パソコンのキーボードの「Q」、「W」、「O」、「P」からなる4つのキーのみを使って陸上選手を走らせる『QWOP』というゲームがある。
『QWOP』は2008年に無料で公開されたブラウザゲームで、100メートルを走り切ればゲームクリアというシンプルな作品だ。誰もができそうな簡単な操作説明からは想像もできないほどの独特な物理法則により、初めてプレイする人だと100メートルはおろか10メートルを走り切ることすらできない高難度ゲームとなっているのが特徴だ。この記事を読み進める前に時間がある方は、公式サイトから一度プレイしてみるといいだろう。
50.71secやったどおおおおおおおお
— くろうど (@kurodo1916) August 29, 2020
画面の向こうではほっそい腕でガッツポーズしてました pic.twitter.com/zatT2i4RVq
そんなクリアするだけでも難しい『QWOP』だが、ただクリアするだけでは飽き足らず、現実の陸上競技さながらに早さを目指してプレイする人間が世界中に存在する。2019年ごろから日本を中心に何人かのプレイヤーが熱心に活動していたが、ついにその中から100メートルを50秒台で走り切るプレイヤーが現れた。
達成したプレイヤーはくろうど氏。国内最大のリアルタイムアタック(RTA)イベント「RTA in Japan」で2019年にQWOPのRTAを披露したことでも有名なプレイヤーだ。今回の記録は達成されたあとに、録画をコマ送りにして見直され、正式な記録は「50秒834」となった。
50秒という記録は現実の陸上競技と比べるととても遅い記録に感じるかもしれない。だが、まともに走ることすら難しい本作においては異次元とも呼べる驚愕のタイムとなっており、現存する記録の中で他の追随を許さない世界最速の記録となっている。
じつは今回新記録が達成された『QWOP』には、7年間破られることのなかった記録が存在していた。2013年にギネス世界記録と認定されたもので、インドのプレイヤーのroshan405氏による51秒という記録だ。
いまにしてみても驚愕的なタイムであるroshan405氏の記録だが、残念なことにroshan405氏はこのギネス世界記録以外にインターネット上で活動した形跡が存在せず、彼と連絡を取ることは非常に難しい状況だった。
特定のゲームのスピードランにおいては、プレイヤー同士でどうすれば早くクリアできるのか議論しながらタイムを詰めていくことが多いが、コンタクトを取ることができないとあれば攻略方法を本人に聞くことすら叶わない。ゆえに7年間にわたり51秒という記録は、いくらタイムを短縮しようとも乗り越えられないそびえ立つ壁であり、それと同時に最速を目指すプレイヤーの目標となるタイムだった。
10m4秒台で走るには
— くろうど (@kurodo1916) August 26, 2020
右足の動きに注目(左は見なくてOK)
旧来、前に伸ばした足はそのまま地面に着地させていたところを、W(右大腿を降ろす)→P(右膝曲げる)着地→O(右膝伸ばす)という操作に変えた。
こうすることで着地時の足のスピードを稼ぐことができ、より強い推進力を得られることになる。 pic.twitter.com/mukVAKR6Zx
この51秒という目標に対し、スピード維持の重要性や最初の10メートルでスピードをどれだけ加速できるかといったことに着目し、実行に移してきたのが今回の記録を達成したくろうど氏だ。加速したあとはなるべくその速度を維持し、10メートルを4.8秒という目安で走ることを強く意識していることが氏の発言から伺える。
ツイートへと投稿された動画に表示されているタイマーは、これまでどれだけプレイしたのかを表示する設定になっているが、50秒台を出すまでに最低でも3万5191回の試行があったことを示している。早く走り切るための検証に加えてそれに何度も挑戦し続ける努力、それらが実を結んだのが今回の結果だろう。
なお『QWOP』はWeb上で動くFlashのゲームとしてリリースされたが、2020年にサポートが終了するFLASHに先駆け、すでにHTML5化されている。PCで遊べるブラウザゲーム版以外ではスマートフォン版もリリースされており、それぞれ仕様が違うが遊ぶ環境には事足りない状況だ。
筆者はプレイして数分で挫折したが、ぜひ読者の皆さんがお持ちの端末で100メートル完走を、あわよくば記録を目指してプレイしていただければ幸いだ。
ライター/もか