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カワイイ地縛霊が住民の過去に介入して異変を起こすゲーム『事故物件だよ!うらみちゃん』が目指したのは「00年代のゲームにあった『ワクワク感』の再現」。『UFO』や『ROOMMANIA#203』をオマージュした、新たな“住人見守りゲーム”が誕生

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6月23日、あるゲームが突如発表され、インディーゲーム界隈にちょっとした衝撃が走った。

そのタイトルの名は『事故物件だよ!うらみちゃん』。衝撃が走った理由はいくつかあるが、そのうちのひとつがゲーム画面から伝わってくる、ウェルメイド感とでも言うべきクオリティの高さだ。

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(画像は『事故物件だよ!うらみちゃん』Steamストアページより)

もうひとつの理由は、本作のキャラクターデザイン兼アニメーションを担当されているのがシガタケ氏であるという点。シガタケ氏といえば、ヴァニラウェアに所属し『オーディンスフィア』『十三機兵防衛圏』『ユニコーンオーバーロード』など数々の作品でグラフィックやアニメーションを担当した、歴戦のグラフィックデザイナーである。

このタイトル、なにかある。そう直感した電ファミ編集部は、本作を制作しているインディーチーム「Minimum Box」にコンタクトを取り、開発者であるおじびー氏へのインタビューを敢行。

『うらみちゃん』制作陣はいったい何者なのか? 『うらみちゃん』をどのような作品にしようとしているのか? など、発表時から誰もが気になって仕方なかったであろう部分を深掘りすることができた。

開発者であるおじびー氏によると、本作は『UFO -A day in the life-』『ROOMMANIA#203』といった2000年前後の意欲作をオマージュし、当時おじびー氏を始めとしたユーザーが感じた「ワクワク感」の再現を目指しているという。

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またインタビューのなかでは、おじびー氏とシガタケ氏の並々ならぬ関係性が明らかとなった。なんと、その縁は20年以上前の2005年まで遡る。

当時のインターネットの一部では、シガタケ氏が2003年に激辛トウガラシ「ハバネロ」を元にデザインしたキャラクター・ハバネロたんが人気を博していた。そして、そんなハバネロたんの二次創作ゲーム『ハバネロたんハウス』を制作したのが、本作のディレクターであるおじびー氏だったのだ。

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(画像はハバネロたん関係│ハバネロたん4コマ 第03話(2003.12/28)より)

ネットの掲示板文化華やかなりし頃、片やイラストレーター、片や二次創作者という立場だったふたりは、後に『くまたんち』というゲームをともに制作することとなる。

そして、2025年。『ハバネロたんハウス』20周年という記念すべき年に、おじびー氏とシガタケ氏がふたたびタッグを組み、世に送り出そうとしていたのが、本作『うらみちゃん』だったのである。

この経緯だけでも当時のネット文化に詳しい読者諸賢にとっては垂涎のネタであろうが、本作はただの「懐かしい人たちの同窓会」では留まらない。「コンパクト」というテーマを掲げ、少数精鋭・短時間開発を前提にしつつも、人の少なさや期間の短さを言い訳にしない、しっかりとした作品を作り出しつつある。

今回のインタビューでは、『うらみちゃん』開発のきっかけや、作品の目指した形。ゲームの配信時期から想定プレイ時間に至るまで、本作にまつわるさまざまな内容をお聞きしているので、最後まで読んでいただければ幸いである。

聞き手/TAITAI実存
文/うきゅう


オマージュしたのは『UFO』や『ROOMMANIA#203』といった「意欲的かつ挑戦的だった、ワクワクするような2000年頃の日本ゲーム」

——『うらみちゃん』のデモ版をプレイさせていただき、「時間軸に沿って動くNPC、その行動に干渉する不可視の存在、そして干渉によって変化する物語」といった要素から、『UFO -A day in the life-』を思い出しました。制作チームとしても、過去のゲームを意識はされていたんでしょうか。

おじびー氏:
『UFO -A day in the life-』や『ROOMMANIA#203』といったキャラクターを見守りその物語を読み解くタイトルは、本作のオマージュ元のひとつです。

個人的に、2000年頃の日本のゲームは意欲的かつ挑戦的な作品が多く、ワクワクする時代だったという印象が強く、本作の制作にあたっても大きな影響を与えています。

——やはり意識されていたんですね。では、そういった既存のタイトルと比べて、本作の独自性はどういった部分になるのでしょうか。

おじびー氏:
いま名前を挙げたタイトルと本作を比べるのはおこがましい気もしますが、私としては独自性を追求するよりも、むしろ「本家の魅力をより分かりやすく再現したい」という思いで制作しています。

一方で、ただのリスペクトゲームというわけでもありません。特徴的な部分をあげるとすると、本作では冒頭から見守り対象のキャラクターである「野呂井さん」がある事件に巻き込まれる形で死んでしまい、主人公であり地縛霊の「うらみちゃん」が、野呂井さんの過去へ介入する形で事態を変化させようとします。

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——「何が起きるのかを見届けるゲーム」というよりも、「起こってしまったことを変えるゲーム」としてデザインされているわけですか。

おじびー氏:
はい。また、個人的にこだわっているポイントとして、野呂井さんが部屋で見ているテレビの内容には、1988年12月当時に実際に放送されていた番組表が部分的に反映されています。もちろんすべてが同じというわけではないのですが、もし当時の番組表をお持ちの方がいれば、彼女がどんな放送を見ているのか分かるかも知れません。

また、テレビ放送は単なる小ネタではなく、さりげなく伏線を織り交ぜている部分もありますので、プレイする際にはちょっとした注意を払ってもらえると嬉しいですね。

——デモ版をプレイした範囲では、ゲームの舞台は野呂井さんの暮らすワンルームがメインとなっていました。本作はストーリーの最後までワンルームで完結する構造なのでしょうか? それとも、ゲームの進行にともなって新しいステージなども登場しますか?

おじびー氏:
基本的にはワンルームで物語が完結する構造になっています。場所が変わらない分、物語の展開にあわせて家具が増えたり、部屋に猫が住み始めるなど、内部の変化によってバリエーションを付けていきたいと考えています。

また、本作の舞台であるワンルームはうらみちゃんと野呂井さんを繋ぐ役割も持っているので、「舞台がワンルームである」ということにも特別な意味を持たせようと考えています。

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——「短い期間で作る」というコンセプトやワンルームで完結する作品構造から考えると、作品としてもコンパクトにまとまった内容となりそうですが、プレイ時間の想定やメインキャラクターの規模などはどの程度になりそうですか?

おじびー氏:
本作の物語では、6人のメインキャラクターが登場します。また、ストーリーの上ではさらに数人のキャラクターが登場し、それぞれの背景設定が絡み合っていきます。

ゲームとしては、12月の一か月間をうらみちゃんが周回することでストーリーの展開が変化していき、この1回の周回につき、ゲーム内時間で約3分を想定しています。また、不条理なやり直しなどは避けようと考えていて、全体ではおよそ6時間のプレイ時間で楽しめるゲームを予定しています。

ただ、制作中にボリュームが増えてしまうことはよくあるので、最終的なプレイ時間はもう少し長くなるかもしれません。

『うらみちゃん』制作のきっかけは、2005年に発表された二次創作ゲーム『ハバネロたんハウス』。20周年の節目に、「シガタケ×アシナガおじさん」がまさかの復活!

——『うらみちゃん』は6月に突如発表され、すでにインディーゲーム界隈ではちょっとした話題となっています。X上でも「あのヴァニラウェアのシガタケさんがキャラデザを担当しているのか」と注目が集まっているタイトルですが、おじびーさんとシガタケさんはどのようなご縁で一緒にゲームを作ることになったのでしょうか?

おじびー氏:
そもそものきっかけは、2005年に私が同人サークル「アシナガおじさん」として制作したゲーム『ハバネロたんハウス』まで遡ります。これはもともと、シガタケさんがネットで公開していた4コママンガのキャラクターで、有名な激辛唐辛子「ハバネロ」を擬人化した存在・ハバネロたんの二次創作だったんですね。

私は1980年代に発売された『リトル・コンピュータ・ピープル』という、画面のなかの少女が生活するのを観察するというゲームが好きだったので、「ハバネロたんのさまざまなシーンを収録したゲームが作りたい」という思いで『ハバネロたんハウス』を作りました。

二次創作ということもあり、シガタケさんには見つからないだろうと思っていたら、ある日突然メールが届いて、なかを見ると「シガタケです」と(笑)。

そこから交友が始まり、光栄なことに2008年には『くまたんち』という、これもまた箱庭系のシミュレーションゲームを一緒に制作することもできました。

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(画像はくまたんちHP素材 アーカイブより)

——実に20年以上の親交があったわけですね。

おじびー氏:
そうなんです。ある日、シガタケさんとの会話のなかで「2025年は『ハバネロたんハウス』の20周年だね」という話になり、またああいう箱庭型のゲームが作りたいなという欲求が生じて、その熱に浮かされるようにして制作をスタートしました。

シガタケさんからは「『くまたんち』の時からもう15年以上経っているから、あの頃のように一心不乱では作れないですよ」と言われていたんですが、結局シガタケさんは当時と同じ情熱で作業をしてくれています。ありがたい限りです。

——そんなおじびーさんとシガタケさんが結成したインディーチーム「Minimum Box」には、ほかにどのようなメンバーが参加しているのでしょうか。また、チームとしてゲーム制作をしていくうえでの方針として、なにか決めているものはありますか?

おじびー氏:
Minimum Boxは、私とシガタケさんを含めて4人のコアメンバーで構成されています。ひとりはプログラマーで、ひとりは背景を担当してくれています。

Minimum Boxとしては、とにかく「コンパクトにゲームを作ろう」という話をしていますね。メンバーも必要最小限ですし、開発期間としても何年も掛けてじっくり出すというよりは、短期間で作り上げることを目標にしています。

——「開発期間は短く」ということですが、具体的にはいつから開発をスタートし、本作の発売時期としてはいつごろを予定しているんでしょうか?

おじびー氏:
本作の開発が動き出したのは2024年の11月末ですね。発売に関してはSteamストアページに記載している通り、2025年の第4四半期に出すことを目標に取り組んでいますが、ひとまず7月18日から20日にかけて出展中のBitSummitでユーザーさんに試遊していただいて、その反応も見たいというのが本音ですね。

ヴァニラウェア・シガタケ氏が手掛ける圧巻のアニメーションを刮目せよ!

——『うらみちゃん』はキャラクターのアニメーションが非常に可愛らしく、魅力的だと感じます。制作チームとして、アニメーションやキャラクターデザインにこだわった部分があれば聞かせてください。

おじびー氏:
実は、本作の企画当初は少しホラー要素を入れる予定でした。ですが、制作を進めるうちに「可愛さ」や「お茶目さ」をテーマとすることにして、現在の形へと変化しました。

うらみちゃん以外のキャラクターに関しては私がデザインをおこない、シガタケさんに全体をリファインしてもらっています。シガタケさんのキャラクターアニメーションには昔から定評がありますし、『くまたんち』の時と同様、私としても非常に満足しています。

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それどころか、シガタケさんの出してくる成果物がすごくいいものなので、私としても「負けられない!」と奮起して、ゲーム制作全体にさらにこだわって作っている感じですね。

——『うらみちゃん』は6月下旬に突如、BitSummitへの参加発表やSteamストアページの公開をおこないましたが、すでにいくつものゲームメディアが取り上げ、インディーゲームの界隈でも話題となっています。開発陣へ届いた反響としてはどのようなものがありますか?

おじびー氏:
本作を知っていただいた方からは、冒頭の質問でもあったように、「『UFO -A day in the life-』だな!」とか、「『ROOMMANIA#203』と『ゴーストトリック』の合わせ技一本!」などの反応をSNSを通じていただいています。

どれも私が大好きなゲームなので、本作のオマージュ元としてそういった作品を感じていただけているようでとても嬉しいです。個人的な願いになりますが、オマージュ元作品の復活をずっと心待ちにしていますし、新作をぜひプレイしたいと思っています!(了)


2005年、好きが高じて二次創作ゲーム『ハバネロたんハウス』を制作したおじびー氏は、20年経っても当時と変わらず、自身の「好き」を全身で表明するようにして、『うらみちゃん』を制作している。

そんなおじびー氏が、シガタケ氏らとともに4人で結成したチーム「Minimum Box」として鋭意制作中の本作は、2025年7月18日より京都市勧業館・みやこめっせにて開催中のインディーゲームイベント「BitSummit the 13th」にプレイアブル出展をおこなっている。

興味のある方は、ぜひイベント会場へ足を運び、おじびー氏の「好き」の結晶を体験してみてはいかがだろうか。

編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest

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