8月15日、経済金融を専門とする米国の情報メディア「ブルームバーグ」が、中国の規制当局がゲームライセンスの承認を凍結したとのニュースを報じた。ブルームバーグが事情に詳しい複数の関係筋から確認したという。
ブルームバーグは、今回の規制が政府機関の間での権限見直しや機構革命による人事の刷新を受けた措置であると報道。
関係者のひとりは、機関が暴力や賭博といった表現に懸念を抱いているためのものだとも伝えているという。中国では国家広播電視総局が約4ヵ月にわたり認可を出しておらず、また文化観光省がゲーム登録の手続きを厳格化しているそうで、こういった実情が徐々に関係者の間で浮き彫りとなっていったようだ。
今回の凍結は国外の企業のみならず、中国のオンライン業界の最大手テンセントから、小規模開発のデベロッパーにまで、オンラインゲームやモバイル、コンソールを問わず向けられているとブルームバーグは伝えている。
ブルームバーグがこのニュースを報道したあとにさらに追加されたレポートでは、カプコンやコナミ、さらにはテンセント(香港株式市場)、上海のBilibili、米国のNeteaseなど、国籍に関係なく多くのゲーム企業の株価が急落したと記されている。このような事態は2017年3月にもあり、中国が韓国製ゲームの審査を中断したとの報道のあと、ネクソンが大幅安を記録したこともあった。中国においては不透明な状況下で規制あるいは緩和が行われることは珍しくない。
ただし、巨大な市場に比例して、同国機関の舵取りは大きな波風を生む。今回はほぼすべてのビデオゲームが対象となっていることが予想されるため、より大きな不安材料となって株式市場に影響を与えているようだ。
そもそも中国におけるゲーム販売は米国や日本と比較して複雑で、国外のゲーム企業は中国のパブリッシャーと契約したり、あるいは中国のデベロッパーにIPやアセットを譲渡して開発させなければ、ゲームを販売することはまず不可能であるという状況にある。数年前までは外国製のゲーム機の販売すら許されておらず、2014年に審査制度が変更され解禁はされたものの、それ以降もゲームソフトを販売するには状況が刻々と変わっていくなかで中国政府機関の審査を受ける必要があった。
今回なぜその審査が凍結状態となったのか? 今回のブルームバーグの報道では、中国政府機関の権限やリーダーが変化していく中で、官僚たちがリスクを冒し新しい措置を取ることに消極的でもあったと伝えている。これはつまり、政府が意向する「中国国民に悪影響を与えないゲーム」の監視を、今後どのようにするかを決めあぐねているということのようだ。
中国においてはどのようにゲームが規制されているのかは、Made with Unityにてジャーナリスト宣科氏が記した記事に詳しい。中国にはレーティング機関は存在せず、いわゆるCEROのような年齢別に適切なゲームを提示するのではなく、“国民生活に害になる情報を阻止する”ことが審査の目的となっている。
ゲームの内容や表現に関して、中国ではレーティング組織が存在しないので、内容審査の目的は他国のような「各年齢層のユーザーに相応しい内容を届ける」のではなく、「国民生活に害になる情報を阻止する」ことである。その「害になる情報」の定義に関して、現在明確化された条例は下記の通りである。
1.ギャンブルに関する内容。
2.「中華人民共和国憲法」に反する内容。
3.中国国家の主権と領土の完全性を侵害する内容。
4.中国国家の名誉、安全、利益を害する内容。
5.中国民族、人種を差別する内容、民族の伝統文化に害する内容。
6.中国の宗教政策を反する内容、邪教や迷信を宣伝する内容。
7.暴力、性、ドラッグ、ギャンブルを宣伝する内容。
8.公衆道徳や中国の文化伝統を害する内容。
9.人格、人権を侵害や中傷する内容。
10.他の法律に反する内容。
なお8月13日には、テンセントのPCゲームプラットフォームWeGameにてPC版『モンスターハンター:ワールド』の販売が停止となったことが報じられていた。『モンスターハンター:ワールド』は予約で100万本を超える好調っぷりが伝えられていたが、中国政府が定める規制に準じていないため販売停止が要請されたとのこと。今回の報道と照らし合わせると、やはりゲーム内容の審査においてなんらかの問題があったのではないかと考えられる。
大きなビデオゲーム市場を持ちながらも依然として実情やその先が読めない中国。Valveが「Steam China」のローンチを目指すなど大小さまざまな企業が進出を目指す国だけに、今後も長引けば強い影響が残りそうだ。
文/ishigenn
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