ファミコン初の将棋ゲームは今や”アクションゲーム”だった。『内藤九段将棋』で戦う謎のRTA大会が開催、熱き戦いで会場熱狂に

 ファミリーコンピュータ初の将棋ゲームとして1985年に発売された『本将棋 内藤九段将棋秘伝』(以下、内藤九段将棋)。時代の流れとともに多くの人が忘れていたかもしれない同作が、なぜか“アクションゲーム”と化して、2018年12月30日の真冬の秋葉原の一角を熱狂させるという事態が起きた。

 12月27日から31日まで開催された、リアルタイムでゲームのタイムアタックに挑戦する「RTA」のイベント「RTA in Japan 3」。24時間、ほぼ途切れることなくさまざままなゲームのタイムアタックが実施される同イベントにて、「本将棋 内藤九段将棋秘伝シングルエリミネーショントーナメント」が開催されたのである。

(画像はTwitch | RTA in Japanより)

 同大会はいかに「敵コンピュータを早く投了させるか」というタイムアタックをテーマにしたもので、ふたりの参加者が同時にゲームのスタートボタンを押して試合はスタートする。しかしどのように手を打つのか悩む必要はなく、敵を最短で詰む棋譜はすでに存在しており、その手数は「15手」。つまり『内藤九段将棋』におけるRTAは、敵AIよりもいかに深く盤面を読むかという思考戦ではなく、いかにその15手を正確に入力するかというアクションゲームや格闘ゲームじみたものとなっている。

 その15手をいかに早く指すのかという単純に見える戦いには、同作の独特な操作感によって「最速タイムを狙うと必ずしも成功しない」という不安定さがあり、1ミスがそのまま逆転に繋がる勝負劇は見る者を熱狂させてくれる。また、相手に差をつけられるものの1フレーム入力の猶予しかない「駒の斜め移動」という技術があり、これを使うかどうかも試合では注目される。

 12月30日深夜におこなわれた大会には、多数の観客が秋葉原に足を運び会場はほぼ満席、秋葉原の一角は大きな唸り声と拍手に包まれた。Twitchのライブ配信では同時接続7500人の視聴者たちが見守り、「(『内藤九段将棋』は)アクションゲーム」、「これぞeスポーツだ」と多数のコメント。その映像はすでにアーカイブされており、視聴することができる。

 『内藤九段将棋』の大会はいかに開催へと至ったのか? 参加者や解説を混じえた最速となる優勝者インタビューで話をうかがってみた。

文、取材/Nobuhiko Nakanishi
編集、取材、撮影/ishigenn


(左)y_gmさん、(右)核さん

──優勝おめでとうございます。

一同
 拍手。

y_gmさん(選手、優勝者)
 ありがとうございます。

──いずれの試合も好タイムでした【※】。今日は優勝するという予感はありましたか?

※『内藤九段将棋』RTAでは30秒台で1秒や2秒の差を競うことになり、平均記録は33秒から35秒といったところ。y_gmさんは31秒から33秒台の好タイムをいずれの試合でも残した。

y_gmさん
 僕は「RTA in Japan」のスタッフもかねていたので、あまり練習の時間が取れなかったんです。人の練習風景を見て焦っていました。

──では試合もかなり緊張されましたか?

y_gmさん
 始まるまでは緊張しなかったんですけど、いざ操作が始まると緊張しましたね。プレイ中は周りの声も聞こえてくるので、気が散らないようにゲームの音だけに集中しました。あと余裕のあるときには、相手がどれだけミスしたのかを判断してプレイ内容を変更しました。

──試合では「焦った方がミスをして負けてる」というケースが多かった気がします。

核さん(解説)
 おそらく追いかけてる方がつらいですよね。僕は走っていないからわからないけど(笑)。

バカンダさん(選手、一回戦敗退)
 一手のミスで抜かれた後に追い抜ける気がしないのが、やっていて怖かったです。負けが確定してるのに、自分も最後まで完走しないといけない。その恐怖と戦わないといけない上に、負けたという結果までついてくるのが辛い。

選手
 攻めれば追い抜くことができる可能性もあるんですけど、本番では勝手が違って「失敗すると恥ずかしいことになる」と思ってしまって、そういう手段が取れない。

──そもそものお話になってしまうんですが、なぜ『内藤九段将棋』でRTAをしようという思考が生まれたんでしょうか……?

核さん
 僕らが始めたわけではなくて、2008年ごろにインターネットで誕生したと言われていますね。それ以降も一部で流行していて、2011年くらいまでは少数の人たちが走っていました【※】

※走る:RTAではタイムアタックに挑戦することを「走る」、またプレイヤーのことを「走者」と呼ぶ。

──10年以上の伝統がある、由緒正しいRTAですね。

もかさん(選手、RTA in Japan主催者)
 僕が遊びで「Speedrun.com」(もっとも有名なRTAの記録収集サイト)に投稿したらなぜか認定されてしまったんです。ランキングには海外の走者もいますよ。

核さん
 そして僕がブックオフで『内藤九段将棋』が108円で売っているのを見て、思わず買ったんですね。「これでタイムアタックやる人いますか」と言ってみると、もかさんが「僕も持ってます」と反応してくれたのが今大会を開催した発端です。

もかさん
 去年の「RTA in Japan」の「アンキモ」【※】が面白かったので、ほかに短時間タイムアタックで対戦できるゲームを探していたというのもありますね。

※昨年開催された「RTA in Japan 2」にて実施された「美味しんぼ 究極のメニュー三本勝負シングルエリミネーショントーナメント」のこと。主人公の山岡士郎が「アンキモ!アンキモ!アンキモ!」と叫ぶまでのRTAを今回の大会のように競い合った。「ゆうこトラップ」
、「半チャイム差」といった名言を残した同大会は、現在も語り継がれている。

『オプーナ』を走り続けた男、「アンキモ」を目指す『美味しんぼ』ファイター。ゲーム最速攻略イベント「RTA in Japan」が熱い

──現在は「15手詰み」が最短とされていますが、これは大会の開催にともない研究されていったのでしょうか?

核さん
 最初期からありますね。インターネットの海にいくつも「『内藤九段将棋』の早詰み」という手順かあるんです。ただフレームカウントまで考慮するほど細かくはやっていないので、そういった仕様を調べたのは今回が初めてだと思います。TAS【※】の方々はやっているかもしれませんね。

※TAS:Tool Asisted Speedrun。人力でリアルタイムでのスピードを競い合うRTAに対し、TASではツールを使うことが許されており、理論上で達成可能な最速プレイや極限プレイに挑戦する。

──素振り【※】をする「斜め移動」など印象的なテクニックもありましたが、ほかにゲームの仕様における特徴はありますか。

※素振り:本作では斜め移動ができる「角」をいかに捌くかという「角捌き」が重要となる。大会試合前には最後の調整としてゲーム内で角を斜めに移動、つまり「素振り」するプレイヤーの姿が見られた。

核さん
 操作感はそうとう重いですね。あとカーソルの移動の速度が通常1フレームなんですが、駒を持つと3フレームになります。つまり、駒を掴む前と掴んだ後の移動の感覚が微妙に違ってくるんですよね。斜め移動を使う有効性もそのあたりにでてきます。

──もはやアクションゲームや格闘ゲームですね……。

選手
 将棋ゲームで斜め移動1フレームビタ押しはおかしいですよね(笑)。

──今日の大会は「RTA in Japan 3」全体でも一二を争う盛り上がりでした。あらためて、このタイムアタックの魅力とはなんでしょうか。

核さん
 100%成功することが難しい上に、時間が短いです。もしかしたら単純にひとりでこのRTAをやってると、かなり苦痛かもしれない(笑)。ただ、みんなでワイワイと集まって挑戦するのには向いている気がしますね。ある程度の腕の差が出ますし、好タイムを目指して攻めれば難しくなる。

y_gmさん
 なかなか走り切ることが難しいゲームのRTAもたくさんあるのですが、このタイムアタックは一度プレイをとおしでするだけなら誰にでもできます。特に上を目指さなくても知り合いの人とやると楽しいので、遊びの種として試していただけたらなと思います。

──最後に。そうえいばと少し気になったのですが、みなさんそもそも実際の「将棋」をされたことはあるんでしょうか?

核さん
 いまさらなんですが、この中に『内藤九段将棋』タイムアタックで使わない駒の動かし方が分からない人いますか?

バカンダさん
 えっと、金とか銀とか……わからないですね……。あと王がなにするのかも。

──ちなみに……内藤國雄さん【※】はみなさんご存知でしたか?

■『本将棋 内藤九段将棋秘伝』と内藤九段

 

 1985年、いまはなきセタがファミリーコンピュータ向けに発売した『本将棋 内藤九段将棋秘伝』という名の将棋ゲーム。

 

 加藤一二三氏らと並んで1000勝を達成し、また歌手としても知られ「おゆき」で100万枚を売り上げた将棋棋士の内藤國雄氏の名を監修として掲げた同作。実はファミコン初の将棋ゲームであり、同作で将棋という存在に初めて触れたという読者もいるのではないだろうか。将棋AI同士の戦いが繰り広げられる「世界コンピュータ将棋選手権」の第一回にも参戦しており、これは1990年代から毎年開催されている同選手権で見ると、歴史上で唯一となる家庭用ゲームハードの作品でもある。

 

 その後、ファミコンかどうかを問わず、世にはより高度なAIを持ち洗練された将棋ゲームが登場し続け、『本将棋 内藤九段将棋秘伝』はほかの数多の作品と同様に過去の存在へとなっていった。ゲームが発売された当時は44歳だった内藤氏はいまでは79歳になり、およそ4年前となる2015年3月には惜しまれつつ引退を選択している。

一同
 (ざわめき)。

核さん
 君たち?

──正直、いま初めて”國雄”という名前を聞いた方はいらっしゃいますか……?

核さん、mammaruさん以外の参加者と編集部員
 (手を挙げる)。

mammaruさん
 ……僕はトーナメント開始の直前に知りました。

核さん
 君たち??

──将棋を知らない人々が、20年以上前の将棋ゲームを経て、伝説の棋士のひとりである内藤さんという存在を知る……。とても運命的なのではないかと思います。ありがとうございました。


 12月30日、参加者たちは14時から集合し空きスペースで『内藤九段将棋』の練習を続けていたという。その一見すると馬鹿馬鹿しそうな内容とは裏腹に、練習風景の空気感は想像以上に真剣そのものだった。駒を動かす音とオープニングのBGMが交互に鳴り響くなか、選手からは「ここで0.2手ぐらいは差をつけているはず」、「ぜんぜん極めた気がしない」、「やればやるほど下手になる気がする」、「内藤ノイローゼになりそう」といった言葉が漏れ聞こえた。会場を熱狂の渦としたあの白熱した試合は、走者が真剣であったからこそ生まれたものであると言えるだろう。

 今年で3回目の開催となった「RTA in Japan」。毎年開催されるごとに規模が拡大していき、今年はTwitchの視聴者数やコメント、会場へ参加する観客の数も過去最大になっているようだ。それはRTAを普段から視聴する人の枠を超えて、すでに年末に開催される風物詩になりつつある。「RTA in Japan 3」は12月31日の19時35分に終了予定となっているが、そのアーカイブ映像はYouTubeTwitchから視聴可能となっている。

著者
Nobuhiko Nakanishi
大学時代4年間で累計ゲーセン滞在時間がトリプルスコア程度学校滞在時間を上回っていた重度のゲーセンゲーマーでした。 喜ばしいことに今はCS中心にほぼどんなゲームでも美味しく味わえる大人に成長、特にプレイヤーの資質を試すような難易度の高いゲームが好物です。
編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn
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