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「CDより売れてる」いま海外で復権するアナログレコード市場を徹底分析。なぜゲーム音楽がわざわざレコードで愛されてるのか?【海外キーマンに聞く】

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 ソニーが29年ぶりに自社生産の再開を発表し、大きな話題となったアナログレコード。インスタグラムでは「#レコード女子」というタグが使われるなど、若者の間ではおしゃれアイテムという認識が広がっている。

 特に、欧米におけるアナログレコード・リバイバルは、いまや一過性のブームという次元を超えつつある。欧米でのアナログレコード流通量はすでに1980年代後半と同じ水準にあり、しかも購入者の半数を占めるのはアナログレコードの時代を知らない若者たちだというのだから、もはや懐古趣味だなどと言っていられない。

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(画像はInstagramの#レコード女子より抜粋)

 アナログ再燃の波はロックから始まり、いまやあらゆる音楽ジャンルを呑み込んでいる。無論、ゲーム音楽も無関係ではない──というわけで、今回は「ゲーム音楽」と「アナログレコード」の現状にスポットを当てる。

 日本ではまだまだ認知度が低いが、『アウトラン』や『ストリートファイターII』といった往年の名曲たちは、欧米ではいまやCDやダウンロードよりも、アナログレコードのほうがよく売れているという。
 またこうしたレトロ系のゲーム音楽ばかりでなく、一方で、KickstarterやBandcampといったアーティストの支援の促進にもなるサービスたちを通して、最新インディゲームのサウンドトラックも頻繁にアナログでリリースされている。アナログレコードのずっしりした手応えは、「レトロ」と「アート」というふたつの側面から、リスナーたちに強く訴えかけているのである。

 今回の記事では、まず前半でこうした海外ゲーム音楽アナログ市場がどのようにして立ち上がったのかを紐解き、また後半では海外ゲーム音楽レーベル「Brave Wave」の代表者であるモハメド・タヘル氏へのインタビューを通して、いま海外で何が起きているのかを、より詳細に探っていく。

著者
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hally
本名・田中治久。幼少を過ごした80年代初頭からゲーム音楽に親しみ、その「サウンドチップの奏でる音楽」としての特質を一貫して研究し続けている、ゲーム音楽史とゲーム史の研究家にして作編曲家。日本にチップチューンという言葉と概念をもたらした張本人でもあり、さまざまなゲームや音楽作品に楽曲を提供するほか、ライブ活動も精力的に行っている。
Twitter:@hallyvorc

ここ数年で激増! インディーズが牽引したアナログレコード

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Frederik Lauridsen “Video Game Music on Vinyl” のデータに追加・補正を加え筆者集計。なお2017年は7月までの数値

 まずは上のグラフを見て頂きたい。80年代~現在までにアナログレコードで発売されたゲーム音楽の総数をまとめたものだ。ここ数年で欧米におけるリリースがいかに激増しているか、よくお分かりいただけると思う。
 この増加ペースはアナログ市場全体の拡大と軌を一つにしており、発売本数だけでいえば、すでに1980年代の日本ゲーム音楽界におけるアナログ盤全盛期を大きく上回っている。

 こうした状況を牽引したきっかけにインディーズの存在がある。もっとも、最初からそうだったわけではない。少なくとも2010年ぐらいまでは、アナログレコードを出すのはほぼ大手ゲームメーカーに限られていた。
 だが、大手のものは、たいてい少量限定生産で、一般のレコードショップには出回らない。イベント特典や予約特典などの形で用意されるものが大半であり、どちらかというと音楽ファンよりもゲームファンに向けたコレクターグッズという側面が強かったのだ。この傾向は日本でも海外でも変わらない。

 ところが、2011年頃から欧米特有の現象が始まった。小規模なインディゲームのサウンドトラックがアナログレコード化されるようになってきたのだ。
 インディゲームといえども高品位な音楽が珍しくなくなってきていた状況下、『マシナリウム』【※1】『スキタイのムスメ:音響的冒剣劇』【※2】『シャッター』【※3】といった作品が、同時多発的にアナログ盤のサウンドトラックへと舵を切った。

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※1 マシナリウム……チェコのアニマタ・デザインが2009年に発売したポイント・クリック型アドベンチャー。Tomáš Dvořákが担当したその音楽は同年CD化されており、『PC Gamer』誌のベスト・サウンドトラック賞を受賞。2010年2月にはアナログレコード版も発売された。これはインディゲーム界隈から登場した恐らく史上初のアナログレコードである。
(画像はPLAYISMより)

※2 スキタイのムスメ:音響的冒剣劇
カナダのCapybara GamesとSuperbrothersが開発し、2011年に発売したアクション・アドベンチャー。その名前が示すようにサウンドを重視した設計で話題を集め、累計150万本以上を販売した。音楽はカナダのインディロック・ミュージシャン、Jim Guthrieが担当。

※3 シャッター
ニュージーランドのSidhe Interactiveが2009年にリリースしたブロックくずし型ゲーム。音楽は同国のエレクトリック・ミュージシャン「Module」ことJeremiah Rossが担当した。アナログ盤サントラは1000枚限定。

Bandcampの多大な影響

 こうした機運をさらに盛り上げていったのは、Bandcamp【※】という音楽配信サービスである。Bandcampはネット音楽配信とアナログレコード・リバイバルの橋渡しにおいて重要な役割を担ったといえる存在で、そこではちょうど2011年を境にゲームサントラの発売が急増していた。その中で、アナログレコードを用意するゲームサントラがじわじわと、しかし着実に増えていったのだ。

※Bandcamp
2008年に開始された、インディーズ音楽専門の音楽配信サービス。アーティストとリスナーの双方から絶大な信頼を集めながら急成長し、現在ではインディーズだけでなく、インターネット上のあらゆる音楽文化が集結する場となっている。

 Bandcampでは、ブラウザ上での音楽再生はすべて無料となっている。しかし値付けは完全にアーティストの裁量に委ねられており、ダウンロードは無料にしようと有料にしようと自由。また音楽だけでなく、グッズも売ることも自由にできる。

 そうしたグッズとしてアナログレコードを売りたい人々が一定数いるであろうことに、Bandcampは早々に気づいていた。そこで彼らは、2009年12月に実用的なダウンロードコードの仕組みを作り上げた。現在販売されているアナログレコードの多くには、ダウンロードコードという紙片が封入されている。

 公式サイトでそのコードを入力すれば、レコードに収録されているのと全く同じ音源をダウンロードできるという仕組みになっているのだ。ダウンロードコードが一般化しているため、実のところ欧米のアナログレコード・ファンたちの約半数は、買ったアナログレコードを直接聴取していない。
 こうした「買うけど聴かない」層にとって、音楽作品としての主体はむしろダウンロードコードのほうであって、アナログレコードそれ自体は「大きな絵でジャケットを鑑賞できて、音も入っている装飾品」なのである。

 Bandcampの功績は、「ネットでの試聴~アナログレコードの購入~ダウンロードコードの利用」という一連の流れを、誰でも使えるようにしたことにある。案の定、アナログレコードを売るアーティストはこれによってどんどん増えていった。現在では毎週150枚以上のアナログレコードがBandcampから登場している。

 早いところでは、『レトロシティ・ランページ』【※】 が2012年早々にBandcampでアナログ盤をリリースしている。当時はまだ知る人ぞ知る存在だった『マインクラフト』もこの当時にBandcampでサントラを公開しているが、これも後にアナログ化された。

 2011~2012年当時、インディゲーム界隈で音楽的にもっとも大きな注目を集めていたのは『ホットライン・マイアミ』 だろうが、これもまたBandcampの産物だ。開発陣はBandcampで見つけた無名の新人ミュージシャンたちを積極的に起用することによって、このゲームのサントラを作り上げた。

※レトロシティ・ランページ
2012年にアメリカのVblank Entertainmentが発売した8ビット・スタイルのアクションゲーム。音楽もやはりチップチューンとなっており、その方面で著名な「Virt」ことJake Kaufmanらが担当している。

 『ホットライン・マイアミ』【※1】が思いがけないカルトヒットとなったことによって、作曲者たちは全員、素人同然のところからいきなりスターに祭り上げられた。参加者の一人M|O|O|N 【※2】は、本作に提供した全曲を自身のアーティストデビュー作として公開した。これもまた、アナログ盤でリリースされている。

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※ホットライン・マイアミ……スウェーデンのインディゲーム・デザイナー「Cactus」ことJonatan SöderströmがDennis Wedinとともに開発し、2012にリリース。暗澹かつ混沌とした独特の世界観を持つ見下ろし型のアクションゲームで、サウンド面でもディープでフリーキーなクラブサウンドを中心に、不思議な統一感のある音楽体験を味あわせてくれる。なおサントラそのものはSoundcloudにて無償公開されている。
(画像はAmazonより)

※M|O|O|N
ボストン在住のアメリカ人コンポーザー。本名Stephen Gilarde。彼が手がけたトラックたちは、『ホットライン・マイアミ』全曲の中でも突出して人気が高い。

主要レーベル紹介:インディゲーム編

 実を言うと、日本では1980年代から「ゲーム音楽レーベル」が存在していたのだが、欧米でそのようなものが生まれるのは、この時が初めてだった(厳密にいえばコモドール64界隈の音源を専門に扱うC64Audio.com【※1】が1998年から存在しているが、それが唯一の例外だった)。

※1 C64Audio.com
イギリスのChris Abbottが運営。アレンジやリミックスを中心にリリースしており、公式同人的な色彩が強いレーベルである。

 2015年に旗揚げしたゲーム音楽レーベルとしては、アメリカのiam8bit【※1】Ship To Shore Phonograph 【※2】、ドイツのBlack Screen Records【※3】、イギリスのData Discs【※4】 、そしてクウェートと日本をまたにかけるBrave Wave【※5】などがある。これらのレーベルは、大別すると2系統に分かれる。「インディゲーム系」と「レトロゲーム系」である。

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※1 iam8bit……Jon M. Gibson が2005年に設立。カリフォルニアを拠点に活動する。2017年に日本でも業務開始。
(画像はWikipediaより)

※2 Ship To Shore Phonograph
映像音響制作会社Ship to Shore Mediaの音楽ディストリビューション部門。同社は2009年にニューヨークにて創業している。

※3 Black Screen Records
2015年初頭にKevin Schulzが設立。ドイツ・ランゲンフェルトを拠点とし、純粋にゲームサントラのアナログ盤のみを扱っている。

※4 Data Discs
2015年にJamie Crookが設立。ロンドンを拠点とし、こちらもゲームサントラのアナログ盤専業である。

※5 Brave Wave
2012年にクウェートのMohammed Taherが設立。法人としては日本を拠点としつつ、ワールドワイドに展開する。

 前者の筆頭格はiam8bitだ。会社としては2005年設立と古く、もともとはカプコン、ディズニー、米国任天堂といったゲームメーカーのイベント企画やグッズ製作を主な業務としていた。
 しかし、やがてグッズ製作の流れからインディゲームのサントラに着目するようになり、2015年よりアナログレコードを次々とリリース。第一弾『ホットライン・マイアミ2』以降、現在までに約70作ものサントラ盤を製作している。ちなみに最新作はインディ界隈で話題沸騰中の『アンダーテイル』のサントラだ。

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 最近はインディゲームだけでなく『ゼルダの伝説 時のオカリナ』など、メジャータイトルにも手を広げている。今年になって日本の代理店も登場しているので、今後iam8bitのアルバムは、日本でも注目されるようになってくるだろう。

 Black Screen Recordsは、インディゲーム系におけるもうひとつの注目株だ。こちらは2015年の創業時点から、一貫してゲームサントラにフォーカスしている。
 第一弾から『Oddworld: New ‘n’ Tasty』【※1】というなかなかに通向けなタイトルを選定しており、その独特な着眼センスで今日までに約10作品をリリース。最近日本でも注目を集めつつある『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』【※2】のサントラも、ここから発売されている。

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※1 Oddworld: New ‘n’ Tasty……アメリカのOddworld Inhabitantsが1997年に開発したプレイステーション用ソフト『エイブ・ア・ゴーゴー (海外名: Oddworld: Abe’s Oddysee)』のリメイク作品。2015年に発売された。音楽はOddworldシリーズを長年手がけてきたMichael Brossが担当しており、原作よりも重厚に聴かせる。
(画像はプレイステーション公式サイトより)

※2 VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action
ベネズエラのSukeban Gamesが2016年に発売したアドベンチャーゲーム。バーテンダーが主人公という異色の設定で、日本のアニメやPC-9801時代のアドベンチャーから色濃く影響を受けつつ、独特の世界観で魅せる。「Garoad」ことMichael Kellyによる後期80年代テイスト全開のサウンドも魅力だ。

主要レーベル紹介2:レトロゲーム編

 アナログレコード市場におけるリイシュー需要は圧倒的だ。例えばレコード・ストア・デイ【※】ではここ数年、トップセラー50枚中に新作は10枚あるかないかという状況で、約8割を昔の音源が占めている。ゲーム音楽のサントラに関しても、大きな需要があるのはレトロゲームの側だ。

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※レコード・ストア・デイ……毎年4月の第3土曜に、世界中のレコードショップが年に一度共同開催するアナログレコードの特売日。
(Photo by Getty Images)

 この方面でもっともアクティブなレーベルが、Data Discsである。創業以来、彼らは一貫してセガの音源をリリースし続けている。
 2015年の『ベアナックル』【※1】に始まり、現在までに発売したアルバムは13枚。『アウトラン』『スーパーハングオン』【※2】といったアーケード作品もあれば、『シェンムー』『ガンスターヒーローズ』【※3】といったコンシューマ作品もある。

 メガドライブからの録音には独自のこだわりを持ち、エッセイなどのオマケは不要として退けるが、ジャケットには必ず日本語入りのオビ(タスキ)を付ける。ご存知の方も多いだろうが、オビは日本のレコード産業が生んだ、日本特有の文化だ。しかし昨今では海外でも人気が高く、新作のアナログレコードにわざわざ日本語でオビを付けるケースも増えている。

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※2 スーパーハングオン……セガ(当時)1987年に発売したアーケード・バイクレースゲーム。のちに家庭用ハードへの移植版も続々とリリースされた。
(画像はData Discs公式サイトより)

※1 ベアナックル
1991年にセガ(当時)より発売されたベルトスクロールアクションゲーム。対応ハードはメガドライブ。以後、同名シリーズのもと計3作がリリースされている。2015年にData Discsより、本作の作曲家・古代祐三氏の協力のもと、サウンドトラックが発売された。

※3 ガンスターヒーローズ
1993年にメガドライブ用ソフトとしてセガから発売された、サイドビュー型アクションシューティングゲーム。『魂斗羅スピリッツ』(コナミ)の制作を手がけたスタッフが独立して設立された新会社トレジャーの処女作にあたる。

 Data Discsと並び注目を集めているのがBrave Waveだ。「日本のゲーム音楽家によるオリジナル音楽」に焦点を当てるべく設立されたレーベルで、当初はアナログレコードに無関心だった。しかし、2015年に『ストリートファイターII』の欧米向けサントラ【※1】を作る機会に恵まれ、その際にCDやダウンロードに加えてアナログレコードを用意したところ、大当たりとなる。

 同社はレトロゲーム音楽サントラを「ジェネレーション・シリーズ」【※2】と位置づけ、『ショベルナイト』【※3】や『忍者龍剣伝』【※4】のサントラでも、ラインナップにアナログ盤を用意している。

※1 『ストリートファイターII』の欧米向けサントラ
正式名は『ストリートファイターII ザ・ディフィニティブ・サウンドトラック』。音質面にこだわりぬいた労作であり、ゲーム基板からのデジタルデータ抽出を模索するところから始めて、最終的なレコーディングや音源のリストアを終えるまでに、何ヶ月も費やしている。とくにQ-Soundのサラウンド音響をリスニング向けに再調整する作業は(筆者も少し手伝ったのだが)本当に挫けそうになるくらい大変だったとのこと。だが結果として従来の『ストII』サントラよりずっとクリアでシャープな音になっている。なお音の仕上がりについては作曲者の下村陽子氏にもチェックしてもらい、お墨付きをいただいている。「これ以降、こうした承認プロセスは、私達の品質テストにおけるベンチマークとなっています」とレーベルオーナーのモハメド氏は語っている。

※2 ジェネレーション・シリーズ
Brave Waveは「名作ビデオゲームの『決定版』といえるサウンドトラック」を志向し、ゲームサントラをシリーズ化している。欧米には過去、音質的に不十分な、リマスタリングにも力を入れていないような適当なゲームサントラが多かったため、そこから脱し、新しいスタンダードとなるようなものを目指したという。方向性としてはクラリスディスク、スーパースィープ、EGG MUSICといった日本のゲーム音楽レーベルに近いといえそうだが、実はそこからはほとんど影響を受けていない。根底にはむしろクライテリオン・コレクション(世界的に評価の高い、高品質な名作映画選集。フィルムのリストアに可能な限り最高の技術を投入し、またインタビューやエッセイといった特典も豊富に用意する)の影響があるという。モハメド氏はクライテリオンの大ファンであり、ビデオゲームのサウンドトラックを作るなら、これに近いものにしたいと思うようになったという。

※3 ショベルナイト
米 Yacht Club Games 開発により、2014年にリリースされた8ビット風・横スクロール型アクションゲーム。2016年に日本語版(ニンテンドー3DS/Wii U)が発売されている。BGMはジェイク・カウフマン氏(virt)、松前真奈美氏が手掛けた。

※4 忍者龍剣伝
1988年より稼働していた、テクモ(当時)によるアーケード・アクションゲーム。国内外で同名シリーズのもと作品が制作され(英題”NINJA GAIDEN”)、全世界シリーズ累計出荷本数は800万本を超える。アクションの鬼畜っぷりは有名。

 Data DiscsとBrave Waveは、どちらも根っからのゲーム音楽好きたちが作ったレーベルだが、その逆に、そもそもの目的が古い音源のリイシューであり、そこからゲーム音楽へと辿り着いた一派もいる。

 その代表例がShip To Shore Phonographだ。彼らは古いB級ホラー映画のサントラをアナログ盤で復刻するところから事業をスタートしたが、やがてゲーム音楽にも手を広げ、『MOTHER』の音楽集を発売するに至る。これは過去日本で発売されていた古いサントラをほぼそのまま復刻したものだが、最新の『スナッチャー』では自社で録音も行っている。他には『MOTHER 2』『ラグランジュポイント』『ダライアス』『ナイトストライカー/メタルブラック/エレベーターアクション・リターンズ』などを発売した。

 最近になって往年のコナミ・ゲームミュージックを発売しはじめたMONDO【※】もまた、同じような方向性のレーベルといえるだろう。彼らもやはり映画サントラから出発しており、今年に入ってゲーム音楽に手を広げるようになった。これまでに『悪魔城ドラキュラ』や『魂斗羅』などのサントラを発売している。

※MONDO
Mitch Putnam, Rob Jonesらが設立したテキサスの会社。もとはTシャツやポスターなどを手がけていたが、2012年頃からアナログ盤やVHSの復刻を事業化している。

 今後こういったレーベルはますます増えてくるだろう。日本でも昨年bootleg! Records 【※1】が発足し、その第一弾として『バイパーフェイズ1』【※2】のアナログ盤を発売、話題を集めた。今後は日本でもアナログ市場がさらに活性化してくるかもしれない。

※1 bootleg! Records
大塚ギチ氏が主宰する音楽レーベル。有限会社アンダーセル運営「bootleg! Store」の一部門として誕生した。

※2 バイパーフェイズ1
1995年に発売された縦スクロール型シューティング・アーケードゲーム。大規模な宇宙戦争を設定にしている。製作はセイブ開発。BGMの作曲は佐藤豪氏が手がけた。

 さて、ここまで綴ってきたのは、あくまでも消費者視点の出来事である。その裏にはもちろん、情熱をもってレコードを作り続けてきた人達がいる。彼らなくしてこのリバイバルは起こりえなかった。

 ということで、続いてはBrave Waveの代表者であるモハメド・タヘル(Mohammed Taher) 氏へのメールインタビューをお届けする。

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