なぜ自由度が「高いのに」ゼルダ新作は面白いのか? “リズム”からその魅力を読み解く:「なんでゲームは面白い?」第八回

 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、『BotW』)が発売されて、既に3ヶ月程度の時が経った。これだけの時間が経てば、既にクリアした人も多いだろう。だが、このゲームを遊び尽くしたと思える人は一体どれほどいるだろうか?

(画像は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の公式サイトより)

 かくいう僕自身、100時間以上遊んで既にクリアはしたものの、その後に表示される達成率は20%程度。さらに継続して遊んでいるものの、いまだに30%すら超えていない。そんなまだまだ『BotW』ビギナーな自分だが、先に結論から言わせてもらおう。

 『BotW』は僕にとってオールタイムベストの一本だ。

 これまで自分のオールタイムベストは『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』と『ゼルダの伝説 時のオカリナ』の二本が双璧だった。しかし、遂にこの両方を完全に超える一本が現れてしまった。まさか30年以上の歴史のあるIPで、ここまでの更新が行われるとは。そして、それにリアルタイムで立ち会えるとは。さらに、ここまで大胆な更新を行ってなお、「ゼルダ」たりうるとは――。

 一体、30年もの間「ゼルダの伝説」を遊び続けているような、すれっからしのゲーマーすら唸らせる『BotW』の面白さとはなんなのだろうか。既に電ファミ上でも、ぺんぺん草の一本も生やさない勢いで『BotW』について語られまくっているが、この連載でもダメ押しのつもりで考えてみよう。

『BotW』の命令の少なさ

 以前、僕はこの連載で「ゼルダの伝説」とは「探索」と「成長」のゲームであると書いた。

海外レビューサイトでゲーム史上最高得点 なぜゼルダは国際的に高い評価を受けるのか?:「なんでゲームは面白い?」第四回


 まず、結論から述べよう。「ゼルダの伝説」とは「探索」と「成長」のゲームである。

 「ゼルダの伝説」とは「探索」に次ぐ「探索」のゲームだ。だからプレイヤーは常に世界を「探す」必要に迫られる。謎を解き、障害を克服し、次への扉を開くための鍵を得ることで、また新しい障害へと立ち向かう。それが「ゼルダの伝説」である。
 一方で、「ゼルダの伝説」とは、主人公リンクの「成長」を描くゲームでもある。最初は敵とまともに戦うことすらおぼつかなかった少年が、一つ一つ障害を乗り越えながら新しい力を得てゆき、やがて世界を大いなる危機から救う伝説の勇者となるまでを、ゲーム的なかたちで体験させる。したがって、「ゼルダの伝説」は紛れもなく「成長」のゲームである。
 「探索」と「成長」、この2つは「ゼルダの伝説」において欠かすことのできない、非常に重要な要素だ。 

 この認識は『BotW』についても全く変わりはない。過去の「ゼルダの伝説」がそうであったように、本作もやはりそうだ。しかし、『BotW』を遊んだ今ならこうも言える。かつての「ゼルダの伝説」は「探索」と「成長」を「しなければならない」ゲームであった、と。

 かつての「ゼルダの伝説」は、クリアに必要な障害や謎解き、パズルに詰まったが最後、そこから先へと進むことができなくなるゲームであった。ダンジョンの中にある小さなカギの一つでも見落とそうものなら途端に進行が停滞する、非常にシビアなゲームだった。これまでの「ゼルダの伝説」とは作り手側から下される命令に対して従属せざるを得ないゲームだったのだ。

 これに対して『BotW』はプレイヤーに下される「命令」が非常に少ない。
 ゲームにおける命令には、「明文化された命令」「非明文化された命令」がある。「ドラゴンクエスト」でいえば、前者の例は、主人公に対して王様から発せられる「魔王を倒せ」という言葉による命令だ。容易に動機づけや進行の明確化をもたらすメリットがある一方で、過度に用いると「おつかいゲー」と呼ばれるリスクも孕む。

ドラゴンクエスト3の冒頭
(画像はドラゴンクエスト誕生30周年記念ポータルサイトより)

 後者の例は、初代『ドラゴンクエスト』における、見えるにも関わらず最後まで辿り着けない「竜王の城」だろう。巧みな配置によって、無言のウチにプレイヤーに「ここに向かえ」と命令を下すことができる。この方向性の象徴が「壁」である。巧みに配置すれば、命令するまでもなくユーザーを導ける一方で、過度に用いると今度は「一本道ゲー」と呼ばれるリスクを孕んでいる。

 昨今のゲームシーンで話題に上ることも多い「環境ストーリーテリング」【※】なども、この「非明文化された命令」によって物語を構成する手法だと考えれば分かりやすいだろう。

※環境ストーリーテリング
environmental storytelling。セリフや出来事などの直接的な描写でなく、空間内にモノを配置することで、そこであった物語をプレイヤーに伝える手法。たとえばホラーを語るとき、ビデオゲームの場合はナレーションなどなくとも、空間とそこにある物を提示するだけで、そこで起きた恐ろしい何かをプレイヤーに伝えることができる。これが環境ストーリーテリングにあたる。多くのゲームで大なり小なり使われるが、近年では『Gone Home』などが全篇環境ストーリーテリングで構成されている。

 ゲームにおける、この命令の問題を『BotW』で考えてみよう。すると「明文化された命令」については、ゲームを開始した直後の「始まりの台地」で展開されるイベントこそプレイヤーに対して細かく命令が下されるし、行動に対する制限も厳しいものの、一連のイベントを突破し、「始まりの台地」の外へ出て行けるようになった瞬間にそれは消える。プレイヤーは即ラストボスの待つダンジョンに向かい、ボスに挑み、撃破することすら可能になる。

 一方で、「非明文化された命令」についても、移動に遮断の命令を発するはずの「壁」に対して、主人公がほぼ無制限に登攀可能な能力を初期状態から備えているため、「ここから先は行けません」という命令を発する存在がゲーム中にほぼ存在しない【※】

※唯一の例外は「雨」という天候なのだが、なぜ今作において少なくないユーザーが「雨」の存在を疎んでいるのかと言えば、「行動の遮断」という、本作においては非常に横暴かつ特権的な命令を非明文化されたかたちで下す存在だからである。(by hamatsu)

 つまり、『BotW』においては、二つの命令がともにほとんどないのである。過去作と比較した場合、『BotW』の命令の自由度の高さは異常といっていいレベルである。この点こそが、過去作と『BotW』を分ける最も大きな特徴となっている。

『BotW』の根底に流れる複数のリズム

 だが、問題はここからだ。

 ここまで説明したきたように、『BotW』は異常なまでに自由度が高い。では、“だから”『BotW』は面白いのだろうか?
 それは違うだろう。自由度の高さとゲームの面白さはイコールではない。では、ただ広くて何もない空間を好きなように移動できるだけのゲームがあったらどうか? さすがに、そんなゲームは全く面白くはないだろう。自由度の高さという尺度は、ゲームの評価軸として使用するのは実は難しいのだ。

 むしろ『BotW』で考えるべきは、「ここまで自由度が高いゲームでありながら、異様に面白いのはなぜか」ということだ。過去の「ゼルダの伝説」は確かにプレイヤーに対して非常に細かく大量の命令を発する、シビアなゲームだった。だが、なぜそのようなゲームであったかと言えば、それが面白かったからに他ならないだろう。「大量の命令を発するゲーム」とは別の言い方をすれば、「非常に綿密かつ繊細に構成が練られたゲーム」であるとも言えるからだ。事実、歴代の「ゼルダの伝説」はいずれもゲームの歴史に残る名作ばかりである。

 では、なぜ『BotW』は無軌道と呼んで差し支えないほどの自由を提供しながら、時間を忘れて没頭してしまうほどに面白いのか。
 その理由の一つとして、既に電ファミのTAITAI編集長が非常に明快な図付きで解説しているように、広大なマップに対して、非常に高い密度とバランスで探索すべき要素が散りばめられているから、という点が挙げられる。

電ファミ編集長・TAITAIの記事で使用された図

 そして、更に重要なのはゲームにまつわるテンポとリズムについての指摘だ。

 “思い返せば、おおよそ“面白いゲーム”には、プレイを進めていく(もっと言えば、ボタンを押していく)うえで“テンポとリズム”が悪いものはまず存在しない。人間にとって何かしら気持ちの良いテンポで物事が進み、気持ちの良いリアクションが返ってくる。その繰り返しが心地良いから、人はそのゲームに没頭してしまうのだ。”

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のすばらしさを図で説明してみる。あとデジタルゲームにおける「楽しさのテンポとリズム」の重要性についてより

 この指摘は全くその通りだ。テンポやリズムはゲームの根幹を為す「要」のような存在である。これは言い換えると、探索の「密度」に関してのリズムだとも言える。

 ただ、その詳細については記事を読んでもらうとして、この記事で僕が指摘したいのは「密度」以外のリズムについてである。『BotW』がなぜ面白いのか――それは複数のリズムがゲームの根底を流れているからである。そのリズムがゲームに対して強固な骨格を与えることによって、圧倒的に自由であるにも関わらず、弛緩のない引き締まった面白さを実現しているのである。
 では、広大な空間を満たす「密度」以外のリズムとは何か。一つは「縦」のリズム、もう一つは「往復」のリズム――少なくともこの二つのリズムが『BotW』には流れていると僕は考えている。次の項ではまず「縦」のリズムについて考えてみよう。

経路の緩急を生み出す「縦」のリズム

 ところで、先ほど『BotW』での「壁」による「移動の遮断」の機能がなくなったことを書いたが、「壁」にはまだもう一つの重要な機能が残っていた。それは「視線の遮断」だ。

崖をよじ登るリンク
(画像はゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド 3rd トレーラーより)

 『BotW』の「壁」は移動を遮断しないが、「視線」は遮断する。だから、切り立った崖や山の斜面に囲まれたプレイヤーは世界の中で容易に迷う。プレイヤーに絶えず誘いをかける探索要素が至るところに散りばめられていることも重なって、『BotW』は、どこにでも行けるゲームであるにも関わらず遊んでいるといとも簡単に「迷う」。

 しかし、このゲームではもし迷ってしまったとしてもゲーム的に詰まり、停滞することもあまりない。なぜかと言えば、迷ったときの対処法が常に明快なかたちで存在するからだ――そう、高い所に登ればいいのである。

 そして、この高所に対する上昇と下降の運動にこそ『BotW』における「縦」のリズムが込められている。  四方を壁や斜面に囲まれたとしても、プレイヤーにはそれを乗り越える能力が常に備わっているし、低い場所にいるということは、「塔」のような高くそそり立つ場所が見えやすいことでもある。そして高い場所に行けば必然的に視界が開ける。自分の視界を遮断する壁のない最も高い場所に登ってしまえば、プレイヤーの目の前には無数の探索する経路が広がるのだ。

 決してテンポが良いとは言えない、なんだったら鈍重と言っていい『BotW』の壁登りアクションが、なぜこんなにも面白く、高い所を見つければついつい登ってしまうのか。
 それは高い所に登れば、大抵コログや何らかの素材が設置されているという報酬や、美しい景色を見ることができるという、緻密に構成された「密度」のリズムもあるだろう。だが、やはり登った先にある、まだ到達していない無数の探索経路の発見それ自体が報酬になっているのは大きいだろう。

『ブレスオブザワイルド』の美しい景色
(画像はゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド 3rd トレーラーより)

 壁にしがみついて、がんばりゲージの消費に気を使いながらひたすらに登り続けるとき、『BotW』は非常に自由度の低いゲームになる。余計な寄り道をしている余裕などないし、モニター一面に決して解像度が高くない崖テクスチャが映し出された時は、これが2017年のゲームなのかと一瞬不安にすらなったりもする。だが、そんなネガティブな気持ちは目標の頂上に辿りついた瞬間に吹き飛んでしまう。そこには見たことのない世界が広がっている……というよりも、そこから見える世界全てがプレイヤーに対して探索してくれと呼びかけてくるのだから。
 このスローペースで自由度も制限される壁登りアクションからの、頂上到達とともに訪れる爆発的な探索箇所と探索経路の増大という緩急のついた一連のプロセスこそが、『BotW』における「縦」のリズムである。

 すると、この「塔」にこそ、「ゼルダの伝説」の「伝統」とも呼べるもう一つのリズム、「往復」のリズムが込められているわけだ。次に『BotW』における「往復」のリズムについて考えてみよう。

『ゼルダの伝説』らしさを支える「往復」のリズム

 「往復」のリズムは、過去の「ゼルダの伝説」において非常に重要だった。
 それは「成長前」/「成長後」によって生まれるリズムである。「ゼルダの伝説」においてそのリズムが最も顕著に現れるのは、最も重要な要素と言っても過言ではないダンジョンにおいてだ。歴代のダンジョンほぼ全てが「往復」のリズムで成り立っている。

 まずは、「往路

ボス戦の前に強力なアイテム「妖精の弓」をゲット
(画像は【時のオカリナ裏】護れ、超刻の聖三角!【縛り実況】part12より)

 新しいダンジョンに初めて潜入して右も左も分からない状態から、次第に全貌を把握してマップやコンパスを獲得しながら、そのダンジョンでしか獲得できないブーメランや弓矢といったアイテムを獲得するまでが、これに当たる。

 一方、アイテムを獲得してからボス討伐へと向かう道は「復路」であると言える。

そしてその弓は、直後のボス戦で活躍する
(画像は【時のオカリナ裏】護れ、超刻の聖三角!【縛り実況】part14より)

 なぜアイテムの獲得を機に「往路」と「復路」に区分けできるのかと言えば、その瞬間に主人公が「成長」し、それを折り返し地点として、「成長前」「成長後」というかたちで世界との関係性に変化が起きるからだ。「ゼルダの伝説」が巧みなのは、各ダンジョンで獲得できるアイテムが、障害を突破するための「鍵」として用いられるだけでなく、リンクに襲いかかってくる敵を倒す攻撃手段としてもしばしば活用されるからだ。爆弾や弓矢を獲得できるダンジョンでは、それらの使用によって倒しやすくなる敵が現れる。

 だから、ダンジョンでアイテムを獲得した瞬間、リンクは鍵を解く能力を獲得すると同時に、そこで遭遇する大抵の敵に対して優位なポジションを得ることができる。いわゆる「無双状態」である。ここにこそ、ゼルダのダンジョンに謎解き以上の爽快感が伴う理由があり、レベルアップ要素がないにも関わらず「ゼルダの伝説」が「成長」のゲームであると実感できる理由がある。
 しかも、ダンジョンをクリアし、外に出て以降も「復路」は続く。なぜなら、そこで得たアイテムを持ってメインフィールドに出られるからだ。爆弾を獲得して外に出れば、とりあえずメインフィールドのそこかしこに爆弾を設置してみたくなるし、弓矢を得て外に出れば、そこら中を撃ってみたくなる。そうやって一つのダンジョンをクリアするたび、リンクが「成長」して新しい「探索」が可能になる。それは世界がアップデートされたかのように、関係性が更新されていく体験だ。

 この繰り返しによって、主人公の「成長」をゲーム的なかたちで描いていくのが、従来の「ゼルダの伝説」における「往復」のリズムだった。

ゼルダ新作の「往復」

 では、『BotW』ではどうなのか。
 既に遊んだ人はご存知のように、『BotW』には今説明したような「往復」のリズムを発生させるダンジョンが存在しない。4つの神獣や各所に散らばる祠というかたちでダンジョン的な要素は残っているものの、中間地点で新しいアイテムを獲得し、そこで得た能力を駆使してボスまで制覇する形式のダンジョンは『BotW』ではほぼ存在しない。
 これは、「ゼルダの伝説」の根幹を揺るがしかねない変更点と言ってもいいだろう。

 しかし、先に述べたように本作には、各地に点在する「塔」がある。この「塔」こそが「縦」のリズムを最大化する存在であると同時に、「往復」のリズムを発生させる折り返し地点にもなっている。なぜなら、各地の「塔」の頂上に辿り着くことで、その地域の詳細な情報が記載されたマップデータが得られるからだ。それはつまり、「塔」の頂上に登るまでは、右も左もおぼつかない状態で、新しい土地で新しい敵に襲われながら放浪することが強いられるとも言える。

 それを『BotW』における「往路」だとすれば、「塔」の頂上に辿り着き、そのときの詳細な情報が記載されたマップと高い場所によって得られる「視野」によって、各地に点在する祠をマーキングして、パラセールでひとっ飛びしたりする過程が「復路」に該当するだろう。

 これでは、過去作と比べて『BotW』の「塔」で得られるものは少なく思えるかもしれない。
 だが、『BotW』の途方もなく広く、高低差に富んだマップを知っている人には「塔」で得られるマップ情報と高所から得られる視野が、いかに探索をする上で有用であるかを理解するのはたやすいはずだ。新しいエリアに踏み込み、「塔」の頂上に登ることで、ダンジョンで得られるアイテムと同等、もしくはそれ以上の「世界と自分との関係性の変化」が起きているのである。
 「ゼルダの伝説」のコアとして捉える人も少なくないはずのダンジョンを徹底的に解体して、それでもなお、なぜ『BotW』は「ゼルダの伝説」らしさを失っていないのか? それは、表層レベルではダンジョンを解体しつつ、その根底に流れる「往復」のリズムを脈々と息づかせているからだ。

原点以上の原点回帰

 ここまで、いかに『BotW』が自由でありながら、しかも面白いゲームになっているかについて考えてきた。
 『BotW』は自由なゲームだが、それゆえに面白い訳ではない。このゲームが面白いのは、あくまでも――探索要素の「密度」や、「縦」の移動による視野変化に伴う探索経路の増減、各地の「塔」を巡ることで発生する「往復」などの――プレイして自然と心地よくなるような、複数のリズムが根底に流れているからだ。

 もちろん、ここまで述べてきた複数のリズムの導入は、何も『BotW』が初めて発明した要素わけではない。むしろゲームの古典的な要素と言ってもいいだろう。

(画像はニンテンドー3DS『ドラゴンクエストVIII』プロモーション映像 第2弾より)

 「縦」のリズムに関しては、ゲームが3Dになってある程度広いマップがゲーム中に表示できるようにならないと実現が難しい要素だが、これに関しても『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』がお手本のようなかたちで非常に巧みに実現している。「往復」のリズムについては、既に述べたように「ゼルダの伝説」の伝統とも呼べるリズムだ。

 では『BotW』は既存のタイトルにある既存の要素を並べた、いわゆる「いいとこ取り」のゲームなのだろうか?
 そういった側面も間違ってはいない。「塔」にアクセスすることで周辺のマップ情報が得られるあたりに、「アサシン クリード」シリーズの影響を見ることは、たやすい。

 だが、このようにも思う――『BotW』は既存のゲーム要素の本質に立ち返って「再構築」をしたゲームであると【※】
 高い場所に立てば遠くまで見渡せる、「成長」することで世界との関係性が変わる……などといった要素は、ゲームどころかこの世界における基礎中の基礎とも呼べる要素となっている。それを徹底して阻害しないためにこそ、『BotW』は自由なゲームになったのではないか。既にあった基礎を、見たことのない水準で再構築したゲーム、原点以上に原点回帰をしたゲーム、それが『BotW』なのではないかと思う。


『BotW』は、開発者自身が“アタリマエを見直す”という目標を掲げて、過去のゼルダから大幅な変化をしようとしたゲームでもある。『BotW』のプロデューサーであり、3Dなって以降のゼルダの伝説に一貫して携わって来た青沼英二氏はこう述べている。(by hamatsu)

青沼氏:
 “アタリマエを見直す”は、『風のタクト HD』を制作していたころに、新作についてのコメントを求められて出したキーワードです。当時『スカイウォードソード』を遊んでくれたユーザーの意見を見たときに、『ゼルダ』がゲームとして少し行き詰まってきた感じがしたんです。こういう作りかたでは、もうダメなのではないかと。そこで、藤林とふたりで「いままでの当たり前を壊していかないとダメなんだよな!」ということを言い始めたんです。『風のタクトHD』を作ったときは、すでに『ブレス オブ ザ ワイルド』の母体となる世界を作り始めていたので、この世界でどんなことができるのか、“アタリマエを見直す”をキーワードにして考えていこうと。自然とそうなりましたね。

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』全員で遊び、全員で作る。開発環境すら“オープンエア”にした、常識を越えた作品作りに迫る開発者インタビュー【前編】(1/2) – ファミ通.comより

能動性の肯定

 冒頭にも書いたように、僕は『BotW』を100時間以上遊び続けている。

 Nintendo Switch版で遊んだので、いつでもどこでも遊べる本体の特性とも相まって、『BotW』は非常に遊びやすいゲームであった。操作の繁雑さや、多くの人が指摘しているUIの扱い辛さなどの欠点こそ明確にあるものの、ちょっとだけ遊ぶつもりがいつの間にか数時間経っていることがざらに起きてしまう。
 その果ての100時間のプレイ時間というわけだが、それでもなお尽きることのないボリュームに圧倒されつつも、いわゆる超大作ソフトを遊んだ「重さ」よりは、「気づけば100時間経ってしまっていた……」となる、遊び心地の「軽さ」こそが印象的なのが面白い。

 だが、なぜ本作はこのような「軽い」遊び心地なのか。
 それは、この原稿の前半で述べたように、このゲームには命令が少ないからだ。ゲームに夢中で没頭しているときは課せられた命令から発生する義務のことなど全く気にならないが、ふとプレイを止め、間を置いて再開すると、それまで全く気にならなかったその義務が重たく感じることはままあることだ。
 そんな、ゲームに胃もたれを感じるようになってしまったユーザーにも『BotW』は優しい。話題になったamazonのレビューはそんなユーザーの一例だろう。かつての「ゼルダの伝説」が障害を突破できないユーザーを突き放す厳しさを持っていたのに対して、『BotW』はどこまでも優しさがある。

 一方で、「ゼルダの伝説」とは「探索」と「成長」のゲームである。今作においてもそれは変わっていない。しかし、この原稿の後半でも述べたように、単にこれまでの流れを守る以上に「根本」に立ち返って、「能動的に行動することは面白い」ことが感じられるゲームにもなっている――言葉にしてしまえばあまりに単純だし、そもそもゲーム一般の面白さの根本とも言えることだが、『BotW』は本当にそれが実現できているのだ。。
 人間の持っている「能動性の肯定」をしてくれるエンターテイメント――それがゲームであり、『BotW』だ。あらゆる人間にオススメしたい【※】


とはいえ、本作の魅力について、まだまだ全てを語りつくしたとは言えない。 中でも、ゲーム中に発生する「化学現象」の「原理」を、ゲーム的なかたちでデザインする「化学エンジン」の革新性については語るべきことは多いが、また機会を改めよう。一つだけ言っておくと、まず「化学エンジン」というネーミングが圧倒的に素晴らしい。この言葉を知ったことで、多くの人間が「化学エンジン的な視点」でゲーム世界を見つめるようになってしまうだろう。この手法はまだまだ発展の余地は大きいし、追随するタイトルも今後多数生まれるに違いない。(by hamatsu)

文/hamatsu

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『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のすばらしさを図で説明してみる。あとデジタルゲームにおける「楽しさのテンポとリズム」の重要性について

(C)Nintendo

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