北米と欧州で展開されているビデオゲームショップの有名チェーン店「GameStop」は、新型コロナウイルス対策のための州および地域の命令に従い、アメリカの全店舗を一時的に閉鎖することを3月22日付けで発表した。
アメリカのGameStopは今後、オンライン注文への配送やカーブサイドピックアップ(※車に乗ったまま商品を受け取るサービス)などの業務にのみ対応する。社員向けの規約も更新され、従業員の過去10週間の給与の平均額を今後2週間にわたり支払うこと、1ヶ月分の福利厚生費が返金されることが明らかにされている。これらの措置の期限は不明だが、給与の支払い規約を見る限り少なくとも2週間は続くと考えられる。
海外メディアArs Technicaでは、3月20日にカリフォルニア州のGameStopが一時閉鎖されていたことを伝えていたが、それに続きアメリカのすべての店舗が今後しばらく閉鎖されることになる。
公式発表としては上記のとおりとなっているが、複数の内部告発により、この決定がなされる前に社内で紆余曲折があったことが伝えられている。
海外メディアVice Gamesが3月19日付けで公開した記事によれば、同メディアが接触したアメリカの異なる地域に住む5名の従業員から、もし行政により必須でない店舗の一時閉鎖が命令された場合、営業を続けるように指示するメモが届いたという。
メモには同社が「エンターテイメントだけでなく遠隔学習や仮想接続促進する商品も取り扱うこと」を根拠とし、人々にとって不可欠な店舗であることを主張するようにとの文言も記載されていた。GameStopに連絡を取った同メディアは、これが事実である旨を伝えられたと同じ記事で伝えている。
また海外メディアPolygonは3月17日、サンフランシスコ州にて強制力のない店舗の一時閉鎖が義務づけられたあとも、同地域のGameStop店舗が営業を続けていたことを電話で確認したと報じている。
Ensuring the safety of our guests and associates is always our top priority. Read more from CEO George Sherman about how we are helping keep guests and associates safe during the COVID-19 pandemic: https://t.co/qP9jDQUmjs pic.twitter.com/eYJs5wnAV9
— GameStop (@gamestop) March 13, 2020
GameStopは3月13日に新型コロナウイルス対策チームを内部で結成したと公式Twitterアカウントから伝えていたが、3月15日に公開された海外メディアKotakuの記事では、対策がうまく機能していなかったことも伝えられている。本社は世界5700店舗に消毒液やクリーニング用品を送付することを通達したものの、同メディアが接触した複数の従業員によれば、少なくともすべての店舗には行き渡っていない実情が見えてきた。
ある店舗のスーパーバイザーは、自身が購入した小さな消毒液を使用しており、2ヶ月前にバックオーダーした掃除用品もいまだに届いていないという。ほかにも、消毒液やクリーニング用品だけでなくトイレットペーパーが枯渇し、トイレを閉鎖しなければならなかったという報告もある。対策グッズは経費として認められるというが、そもそも地元で手に入らない商品を店舗に配備することは難しい。
従業員たちは一様に仕事を失うことを恐れていたが、少なくとも今回の発表によれば22日より2週間の給与は保証されたとのことで、不幸中の幸いだろう。
これらすべての告発が真実であるかは不明であるが、GameStopがなんとか通常の業務を続けようとしていたことは想像に難くない。この営業中止が、右肩下がりが続く同社の経営にとって致命的になる可能性があるからだ。
たとえば海外メディアGamesIndustry.bizは2019年9月、企業再編の一環として同社が、今後2年間でパフォーマンスの低い200店舗を閉店すると報じ、さらに関連企業も含めて200名近い人員がリストラされたことを伝えていた。
GameStopの株価は2019年末に若干上向いたものの、2018年以前の水準には遠く及ばず、2020年に入りふたたび下降。1月末に格付け機関ムーディーズは、GameStopの格付けをBa2からB2に引き下げた。いわゆるジャンク株と言われるグレードだ。
個人投資家向けに経済情報を発信するThe Motley Foolは、「新型コロナウイルスはこれらの小売店を破壊するかもしれない」としてGameStopの名を挙げた。これまでの業績不振に加え、新型コロナウイルスで店舗の経営ができなければ致命的になる可能性があるとしている。
日本経済新聞によれば、アメリカ政府は給与補助などを含む最大2兆ドル(約220兆円)の景気刺激策が3月23日の週に採決する。ぎりぎりまで営業中止に踏み切らなかったのは、政府による経済支援の規模を見極めていた可能性もある。
ただし2019年9月には週刊投資金融情報専門紙バロウズが、「業績見通しは依然として暗いが、(Nintendo Switch Liteや次世代機で好転するだろうという)楽観的な見通しの者もいる」との投資家の発言を引用。また2020年3月9日には、元Nintendo of Americaの社長兼COOレジナルド・フィサメィ氏が取締役会に参加したことが発表された。さらに厳しい状況が続くGameStopだが、再編を経てかつての勢いを取り戻すことはあるのだろうか。
ライター/古嶋誉幸