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まず2Dゲームで開発、社員300人で1週間遊ぶ!? 新作ゼルダ、任天堂の驚愕の開発手法に迫る。「時オカ」企画書も公開! 【ゲームの企画書:任天堂・青沼英二×スクエニ・藤澤仁】

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大容量化と戦ってきた『ゼルダ』の歴史

――ただ、一ついいでしょうか。今回、藤澤さんと一緒に2D時代から歴代の「ゼルダ」をやり直したんです。そのときに改めて「ゼルダ」は「閉鎖空間」のゲームだな……と思いました。それこそ2D時代の「ゼルダ」は、言ってしまえば部屋が閉じてミッションをこなして、また次の部屋に入ったらまた閉じて……の繰り返しだったりするじゃないですか。

青沼氏:
 なるほど。

『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』
(画像はバーチャルコンソール版公式サイトより)

――それが3Dになれば容量が増えて、世界観は広がりを持つし、ストーリーも必要になる。そのときに「ゼルダ」が、2D時代の閉じられた箱庭で謎を解く楽しさを守ろうと、どこか苦闘している気がしたんです。その意味でも今回の「オープンワールド」化は、鮮やかな決断だった気がしていて……。

青沼氏:
 なるほど、そう見えるわけですね。
 まず一つ言うと、本当に最初から謎解きが「ゼルダ」の本質だったのかは、怪しいと思いませんか。
 初代『ゼルダ』や『リンクの冒険』はアクション要素が大きかったですし、『神々のトライフォース』ではダンジョン内や裏表での謎解きがあったわけですけど、そこが「ゼルダ」らしさだと当時思っていましたか?

藤澤氏:
 まだ、実は「謎もあったなー」くらいの感じではありましたね。

――確かに、敵と戦っているアクションRPG要素が、かなり強いですよね。

青沼氏:
 じゃあ、謎解きがクローズアップされたのは、いつか。それはたぶん『時のオカリナ』からだと思いますよ。
 というのも、僕は『時のオカリナ』で全ダンジョンの設計を任されたんですよ。そのときに、僕は「謎解きをやりたい」と思ったんですね。これ、別に宮本からそうしろと言われたわけでもないし、「『ゼルダ』は謎解きとバトルのゲームだ」なんて決められていたわけでもないんです。

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――ということは、あの「ゼルダ」の謎解きは、3Dの「ゼルダ」を作ることになって、青沼さんが単にやりたいことをやっただけ?

青沼氏:
 まあ、流れ的にはそうですね。だって、「ダンジョンを考えろ」とは言われたけど、「謎解きを考えろ」とは一言も言われてないですから。じゃあ、なぜそうしたか。その理由は、僕が人を驚かせるのが大好きで、謎解きが好きだったからですよ。「ダンジョンが仕掛けだらけだったら、めっちゃ面白いだろうな」と思ったんですね。

 ただね、これが次の話なんですが、確かに『トワイライトプリンセス』の時代くらいに、「ゼルダ」はダンジョンがかなりデカくなってるんです。正直に言って、「なんだこれ、もうダンジョンじゃないだろ!」みたいなデカさですよ、あれは(笑)。

藤澤氏:
 そうですね(笑)。

青沼氏:
 そのときに僕は、「ああ、ダンジョンを製作しているスタッフが、アスレチック的に広い空間での謎解きを求めだしてるな」と感じました。

 『時のオカリナ』の頃は、ダンジョン内の部屋数くらいは決めていましたが、大きさや広さの数量はハードの制限と設計者の感覚的なもので決めてきていたんです。それを放置しておいた結果、僕らが3Dゲームの制作に慣れていく中で、ダンジョンの巨大化という問題が起きてしまったんだと思います。

広い世界への回答その1――ほこらを散りばめた

――でも、それに対して今回はまさに非常に広い世界を選択してしまったわけですよね。この問題に、これまで以上に向き合う必要があると思うんです。

青沼氏:
 そこで一つ言うと、僕らからすれば、謎解きって要は「達成感」をつくりたいんです。クリアできて「やったー」という手応えを作って、プレイヤーがそのサイクルをつないでいくことが大事なんですね。

 なので、世界全体の構造としては、これまでは謎解き要素があまり存在しないフィールドを移動しながら、大量の謎解きが束ねられているダンジョンを巡っていくという対比構成にしていたんですが、今回は単純な謎解きをフィールド上に点在させてみました。つまり、大平原をワーッと走って行く中で、なにかしら気になる場所を見つけたら、そこにパズルネタがあるという方が正しいのではないか、と。今回は実際にフィールド内に「ほこら」を100個以上設けていて、そこに単純なパズルネタを埋め込んでいます。

藤澤氏:
 一つ一つのダンジョンは小さいけど、その代わりに数が多いという感じですか。

青沼氏:
 ええ。そういう方が、この広い世界で探し求めるものとして正しい気がしました。

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 だって、開けた世界で散々敵を倒して頑張って辿り着いた先に、なんだか15個も部屋があって……となると、達成感のサイクルが鈍くなってくるじゃないですか。開発現場では「ほこらを見つけたら、いきなり宝箱があってもいいじゃん!」という意見もあったくらいですよ。

――しかも、巨大なダンジョンにゲームの時間を割かれてしまうと、そのぶんだけ開かれた世界を走り回っている感覚は弱まっていくでしょうからね。

青沼氏:
 そうなんです。広い世界を見る視点と、ダンジョンを見る感覚がごちゃ混ぜになると、どうにも上手く行かない問題もありました。
 だから、今回はほこらを見つけて中に入ったら、とにかく一個か二個の単純なパズルがあって、それを解いたらアイテムを入手。そしてまた、広い世界を旅する。その短いスパンでの手応えで次を探していくサイクルにすることこそが、本作での「発見の喜び」を体感するプロセスなんじゃないかと思いました。

広い世界への回答その2――アイテムの意義の問い直し

藤澤氏:
 その意味で興味深かったのが、かなりサバイバル要素を導入していることです。

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今回のゼルダは、定期的に食事をする必要がある。食材を組み合わせて料理することも可能。

 例えば、「武器が壊れてしまう」とか「ご飯を食べなきゃいけない」みたいな要素がありますよね。これはゲームデザインが全体的にカジュアルになっていってるご時世に、ある意味で逆行したものにも見えたんですが、そこはどういう判断だったんですか?

青沼氏:
 それは、この大きな世界の中で、飽きずに遊んでいくためのサイクルですね。「敵から武器を奪って、またその武器が壊れて……」というのを繰り返すのは、そのためのサイクルの一つです。しかも、このサイクルのおかげで、広いフィールド上にいる敵を避けずに、あえて倒す意味も生まれてくるわけです。

――確かに、武器をいつまでも使い続けられるなら、別にそこらのゴブリンを倒して武器を奪って……みたいなプロセスは要らなくなってしまいますね。

青沼氏:
 そして、敵を倒しながら進んでいくことで「あの場所に行けば、あんなことができるぞ」という知識が蓄積されて、同時に自分がやりたいことの情報が整理されていく。すると、ますますゲームの世界に没入していくわけです。こういうサイクルを作るのが、やっぱり広い世界を遊ぶ上で重要なポイントなのかな、と思ったんです。

――なるほど。そういう風に小さな目的のサイクルの中で、ユーザーの行動を大きな目的のサイクルへと誘導していくんですね。

青沼氏:
 ただ、ここはその辺りのサイクルが、むしろこれまでの作品では上手く行かなかったことへの反省でもあるんです。だって、例えば「敵を倒してルピー【※】を手に入れる」のって、そもそも意味あると思います?

※ルピー
『ゼルダ』シリーズ伝統の通貨および通貨単位。インドなどで実際に通用している同名通貨とは無関係。

――ルピーが手に入って嬉しいから、次も倒そうと思える……とか?

藤澤氏:
 ルピーの使いみちは、行き詰まりますよね。別に、ダンジョンの中で矢が必要なところには、矢が隠してありますから。

青沼氏:
 そうです。結局、矢を買わずに来た人間が、ダンジョンの途中で引き返すのはあまりに可哀相なんで、どうしても矢を置いちゃうんです。そしたら、買う必要性は感じないですよね。結局、僕たちはユーザーフレンドリーを考えるあまりに、「武器を使って敵を倒すと、ルピーを入手する。ルピーで入手したものを使って、また敵を倒す」というサイクルを、知らず知らずのうちに崩壊させてしまっていたんです。

――なるほど。

青沼氏:
 今回は、そういう根幹の部分を全て見直してます。ですから、今回はルピーを入手することの目的もしっかりさせています。
 あと、「最初はできませんよ」も廃止しました。

藤澤氏:
 最初から何でもできる、と。

青沼氏:
 だって、序盤の「ほこら」で、いきなり全部のアイテムが手に入りますからね(笑)。

――特に『時のオカリナ』以降の「ゼルダ」って、チュートリアルが延々と続いたあげくに、やっと広い場所に出て……という感じじゃないですか。それが今回は、いきなり最初の洞窟を出たら、広い世界にポーンと投げ出されて、タイトルが出ますよね。この冒頭には作り手の強烈なメッセージを感じて、気になっていました。

青沼氏:
 このゲームは自分で工夫して発見していく喜びを味わうゲームにしたかったんですね。これまでは、アイテムを順番に取らせて、ユーザーが本当に欲しい「フックショット」みたいな破壊力抜群の武器は後半に置いて……とやってきたんです。でも、本当にユーザーに自由に遊んでもらう事を考えたら、そういう出し惜しみをやっても意味がないじゃないですか。最初から全て出来るようにしたから、何をやるのかは自分で考えてくれ、ということなんです。このあたりの取り組みは、ニンテンドー3DSで発売した『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』から進めています。

――発想の転換ですけど……大胆といえば大胆な決断ですね。やっぱり最初は貧弱な武器から始めて、徐々に良い武器という「エサ」が手に入るから、満足感を得られるという考え方もありますよね。

青沼氏:
 でも宮本なんかは、それこそ昔から「フックショットなんて、こんな楽しいモノをどうして早く手に入れさせてあげないの?」とか言ってましたけどね(笑)。でも、僕たちが「えー、そんなのダメですよ!」と議論して、止めてきたんです。
 だけどね、真にユーザーに自由を与えるなら、むしろその方が正しくなると思いました。どんどん最初からアイテムを入手できるようにするしかないと。回復にしても、料理のレシピひとつで一気に上がり方が変わったり、色んな性能がくっついたりします。すると俄然、「アレをぜひ手に入れたい」いう感情が生まれてくるわけです。

 そうそう。そういう意味では、今回は「ビンって何よ?」というのも検討して、無くしました。

藤澤氏:
 いやいやいや、散々使ってきたじゃないですか(笑)。デクナッツのお姫様とか入ってましたよ!

青沼氏:
 まあ、確かにありがたいアイテムだったんですけど、今回はもう「ビンに何か入れるとか、これもうやめへん?」みたいな感じですよ。だって、ビンがないと持てないとかって、もうこういう作り方になると意味がわからなくなるんです。

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 「みんなビンは早く手に入れたい。でも、ビンは後からじゃないと手に入らないように散りばめてある」。この考え方がもう今回は、すっごい嫌らしいと思ったんです。別に頑張ってビンが手に入る手段があるならいいですけど、誰もが同じくらいのタイミングでしか手に入らないのなら、そんなの全然嬉しくないじゃないですか。

――そんな大胆な……って、なんか今回の『ゼルダ』はすごいな(笑)。もはや自己否定の果ての再構築という感じですね。

藤澤氏:
 ちなみに、いちプレイヤーとして言わせてもらいますと、ビンが手に入ると存外嬉しいものなんですけど(笑)。

青沼氏:
 でも、「ビンを探さなきゃいけない」となると、また別の目的が出ちゃうわけです。それってバランス悪くないかな……と議論しているうちに、不要だなという考えに至りました。

藤澤氏:
 まあ、今回はインベントリの概念もありますからね。

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“面倒”な『マイクラ』を人々が楽しむ理由

――ただ、藤澤さんの言うようにゲームの面倒さを嫌う風潮が高まっているのも、事実だと思います。そこで今回の『ゼルダ』を作る任天堂のスタッフに聞いてみたかったのが、『Minecraft』(以下、『マイクラ』)【※】なんです。たぶん、この4年間に起きた「事件」が、あの面倒さの塊のような『マイクラ』を小学生が嬉々として遊び始めて、世界的に流行ってしまったことだと思うんです。

※『Minecraft』(マインクラフト) ……3Dのドット絵の世界で、探索や採掘によって自由に世界を組み上げることができるゲーム。無限に広がるオープンワールドかつサンドボックスゲームで、世界中から支持されている。
(画像は『MINECRAFT: Wii U EDITION』 任天堂ホームページより)

青沼氏:
 うちの息子もやってます。「『マイクラ』のいいところは自由に作れること」というから、「本当にそう思うか?」と聞いたら、「家くらいしか作れない……」と言われましたけど(笑)。

 『マイクラ』のいいところは、やっぱり入り口の垣根が低いことですよね。「あ、こんな単純なことでいいんだ」と、やってるうちに、ちょっとずつ複雑なことができるようになる。そうして、どんどん新しいものが欲しくなって、ますますハマっていくわけですよ。うちの子も「レッドストーン」なんかを手にして喜んでいて、「自分なりにやれる」と分かると、そこからどんどん広げていくんです。

――今の『マイクラ』の序盤の展開力はすごいですよね。何も行動を強制されていないのに、気がつけば開拓していて、その素材で家を作ってしまい、掘り返した穴から今度は地下を発見して探索したくなり……という気持ちの流れが、驚くほどスムーズに展開していきますからね。

青沼氏:
 そこは「ゼルダ」も一緒なんですよ。何かを発見して、それがもとでまたどんどんできることが広がっていく。これを経験して欲しいわけですから。

藤澤氏:
 僕の考えでは、たぶん、『マイクラ』で重要だったのは、ゲームにクリアの概念がないことだと思います。
 クリアの概念があるゲームだと、その途中にあるものは、悪く言えば全て障害物になってしまうんです。で、クリアが目的になってしまうと、みんな最短距離でそこに行きたがるから、途端に中間にあるものが面倒になっていく。あの「面倒さそのものを楽しんでね」という『マイクラ』のゲーム性は、そういう部分にあるように思います。
 なのでお聞きしたいんですが、今回の『ゼルダ』には、クリアの概念はあるんですよね。オープンワールドとの親和性も含めて聞いてみたいです。

青沼氏:
 いやあ、今回、流石にそこは崩せなかったです(笑)。
 やっぱり、「ゼルダの伝説」ですからゼルダ姫もいなきゃいけないし、そこに最後は繋がっていく物語だから……というのはありました。だから、次の展開を心待ちにしている人への回答は見せたと思います。広い世界との親和性という点では、ランダムアクセスでも上手くストーリーを楽しめるように仕組みをつくったんですけれどね。

藤澤氏:
 というと、キャラクターについての語るべきエピソードが点々とある感じですか?

青沼氏:
 まあ、そうですね(笑)。ただ……その内容は、ひとまずは発売後のお楽しみとさせてください。
 でも、今回の作品では、話を積み重ねていって、やっと最後にボスに挑めるというのだけはやめました。最初にガノンに戦いを挑もうと思ったら、戦えてしまいます。絶対に勝てないと思いますが(笑)。

藤澤氏:
 本当に自由ですよね。

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本作は冒頭で、すぐにボスの居場所が提示されてしまう。

青沼氏:
 最初にすごく強い敵がいたら「もうだめだ」となるけど、同時に「どうしよう」って考えるじゃないですか。それがプレイヤーの工夫に繋がるわけです。そこを「プレイヤーにストレスを与えないように」と敵を弱くしたら、行き着く先は草を切ったことと変わらないような弱いボスになっちゃうわけじゃないですか。「最初は駄目でも、何度も何度も行ってみたり、何度も何度もチャレンジするのって面白いよね」というのが今回のコンセプトです。

――クリアの概念は入っているけど、その過程の「面倒さ」を楽しむゲーム作りにはこだわり抜いた、ということですね。

全ては初代『ゼルダ』への回帰だった

――「ドラクエ」で言うと、『5』のブオーンなんて、いつ行ってもいいなかで何回も死にながら挑戦したのが印象的ですが、この面白さというのも現代のゲーム業界で挑むのは思い切った決断ですよね。やはり「原点回帰」とは言いながらも、かなり挑戦的なタイトルだと思います。そもそも、オープンワールドにすることが議論されたのは、いつ頃からだったんですか?

青沼氏:
 まず発想そのものは、僕が『時のオカリナ』で入った頃から当然あったんです。だって、当時の3Dゲームをプレイしていたら、「ローディングせずに地形を読み込めたらなあ」と思うじゃないですか。

――オープンワールドは当然その先に見えてくる発想ですよね。

青沼氏:
 それで、ニンテンドーゲームキューブになったときに、まずは海で試してみたんですよ。「まあ、青いだけだから、作るのは簡単じゃないのかな」と思ったんですが、自分が思い描いていた島のせいぜい1/3の数しか作れなかった。厳しかったですね。次に『トワイライトプリンセス』でメモリが増えたときに、また試してみたんですけど、やっぱりギミックや敵を置くことを考えるとメモリはいっぱいいっぱいですよ。部屋は巨大化しましたけど(笑)。
 そうして、ずっとずっと諦め続けてきて、Wii Uで「できます」と言われたんですね。だから、僕らにとっては、挑戦しては諦めての繰り返しの歴史だったんです。

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藤澤氏:
 じゃあ、執念の一作という感じですね。

青沼氏:
 まあ、当初は社内の「『ゼルダ』がなぜそれをやらないの?」と問題視していたプログラマたちに「やりましょう」と言われて、逆に僕の方が「いや、それは大変だよ?」なんて話したりもしたんですけど(笑)。

――逆に難しさはよく知っていますからね。

青沼氏:
 でも、腹を決めて、もう「ここはやろう」と決断しました。
 ただ、僕がいま思うのは、そもそも宮本が作った初代『ゼルダの伝説』って、いわゆる「ゼルダスクロール」が入ってますよね。あれは、要はローディングを挿まないことで、プレイヤーに広い世界だというイメージを体感させる意図なんですよ。とすれば、このオープンエアーという発想の皮切りは、実は初代『ゼルダ』にあるんじゃないかと思うんですよね。

『ゼルダの伝説』
(画像はニンテンドー3DS版『ゼルダの伝説1』プレイ映像より)

 実際、最初に広大な空間で「ゼルダ」をやろうと決めたときに、「そもそも最初の『ゼルダ』こそがそうだったはずだ」という話をしているんです。ですから、さっきお話をした2Dゲームというのは、実はベースに初代『ゼルダ』があって、そこに物理の要素を加えたモノなんですね。

――そうだったんですか!

青沼氏:
 しかも、今回の僕らは広い世界の中を実際に歩き回りながら、試行錯誤で作っていったわけですよ。それって、実は宮本が初代『ゼルダ』を作った当時のゲーム開発と変わらないんです。だって、昔は仕様書を書いて、「部屋はこんな感じにしておいて」なんて指示の出し方は出来ませんから。

藤澤氏:
 そうですよね。どうやればいいかなんて、誰にもわからない時代です(笑)。

青沼氏:
 そう、だから宮本が初代『ゼルダ』を作った時代には、とりあえずグリッドが区切られた中に「こんなのあったら面白いね!」と、どんどんネタを入れていくしかなかった。そうして自分で遊び回りながら、「ここに敵がいたら面白いね!」とか「これじゃダメだなー」と、その場で考えていったわけです。
 これこそが、垣根のない世界をつくるに当たって、僕たちが今回やった手法そのものでした。狙ったわけではないけど、広い世界の上にドーンと投げ出されるゲームを前にして、僕たちは宮本たちが初代を生み出した時代の作り方へと戻っていたんだと思います。

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