『人食いの大鷲トリコ』は、リアルな描写に吸い込まれそうなゲームだ。なかでも廃墟から外に出たトリコが、明るい光を浴びながら、羽毛を風に吹かれる場面が美しい。このゲームの世界に、自分も行ってみたいと思った。
トリコは大鷲の名の通り、全身は羽毛に包まれ、背中には小さいながらも翼がある。ところが、4本の足で歩き、長い尻尾を持つ。鳥類と哺乳類の両方の特質を備えているのだ。そして何よりデカイ。明らかにアフリカゾウを上回る!
ゲームは、主人公の少年が、見覚えのない廃墟で目覚めるところから始まる。そしてトリコに気づくと、体に刺さった槍を抜き、鎖のついた首輪を外し、エサの入った樽を運んでやる。こうして心を通わせていくのだが、あまりにも勇敢ではないだろうか。筆者なら、トリコを見た瞬間、腰がスッポ抜けると思います~。
この勇気ある少年のように、トリコの世話をすることは、どれほど大変なことなのか。それは、トリコがどんな生物かによって、大きく変わってくるだろう。
ティラノサウルスよりデカイ!
まずは、トリコの大きさを求めよう。
少年がトリコと向き合ったシーンで測ると、トリコの頭頂から顎までの長さは、少年の身長の1.7倍もある。少年は10歳ぐらいに見えるから、その身長を10歳男児の平均に近い140cmとすると、トリコの頭頂から顎までは2.2m! 同じぐらいの高さのものを探すと、大型の2tトラックの運転席の屋根がそれに近い。つまり、頭部だけで2tトラックほどもある!
すると、全身はどんな大きさなのか。トリコの全身が映った場面で同様の計算をすると、頭からお尻までの「頭胴長」が13m、肩の高さが6m、尻尾の長さが8m。アフリカゾウの最大個体でも頭胴長は7.5mだから、その2倍に迫る!
恐竜と比べると、どうか。ティラノサウルスは最大で体長13mだったと言われるが、それは尻尾まで含めた「体長」だ。トリコは頭胴長だけで、ティラノサウルスと同じ大きさがある!
では、体重は? トリコは全身が羽毛に包まれているが、足が4本あり、全体のフォルムはオオカミに近い。オオカミは、大きなもので頭胴長1.6m、体重50kg。もし、頭胴長13mのオオカミがいたとして、トリコの体重がそれと同じだったとすれば、仰天の24tである! ティラノザウルスは最大で7tと推定されているから、その3倍を超える。トリコが実在したら、地球史上最強の陸上動物と恐れられるだろう。
1日に必要なエサの量もスゴイ!
この巨体で、エサはどのくらい食べるのか?
トリコの目は、顔の正面についている。これは獲物までの距離を目測するのに適した、肉食動物の特徴だ。おそらくトリコは肉食で、あの樽にも肉が入っているのだろう。
肉食となると、ますますオオカミが参考になる。トリコの体重はオオカミの480倍だが、オオカミの480倍も食べるわけではない。動物の体が大きいほど、体重に比べてエサの量は少なくなるのだ。体重が480倍の場合、エサの量は100倍ほどと考えられる。野生のオオカミは、1日に6kgの肉を食べるから、トリコはおそらく1日に600kgぐらい食べるだろう。
その場合、エサの樽はどれくらい必要なのか? 樽の各部のサイズや、ギリギリで水に浮かんでいた点などから計算すると、樽の内容量は60kgと推定される。1日に600kgを食べるトリコの場合、この樽が1日に10個は必要ということだ。
樽はマップのあちこちに置いてあり、周りを青いチョウがヒラヒラ舞っていた。少年は、このシステムに感謝したほうがいいと思う。肉牛1頭からは平均370kgぐらいの肉が取れる。もし樽がなかったら、少年はトリコにエサをやるために、毎日肉牛クラスの動物を2頭ほど倒さねばならなかった! よかったなあ、樽があって。
少年が強すぎる!
『トリコ』でもう1つ驚くのは、少年の身体能力が半端ではないことだ。
まず、10歳の少年が重量60kgの樽を運べる時点ですごい。10歳男児の平均体重は33kgだから、これは70kgの成人男性が127kgの荷物を運ぶようなもの。しかもアキレることに、この少年、一度に樽を2つ運ぶことさえある! これは大人が一人でピアノを運ぶようなものであり、驚天動地の怪力だ。
持久力にも目を見張る。ゲームが進行しているあいだじゅう、ずっと走っているか、壁や鎖を登っているか。とにかく、休むことを知らないのだ。
高いところから飛び降りても平気である。筆者が確認できたなかでは、廃墟の高いところから飛び降りて、着地するまで1.2秒かかっていた。『トリコ』の舞台が地球とするなら、落下にこれだけの時間がかかる高さとは7mである!
さらに、少年がトリコの頭に乗っていたとき、トリコが頭を左右に振ったため、ブン回されて、片手で羽毛をつかんだ状態で体が水平になるシーンがあった。心の通った2人がじゃれ合っているようにも見えるが、この光景の実態は、そんな生易しいものではない。振り飛ばされなかったということは、この少年、握力が92kgもあったはずなのだ!
『トトロ』のメイと、どっちがスゴイ?
大きな動物との心の交流と言うと、思い出すのは『となりのトトロ』だ。
筆者の測定によれば、この森に昔から住んでいる不思議な生き物は、身長2m53cm、体重2.2t。トリコよりは小さいが、体重は、わが国に生息するなかで最大の陸上動物・エゾヒグマの10倍もある! 4歳のメイは、この巨獣が昼寝をしているのを見つけると、怖がるどころか、喜んで接近していった。うひょ~っ、これも筆者にはできません!
この恐れを知らぬ幼女がもっとも危なかったのは、トトロの尻尾に飛びついた直後。トトロが寝返りを打ったため、尻尾の先端につかまったまま、大きくぶん回された!
アニメの画面で測ると、メイはトトロの体の中心を回転軸に、半径1.8mほどの円運動をしている。これに、胴の直径が1.5mもあるトトロが転がる運動が加わって「トロコイド」と呼ばれる複雑な曲線を動いたはずだ。おお、トトロでトロコイド!
喜んでいる場合ではない、計算すると、メイが動いた距離は10mにも及ぶ。要した時間は1.8秒。この場合、最高点を通過するときの最大スピードは時速47km。もしここでメイが手を離したら、原チャリならスピード違反となる速度でぶっ飛ばされたはずなのだ。
同時に、体重の3.7倍、すなわち3.7Gの遠心力を受けたはず。メイの体重を4歳女児の平均と同じ16kgとすると、遠心力の強さは59.2kgだ。彼女は両手でつかまっていたから、その半分の29.6kgの握力が要求されたはず。
いくら心が優しい動物でも、それが巨大な場合は、心を通わせるのに『トリコ』の少年やメイぐらいの超人的な体力が必要ということだ。筆者が『トリコ』や『トトロ』の世界に行ったら、1分ともちません。【了】