【赤野工作】移ろいゆく上海ゲームショップレポート──入店まで何ヶ月もかかる店、最新ゲームを貸し出す店、子どもたちに夢を見せる店

 電ファミに幾度となく登場し、虚実のあいだを漂泊するような独特な語り口でビデオゲームを語る赤野工作氏@KgPravda)。

 

 昨年は、「100年後の未来からこの先100年のあいだに発売される低評価ゲームをレビューする」という不思議な小説集『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』が刊行され、一躍時の人となった。
 そんなさなかに氏が中国・上海を訪問、中国最大のゲームショウ“China Joy”をレポートしたことは記憶に新しい読者もいるだろう。

 

 今回、氏から届いた寄稿文は、ゲームショウもそこそこに、その裏で上海の街をさまよい、見聞してきたゲームショップについての覚え書きだ。


 時間をかけて紡がれた、柔らかな織物のように平易な文章で彼の地に想いを馳せたリリカルなこのレポートは同時に浮遊感、多幸感、寂寥感、郷愁などいろいろな感情がないまぜになった手触りを読者の皆さんにもたらすだろう。
 覚めて見る夢のような、水底から水面を見上げたときの揺らめきのような、何かが薄いベールの向こうにたゆたう、異国・上海ゲームショップ紀行。たっぷりとお楽しみあれ。(編集部)

文/赤野工作


 ゲームショップ。

 私たちゲーマーにとって、そこは時を忘れる不思議な空間です。
 古びたワゴンに華やかなショーウインドウ、所狭しとゲームが並べられた棚、棚、棚。一見雑多なようにも思えるその店内には、一度迷い込んだら瞬く間に時間が過ぎ去ってしまう魔法がかかっています。

 1972年に世界初の家庭用ゲーム機「オデッセイ」が発売されて以降、世界には人々を惹きつける様々なゲームショップが生み出されてきました。
 時には新しいゲームとの出会いの場として、時には懐かしいゲームとの再会の場として、ゲームショップは今もなお、私たちゲーマーの居場所としての役割を果たし続けています。

 しかしながら、インターネットの発達とともに、現在ゲームショップはひとつの「問題」に直面しています。
 それは「ゲームを買ってから遊ぶまでの時間を、ゲーマーという人種は待っていられない」という厄介な大問題。
 ゲームの購入手段が時代と共に飛躍的な進化を遂げる一方で、「堪え性がない」というゲーマーの性質には未だ進化の兆しは見られてはいません。
 ダウンロード販売にすら「時間がかかる」と不満が呟かれる現代において、わざわざ遠くにある店舗まで足を運ばなければならない「時間のかかる」ゲームの購入手段──ゲームショップ──は、大変な逆境に立たされていると言えるでしょう。

 世界に存在するゲームショップの数々は、今、どのようにしてこの厄介な問題を乗り越えようとしているのでしょうか。ゲームショップの存在する数だけ、そこには私達に「時間を忘れさせる」様々なアイディアが存在しています。

 洗練されたユーモラスな空間、目を見張るような美しいレイアウト、あるいはその店でしか買えないような独特の商品ラインナップ。
 素晴らしいゲームショップには、文字通り、ショッピングにかかる時間を忘れさせる魔法がかけられているのです。

 時間をかけてでも行くべき世界のゲームショップ。今回は、5時間の時を忘れさせてくれる魔法がかけられた、そんな素敵なゲームショップ達をご紹介いたしましょう。

 東京から1765km、アジアの誇る国際都市「上海」の、美しきゲームショップの数々です。

最新のゲームショップへ

 中国最大の都市、上海。国際都市として名高いこの街は、1842年、南京条約によって世界に開かれて以来、常に東洋と西洋の最先端を走る文化の中心地として発展を続けてきました。

 流行に敏感な上海人達が暮らすその街並みは、多くの革新的な試みと伝統的なスタイルが同居していることが特徴です。
 もちろんゲームショップという狭いビジネスだけを切り取っても、そこには必ず、中国社会の革新と伝統が如実に姿を現しています。

 ここは上海中心部に位置する電気街、「徐家匯」。目の前にある艶やかな建物は、この電気街のランドマーク「百脳城」の巨大な店舗です。
 アジアの電脳城の佇まいとしては非常に洒落た外観をしている百脳城ですが、内装も外観には負けていません。
 各ブランドは自社新製品の宣伝の為にテナントを利用しており、さながらここは上海のゲーマーにとっての5番街。
 揃えられている商品を見渡しても、まさに中国の流行の最先端ばかりが並びます。

 客層も従来の殺伐とした電気街とは異なり、ブラウザショッピング気分で訪れている家族連れやカップルの姿も多く見受けられます。

 とは言え、上海は良く言えば「流行に敏感な街」ですが、それは同時に「飽きっぽい街」と言うことでもあります。百脳城のビルがご覧の通りに改装されたのは、実はまだ昨年の2月。
 この洒落た外観の電脳城が今後も上海の街に受け入れられるかどうかは……ハッキリ言えば、まだ未知数な段階にあります。

 現在中国では、電気街、そしてそこに入居するゲームショップの急速な衰退が始まっていると言われています。
 ゲームを買うのに「時間のかからない」オンラインストアに、「時間のかかる」ゲームショップの顧客が急速に奪われているという事情はここ中国でも同じ。
 実店舗を維持するメリットは年を追うごとに薄れており、「電気街のゲームショップ」という光景そのものが、中国から一斉に姿を消しつつあるのです。

 中国でも流行に敏感な上海人を相手にするビジネスは、簡単なものではありません。

 百脳城がこうして細部の店内デザインにまで気を遣っているのも、ここでの買い物に新たな付加価値を作り出そうとする人々のアイディアです。
 「不愛想な客引きと雑多に並べられた商品」という古いゲームショップのイメージを打破し、この場所が上海の流行の最先端の空間へと生まれ変わるための魔法……言わば、苦肉の策でしょう。

 百脳城のゲームショップは、私たち消費者に、ゲームという文化が如何に先進的な娯楽なのかを訴えかけてきます。ゲームが陳列されている隣には、若者達がたむろする電子パイプのお店。そのまた隣には、これまた若者たちが接客を受けているヘアサロン。入居しているフードコートでさえもに、若者に人気のカフェテリアが出店しているのです。この場所にいること自体が先進的な行為であるかのような……、まるで、そんな気持ちになってくるでしょう?

 従来の電気街に見られた「いかがわしさ」が感じられないことも、先進的な上海の街のゲームショップらしさと言えるかもしれません。
 陳列棚を見ると、並べられているのは日本版、北米版、香港版、欧州版と、国際都市らしい様々なリージョンの正規品が扱われています。ここでゲームを買えば、世界と同日に世界と同じものを手に入れることが出来る、つまりここではゲームと一緒に、世界の流行そのものが売られているというわけです。

 2014年から始まった家庭用ゲーム機の解禁以降、中国でもゲームソフトの現地正規版が販売されるようになりました。
 しかしながらまだまだその数は少なく、諸外国と比べると発売が遅れることも珍しくありません。コアなゲーマーの大半が、輸入品を買うことによって貧弱なラインナップを補っているという現状があります。

 ゲームショップを訪れれば常に世界の最新が手に入るという保証がなかったら、彼らにとって死活問題となるとも言えるのです。

 せっかくですので、ここで中国のゲームショップを見て回る上で役に立つ知識を披露しましょう。

 これは中国現地版の『三國志13』ですが、パッケージに何か違和感があると思いませんか。
 そう、審査機関のマークがないんです。
 何故なら、中国では共産党政府が直々にゲームの審査を行っているから。それも、非常に長い時間をかけて。流行に煩い上海人がわざわざゲームショップを愛用している理由も、なんとなく窺い知れるでしょう?

 社会の違いを意識して店内を見渡すと、なるほど、ゲームの陳列ひとつとっても、店内には上海のゲーマーを惹きつけるための様々な趣向が凝らされています。
 ショーウインドウに飾られているゲームは、いまやネット通販でも珍しくなった2014年発売の中国限定春節バージョンPS4。
 お店の最も目立つ位置に飾られているのは、プレイステーションの顔として中国では人気の高いSIEJA代表の織田博之氏やSIE上海の添田武人氏のサイン。

 ゲームショップに来るまでに時間がかかるのなら、この場所を流行の最先端の場所にすることで、時間をかけてでも来たくなる場所として新しく作り変えてしまえばいい。
 それは先進的な上海の街に根差した、正攻法の生存戦略だと言えるでしょう。

街のショップへ

 続いては、少し泥臭い方法で流行の最先端を走るゲームショップをご紹介しましょう。
 店があるのは古北路という中心部から少し離れた住宅街、佇まいを一見してわかる通り、中国では珍しくない電子製品の修理全般を行う個人商店です。

 中国大陸は広大です。日本のように、全国に複数の店舗を持つゲームショップは一般的ではありません。

 ネット通販の主役を担っているのも、裏に潜んでいるのは個人の商売人。彼らはアパートの一室、自宅の片隅、そして時にはこうして実店舗の一部で、大量のゲームの在庫を投機のように売り買いして生計を立てています。
 こうした小さなゲームショップでは、大型店舗よりもよほど、経営者の持つセンスが問われると言えるでしょう。

 とは言え、資本という後ろ盾を持たない彼等のビジネスには、常に制約がつきまといます。
 レイアウトに大きな予算をかけられない以上、ゲームショップとして生き残るには品揃えで勝負するしかありません。
 どれだけ多く人気タイトルの在庫を持っているのか、それによって店の未来は決定されてしまう。どれだけ遠くで営業しているゲームショップでも、他店では買えないものを販売している店には、消費者は足を運ばざるをえないのです。

 店内では、必要以上の接客や陳列が行われることはありません。何故ならこの店を訪れる客は、最初からそんなことを理由にこの店へ足を運んでいるのではないからです。

 入り口のドアを開けてすぐそこに積まれているのは、未開封新品のゲームの段ボールの山。
 そして床に乱雑に積まれているものは、皆さんもご存じのはずでしょう。そこは日本では品不足で買うことが出来なかった、限定版のSwitchの行き着いた先です。

 人によっては目に毒な光景かもしれません。入手困難だった限定版のSwitchが、いくつも折り重なって床に積まれているのですから。
 国際色豊かな上海の街を反映してか、集められているSwitchも実に国際色豊かです。香港版は中国語のサポートもあって人気が高く、生産量の少なさからも高嶺の花と言えるでしょう。北米版も人気は高いですが、やはり一番多いのは日本版。輸入コストが低いことも理由のひとつかもしれません。

 価格は1台43000円。『スプラトゥーン2』の同梱版は47000円。プレミア価格と言えばプレミア価格ですが、日本で販売されていたプレミア価格とさほど差がないとも言えるでしょう。

 むしろ、私たちは発想を転換する必要があるのかもしれません。この上海で、この価格でSwitchが取引されていたからこそ、私たちの住む日本国内で、同じ価格でSwitchが取引されていたのかもしれないということです。

訳ありのショップへ

 多かれ少なかれ、インターネットの利便性に勝つためには、ゲームショップはインターネットが提供できないものを提供しなればならないことは事実でしょう。
 しかしそうであるからと言って、常に新しいやり方を開拓しなければいけないわけではありません。

 上海の街に生き残っているゲームショップの中には、むしろ「伝統的なスタイル」を現代風に発展させてきたことで、今も顧客を集め続けている店が存在します。

 こちらは上海中心部から1時間ほど離れた下町にあるビル。訳あって、所在を明かすことはできません。何故ならこのビルに入居しているのは、海賊版のアーケード基盤を取り扱っているゲームショップ。
 売買されているのはネット上で公開することが出来ない曰くつきのゲーム達ばかり。皮肉なことに、違法なゲームを取り扱っている店だからこそ、「インターネットでは買うことのできない商品」を提供出来ているというわけです。

 取り扱いがあるとされるゲームに、まともなものはひとつもありません。

 その多くはかつてアジアで人気を博した格闘ゲームに改変を加えた基盤です。本来は使用出来ないボスキャラクターをプレイアブルにしただけのものから、全員の性能を強化してゲームバランスを劇的に変化させてしまったものまで。
 販売されているゲームに共通点があるとするなら、それは唯一、「こんなものを買うべきではない」という事実についてだけでしょう。

 上海でゲームの海賊版が売買されていたのも今は昔。2010年に行われた上海万博の際に一斉摘発が行われ、「大自鳴沖」や「銀宮」といった主要なブラックマーケットは既に街から姿を消してしまいました。

 もちろんこの店も当局による摘発を受けて、一度は看板を下ろしたと言われています。しかし、文字通り、彼らは本当に看板を下ろしただけでした。看板も無くなってもなお、今に至るまでこうしてひっそりと営業を続けてきたのです。

 今から17年前。2000年に施行された国務院通知によって、中国ではゲームセンターの経営が厳しくなり、実に10万件ものゲームセンターが閉鎖に追い込まれる事になりました。

 正規のアーケード基盤の輸入量は激減。当時から横行していた海賊版が、国内の足りない供給を補うことになりました。今も隠れて営業を続けるこの違法なゲームショップは、そうした歴史の痕跡が、今もこの街に残っているが故のビジネススタイルなのです。

 こうした違法な商品を扱うゲームショップでは、取引を閉鎖的にする数々のアイディアによって、限られた消費者を店に呼び込もうとします。
 インターネットに情報が少ないことも、客層を絞るためのゲームショップのひとつの経営戦略。外されてしまった看板の代わりに、人々は剥がされた壁紙の跡を目印にこの店を訪ねます。
 扉から零れる光で営業中か否かを判断するというシステムも、これもまた、顧客サービスのひとつの形だと言えるでしょう。

 ネットワーク上でのゲームの売買は便利である反面、誰もが取引に参加できてしまうというリスクを抱えています。
 一方のゲームショップは、その場で顔を合わせた人間の間でしか取引が成立することはありません。市場が閉鎖的であるという事は、消費者にとって、安全に商品を取引出来ることをも意味します。
 開放的なネット通販に対し、ゲームショップが更に閉鎖的になることを歓迎する。そんな客層も、世界には存在しているのです。

 残念ながら、海の向こうからやってきた私たちは、この店の「顧客」ではありませんでした。重々しいエレベーターの扉がゆっくりと開くと、そこにはまた、さらに重々しい扉が。
 別の入り口から店に入ろうとビルの他の階をまわりましたが、扉の向こうからは光が零れているにもかかわらず、締め切られた扉には何を呼びかけても反応がなかったのです。
 つまりは、店のサービスの質を守るために、私たちは追い返されてしまったのでしょう。

 現地上海のゲーマーは、締め切られた扉を見てこう話しました。

 「最近はさらに摘発が厳しくなり、大っぴらには営業が出来なくなったのでしょう。これまでにも増して、信頼された人間でなければこの店で買い物をすることが出来なくなったということです。
 中で営業を続けていることは間違いないとは思いますが、店に入って買い物をしようとするなら電話で連絡をとって扉を開けてもらわなければなりません。信用された知り合いづてに紹介してもらう必要がありますが、どうしますか」

 世界には、入店までに何か月もの時間がかかるゲームショップが存在しています。
 店主との信頼関係を培うことで、自分が冷やかしではないことを証明しなければ、顧客として店に入ることすらままならない。

 ゲームショップに来るまでにどうせ時間がかかるのなら、むしろもっともっと時間をかけさせる事によって客層を取捨選択もできる。それは輝かしい上海の街に出来た、まさに影のビジネスだと言えるでしょう。

アーケードショップへ

 ゲームショップにわざわざ足を運ばなくても、現代の上海の街には、以前より多くのゲームが溢れるようになりました。

 ゲームという娯楽自体が中国の人々にとってより身近な存在になったからこそ、そうした違法なゲームを探し求める必要もなくなったと言うこともできます。
 そうした社会情勢の変化にあわせ、ポジティブな形でビジネスを発展させることに成功した、伝統的なスタイルのゲームショップも存在します。

 上海随一の繁華街、「南京東路」。東洋で最も華麗なストリートの近くにある曼客店游VRは、ゲームと社会との関係性の変化をうまくビジネスに取り入れたゲームショップのひとつでしょう。

 ゲームショップとは言っても、ここは所謂家庭用ゲームソフトを販売する店ではありません。PlayStation VRをはじめとする様々な最先端の家庭用ゲーム機を並べ、チケットを買うことでゲームを貸し出す時間制のゲームショップです。

 「代金を払って家庭用ゲームを遊ぶゲームショップ」というスタイルのビジネスは、中国を含むアジア圏では昔から愛され続けてきたゲームショップの形のひとつです。
 1時間だけゲームを購入するというコストパフォーマンスの良いゲームの遊び方は、今も昔も人々の心をつかんで離しません。
 しかし、ビジネスのスタイルがかつてと何ひとつ変わっていないとしても、社会の中でのゲームショップの役割は時代と共に驚くほどの変化を遂げました。

 店内に高々と掲げられた「Gamepoch 星奇点」の看板は、中国国内でPS4のゲームを専門的にパブリッシングしているGamepochが経営している店であることの証です。
 店の所在はゲームとは無縁のショッピングエリア「香港名店街」の中心部。上海の人々にとっては休日の憩いの場とも言える場所にあります。この店の存在自体が、彼らのゲームの宣伝に一役買っている公式的なゲームショップとしての性格が強いのです。

 店内の雰囲気も、ゲームショップというよりまるでバーラウンジのようです。
 人々はゆったりとしたソファーに腰かけ、人気のゲームを手に取ります。流石は中国というお国柄でしょう。ここでも一番人気を誇るのは「KOF」シリーズの最新作『KOF14』。
 海賊版「KOF」がインストールされたパソコンをレンタル出来る、ましてやひっそりと海賊版の基盤を扱うような古臭いビジネススタイルは、もはやこの場所には面影すら残ってはいません。

 プレイするのに専用の大型筐体が必要なゲームは、いくら移動に時間がかかったとしても、ゲームセンターまで行って遊ぶ方が経済的である。ネットワークが発達したこの現代においても、その法則が変わることはありません。

 ショップの「目玉」とも言えるゲームは、入り口付近に置かれた巨大なVRゲーム機の数々です。いつの時代も、巨大なゲームの筐体が軽快な音楽を発する姿に、人々は目を奪われてしまうものなのでしょう。

 中でも今この店が最も力を注いでいるのは、世界的にも注目度の高いFPS用全方位トレッドミル「Virtuix Omni」。
 全方向トレッドミルは、その名の通り全方向に進むことのできるルームランナーのような機械で、プレイヤーはすり鉢状のフィールドに滑りやすい靴を履いた状態で立ちます。
 仮想空間でどれだけゲームが白熱しても、この中でならいくら走り回っても外に飛び出てしまうことがありません。

 私たちももちろん、ゲームを体験することにしました。

 滑りやすい靴を履いた状態で、数本のベルトで身体を固定し、ヘッドマウントディスプレイを装着します。用意されていたゲームはHero Entertainmentの誇る名作FPS『全民槍戦VR』。
 当初こそ「衆目に晒されるこの場所で仮想現実に入り込むことは出来るのか?」という疑問はありましたが、始まってしまえばすぐに熱中してしまったのですから、やはりゲームの力は偉大です。

全民枪战VR(五人版)販売サイトより)

 全方向トレッドミルに限らず、こうした大型VR筐体で遊ぶゲームは、通常のゲームプレイより多くの体力を消費します。

 『全民槍戦VR』では、走る、隠れる、振り向くといった基本操作にも大きな動作が要求され、長い時間を遊び続けることはできません。
 休日の外出先で手軽に楽しむ仮想現実体験は、多くの上海人にとっても、そして私たち外国人にとっても、ちょうど良く離れた場所にゲームが存在していると言えるでしょう。

 不幸だったのは、むしろ予想よりずっとゲームが面白かったことかもしれません。
 同行していた私たちのスタッフの一人が、ゲームを終えて現実に戻ってくる際に激しく転倒。転んだ衝撃で眼鏡が直角に折れ曲がり、肋骨にヒビまで入れて帰国する羽目になってしまったのです。

 「中国語での注意が一瞬では理解できなかった」という不幸な事故なのですが、今後は中国語以外での注意にも努めると店のスタッフは息を巻いていました。

 たったひとつのアクシデントからも、サービスには多くの教訓がもたらされます。国外のゲームメディアも、中国のゲームショップに大きな注目を寄せていること。
 そうした国外の需要に対応するには、今後も更にサービスを進化させていく必要があること。

 そして、折れ曲がった自らの眼鏡を「記事のネタになる」と嬉々として撮影する日本のゲームメディアの記者たちは、若干、付き合いづらい人種なのかもしれないということです。

老舗ショップへ

「新しい方法で変化を遂げたゲームショップ」
「昔ながらのやり方で変化を遂げたゲームショップ」

 二種類のゲームショップを紹介したところで、最後にもう一軒、今度は「昔から何ひとつ変わらないゲームショップ」を紹介してこの記事を締めることにしましょう。

 そのゲームショップが今も営業を続けているのは、玉屏南路という古びた住宅街にあるアパートの一室。
 昔ながらの上海の街並みを残しているエリアで、そこでは道路に面した部屋の窓をカウンター代わりに、多くの人々が今も精力的に商売を行っています。

 そうしたお手製の店舗を利用している主要な消費者は、もちろん玉屏南路に住む地元の住人達。
 ゲームショップが存在するという情報も、SNSはおろか地図アプリにすら更新されてはいません。

 店の名前は「海鑫电子数码」。この街で20年近く商売を行っている老舗のゲームショップです。

 佇まいだけ見れば、ゲームショップというより取り壊し古い前のアパートの入り口にしか見えないかもしれません。店の敷地はせいぜい三畳程度で、一度に四人以上の客が入店したことは物理的に一度としてないでしょう。
 かつては中国全土に無数に存在していた、その街の人々に愛された身近なスタイルのゲームショップ。その、数少ない生き残りの姿です。

 ある意味では、「ゲームショップは行くまでに時間がかかる」というこの厄介な問題に対し、昔から最も誠実に対応をしてきたスタイルのゲームショップだと言えるでしょう。
 あれこれ様々なアイディアを考えずとも、最初から、この問題には最も正しい解決方法が存在しているのです。顧客が住んでいる街の近くに店を開いてしまえば、ゲームショップに行くまでの時間を物理的に短縮することは可能なのですから。

 この店の主要な顧客は、かつては近くにある学校の子供たちでした。子供たちは学校の行き帰りにゲームショップを見かけると、欲しいゲームのことを考えずにはいられなくなります。
 欲しいゲームのことを考えている時間は、どれだけ長いものであったとしても「時を忘れる」ほどに短く感じてしまうもの。
 時代が移り変わり、上海の街で次々と新しいビジネスが立ち上がる今も、古き良き戦略は今なお十分に通用しているのです。

 たった三畳のゲームショップにも、その店内には店主が施した数々の「魔法」がかけられています。

 道路から垣間見える壁に飾られているのは、子供たちの憧れである高価なゲーム機の箱。
 それに釣られて入店をすると、次に目に入るのは棚に並べられた華やかな最新のゲームソフトたち。
 奥に目を向けるほどに旧作が敷き詰められていくその陳列は、ショップに吸い込まれるかのような錯覚に見ている者を陥らせるでしょう。

 ゲームコレクターたちは稀に、ゲームショップを物色することを考古学者のような口ぶりで語ることがあります。気取った言葉を使っているようにも思いますが、実際、こうした古いゲームショップでは、店の歴史を探ることそれそのものが店を楽しむための魅力のひとつにもなります。

 店主に声をかけて棚を整理してもらうと、奥から表れたのはレトロなゲームソフトの山。色褪せてはいますが、全て中国製の海賊版ファミコンカセットです。

 上海の街に専門的な「ゲームショップ」があらわれはじめたのは1993年ごろ。その当時の上海人の月給はおよそ500元程度と言われており、一方国営ショッピングセンターで販売されていた輸入品のゲームソフトは1本300元を超える高価な商品でした。

 そうした供給のギャップを狙って生産されたのが、安価なファミコンソフトの海賊版。上海の街に今なお残るゲームショップには、そうした供給の担い手となってきた長い歴史があります。

 遠い海外からゲームを輸入するよりも、身近なゲームショップで海賊版を買ったほうが早く遊べる。海賊版が時代遅れになると、次に彼らが手を出したのがディスクのコピーです。
 遅い通信回線でファイルをダウンロードするよりも、身近なゲームショップでディスクをコピーして貰った方が早く遊べる。そしてディスクのコピーが時代遅れになった現在、ついにこうした小さなゲームショップでも、正規品が扱われることは珍しくなくなりました。

 しかしながらディスクのコピーが時代遅れになったという事は、裏を返せば、身近なゲームショップが「ゲームを遊べるまでの時間の短さ」という優位性を失ってしまった事にほかなりません。
 中国という国には、正規品のゲームが流通する時代とほぼ同時に、ゲームがネットワーク上で取引される時代が訪れました。ゲームショップがどれほど物理的に顧客の身近にあったとしても、回線を通じて移動するデータに時間で勝つことはできません。

「消費者は何を求めてゲームショップに足を運んでいるのか」

 上海では今、そうした根源的な問題が、改めてゲームショップに突きつけられています。

「この店も、いつまで営業できるかは分かりません」

 店主の女性は、自らの店の現状をそう評します。玉屏南路は古い住宅街であり、老朽化した建物の建て替えが急速に進められているエリアです。以前はこの場所で他にもいくつかのゲームショップが営業していたそうですが、入居していたアパートの建て替えとともにその行方は分からなくなりました。
 上海は中国で最も先進的な街であり、街並みは常に新しく生まれ変わっています。この店が入居している建物も、老朽化による改修の最中にあります。

 以前と比べて売り上げが伸び悩んでいることも、彼女が頭を悩ませている問題のひとつです。家庭用ゲーム機が高価な嗜好品である状況は、今も昔も大きく変わっていません。
 中国でもようやく家庭用ゲームの現地販売が幕を開けましたが、ゲーム市場の主役はやはりスマホのゲームとPC向けのオンラインゲーム。海賊版の家庭用ゲームに大きな需要があった以前と比べて、むしろパッケージソフトの市場は縮小したとさえ言えます。

「また上海にやってきます、その時まで営業を続けていてください」

「はい、またよろしくお願いします」

 日本からやってきた奇妙な客に対し、彼女は笑顔でそう約束してくれました。現在中国各地では零細ゲームショップの閉店が相次いでいると言われています。
 ネット通販に顧客を奪われてしまった。ダウンロード専売でのゲームが増えている。どれだけゲームショップが顧客の近くで営業していても、最早インターネット以上に顧客に近づくことは出来なくなってしまった。それは確かに、ひとつの事実なのかもしれません。

 しかし、ゲームショップが私たちの近くに存在するということは、何も私たちの間の物理的な距離ばかりを意味しているのではありません。ダウンロード販売にすら「時間がかかる」と不満が呟かれる現代においても、一部の消費者グループは現地まで足を運ばなければならない「時間のかかる」ゲームショップでの買い物を好みます。

 私を含む大勢の人々は、ゲームショップという場所それ自体を、自らの居場所として捉えているからです。

 今なお多くのゲーマー達がこの店に足を運ぶのは、この店が流行の最先端のゲームを扱っているからでしょうか? いいえ、それではおそらく違うでしょう。
 この店が他では売っていないようなゲームを扱っているからでしょうか? いいえ、それもおそらく違うでしょう。
 この店がたまたま私たちの一番近くで営業していたゲームショップだから、それが理由で私たちはこの店に訪れているのでしょうか? いいえ、もちろんそれも違うでしょう。

 何もかもが目まぐるしく変わり続けるこの上海において、あるいは激動する中国社会、果ては世界全体を見渡してでさえも。
 十数年もの間、変わらずに居場所を私たちに提供してくれた伝統的な中国のゲームショップは、もう、随分と少なくなってしまったからです。

 中国最大の都市、上海。国際都市として名高いこの街は、歴史上、常に東洋と西洋の最先端を走る文化の中心地として発展を続けてきました。流行に敏感な上海人達が暮らすその街並みは、多くの革新的な試みと伝統的なスタイルが同居していることが特徴です。
 この小さな小さなゲームショップは、今、革新的ではない商売として上海の街から姿を消すのか、伝統を守る最後の灯火として上海の街に受け入れられるのか、その狭間に揺らいでいます。

 ゲームショップ。

 私たちゲーマーにとって、そこは時を忘れる不思議な空間です。古びたワゴンに華やかなショーウインドウ、所狭しとゲームが並べられた棚、棚、棚。
 一見雑多なようにも思えるその店内には、一度迷い込んだら瞬く間に時間が過ぎ去ってしまう魔法がかかっています。

 こうしている間にも、世界では人々を惹きつける様々なゲームショップが生み出されていることでしょう。
 時には新しいゲームとの出会いの場として、時には懐かしいゲームとの再会の場として、ゲームショップは今もなお、私たちゲーマーの居場所となってくれています。

 時間をかけてでも行くべき世界のゲームショップ。今回は、5時間の時を忘れさせてくれる魔法がかけられた、そんな素敵なゲームショップをご紹介しました。
 東京から1765km、アジアの誇る国際都市「上海」にも、私たちの居場所は確かに存在したのです。

【あわせて読みたい】

 

共産党が“国辱”の烙印を押した70万円のゲーム、生ゴミ臭い『E.T.』など──小説家・赤野工作の「低評価ゲームコレクション」はビデオゲームの“裏・歴史博物館”だった

 電ファミでは赤野工作氏が「低評価ゲーム」を語るイベントのレポートも掲載しております。赤野氏の(文字通り)香ばしいコレクションと深すぎる愛のトークを、ぜひお楽しみください。

関連記事:

【対談:「ゲームキッズ」渡辺浩弐×赤野工作】「そのゲームが面白くないなら、遊んでるヤツがつまらない」ゲームレビューの文学性とメタフィクションの可能性とは?

「基本無料、アイテム課金は嫌い」な中国インディー開発者が語る“苦悩”。コンシューマ市場が1%未満な世界でのゲーム文化のリアル【中国ゲーム事情レポ】

著者
ゲームストリーマー。『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』で作家デビュー。ゲームコレクターとしても活動しており、ニューメキシコ州はアラモゴードに実際に埋められていたATARI 2600の『E.T.』や、中国で国辱と呼ばれているMS-DOS用ソフト『血獅』などを所有。古今東西の低評価ゲームを探しては再評価する活動を続けている。
Twitter:@KgPravda
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

SNSで話題の記事

新着記事

新着記事

連載・特集一覧

カテゴリ

ゲームマガジン

関連サイト

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ