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欧米で停滞していたARGが日本で大きく花開いた理由とは。「第四境界」の成功事例から学ぶ、体験型エンタメで成功するための秘訣

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IGDA日本 体験型エンターテイメント部会は、2025年11月22日に東京・築地にあるVIPOホールRで「SIG-体験型エンターテイメント ミニセミナー『ARGで何ができるか』」と題したイベントを開催した。

ARGとは「Alternate Reality Game」の略語で、日常をゲームの一部に取り込むことで現実世界と空想の世界を交差させる体験型の遊び全般を指している。

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今回のイベントでは、ARGエンジニアで体験型エンタメ情報局 編集人のえぴくす氏と有限会社エレメンツ ゲームデザイナーでSIG-体験型エンターテイメント正世話人である石川淳一氏のふたりが講師として登壇。それぞれ、「第四境界はなぜ成功したのか?」と「ARGの使い方 ~ARGで何ができるか~」といったテーマで講演が行われた。

こちらの記事では、当日行われた講演の模様を一部抜粋して紹介する。

取材・文/高島おしゃむ
編集/kawasaki

ARGはプロモーションの一環で行われていたためマネタイズが難しい

最初に行われた講演は、えぴくす氏による「第四境界はなぜ成功したのか? ~成功するARGの秘訣~」だ。日本で最初のARGエンジニアを自称しているえぴくす氏。ARGは現実世界をプラットフォームにしているため、現実のいろいろなところに物語を入れたくなる。しかし、それをすべて人の手でやるのは大変なことからデジタル技術を活用するのだが、それを行っているのがARGエンジニアの仕事である。

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ARGエンジニア/体験型エンタメ情報局 編集人のえぴくす氏

2009年頃からARGを追いかけてきたというえぴくす氏。その間、かなり長い時期冬の時代が続いてきたのだが、今はルネッサンスを迎えているという。2006年にIGDAが出した「Alternate Reality Games Whitepaper」という白書に、2001年に華々しく生まれたARGが、5年後が経過して業界がどのような状況にあったのかということが詳しく書かれている。

その白書には、「コンテンツをマネタイズするのは難しい」とも記載されていた。先行してARGに取り組んでいたアメリカや欧米の関係者の間では、すでにマネタイズするのが難しいことが業界の課題ともなっていたのだ。

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こうした状況から19年が経った現在、日本では大きな変化が生まれている。それが、第四境界が登場したことであった。第四境界作品の総プレイヤー数が200万人を突破したほか、『人の財布』という6800円の財布がテレビに取り上げられスマッシュヒットとなった。同様に、他の商品も入荷した瞬間に買いに行かないとなかなか手に入らないという状況が続いている。

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ここで時代を少し遡ると、2000年代の欧米のARGは非常に華々しかった。Xbox用ゲーム『Halo 2』のプロモーションで行われた『I Love Bees』には、200万人以上が参加。また、ARGの中で最も大規模だと言われているのが、映画『ダークナイト』のARG『Why So Serious?』で、こちらは1100万人が参加している。

どちらも42 Entertainmentが手掛けたコンテンツだが、ARG自体はリアルタイムで盛り上がっただけで終わってしまうため、なかなかアーカイブを残すのが難しい。だが同社では、自社が手掛けた仕事を整備して公開している。

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とくに『Why So Serious?』は、2009年のカンヌ国際広告祭サイバー部門でグランプリを受賞したということもあり、広告関係者からも注目を集めた。その一方で、冒頭で紹介した白書に書かれていたマネタイズが難しいという側面もある。この表と裏にはどんな理由があるのだろうか?

2010年後に、主に広告代理店を中心に日本でもARGという概念を輸入する多くの取り組みがあった。しかし、いずれも多くのユーザーを得ることなく終わっている。じつは、国内にARGを導入するときに参考にしたのが、欧米の華々しい事例だったのだ。

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『I Love Bees』や『Why So Serious?』などは、プロモーションARGとして実施されたものだ。つまり、広告費で行われていたため、バズればOKといった性質のものであった。また、ARGには「This Is Not A Game」という強い思想がある。

ARGは、それが作り物であるということを言わずに展開していき、現実なのか物語なのかわからないということをユーザーに体験させようとしている。これは、とくに初期のARGクリエイターの中に根差している思想でもある。

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日本のARGでもこの思想を取り込んでしまった結果、ゲームではないため宣伝が出来ない。課金も出来ない。どうやって楽しむのかということも、うまく説明することができないという状況になってしまったのだ。つまり、隠さなければいけないという美学を追究した結果、経路を遮断してしまったのである。とはいえ、TINAG(This Is Not A Game)でしか得られない楽しさがARGにあることはたしかだ。

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ARGに限らずマーケティングなど様々なところで言われるのが、「経路依存性」の壁だ。人は、何か分かっているものしか知ろうとしないし、お金を払うこともない。これはARGを考えるときにも、重要なポイントとなるのだ。

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第四境界の偉業で日本でもARGの新作を待つファン層が形成された

これまではARGの性質と歴史について紹介されてきたが、ここから先は今回の本題である第四境界の話題となる。第四境界のチームが『Project:;COLD』をシリーズ作品として作りあげていったのだが、そのときにキーパーソンとなったのが総監督の藤澤仁氏であった。

ARGには、進め方が分かりづらく不適切という課題がある。だが、藤澤氏は元々『ドラゴンクエスト』のシリーズ作でディレクターを務めていたという経緯もあり、売れるゲームが満たさなければいけない要素をわかっていたのだ。

ちなみに、藤澤氏自身はARGを知らずに『Project:;COLD』をスタートさせている。そのため、ARGの文脈というよりもデジタルゲームでやらなければいけないという常識をコンテンツに適用していった。それが、第四境界の新しさとなり、『Project:;COLD』の成功に大きく貢献した要因のひとつとなっていたのだ。

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もうひとつ重要なポイントは、『Project:;COLD』をシリーズ作品として作り続けたことだとえぴくす氏はいう。2010年代に国内でARGをいろいろと試したものの、客が付かず次回作が作れずに終わっていた。ARGというジャンルで継続性を持って出し続けたことが、信頼を生んだのである。

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さらに、デジタルゲームでしっかり作ったところも重要なポイントだ。『Project:;COLD』は、都まんじゅうと呼ばれるガールズバンドがTwitter(現:X)で日常をつぶやき始めたところからスタートしている。ガワがあって、声優がしっかりとした声でしゃべり始めた結果、「これは追いかけてもいいコンテンツだ」と多くの人に伝わった。

逆に他のARGのように、薄くSNSでスタートすると、「変なことをつぶやいているけど、ただのおかしな人なのか?」と思われてしまいがちだ。はたして、これに付いていっても大丈夫なのか? と不信感を与えてしまいかねない。通常のゲーム作りでは、これぐらいやらないとお客さんが付いてこないといったものが肌感覚としてあるが、第四境界ではそうしたことをARGでもしっかりやっていたのである。

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もうひとつの重要なポイントが、しっかり伝わるようにプロモーションを行っていたところだ。プロモーションの協力にはマレが関わっており、プロジェクトの最初からプロモーションが分かっている人間がチームにいることで、広めることができたのである。

たとえば、TINAGの原則に従うと今ゲームをやっているということは言えないため、知ってもらうこともできない。そうならないように、プレスリリースを出したり電ファミニコゲーマーの記事で紹介したりすることで、多くの人に伝わるようにしていったのだ。

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一見当たり前のように思われるかもしれないが、ARGという海外のサービスを知っていると振り切ることができずに、2010年代は過ごしてしまっていた。しかし、『Project:;COLD』3作を行った結果、日本でもARGの新作を楽しみにしている「ARGファン層」が形成されたのである。

第四境界は全体戦ARGで国内のファン層を作りパッケージ型ARGでマネタイズを実現

ここで話は変わり、ARGの3つの類型について紹介が行われた。まずは「リアルタイム型全体戦ARG」だ。XやYouTubeなど、普段触れることの多いインターネットの中ですごいことが起こり、それを追いかけていくと課題が現れ、それを解決していくというものである。

ただ、こうしたARGはとてもカロリーが高い。作ることが大変な上に、マネタイズをどうするのかもわからない。先ほどの『I Love Bees』や『Why So Serious?』などは、このリアルタイム型全体戦ARGにあたるものだ。盛り上がったら成功とも言えるが、作るのが大変なだけではなくリアルタイムで進んでいくため追いかけていくのも大変である。

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欧米型ARGが疲弊していった要因のひとつが、リアルタイム型全体戦ARGが期待されすぎたためだ。これこそがARGだと思い込んでいたことから、どんどん疲弊してしまったのである。これに対して、第四境界はふたつの発明をしている。

ひとつは「オンライン常設型ARG」だ。これはWebとして存在している常設型のものだ。いつでも手軽に楽しめることで間口を広げた。
もうひとつは、「パッケージ型ARG」である。通販で購入すれば、誰もが自分だけの特別なARG体験ができる。第四境界は、全体戦ARGで国内のファン層を作った上で、パッケージ型ARGでマネタイズを行っているのだ。

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ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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