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F2P最優先の大号令に、開発体制の抜本的変更。『エースコンバット7』制作の苦難の道をブランドディレクター河野氏がTwitterで語る

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 今年1月に発売された『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』

 プレイヤーはエースパイロット「トリガー」となって、無人機が主体の未来の戦争を体験する。「空の変革」をテーマにした12年ぶりのナンバリング作品であり、天候のリアルタイム描写によって、雲や気流、落雷が戦闘機に影響を及ぼす新システムが搭載。世界中で根強い人気を誇るシリーズの最新作は高い評価を受け、日本を代表するフライトシューティングゲームのひとつとなった。

 その本作のブランドディレクターである河野一聡氏が、同作の制作にまつわる苦難の道をTwitterで綴っている。

 今回のツイートでは赤裸々にその内情が明らかにされており、たとえば『エースコンバット7』の開発はもともと海外スタジオが担当していたものの、それを途中で止めて内製で作り直したほどの大きな変更があったいう。ほかにも、『エースコンバット インフィニティ』以前から企画が存在していたことが初めて伝えられている。

 河野氏の一連のツイートから『エースコンバット7』の開発状況を推測してみよう。まず「発案してから2年眠った」とあるが、発案した具体的な時期が示されていないので、推測の域は出ないが、前作に当たる『エースコンバット アサルト・ホライゾン』の発売は2011年10月である。そのことを考えると、おそらくその前後か、翌年の2012年の早い段階に『エースコンバット7』の企画が発案されたと考えるのが自然だろう。

 しかし”F2P最優先の大号令”によって『エースコンバット7』の開発はここでは見送られたことが示唆されている。基本プレイ無料の『エースコンバット インフィニティ』の開発が優先されたということだ。そして約2年間の開発期間を経て、同作は2014年5月から配信が開始。おそらく、その配信時期の前後から『エースコンバット7』の開発に着手し始めたのだろう。そして『エースコンバット7』は、2015年12月に開催されたPlayStation Experience 2015で初めて発表される。

※『エースコンバット7』発表(1:32:24から)

 『エースコンバット7』は、その翌年のPlayStation Experience 2016でも出展されているが、海外スタジオによる開発は満足のいく品質にはならなかったようだ。仕切りなおそうと決断したのが2017年末。内製として新たに開発が本格化したのが2018年初頭ということになるのだろう。このように考えると、『エースコンバット7』の開発期間は、4年と数ヶ月以上に渡ることになる。

河野氏と『エースコンバット』の関係

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(画像はエースコンバット2 公式サイトより)

 あらためて『エースコンバット』シリーズと河野氏の関係性を振り返ろう。河野氏が初めてシリーズに携わるのは、1997年の『エースコンバット2』ら。そのころ河野氏は『リッジレーサー』のチームに所属しており、『エースコンバット2』では、マップを修正するスタッフとして急遽、助っ人的に参加した。

 『エースコンバット3』では『R4 -RIDGE RACER TYPE 4-』を制作をしていたため携わらなかったが、『エースコンバット04 シャッタードスカイ』で再び合流し、アートディレクターとしてグラフィック全般を監修した。以後も『エースコンバット』シリーズを象徴するエンブレムなど多くのデザインを手掛けている。

 さらに河野氏は『エースコンバット04』において、シリーズに決定的な変革をもたらすことになる。それが河野氏が発案した架空世界「ストレンジリアル」である。

河野氏
 現代のみんなが実際に見たことある風景の中に、異様なものをぶつけてインパクトをだそうと。(中略)実は、厚木基地へロケに行ったとき、駅のホームで戦闘機が飛ぶのを見たんです。そのとき、普段よく目にしている風景の中に想像もよらないものが現れると、こんなに衝撃を受けるんだって思いました。[『エースコンバット04 シャッタードスカイ』公式ガイドブックより]

 完全なファンタジーの架空世界ではなく、現実の世界史・国際情勢を彷彿とさせる架空世界、それが「ストレンジリアル」だ。『エースコンバット04』ではハードがPSからPS2に変わり、チームは新しいことに挑戦する機運に包まれていたという。河野氏は「すべてを変える」とスタッフの中でも最初に発言したほど、『エースコンバット04』に熱意を示していた。

 この河野氏発案のストレンジリアルの設定からリアリズムを重視する方向性が決まり、航空自衛隊に協力を要請。戦記にも詳しい片渕須直監督がサイドストーリーの演出・脚本を担当し、作品に深みをもたらした。河野氏は引き続きシリーズの主導的な役割を担い、『エースコンバット5 ジ・アンサング・ウォー』ではディレクターを務めている。

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(画像はエースコンバット5 公式サイトより)

 だが、『エースコンバット』シリーズも順風満帆にはいかない。PSPで発売した『エースコンバットX スカイズ・オブ・デセプション』から、Xbox360で発売した『エースコンバット6 解放への戦火』の時期には、シリーズが長く続いたため古いファンと、新規ユーザーの両方にとって理想の作品を届けるのが戦略的に難しいという判断が生まれてきた。そこで『エースコンバット アサルト・ホライゾン』のように想定するターゲット層を変えたり、『エースコンバット インフィニティ』は新規のプレイヤーでも気軽に触ってもらう基本プレイ無料の作品として多角的に展開した。

 こうして12年ぶりにストレンジリアルの設定を用いた据え置きナンバリングタイトル『エースコンバット7』が発売される。シリーズを刷新した河野氏だがらこそ『エースコンバット7』には並々ならぬ想いがあるのだろう。その開発が次世代ハードで活路を見出し、VRが突破口となったことは、シリーズがPS2に移り変わることによって飛躍した『エースコンバット04』に通じるものがあるかもしれない。

 河野氏はツイートからは、ほかにもいくつもの開発裏話が明かされている。開発の土壇場でBGM『Daredevil』を発注して演出を調整し、それをきっかけにして波及的に効果が及ぼされたこと。また、一時は河野氏が降ろされそうになるほど、さまざまな苦難がそこにあったことが伺える。

 だが、河野氏をはじめ、プロデューサーの下元学氏、そして河野氏を信じるスタッフが最後まで信念を貫いたことで、『エースコンバット7』は久しぶりにナンバリングタイトルとして産声をあげることとなった。最後は河野氏なりの言葉で、ファン、スタッフ、会社に感謝を綴っている。

 『エースコンバット7』は日本では最初の1週間で20万本、世界中でシリーズの初動売り上げ記録を更新している。

ライター/福山幸司

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福山幸司
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman

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