トレーディングカードのブースターパックでレアカードを引いたことがある方なら、その心が踊るような瞬間を知っているだろう。しかし、もしも引いたレアカードが『マジック:ザ・ギャザリング』の「ブラックロータス」だったら、その興奮がいかほどか想像できるだろうか。
『マジック』のプレイヤーであるveritesq氏は、1993年に発売されたブースターパックからそんな幸運を引き当てた。本当は開封するつもりではなかったが、怪我の功名ともいえる事故で「ブラックロータス」を手に入れることができたと、海外掲示板Redditにスレッドを立てて報告している。
1993年8月に発売されたトレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』は、最初に生産された白枠仕様全295枚種のカードが入った「アルファ版」、年末頃に販売され黒枠仕様となった全302枚の「ベータ版」、そして302枚のカードが白枠仕様となった「アンリミテッド版」の3種が生産されている。
世界でもっとも高価なカード「ブラックロータス」が収録されているのはこれらのパッケージのみで、さらにバージョンによって希少価値が変わり価格も異なる。ベータ版以降の「ブラックロータス」はすべて合わせても市場に2万枚ほどしか出回っていないが、もっとも高価なアルファ版は世界でたったの1000枚しかなく、その美品は2019年に1800万円で落札され話題となった。
今回話題となった「ブラックロータス」はベータ版だが、veritesq氏はどういう経緯で引き当てたのか。ことの発端は、友人が『マジック:ザ・ギャザリング』のサブレディットに立てた「友人がベータブースターパックを購入しました。パッケージを開封せずに中身を確認する方法はありますか?」というスレッドだ。veritesq氏は海外オークションサイトeBayにて酔った勢いでベータ版のブースターパックをひとつ購入しており、本来はその中身を開封せずにサーチしたかったという。
パックを開けずに中身を確認する行為は俗に「サーチ」と呼ばれている。パッケージを触ったり、パックの重さを計測したり、光を当てることで中にレアカードが入っているかを判別する。中にはパッケージを傷つける可能性のある方法もあり購入前の商品で乱暴なサーチをするのはご法度とされているが、今回のように自分で購入したパックでサーチする分には問題はない。
『マジック:ザ・ギャザリング』にもサーチの方法があり、初期のパッケージは包装が甘く適切な照明を使うと中身が見えることも多いが、その方法ではサーチできなかったという。Redditに立てたスレッドでも思うような答えは得られなかった。「買った時点でサーチされているはずなので未開封のまま売られていたのは金銭的価値のあるカードが入っていなかったから」という、もっともらしい意見も出ている。
酔った勢いで買ってしまったことを後悔しつつ自分でなんとかしようとしたところ、氏は最終的にパックを触りすぎてパッケージを破ってしまったが、そこには「ブラックロータス」が眠っていた。veritesq氏はRedditで投資系関連のサブレディットでおもに活動してきたが、おそらく氏の過去の取り引きの中でも大成功を収めた投資に分類されるだろう。カードの格付け認定を行うPSAでは、ベータ版は保存状態が10段階中3とかなり悪いものでもオークションで2万3000ドルで売れたとされている。
今回は開封されたばかりのパックから出てきた「ブラックロータス」ということで、良い保存状態であることが予想される。なお本人はサーチに成功してもし中身が望まないものだったら、歴史の一部として保管していたかもしれないと語っている。まだ偽物である可能性も捨てられないため、カードゲームの鑑定会社に査定を依頼する予定だとも伝えいる。真贋が確定すれば、また報告があるはずだ。
veritesq氏はパックの購入金額を明かしていないが、約30年前にパックに貼られた値札は2.45ドル、約300円だ。長い時を経てその内の何枚かは値段が高騰し、「ブラックロータス」は世界でもっとも高額なカードとなった。この幸運なニュースにより、未開封パックはさらに価格が上昇するかもしれない。
ライター/古嶋誉幸