【『ロードス島戦記』水野良×『ペルソナ5』橋野桂:対談】 ゴブリンを倒していた若者が最終的に世界を救う話は、ファンタジーならではの“純化”である【新生・王道ファンタジーを求めて①】

【『ロードス島戦記』水野良×『ペルソナ5』橋野桂:対談】 ゴブリンを倒していた若者が最終的に世界を救う話は、ファンタジーならではの“純化”である【新生・王道ファンタジーを求めて①】

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ファンタジーのリアリティは食事で描かれる?

橋野氏:
 水野さんは作品を作る時に、リアリティにはこだわりますか? 

水野氏:
 考えはしますけど、こだわりはしないですね。ただ、この作品でのリアリティのレベルがどのぐらいなのかということは考えます。

 たとえば作品内で戦争が起こるんだけど、その戦争をするための戦費や経済的な部分までは考えないでおこう、とか。
 現実的にはこの戦争を維持することはできないなと考えつつも、物語的に戦争をする必要があるからやらせている時もあります。そういう意味ではリアリティレベルを下げているわけですよね。

――ファンタジー小説を読む時に、食事のシーンにすごくリアリティを感じるんです。たとえば『精霊の守り人』【※】だと、生活描写で何を食べていてこういう料理をこういう手順で作ってというのが、事細かに書かれていたりして。 

※精霊の守り人……上橋菜穂子による中央アジア風の異世界ファンタジー「守り人」シリーズの第1作。1996年に偕成社より刊行された。短槍使いの女用心棒バルサと、彼女が生命を救った新ヨゴ皇国の皇子チャグムの物語が描かれる。アニメ化や実写ドラマ化も行われている人気作。画像は『精霊の守り人』書影。
(画像はAmazonより)

水野氏:
 上橋菜穂子さんは文化人類学者でもあるので、そこはむしろメインですよね。食事というのは確かに、その世界観を伝える上では大きな要素だと思います。

ダンジョン飯……2014年より漫画誌「ハルタ」(KADOKAWA刊)で連載中の、九井諒子氏によるファンタジーコミック。レッドドラゴンに食われた妹ファリンを救出するため、兄のライオスを中心とした冒険者のパーティは、モンスターを食材として現地調達しながら、ダンジョンの深層へと進んでいく。「このマンガがすごい! 2016」オトコ版の第1位に選ばれるなど、高い人気と評価を獲得している。画像は『ダンジョン飯 1巻』書影。
(画像はAmazonより)

 今、異世界の食事を題材にした作品って、ムチャクチャたくさんありますよね。逆に『ダンジョン飯』をそういう作品だと思って読み始めた人は、みんな恐れおののけって思いますけど(笑)。九井諒子さんが持っている世界観は、決してそれだけじゃないので。

橋野氏:
 ダンジョン飯という食事のシーンを使ってファンタジーを語ろうとしているところが、他とちょっと違う、一段階深いところを感じますよね。

水野氏:
 あの作品は本当に、ハイ・ファンタジーをダンジョン飯を使って一般化したって感じですよね。『ウィザードリィ』をあそこまでリアルにやる人って、珍しいですよ。僕は『ウィザードリィ』をいまだに引きずっていますから、最近のコミックでは『ダンジョン飯』がイチオシですね。

 リザレクション(死からの蘇生)がリアルに存在する世界っていうのが、まず珍しいじゃないですか。肉体の破損が大きいと復活しにくいとか、魂が混ざるとか、そういうあたりまでしっかり設定されているところが、僕はスゴいなぁと思うんですよね。「怖いのは死ぬのに慣れることだ」みたいなセリフが出てきたり、リザレクションをお約束として描くのじゃなくて、ちゃんとテーマとして話の根幹に持っていくところが流石だなぁと。

橋野氏:
 『鋼の錬金術師』【※】を読んだ時みたいなファンタジーの本格感というか、根っこのところがちゃんと語られていて。第4巻のドラゴン戦も圧巻でしたし。
 『ダンジョン飯』のリアリズムと、この作品が書店で平積みになって若い人に受け入れられているところが、今「PROJECT Re FANTASY」をやってもいい時代なんだろうなっていう、じつはきっかけになった漫画でもあるんです。だって『ウィザードリィ』をやったことのない人たちが読んでるはずですよね? 

※鋼の錬金術師……2001年~2010年まで月刊少年ガンガンに連載された荒川弘による漫画作品。通称は「ハガレン」。錬金術を主題としたその緻密なストーリー性と迫力ある作画で人気を呼んだ。単行本は全27巻で累計6100万部を誇り、2017年には実写映画化がなされた。画像は『鋼の錬金術師(1)』書影。
(画像はAmazonより)

水野氏:
 大半はそうでしょうね。

橋野氏:
 今それを語っても、語り口とかリアリティの付け方次第では、若い人たちもシビれる世界になるってことですよね。

水野氏:
 ダンジョン飯という形で食事にスポットを当てたのが、同時代的だったのかなぁって。それが突破口になって、一般にも広がった。もちろん作品として出来が良いんですけど。マルシルかわいいしね(笑)。

橋野氏:
 『ロードス』でも最序盤に、食事のシーンを入れられてますよね。

水野氏:
 僕は宴会シーンが好きなので。エール(ビールの一種)やミード(はちみつ酒)をガバガバやってるのが、なんとなくファンタジーって感じがするんです。僕はミードが嫌いなので、ミードは出さないんですけど(笑)。

橋野氏:
 いくら食べても腹が満たされないヤツが出てきたり、朝食のシーンがあったり、キャラクターたちが生きてるなって感じがあって。

水野氏:
 どのリアリティに重きを置くかってところなんですよね。『ロードス』のパーティに、いっぱい荷物を積んで歩いている雰囲気はないですから、そこにはリアリティはないですよ。

 今、Nintendo Switchの『ゼルダの伝説』【※】であちこち走り回っているんですけど、大量の荷物を持ってるのにリンクは身軽ですから(笑)。このリンゴ199個はいったいどこにしまってあるんだって、それは言わない約束ですよ。

※Nintendo Switchの『ゼルダの伝説』……『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。Nintendo Switchのローンチタイトルとして発売された他、Wii U版も発売されている。広大な世界を隅々まで自由に遊び尽くせる“オープンエアー”のゲームプレイは、日本のみならず世界中で驚きを持って迎えられた。
(画像は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』公式サイトより)

 リアリティを追求するあまり、逆に煩雑になってゲームのプレイしやすさや小説の読みやすさを下げるのなら、それは排除したほうがいいと思うんです。
 でも一方で、『ゼルダ』でリンクが壁を上っていく感覚だとか、馬に乗って走っている感覚には、すごくリアリティがあるんです。リアルに表現されているから、これは本物だというのももちろんアリなんだけど、そこには魅力が必要だと思うんですね、あくまで。

橋野氏:
 そういう意味では、面倒くさいけど楽しいものの象徴が、食事なんでしょうね。

 今、スタッフと旅をどうやって描こうかというのを考えるために、旅の何が楽しいのかを話し合うと、言うことが全員違うんですよ。
 中には「旅の荷物をまとめるのに、パンツを何枚持っていくか数えて、バッグに入れるのがたまらない」と言う人間もいて(笑)。

水野氏:
 パッキングマニアだ(笑)。

橋野氏:
 どこがストレスになって、どこが面倒くさいけど楽しいのかという取捨選択は、ファンタジーをゲーム化する際にとても難しいところだなって、今まさに思っているところなんです。

 面倒くさいものをなくそうとしたら、徹底的に排除されていくじゃないですか。そういう意味では自分としては、ちょっと面倒くさいものを作りたいなと思っています。面倒くさい手続きが、後々の感激とかそういったものを生むんだろうなと思うので。コンビニエンスな冒険はつまんないなと。

――『ロードス』でディテールを重視して表現されたものはありましたか? 

水野氏:
 アイテムの名前は気をつけたかな。最初はゲーム用語を大事にしたかったから、「剣」にいちいち「ロングソード」とルビを打つといったことを、丁寧にやっていた気がします。
 でも途中からはそのへんも、小説ではこだわらなくてもいいところだなと思って、やらなくなりましたね。逆にくどくなってしまったかなと。

 それこそ僕の作品の本質は、「省略」だと思うので。こってり書くと「情景描写に枚数をかけ過ぎ」って、編集者から怒られましたから。イベントがテンポ良く進んでいくので、省略されていてもみなさんの脳内補完で意外と何とかなってるんじゃないかなと。

 たとえば『指輪物語』では、いちばん最初にホビット庄について延々と語るじゃないですか。あそこで挫折する人が多いわけですよ。なので僕としては、ホビット庄の説明から入るようなファンタジー小説は書かないようにしようと思いました。

異世界を描いた地図にまずワクワクする

橋野氏:
 世界全部を緻密に作ろうとすると大変だ、というお話でしたけど、『ペルソナ5』を作る時に、「オープンワールドが流行ってるから東京のあちこちに全部行けるようにしなきゃいけない、どうしよう!?」 って相当に悩んだことがあったんです。

 悩んだ末の結論としては、自分も東京の全ての場所に行ったことはない、と。誰かが池袋に詳しいから付き合いで池袋に行くとか、実際には東京でもいくつかの街にしか行かないんです。
 他にも街があることはもちろん知っているんだけど、実際にはめったに行かない。なので、すべてを緻密に作る必要はなくて、主人公の辿る道筋だけをリアリティある形で描けばいいんじゃないかと思ったんです。

水野氏:
 もちろん世界の隅々にまで行って、こんなものがありますよという面白さもあるけど、それだけじゃないですよね。ただ広くても意味がないですから。

橋野氏:
 『ロードス』でも最初に主要な都市が出てきて、巻数が進むとじつはこの都市とこの都市の間に町があってというふうに、だんだんと詳細になっていく広がり方をしますよね。あれはもともと設定がなくて、展開的に必要だから追加していったんですか? 

水野氏:
 『ロードス』に関しては当時、僕は学生でヒマだったので、それなりに設定は考えてありました。でも今は時間がないので、だいたいこのへんに町があるとかを決めておいて、あとは必要に応じて設定しよう、みたいな感じですね。

橋野氏:
 そうなんですね。『ロードス』もそうだし、『ゲド戦記』【※】とかもそうですけど、ファンタジー小説は単行本の最初のほうにマップが出ているじゃないですか。

※ゲド戦記……アーシュラ・K・ル=グウィンによる、“アースシー”と呼ばれる多島海世界を舞台にしたファンタジー小説。原題は“Tales from Earthsea”。1968年に発表された『影との戦い(A Wizard of Earthsea)』を第1作として、短編集を含めて全6作が発表されている。画像は“アースシー”のマップ。
(画像はアーシュラ・K・ル=グウィンのHPより)

 物語には出てこない都市が書いてあったりして、その地図を見た段階でまず、異世界に頭がぶっ飛ぶワクワク感みたいなものがありますよね。ああいう地図を見てワクワクする楽しさが、異世界ファンタジーには原点的にあるのかなぁって。Switchの『ゼルダ』でも、それを感じましたね。

水野氏:
 Switchの『ゼルダ』は世界を隅々まで回って、ほこらを見つけて、コログの実を全部集めてっていう、世界そのものを作品にしているところはありますよね。定期的にライネル先生【※】のところに挨拶に行って、戦い方のご教授をされながら、弓を手に入れるっていう。

※ライネル先生……ライネルは「ゼルダ」シリーズに登場する敵キャラクターの名称。ここでは『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に登場するライネルを指す。戦闘に不慣れなプレイヤーではとても敵わない強さを誇る上に、倒すと強力な武器や素材を入手できるため、一部のプレイヤーからは「先生」と呼ばれている。画像手前のリンクに立ちはだかる魔物がライネル。
(画像は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』公式サイト内DLC(追加コンテンツ)ページより)

橋野氏:
 こうやって水野さんとお会いする前は、「いやあ、最近のゲームはやってないですよ」みたいなパターンを想像していたんですけど、次から次へと最新作のお話が出てくるので、ビックリしています(笑)。

水野氏:
 僕は1つのゲームをやり込むほうなので、そうは言っても、あんまりたくさんのゲームに手を出せないんですよ。

――『ゼルダ』はどれぐらいプレイされているんですか? 

水野氏:
 ガノンを一応倒して、そこでそのまま置いてある感じですね。あとは、この前マスターモードを買ったので、一からやり直しというのもチョコチョコやってます。まぁ、残りは時間がある時に、ゆっくりやっていけばいいかなぁと。さすがに時間もないので。

橋野氏:
 それ以外にスマホゲームもプレイされていると、おっしゃっていましたが。

水野氏:
 スマホゲームは何か仕事が来るかなぁと思って、研究しておこうとプレイしています。課金システムって、自分でやってみないとなかなかわからないんですよね。どんな時に課金したくなるのか、といったことは。

橋野氏:
 実際に課金したくなりますか? 

水野氏:
 課金したくなるゲームは、いいゲームだなと思いますね。ただ、そうしたことが実際に自分の関わったゲームで活かされるというのは、まだ一度もないですけど。

 そのへんのマネタイジングは会社さんが受け持つことがほとんどで、僕が発注されるのは世界観やゲームシステムのほうなので。マネタイズに関しては、プレイされた方の動向を示すデータそのものが、次の商品開発のヒントになるっていうところもありますからね。

 スマホゲームで難しいのは、終わりが作れないことですね。人気がなくなって打ち切られるまでは、ずっと続けろということなので。でもこちらとしては終わりを想定しておきたいので、一応その用意だけはしておいて。
 終わりまでの間に無限にシナリオを挟み込めるような構造の物語にしていますね。

『ロードス島戦記』の新作小説を準備中 

橋野氏:
 小説の場合も往々にして、終わりが作れないといったことはあるんじゃないですか? 

水野氏:
 だから僕は、基本的に1巻だけで完結するような作品を書いています。人気が出れば続ける気はあるし、でも一応はどこで終わってもいいようにしておかないと、今は本も昔みたいに売れるわけじゃないですから。
 1巻が売れなかったら2巻には続かないし、最低10巻は続けられるという約束の下で作品を書けるといったことは、今の僕ではないかなぁ。

橋野氏:
 逆に、終わらせようと思っていた作品を続けなきゃいけないってこともあると思うんですけど、その場合のモチベーションはどうされるのですか? さっきの話で言うと、キャラクターがもういいと言うのなら、続きは書けないですよね。

水野氏:
 おっしゃるとおりで、いつも困ります(笑)。それでも何かしら、引っ張り出してくるしかないですよね。

 じつは今まさに、もうすぐ『ロードス』の30周年だから、新しい小説を書けと言われているんです。
 でも僕としては、「傑作にならない限りは書かないよ」と言っていて。アイデアはあるんですけど、それが傑作になるかどうかを今、一生懸命に検討しているところです。

橋野氏:
 ということは、すでに執筆中なんですか?

水野氏:
 いえ、まだ執筆はしていないですね。アイデアが物語として面白くなるどうかを検証している段階です。それで面白くなりそうだったら書くよ、という話をしています。

橋野氏:
 面白くなるかどうかの検証というのは、具体的にどういう作業なんですか? 

水野氏:
 自分が楽しくなるかどうかですね。

橋野氏:
 まず様子を見られるんですか? 自分の気持ちがワクワクするかどうかを。

水野氏:
 そうですね。まず自分自身が書きたくなるかどうか。この話を書きたくて仕方がないし、書いた結果、たぶん面白いと思ってもらえるはずだ。そういう気持ちになれるかどうか、様子を見ているんです。

 自分のモチベーションを上げないと仕事ができないから、そうできるものは何なのか? と問いかけていったら、それは自分自身がワクワクすることだったんです。これは絶対に面白い、ベストセラー間違いなしの大傑作だ、と自分でそう思えるものじゃないと、書きたくないんですよ。もちろん実際に書いてみたら、そうならないことも多いんですけど。

橋野氏:
 逆に言うと、自分の気持ちが乗ってこない話は書かれないわけですか?

水野氏:
 書きたくないですね。辛いだけですから。

橋野氏:
 それは苦しそうですね。ワクワクするネタを常に持ち続けることは、難しいことだと思いますから。

水野氏:
 苦しいです。特にシリーズ物は続ければ続けるほど、「これは前にも書いたしなぁ」って、どんどん自縄自縛になっていきますから。
 今回はどこか、前の戦闘シーンとはちょっと違うところで工夫したいんだよね、というのを常に考えているんです。

 「ロードス」のシリーズは、『ロードス島戦記』、『ロードス島伝説』、『新ロードス島戦記』と続けてきて、一応は完結している物語なので、新作を書くには何か新しい要素が入らないと、ちょっと辛いなと思っています。
 いったん完結しているものを新しく書く際は、ただストーリーが新しいだけだと、自分としては楽しくないなぁと。

 やっぱりゲームのルールを変えたい、システムのところからいじりたいって思うんです。そのへんはゲーム屋なのかもしれないですけど、たとえば戦闘のルールや表現を、前よりも少しだけバージョンアップさせたいなと。

橋野氏:
 なるほど。僕もさっきお話ししたように、どういうふうにすれば人が喜ぶのかというのを計算して、自分ではゲームのネタを作っていたつもりだったんです。

 ところが『ペルソナ5』の時に、『ペルソナ3』【※1】、『ペルソナ4』【※2】と続けてきて、『5』は3作目だったこともあって、自分で何をやったらいいのかわかんなくなった時期があって。

 その時に、じつは計算だけではなくて、自分のワクワクする気持ちで作っていたことに気づいたんです。どんなものにもワクワクできなくなった時に初めて、自分がワクワクできないとお客さんに楽しんでもらえるかどうかの確信が持てないということに気づいて。

 
 

水野氏:
 そうなんです。確信が持てないですよね。

橋野氏:
 このまま現代劇だけを続けるのではなくて、自分が好奇心を持てる作品にいかないと、お客さんに響くものにならないって考えたのも、「PROJECT Re FANTASY」を始めた理由の1つではあるんです。

 先ほど水野さんは、「ワクワクするものしか作りたくない」と言われていましたけど、そういうふうに思われるようになったのは、作家人生というかクリエイト人生の中でどのぐらいの時期からなんですか? 

水野氏:
 最初の頃は、ただ書くだけでも楽しかったと思います。もともと小説を書いてみたいという思いがありましたから。でもそれが仕事になると、だんだんと惰性になってくる時期も出てきました。

 変な話ですけど、売れているうちは惰性で書いてもいいんですよ。もちろん本当の意味での惰性は良くないんですけど、それが望まれている時期もあるんです。『ロードス』も何十巻と出しておけば、いまだに仕事しなくても良かったのかなって思うんですけど(笑)。
 でもまぁ、僕はたくさん書けるほうでもないし、たくさん書きたいと思うほうでもないので。もともと惰性で書くというスタイルができなかったんでしょうね。

 小説って、流れの中で絶対に必要なんだけど、でも書くのが面倒くさいシーンというのがあるんですよ。でも、その面倒くさいシーンを「面倒くさい」って思いながら書いたら、それはたぶん読者にも伝わるんです。
 その面倒くささが伝わって、読むほうも面倒くさくなる。だからそこに自分のワクワクを入れないと、ページをめくってもらえない気がするんです。ページをめくる力って結局、自分のワクワクする気持ちからしか出てこないと思うので。

 さっき橋野さんがおっしゃったとおりで、それがなければ自分の作品を世に出していいのか、確証が持てないですよね。むしろ世の中に出したらいけない作品のような気がするんですよ。

橋野氏:
 ワクワクできなかった期間からワクワクする期間にスイッチが入って、書き出すことができるようになるコツなどはあったりしますか?

水野氏:
 たとえば物語を冒頭から書くのではなくて、戦闘シーンだけをまず、試しに書いてみたりしますね。それで自分がワクワクするような戦闘シーンが書けたら、これはこのまま作品として書いてもいいかなと考えるようになったり。

 ファンタジーなのでファンタジー的な部分を出さないといけないし、戦記物なので戦争も書かないといけないし、魔法も書かないといけないし。そうやって考えていくと、越えなきゃいけないハードルはいくつもあるなぁと思いますね。

――検証の中で編集者など、他の人とやり取りはされるんですか? 

水野氏:
 僕はしゃべりながら考えるタイプなので、ディスカッションは大事ですね。自分では「壁打ち」と呼んでいるんですけど、編集者に聞き手になってもらって、アイデアをひたすら説明するんです。
 語ってるうちに自分で自分の言葉を聞いて腑に落ちたり、このアイデアは苦しいなと分かったりするので。

 最初にお話ししたように、僕はもともと土台から作るたちだし、モチベーションが上がらないと書けないしで、ホントに筆が遅いんですよね(笑)。

プレイ動画の登場でTRPGは食べられなくなった!? 

橋野氏:
 水野さんはもともとテーブルトークRPGのゲームマスターでもある方ですけど、TRPGの現状についてはどのようにお考えですか? TRPGのプレイヤー人口自体は、YouTubeとかのプレイ動画を入り口にして、若い子がけっこう増えていると聞いているんですけど。

水野氏:
 たしかに増えているみたいですね。昔、『ロードス』のリプレイがTRPGを普及したきっかけになったのと同じように、TRPGに関してはリプレイ動画が普及のためのツールになると思います。

 でもコンピュータゲームの場合だと、何年もかけて作った作品をプレイ動画で10時間ぐらいで再生されてしまうと、切ない気持ちになっちゃいませんか? 

橋野氏:
 TRPGのリプレイ動画に関しては、プラスの面が大きいのですか? 

水野氏:
 TRPGの場合はたとえば、このシナリオが面白かったから同じゲームシステムで別のシナリオを遊んでみたい、という形になりますから。ただしプラスの面だけではなくて、リプレイ動画が流行ったためにリプレイの単行本が売れなくなったんですよ。

ニコニコ動画で「TRPG」とタグ検索した結果。2017年12月現在、25000件以上の動画が投稿されている 
(画像はニコニコ動画より)

 日本のTRPGってじつは、リプレイを単行本化してマネタイズをしていたんです。TRPGの場合はルールブック1冊を買えば無限に遊べますから、ゲームシステムだけでは食べていけないんですよ。だからリプレイの単行本をたくさん出すことによって、僕たちTRPGのデザイナーは食べていけたわけですね。

 それが今、無料で見られるプレイ動画が出てきたために、マネタイズの方法がなくなって、ゲームシステムそのものが出せなくなってしまったんです。
 無料だし、メディアも新しいし、プレイの面白さもダイレクトに伝わるわけだから、それは本のリプレイよりも優れていると思いますよ。でもそれで、TRPGのシステムが出せなくなったという影響はあります。

――リプレイでマネタイズするというのは、日本のTRPGの最大の発明ですよね。

水野氏:
 そう思いますね。そもそもリプレイが商品になり得るという発想が、海外の人たちにはなかったですから。『ロードス』がTRPGリプレイとして商品になって、そのマネタイズを作ったのはグループSNEなので。
 その手法がTRPG業界の人たちに広がって、リプレイを出すことでTRPGのデザイナーが食べていけるというシステムを構築したのは、世界の中で日本だけですね。

 だから日本のTRPGは、文庫が中心になり得たんです。海外のTRPGは昔からずっと、ボードゲームと同じようなボックスセットが中心ですから。ボックスだと単価が高いし、基本的には直販の形なので利益率も高いですから。

 そのために今、日本のTRPGの人たちはボックスに回帰しているし、リプレイとは違うマネタイズでビジネスをしていこうと考えているように思います。少なくともグループSNEはもう明確に、自分自身でボードゲームやTRPGの発売元になるメーカーになりましたから。安田均さん【※】は今、すごく楽しそうですよ。
 メディアやツールが変わることでいろんなものが変わっていくから、それに合わせて変えていかないといけない部分はあるような気がしますね。

※安田均
1950年生まれ。SF翻訳家として活躍する一方で、海外のアナログゲームやコンピュータゲームを積極的に日本に紹介。1986年よりグループSNEを率いて、『ロードス島戦記』や『ソード・ワールドRPG』、PCゲーム『ラプラスの魔』など、多数のゲームを世に送り出している。

橋野氏:
 今の若い世代でのTRPGの盛り上がりは、TRPGの業界的に仕掛けていったものなんですか? 

水野氏:
 いや、ぜんぜん仕掛けてないと思いますよ。リプレイ動画を中心に、自然発生的に盛り上がっているんだと思います。業界的には正直言って、まだ受け入れ体制が整っていない感じがします。

橋野氏:
 なるほど。若い人たちが盛り上がってきていることに対して、展開している側にはとまどいもあるんですね。

『ウィザードリィ』にストーリーはないのか? 

橋野氏:
 僕はファミコンで初めてRPGに触れた人間なので、TRPGからコンピュータRPGに変化した時に、失ったものと新たに得たものがあるんだろうと思っていて。

水野氏:
 どうでしょう。コンピュータRPGとTRPGは、基本的に別物じゃないかなと思いますよ。TRPGの場合は1回の戦闘に比較的時間がかかりますけど、コンピュータRPGの場合は逆に、戦闘をたくさん行うことによって楽しめますから。

 『ウィザードリィ』には無限に成長させる楽しさがありましたし。あの繰り返しに耐える面白さって、逆にいったい何なんでしょうね? 

橋野氏:
 『ウィザードリィ』はもともと、『D&D』のゲームマスターをコンピュータにやらせるという名目があったはずですよね?

水野氏:
 それぞれの要素を見ればそういう面もありますけど、『ウィザードリィ』は最初からいきなり、シンプルで完成されたゲームシステムを出してきたな、という気がしますね。

 ダンジョンだけに特化したというのも、『ウィザードリィ』の評価すべきところだと思うし。初期の『ウルティマ』はプレイアビリティが低かったこともあって、オープンフィールドはウザい、ダンジョンだけあればいいのにと思いましたから。『ウィザードリィ』の場合はむしろ、ストーリーがないのが良いのではないか、とすら思いますけど。

橋野氏:
 ストーリーはないですかね? この歳になって改めて『ウィザードリィ』の1作目をやると、その世界を体験するためにゲームシステムがあって、シナリオがささやかながらも完成度が高くて、もうそれで十分だと思ったんです。

 たしかにこの世界はあっても不思議じゃないと思えるだけのリアリティが、『ウィザードリィ』の1作目にはあるんですよ。

水野氏:
 『狂王の試練場(Proving Grounds of the Mad Overlord)』というタイトルだけで、僕的には熱くなるものがありますよね。“悪の魔道士”ワードナと言われても、狂王といったいどっちが悪いのか、よくわからないですし。

橋野氏:
 ホントにそうですよね。どっちが悪いのかはよくわからないけど、とりあえず王様の賞金が欲しいからダンジョンに潜るという感覚も、すごくシビれるじゃないですか。

――TRPGとコンピュータRPGは別物というのはよくわかるんですけど、PCゲーム版の『ロードス島戦記』【※】を発売当時に遊んだ時に、TRPGのテイストがコンピュータRPGに上手く移し替えられているなというのを、すごく感じたんです。

※PCゲームの『ロードス島戦記』
『ロードス島戦記』のPCゲームは、ハミングバードソフトから1988年に『ロードス島戦記〜灰色の魔女〜』が、1991年に『ロードス島戦記II〜五色の魔竜〜』が、それぞれ発売されている。これらのソフトは現在、レトロゲーム配信サイト「プロジェクトEGG」でプレイが可能。
(画像はプロジェクトEGGより)

水野氏:
 自分が『ウィザードリィ』に熱中していたので、コンピュータRPGは戦闘そのもので勝負できなければダメだ、というふうに思ったんです。
 『ロードス』のPCゲームもそのあと、『ロードス島戦記 福神漬』【※1】という商品が出るんですけど、これは要するにタクティカルコンバットだけを切り取った追加ディスクなんですね。そういう商品を出せるだけの戦闘システムになっていたというのが、あのゲームが成功した理由だと思うんです。

※1 ロードス島戦記 福神漬……タクティカルコンバットゲームやパズルゲーム、クイズゲームなどが収録された、PC版『ロードス島戦記』のファンディスク。全3作が発売された。
(画像はプロジェクトEGGより)

 『ロードス』はもちろんアニメも人気だったんですけど、コンピュータゲームもけっこう評判が良くて、当時のPC-9801【※2】で定価が1万円ぐらいするゲームが、10万本ぐらい売れているんです。
 それはコンピュータゲームとして面白かったからだと、僕自身は今でも自負していて。もともと平面上でのタクティカルコンバットをストレスなく再現したいというのがあって、思考ルーチンとかも全部、自分で考えたので。
 マップの広さや思考ルーチンを自分なりに決めて、ハミングバードソフトの人たちと相談してやってみたら、自分で言うのもなんですけど、意外に良くできていて。

※2 PC-9801
90年代に大きく人気を博したパーソナルコンピュータ。主にビジネス向けをターゲットとしていたが、商用ゲームやフリーゲームが多数登場した。

――シミュレーションRPGが登場したのも、『ロードス』とほぼ同時期か、そのちょっと後ぐらいですよね。

水野氏:
 少し後ですね。『ファイアーエムブレム』を遊んで、「これに特化すれば良かったのか!」って思いましたから。

時代は中世ファンタジーを求めている? 

橋野氏:
 自分としては、TRPGがコンピュータRPGに置き換わって、やがてMOやMMOのRPGになって、それが一巡して今また、若い人がTRPGを遊び始めているというような文脈で考えてしまうんですけど。水野さんからご覧になると、それらはすべて別々の動きなのでしょうか? 

水野氏:
 たしかにMMORPGが出てきた時は、TRPG的なものに回帰したとは思いました。でもそれは、パーティで遊ぶという面白さですよね。オフラインのTRPGでやってる感覚に近いものを、オンラインで遊んでいるという。

橋野氏:
 水野さんはNintendo Switchって、ここまで短期間でヒットすると思っていましたか? 

水野氏:
 いや、僕は思ってませんでしたね。

橋野氏:
 お茶の間に家族を集めて、友達を集めて、みんなで一緒にパーティゲームを遊ぶという古き良きコミュニケーションを取り戻すみたいなコンセプトが、Switchにはあるじゃないですか。

 今の時代にそれはどうなんだろう? ってみんな言ってたんですけど、結果的にSwitchは素晴らしいスタートになりましたよね。

水野氏:
 でもNintendo Switchって、実際にそういう遊び方をされてます?

橋野氏:
 僕は親戚の家にSwitchを持っていって、子どもたちと『マリオカート』をやったりしてますよ。実際のところ、Switchがきっかけになって、パーティゲームというものを遊ぶようにはなったんです。

水野氏:
 なるほど。そういう意味で言うと、僕はゲームキューブの時に、『ファイナルファンタジー クリスタルクロニクル』【※1】を家族4人で遊んでいたんです。あのゲームは面白かったんですけど、普通の家ではまずできないですよね。
 ゲームキューブにプラスして、ゲームボーイアドバンスを4人なら4台用意するという形だったので。たしかにあの遊び方のコンセプトは、今おっしゃったSwitchの遊び方につながっていると思います。

※1 ファイナルファンタジー クリスタルクロニクル……スクウェア・エニックスが開発し、任天堂から2003年に発売された「ファイナルファンタジー」シリーズの1作品。ゲームキューブとゲームボーイアドバンスを連動させることで、最大4人で協力してダンジョンを探索するマルチプレイを楽しむことができる。パッケージの右上には、ゲームボーイアドバンスと連動する機能の記述がある。
(画像はAmazonより)

 でもじゃあ、Switchがヒットしたからその遊び方が普及するのかと言われると、僕はちょっと疑問に思っていて。『モンスターハンター』【※2】が大ヒットしたのは、PSPをみんなが持ち寄った先ですぐ遊べるからですよね。それに対して据置ゲーム機だと、遊ぶのにすごく負荷がかかると思うんです。

※2 モンスターハンター
カプコンより発売されている狩猟アクションゲームシリーズ。略称は「モンハン」、「MH」。初代は2004年にPlayStation2版として発売されたが、本文で言及されているのはPlayStation Portable版として発売された『モンスターハンターポータブル』(2005年)シリーズのこと。

――Switchはその負荷をできるだけ解消しようというのが、ハードのコンセプトにはなっていますけど。

水野氏:
 たしかに『ボンバーマン』【※1】とか『マリオパーティ』【※2】とか、パーティゲームをみんなで遊ぶのはすごく楽しいですけど、今の日本で現実的にゲームが遊ばれている環境は、そういったファミリーパーティの感覚とはちょっと違うんじゃないかなって思うんです。

橋野氏:
 今回お話しして思ったんですが、水野さんってリアリストですよね(笑)。

水野氏:
 そうなんですよ(笑)。「右目で商売のことを見て、左目で作品のことを見なさい」って、『ロードス』の最初の担当編集者に教わったんです。

 仕事としての部分と、ピュアに作品に向き合う部分と、両方の目を持たないとダメだというのは、今でも続けていることですね。コンシューマの大作ゲームを作られているプロデューサーさんは、もっといろんな目で見ておられるでしょうけど。

橋野氏:
 僕はどうしても文脈で考えたいタイプなので、なんか今、みんなが他人を恋しくなっているというか、『三丁目の夕日』【※】的なノスタルジック幻想みたいなものが生まれているのかなって考えるんです。

※三丁目の夕日……西岸良平による漫画作品。1974年よりビッグコミックオリジナルにて連載されており、2017年11月現在、64巻まで刊行されている。一話完結のオムニバス形式で、昭和30年代の文化、流行や風俗をモチーフにした、懐かしい雰囲気を感じさせる作風が特徴的。2005年には『ALWAYS 三丁目の夕日』(監督・山崎貴)として映画化され、人気を博した。画像は『ALWAYS 三丁目の夕日 通常版 [DVD]』パッケージ。
(画像はAmazonより)

 中世の頃のように、今よりもコミュニティが小さくて、シンプルな生き方の時代に対する憧れみたいなもの、中世ファンタジーへの回帰みたいなものが、若い人たちも含めて高まっていればいいなぁと思うんですよ。

水野氏:
 そういうのがあるんじゃないかと、直感的に捉えておられるんですか? 

橋野氏:
 直感的にあることにしているんです、「PROJECT Re FANTASY」のために(笑)。そこはもう、自分で自分をだましちゃうので。

 水野さんはまさにそういったファンタジー世界を作られてきた方なので、「今はやめといたほうがいいよ」と言われるのか、それとも「橋野君、今やっぱり来てるよ!」と言われるのかと思っていたら、水野さんご自身はすごくリアリスティックに現実と向き合っておられて。

水野氏:
 なんだかスイマセンね(笑)。僕の場合は基本的に、依頼された仕事をお受けすることが多いので。
 「こういうコンセプトで作ってください」と言われたら、そのオーダーに合わせて魂を込めて作るのが、ゲームデザイナーだと思っているんです。

本格ファンタジーは日本ではウケない? 

水野氏:
 ただファンタジーに関してはぶっちゃけて言うと、僕の中では日本ではウケないものだと思っていて。だって『ヒックとドラゴン』【※】の続編が、日本の映画館では公開されないんですよ! 

※ヒックとドラゴン……イギリスの作家、クレシッダ・コーウェルの児童文学小説をディーン・デュボア監督が2010年に映画化したCGアニメ作品。バイキングの少年ヒックと、飛べなくなったドラゴンとの絆を描く。第1作目の高い評価を受けて、2014年に続編となる『ヒックとドラゴン2』が制作されたが、日本では特別上映のみで一般公開は行われなかった。現在2019年公開予定でシリーズ第3弾を制作中。 
(画像はAmazonより)

橋野氏:
 『ハリー・ポッター』【※】の映画はみんな見に行ったじゃないですか。

※ハリー・ポッター
世界中で大反響を呼んだ、J.K.ローリングのファンタジー魔法小説の映画版。米ワーナー・ブラザース製作。2001年に第1作が映画化され、原作最終巻にあたる『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』が2011年に公開された。シリーズ累計の興行成績は世界歴代2位の77億ドルを記録している。

水野氏:
 『ハリー・ポッター』は原作が大ベストセラーですから。でも『ホビット』【※】は日本だと、あんまりヒットしなかったんですよね。やっぱりドワーフがメインじゃダメなのか、って思いました。

※ホビット……ピーター・ジャクソン監督が、J・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』を映画化したシリーズ。全三部作で、2012年から2014年にかけて公開された。『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚として、原作以外の著作にトールキンが記したエピソードなどもふんだんに盛り込まれている。画像は『ホビット 思いがけない冒険 』Blu-ray版パッケージ。
(画像は Amazonより)

――ドワーフって酒を飲んで暴れてるイメージしかないんですよ。

水野氏:
 『ホビット』のドワーフは、ちゃんと後片付けするところまで描かれているのが素敵じゃないですか。あのシーンは感動しましたよ、ドワーフの律儀さがしっかりと描かれていて。

橋野氏:
 ファンタジーはウケないとおっしゃいましたけど、実際に人気のあるファンタジーゲームは100万本、200万本と売れているわけですよね。

水野氏:
 それはファンタジーという要素で売れているわけでは必ずしもなくて、演出だったりゲーム性だったり、また別の要因で売れているんだろうなと思うんです。

 『ヒックとドラゴン』のように良質なファンタジー映画が、日本では広く受け入れられないということは、僕の愛してやまない西洋ファンタジーのど真ん中みたいなものは、日本人にはハードルが高いのだろうなというのが、正直な気持ちです。
 ゲームやライトノベルでファンタジーが一般的になっているからと言って、「じゃあ本格ファンタジーをどうぞ」とは僕はオススメできないですし、自分自身でもそんな企画は通さないですね。

橋野氏:
 いろんな人に言われるんですよね、「ウケないですよ」って(笑)。

――でも『ロードス島戦記』は当時の日本人の感覚としては、西洋ファンタジーのど真ん中にかなり近いものだったと思うのですが? 

水野氏:
 逆にあの当時、僕が『指輪物語』みたいに本格的なファンタジーを書いたとしても、きっとウケなかったと思うんですよ。そこはやっぱり出渕裕さん【※】の絵のおかげですよね。

※出渕裕……1958年生まれのイラストレーター、メカニックデザイナー。『聖戦士ダンバイン』、『機動警察パトレイバー』などでのメカデザインの担当をはじめとして、多数のアニメ・特撮作品で活躍している。また『ラーゼフォン』、『宇宙戦艦ヤマト2199』といったアニメ作品の監督も務めている。『ロードス島戦記』ではTRPGリプレイや小説の挿絵、OVAのパッケージといったビジュアル面を手がけている。画像は『ロードス島戦記』のイラスト。

 当時の最先端のイラストレーターさんにイメージをつけてもらったおかげで普及したという部分が大きいし、『ロードス』は他にもそういったいろんな祝福があって売れた作品ですよ。
 アニメのおかげでもあるし、ゲームがあったおかげでもあるし、角川のライトノベルの始まりでもあったし。そうしたいろんな追い風があって、僕は本当に運が良くて、それに乗っかっただけなんです。

――出渕さんとは当時、イラストに関して何かやり取りをされたのですか? 

水野氏:
 ぜんぜん(笑)。出渕さんはメカニックデザインのイメージが強いですけど、ファンタジーもすごくお詳しいですから。少なくともビキニアーマーを描いてくるような人ではなかったので(笑)。やっぱり素敵な絵ですよね。僕は2巻の表紙が大好きなんです。

『ロードス島戦記(2)炎の魔神』
(画像はAmazonより)

水野氏と橋野氏が共通して抱いたアイデアとは? 

橋野氏:
 お話を聞いていて、ファンタジーというジャンル自体が、「じつはニッチだよ」と言われているような感覚がして(笑)。その意味では、今アトラスがあえてファンタジーをやるというのは、すごくピッタリくると思いました(笑)。

水野氏:
 鈴木大輔君から「『ペルソナ5』の素晴らしいところは演出力だ」と聞いて、それほど素晴らしい演出力でファンタジーへの回帰を作ってもらえたら、僕は飛びつくだろうなと(笑)。

 ゲームの演出力というのは、小説家における文章と同じだと思うんです。そこで成功されている作品を作られているわけですから、扱うテーマがなんであれ、やっぱりそれは橋野さんの作られたゲームとして人々から認知されるだろうし、多くの人にプレイしてもらえるんじゃないかなと思います。

橋野氏:
 これまでの僕らとまったく違うものは作れないし、誰もそれは求めていないとも思うので。この物語やこういうゲーム性は、現実を舞台としてはできないから、たまたま幻想世界を使わざるを得なかった、というものしかできないと。

 今、楽しみなのは、これまで伝統的に構築されてきたファンタジーの記号性、武器の名前なり種族なりが、僕らが今作り直そうとすると最終的にどうなるのか、自分でもワクワクしているんです。いろいろ変えることができても楽しいし、意外と元のままだよね、というのでもすごく楽しいし。

 できるだけ離れようと思いながらふるいにかけた結果、アトラス流のちょっと変わった感じだけど、これは王道と言ってもいいんじゃないの、というものになるのかなと、今はなんとなく思っています。

水野氏:
 僕が仕事で関わった『ドラゴンズ・ドグマ』【※】の世界観も、たしかに王道ではあるんだけど、僕の発想では出てこないものだったので。出てくるモンスターはギリシャ神話とかのものをド直球に出しているんですけど、王道とは味わいが微妙に異なっていて。
 「ドラゴンで世界観を作るのだ」というゲームの作り手の持っているイメージがすごく伝わってきて、僕的にはなるほどと思ったんですね。

※ドラゴンズ・ドグマ……カプコンから2012年にPlayStation 3とXbox 360向けに発売されたオープンワールドアクションゲーム、『Dragon’s Dogma』のこと。ドラゴンに心臓を奪われ、“覚者”として甦った主人公が、心臓を取り戻す旅に出る。2013年には新エリアなどが追加された『Dragon’s Dogma DARK ARISEN』も発売された。水野良氏は特典冊子で、ゲームの導入部となる小説を執筆している。
(画像はCAPCOM公式サイトより)

 そういうふうに作り手の持っている世界観のイメージが作品に反映されれば、最終的に他とは一線を画すゲームになると思うんです。

橋野氏:
 そうなってくれるといいんですけどね。若い人たちがワーッと盛り上がってくれて、『ロードス』を高校生とかの頃に読んでいたおじさんたちがその様子を見て、「自分たちの時代も『ロードス』で熱く盛り上がってたよね」と言ってくれたら、それもまた嬉しいし。

 絵描きの副島は「『ロードス』は青春だ」と言っていて。たぶん多感な時期に『ロードス』を読んでいたんだと思うんですけど。

水野氏:
 あっ、そうですか。そういう方が「一緒にお仕事しませんか?」と声をかけてくれるのを待っている状況です(笑)。

「PROJECT Re FANTASY」イメージボード

 (「PROJECT Re FANTASY」のイラストを見ながら)……やっぱり副島さんの絵って好きだなぁ。

――絵に色気がありますよね。

橋野氏:
 自信満々に上げてくる第一稿は、案外、色気がないことも多いんですよ(笑)。そこでアレコレ言うと、迷い出すじゃないですか。その迷いが画面に出ると、良い意味で付けいる隙」みたいなものが出てくるんです。
 『ペルソナ』は高校生ばっかりなので、いろんなものにかぶれちゃいそうな不安定感みたいなものが、思春期のキャラクターにマッチして。いい言い方をすると透明感って言葉なんですけど、ブレとか迷いみたいなものかなと思うんですよ、色気の根っこは。

 このエルフの絵に関しては、今はとりあえず、設定を考える前にとにかくエルフを描いてほしいと。この世界にどういう種族がいるだとか、どういう心の分断がこの世界に起きているのかということを、これから設定していくので。

水野氏:
 「心の分断」ですか? 

橋野氏:
 今、大昔のような意味での国境ってないじゃないですか。だからその代わりに、心の分断を描くつもりです。

水野氏:
 じつは僕も、心の分断というので新しいアイデアがあったんです。アイデアって同時発生的に出てくることがあるから、もしかしてかぶってるのかなと。逆に今、心の分断がテーマになっていると聞いて、そのアイデアは使えるんだなと思いました(笑)。

橋野氏:
 『ペルソナ』を作ってきた時に、ずっとテーマにしてきたことでもあるんですけど、今の時代ってみんな、様々な情報が手に入るのに、相手の心だけが読めない時代なのかなと思うんです。だからSwitchを買ったり、TRPGをやったりすることで、相手との心の距離が縮まる感覚は、昔以上に大事に思う人もいるんじゃないかと。

水野氏:
 TRPGは確かに心の距離が縮まりますね。というか、相手の本性が分かります(笑)。

橋野氏:
 肌で接近する、生理的に相手を感じることへの恋しさみたいなもの。僕の心の分断というのは、そういったものなんです。僕としては『指輪物語』が生まれた時代よりも、『ゲド戦記』が生まれたニューウェーブの時代背景へのシンパシーがじつは強くて。錬金術やユング心理学【※】といった世界観に、すごくシビれるんですよね。

※ユング心理学
スイスの精神科医・心理学者ユング(1875~1961)の提唱した心理学のこと。「分析心理学」、「コンプレックス心理学」とも呼ばれる。精神分析の始祖とされるフロイトから多大な影響を受けつつも、「集合的無意識」を軸に自らの学問体系を築いていった。

それで結局、ファンタジーの条件とは何か? 

橋野氏:
 先ほど水野さんから、すごく共感できるアドバイスを頂いて。「なんでもあり」なんだけど、伝えたいセンスというか、ものさしというか。テーマというと水野さんは否定するかもしれないけど、そこをブレさせなければいいんだっていう。

水野氏:
 いや僕自身はテーマとかをあまり考えないだけで、それはもちろんアプローチの仕方だと思うので。

橋野氏:
 それがすごく参考になった一方で、何がないとファンタジーじゃないのかというところについては、水野さんがはっきりと答えをおっしゃらなかったのが、逆に安心したんです。そこにはっきりとした答えがないというのが、真実なのかなと。

水野氏:
 ただでもね……。

橋野氏:
 やっぱりあるんですか!? 今からもう一回お話ししましょうか(笑)?

 今日はそれを聞き出そうと思って3回ぐらい聞いてみたんですけど、全部はぐらかされたので、これは教えたくないんだろうなと。

水野氏:
 というか、なんなんでしょうね。昔は「火薬を使わないのがファンタジーだ」と言っていたんですけど、『グランクレスト戦記』で大砲を出した時に、火薬を使ってもファンタジーになると思ったんです。

 SFなのかファンタジーなのかというのは、僕の中ではたしかに取捨選択があるんですよ。でもそれはSFにおけるセンス・オブ・ワンダーの定義と同じで、「ファンタジーとはこういうものだ」と言い切った瞬間に、絶対に論争が起こって炎上しちゃうので。だから言わないほうが吉だなとは思っています。

 ただ、実際に形となって出てきた作品は、僕の中で取捨選択した結果のファンタジーであることは間違いないです。『グランクレスト戦記』はファンタジーです。『アカシックリコード』はSFです。そんな感じのはっきりとした違いが、僕の中にはあります。

橋野氏:
 では、今準備中と言っておられた『ロードス』の新作は?

水野氏:
 それはファンタジーです。ファンタジーにします。

橋野氏:
 楽しみですね。

水野氏:
 がんばります。傑作じゃないと書けないので(笑)。

 橋野さんの新作も楽しみにしていますよ。演出力で引っ張られていって、ゲームを遊んだ結果に何か深いもの、達成感かもしれないし、もしかしたら傷痕かもしれない、そういったものが何か心の中に残るのなら、それはきっと僕が待ち望んでいるゲームだと思いますね。

橋野氏:
 水野さんから、そう言って頂けるだけで、励みになります。自分もがんばります。(了)

 この対談が終了した数日後、橋野桂氏とお会いした際に、橋野氏は「水野さんが“なんでもあり”と言ってくれて、すごく気が楽になった」と語っていた。対談の中でも何度か話題に出ていたとおり、ファンタジーの“常識”を知らないと自覚している橋野氏にとって、ファンタジーに詳しい人々からの反応は、いろいろな意味で気になるところなのだろう。

 とはいえ、日本のファンタジーの基礎を作り上げてきた水野氏でさえ、明言することを避けるほど、ファンタジーの定義とは人それぞれに異なっている曖昧なものだ。現実には存在しない異世界であるがゆえに、個々人の想像力によって多種多様な定義やイメージを形作ることができる。それがファンタジーというものの難しさであり、同時に最大の面白さでもあると、今回の対談を通じて感じることができた。

 今後、さらに多くのファンタジーの“達人”たちと橋野氏が対話を重ねることで、ファンタジーの定義がより明確になっていくのか、それとも新たな可能性が広がるのか、ぜひ楽しみにしてほしい。

 さて今回、『ロードス』の作者である水野良氏と橋野桂氏の対談をお届けしたわけだが、『ロードス』にはもう1人、そのビジュアル面で日本のファンタジーを決定づけた人物が存在している。今回の対談でも名前が挙がっていた、イラストレーターの出渕裕氏だ。

 日本のファンタジーを検証する上では、水野氏が「エルフのイメージを変えた」と語るディードリットをはじめとする『ロードス』のキャラクターデザインについて、ぜひとも出渕氏にお話を伺うべきだろう。

 出渕氏と対話する相手には、やはり自らビジュアルを表現する人物がふさわしいはずだ。ということで、今回の対談と対になる企画として、「PROJECT Re FANTASY」のキャラクターデザインを担当する副島成記氏との対談が実現した。

 こちらもすでに取材済みだが、副島氏は出渕氏が手がけた『ロードス島戦記』や『機動警察パトレイバー』の大ファンだということで、ファンタジーに留まらない興味深い話題が多数飛び出している。この対談の模様も近日中に公開予定なので、大いに期待してほしい。

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インタビュアー
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
インタビュアー・著者
過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke

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