今年1月に発売された『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』。
プレイヤーはエースパイロット「トリガー」となって、無人機が主体の未来の戦争を体験する。「空の変革」をテーマにした12年ぶりのナンバリング作品であり、天候のリアルタイム描写によって、雲や気流、落雷が戦闘機に影響を及ぼす新システムが搭載。世界中で根強い人気を誇るシリーズの最新作は高い評価を受け、日本を代表するフライトシューティングゲームのひとつとなった。
その本作のブランドディレクターである河野一聡氏が、同作の制作にまつわる苦難の道をTwitterで綴っている。
エースコンバット7は、12年ぶりのナンバリング。
— Kazutoki Kono : 河野一聡 (@kazutoki) March 6, 2019
発案してから2年眠った。
「F2P最優先」の大号令があったから。
幸いにもインフニティは4年半応援されて、その間にチームは新しいハードであれば、7が実現できると確信できた。
でも創り初めて一度は死んだ。見てくれだけのものだったから。
「エースコンバットのナンバリング」を、ずっと待ち続けて、望んでいただいたファンの皆様に、
— Kazutoki Kono : 河野一聡 (@kazutoki) March 6, 2019
届けられるものではなかった。
とても辛かった。苦しかった。
でも、止めるだけは避けたかった。
PSXで発表された時にファンの方々の
叫び声が耳にこびりついていたから。
やり直さなきゃ。だった。
『仕切り直そう』って決断した。
— Kazutoki Kono : 河野一聡 (@kazutoki) March 6, 2019
ファンの皆様の為とは言え、
会社、いや、関係する全ての人々に、
とんでもない大迷惑をかけた。
何度も頭を下げ、膨大な量の資料を作り、説得、お願い、説明、
プレゼン、ありとあらゆる、
動いて、喋って、前に進むためだけに、狂っていた。
一昨年のクリスマス。
今回のツイートでは赤裸々にその内情が明らかにされており、たとえば『エースコンバット7』の開発はもともと海外スタジオが担当していたものの、それを途中で止めて内製で作り直したほどの大きな変更があったいう。ほかにも、『エースコンバット インフィニティ』以前から企画が存在していたことが初めて伝えられている。
河野氏の一連のツイートから『エースコンバット7』の開発状況を推測してみよう。まず「発案してから2年眠った」とあるが、発案した具体的な時期が示されていないので、推測の域は出ないが、前作に当たる『エースコンバット アサルト・ホライゾン』の発売は2011年10月である。そのことを考えると、おそらくその前後か、翌年の2012年の早い段階に『エースコンバット7』の企画が発案されたと考えるのが自然だろう。
しかし”F2P最優先の大号令”によって『エースコンバット7』の開発はここでは見送られたことが示唆されている。基本プレイ無料の『エースコンバット インフィニティ』の開発が優先されたということだ。そして約2年間の開発期間を経て、同作は2014年5月から配信が開始。おそらく、その配信時期の前後から『エースコンバット7』の開発に着手し始めたのだろう。そして『エースコンバット7』は、2015年12月に開催されたPlayStation Experience 2015で初めて発表される。
※『エースコンバット7』発表(1:32:24から)
PSXの連続出展をネタに笑われることもあった。
— Kazutoki Kono : 河野一聡 (@kazutoki) March 6, 2019
ホントに飛ぶのか?って冗談にされた。
でも、その間にもしっかりと
VRという可能性を手に入れた。
でも、それも最初は失望の塊のようなデキだった。
もう何もかも、苦しいだけの日々があった。
僕もチームもゴールが想像できなくなっていた。
『仕切り直そう』って決断した。
— Kazutoki Kono : 河野一聡 (@kazutoki) March 6, 2019
ファンの皆様の為とは言え、
会社、いや、関係する全ての人々に、
とんでもない大迷惑をかけた。
何度も頭を下げ、膨大な量の資料を作り、説得、お願い、説明、
プレゼン、ありとあらゆる、
動いて、喋って、前に進むためだけに、狂っていた。
一昨年のクリスマス。
『エースコンバット7』は、その翌年のPlayStation Experience 2016でも出展されているが、海外スタジオによる開発は満足のいく品質にはならなかったようだ。仕切りなおそうと決断したのが2017年末。内製として新たに開発が本格化したのが2018年初頭ということになるのだろう。このように考えると、『エースコンバット7』の開発期間は、4年と数ヶ月以上に渡ることになる。
河野氏と『エースコンバット』の関係
あらためて『エースコンバット』シリーズと河野氏の関係性を振り返ろう。河野氏が初めてシリーズに携わるのは、1997年の『エースコンバット2』から。そのころ河野氏は『リッジレーサー』のチームに所属しており、『エースコンバット2』では、マップを修正するスタッフとして急遽、助っ人的に参加した。
『エースコンバット3』では『R4 -RIDGE RACER TYPE 4-』を制作をしていたため携わらなかったが、『エースコンバット04 シャッタードスカイ』で再び合流し、アートディレクターとしてグラフィック全般を監修した。以後も『エースコンバット』シリーズを象徴するエンブレムなど多くのデザインを手掛けている。
さらに河野氏は『エースコンバット04』において、シリーズに決定的な変革をもたらすことになる。それが河野氏が発案した架空世界「ストレンジリアル」である。
河野氏:
現代のみんなが実際に見たことある風景の中に、異様なものをぶつけてインパクトをだそうと。(中略)実は、厚木基地へロケに行ったとき、駅のホームで戦闘機が飛ぶのを見たんです。そのとき、普段よく目にしている風景の中に想像もよらないものが現れると、こんなに衝撃を受けるんだって思いました。[『エースコンバット04 シャッタードスカイ』公式ガイドブックより]
完全なファンタジーの架空世界ではなく、現実の世界史・国際情勢を彷彿とさせる架空世界、それが「ストレンジリアル」だ。『エースコンバット04』ではハードがPSからPS2に変わり、チームは新しいことに挑戦する機運に包まれていたという。河野氏は「すべてを変える」とスタッフの中でも最初に発言したほど、『エースコンバット04』に熱意を示していた。
この河野氏発案のストレンジリアルの設定からリアリズムを重視する方向性が決まり、航空自衛隊に協力を要請。戦記にも詳しい片渕須直監督がサイドストーリーの演出・脚本を担当し、作品に深みをもたらした。河野氏は引き続きシリーズの主導的な役割を担い、『エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー』ではディレクターを務めている。
だが、『エースコンバット』シリーズも順風満帆にはいかない。PSPで発売した『エースコンバットX スカイズ・オブ・デセプション』から、Xbox360で発売した『エースコンバット6 解放への戦火』の時期には、シリーズが長く続いたため古いファンと、新規ユーザーの両方にとって理想の作品を届けるのが戦略的に難しいという判断が生まれてきた。そこで『エースコンバット アサルト・ホライゾン』のように想定するターゲット層を変えたり、『エースコンバット インフィニティ』は新規のプレイヤーでも気軽に触ってもらう基本プレイ無料の作品として多角的に展開した。
こうして12年ぶりにストレンジリアルの設定を用いた据え置きナンバリングタイトル『エースコンバット7』が発売される。シリーズを刷新した河野氏だがらこそ『エースコンバット7』には並々ならぬ想いがあるのだろう。その開発が次世代ハードで活路を見出し、VRが突破口となったことは、シリーズがPS2に移り変わることによって飛躍した『エースコンバット04』に通じるものがあるかもしれない。
そんな中、
— Kazutoki Kono : 河野一聡 (@kazutoki) March 7, 2019
最初にブレイクスルーしたのは、
VRチームだった。
飛び抜けて面白い。
まだ『全てが自分の体験』にはなっていなかったけど、
熱狂が生み出した、分かりやすい、自分たちが今、苦しいのは、向かっているのは、この感動をファンに届けたい!楽しい!
(今日は、おわり。)
河野氏はツイートからは、ほかにもいくつもの開発裏話が明かされている。開発の土壇場でBGM『Daredevil』を発注して演出を調整し、それをきっかけにして波及的に効果が及ぼされたこと。また、一時は河野氏が降ろされそうになるほど、さまざまな苦難がそこにあったことが伺える。
だが、河野氏をはじめ、プロデューサーの下元学氏、そして河野氏を信じるスタッフが最後まで信念を貫いたことで、『エースコンバット7』は久しぶりにナンバリングタイトルとして産声をあげることとなった。最後は河野氏なりの言葉で、ファン、スタッフ、会社に感謝を綴っている。
伝えたかったのは、何故、僕が作品を「我が子」として感じるのか。
— Kazutoki Kono : 河野一聡 (@kazutoki) March 8, 2019
僕が何故「ファンの支持と応援に感謝しています。」を繰り返しているのか、
この話の全ては、貴方たちが支えてくれたから、貴方たちを頼りにできたからだと知って欲しいからです。
ありがとうございました。心より感謝しています。
最後に、僕は会社と闘った覚えはない。
— Kazutoki Kono : 河野一聡 (@kazutoki) March 8, 2019
むしろ、これを世界相手にやらせてくれる会社には感謝しかない。
ウチの会社は「挑戦・成長・進化」をスローガンにしているけど、
実際は「挑戦・危機・成長・危機・進化」だと僕は知った。
そして、本当に最後。
これ僕の10000ツイート記念企画です。笑
『エースコンバット7』は日本では最初の1週間で20万本、世界中でシリーズの初動売り上げ記録を更新している。
ライター/福山幸司