミングで九州一の登山者数を誇る「宝満山」にも実際に赴いていただき,ハイキングを楽しみながら日本文化の価値観・精神性・美意識にぜひ触れてみてください。
文化庁では,「空港等におけるメディア芸術日本文化発信事業」のプロジェクトの一環として『メディア芸術×文化資源 分散型ミュージアム』を国内の空港10箇所で順次展開中です。
本プロジェクトでは,日本各地域の土壌が育んだ豊かな文化資源をアーティスト・クリエイターたちがその魅力を新たな視点で表現し,各地域の玄関口である空港等で展示いたします。展示されたメディア芸術作品をきっかけに,訪日観光客を日本文化の新しい魅力に出会う旅へと促します。
【福岡空港における実施概要】
■テーマ:宝満山
■作品:《Mountain》解説
《Mountain》は,プレーヤーとのインタラクティビティ(双方向性)がほとんどないシミュレーション・ヴィデオ・ゲームです。ゲームを開始すると,プレーヤーはいくつかの質問に回答するよう指示されます。その回答からプレイする山の個性が決定されます。
プレーヤーは,景色を回転させ山の周りを巡り,ズームインやズームアウトはできるものの,山に対して何もできません。次第に山はゆっくりと回転し,時間が加速して,昼間と夜のサイクルを駆け抜け,季節も変わり,山の上に雪が現れ,そして溶けるのを目にします。そして木々は成長し,枯れていきます。時々,山にありふれたものたちがぶつかり,永久に埋め込まれていきます。ゲームが進むにつれ,山は周期的にプレーヤーに思いを伝えてきます。
ゲームを始めてから約50時間経つと,山は運命の時を迎え,通り過ぎる大きな星がぶつかり,粉々に砕け散りゲームは終わります。でもその時には,プレーヤーは新しい山でまたゲームを始めることができるのです。
デヴィッド・オライリーの本作品は,ゲームを通して存在論を問うものです。
山とは何か?地質学など学問の世界でも単純に「山」を論じることは難しい。数億年単位のスケールで見れば常に動き,雨風などにより形状を変えていきます。その表面を覆う生物相のさまざまなスパンでの新陳代謝により変化していき,数百年の単位では人の山に対する捉え方も常に変わります。
「砂山から一粒の砂を取り除いてもそれは砂山であるならば,いったいどこまでが砂山なのか?」という有名なパラドクスがあります。複雑に絡み合う構成要素の全体が,あるとき「山」と呼ばれるようになるなら,それはわれわれ生命とどう違うのでしょうか?
本作品の不思議な体験を通して想像していただきたいと思っています。
展示イメージ(国際線旅客ターミナルビル2Fプラザ)
■アーティスト : デヴィッド・オライリー
デヴィッド・オライリーは,デザイン,アニメーション,ヴィデオ・ゲーム分野で世界的に活躍するアーティスト。《Please Say Something》や《The External World》など彼の画期的な3DCGアニメーションは,ベルリン国際映画祭(短編アニメーション部門)で金熊賞はじめ,これまでに数々の賞を受賞し国際的な回顧展でも紹介された。世界各国で人気を博したTVアニメ『アドベンチャー・タイム』や『サウスパーク』にもライターとして関わり,スパイク・ジョーンズ監督のアカデミー賞受賞作品『her/世界でひとつの彼女』の中で使用されたヴィデオ・ゲームを制作。2014年に初となるゲーム作品《Mountain》をリリース,2017年には《Everything》をリリースした。《Everything》は、世界最大級のメディア芸術の祭典「アルス・エレクトロニカ」で大賞を受賞したほか,WIRED,Polygon,AV Club,The New Yorkerなどで,ゲーム・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。そのトレーラー映像は,インタラクティブ・プロジェクトとして初めて,アカデミー賞の候補となった。
■クリエイティブ・プロデューサー : ヴォロシティ株式会社
コンセプトデザイナー/社会彫刻家の青木竜太が率いるヴォロシティ株式会社は,新たな価値創造を行うコ ミュニティの創出・運営を専門とするデザインファームとして2011年に設立。現在は,主にアート&サイエンス分野で,コンセプトデザイン,コミュニティデザイン,プロジェクトデザインや事業開発を行う。価値創造活動を支える目に見えない構造の設計を得意とする。
ARTIST: David OReilly
PRODUCER & DIRECTOR: Ryuta Aoki
PROJECT MANAGEMENT: Keita Uno
EXHIBITION DESIGN: Jiro Endo
GRAPHIC DESIGN: Koh Chihara
TECHNICAL SUPPORT: Joe Okubo
METAL WORKS: Tanny-tech
SITE CONSTRUCTION: Kyutechs
福岡空港開催概要[詳細]
日時 : 令和2年2月9日(日)〜
※公開時間は福岡空港開館時間に準ずる。
場所 : 福岡空港国際線旅客ターミナルビル2Fプラザ
アーティスト: デヴィッド・オライリー
クリエイティブ・プロデューサー:ヴォロシティ(株)
協力 : 福岡国際空港(株),太宰府市
主催 : 文化庁「令和元年度空港等におけるメディア芸術日本文化発信事業」
ライター/ヨシムネ