……ゆるせない。
ゆるしたくない。
そんなふうに思ったそばから、
とがったきもちがきえていく。
ほんとは、
ころしたくなんかない。
『狼』へのいかりは、
かわらずにある。
でも、
それをビョルカにむけるのは、
なんだかちがう気がしてくる。
ビョルカはほんとうに、
『狼』なのかしら?
ビョルカのいうとおり、
リーダーがむのうでも、
レイズルがしんだことには、
せつめいがつかない……かも。
でも、そうでなければ、
だれが『狼』なのかしら。
「……何の言うこともなく、
何の為(な)すすべもありませんか?
ならば、
『ヴァリン・ホルンの儀』にて
ヴァルメイヤの手に全てを
委ねるのみです」
「……ほかに、ないのかしら!
ゴニヤも、ビョルカも、
『狼』じゃなくていい、
もっとべつの、こたえが……!」
「……な、
何ですって?」
「だって!
ビョルカが『狼』だなんて、
ちょっぴり、くるしい気が
してきたんだもの!」
「……
…………いや、
はあ、それはまあ、
『狼』ではないですからね。
私」
「まあ! ばかをみる目!
わかっているわ!
ビョルカからみれば、
ゴニヤがあやしいと
いうのでしょう!
だからこそよ!
魔法のちからなら、
ゴニヤとビョルカのほかの
だれかでも、
わるさはできるでしょう!」
「……ふむ……
確かですね。
我々は魔術の知識に乏しい。
何かをされて、気付いていない
だけかもしれません。
極論、私やゴニヤが、
自分でも気づかぬうちに、
『狼』にされるということも
あり得ます」
「…………」
「あるいは、
より自由な発想で考えれば……
もっと単純な、
真実が見えるのかも……」
「たんじゅんな、しんじつ……?」
「そう、例えば……
フレイグがレイズルを殺し、
その後、昨晩に自決をした、
と考えてみては?」
──息がとまるかとおもった。
なあにその、よくわからない、
ひどいそうぞう。
でも、それでいい。
ああ、それがいい。
そんなことを、ゴニヤは
ほんのすこし思ってしまって、
じぶんのおぞましさに、
みぶるいしそうになって──
「──でも、それでいいですね。
……ああ、それがいいです」
それで、
ほんとうにいきがとまった。
「かわいそうなフレイグ……
重責に耐えかねて、
おかしくなってしまった
のでしょうか……
あまり悲しむのも非道ですね。
もはや彼は、
ヴァルメイヤの信仰から
外れてしまったのですから。
切り替えましょう。
フレイグはもう、いりません」
どうして、そんなふうに
思うことができるの。
ずっといっしょだったのに。
あんな、ひどい死にかたを
してしまったのに。
そんなにあっさりと、
切りすててしまえるの。
「いいでしょう。
あなたを信じます、ゴニヤ。
『狼』フレイグは死に、
今度こそ我らは浄化された。
うん、いいですね!
ヴァルメイヤもきっと
納得されるはずです!」
──ゴニヤには、わからない。
わからなくなった。
ビョルカのことが。
ゴニヤたちがしんじてきた、
『死体の乙女』のことが。
「ふふ、ゴニヤ、
何をぼうっとしているの?
あとはまだ日のあるうちに、
人里へ辿り着くのみ!
さあ進みましょう、
皆さ────────」
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(ビョルカよ
全てを捨てても
信仰には足るという
その志こそ 我が望み
しかし 己が身でなく
同胞を切って捨てるは
おまえと我が唯一相容れぬ
おまえの『故郷の記憶』
真に切り捨てるべき 汚点なり
ゆえに こたびは
己が捨てた同胞の亡霊によりて
傷つき 磨かれるがよい)
言いきるかわりに、
ビョルカは、血をはいた。
おなかから、
とがった剣の先がはえていて、
そのうしろには、
ちまみれの、
かたちをとどめていない、
フレイグ、だったもの、が、
ゆらゆらと、たっている。
「
え
は
ら
な
い」
この世でないもの
ひとめでわかる
そして、りかいする
それは、死そのもの
せかいのこわさ そのもの
ゴニヤの
わたしのいのちをかりとるもの
ああ
でも
でもね
「──だいじょうぶです
血などなくとも、
信仰の旅は、
つづけられますよ、
ゴニヤ」
わたしには
それがもっとおそろしい
死そのもの が 剣をふるう
なにかがきりおとされる
ビョルカがいう
それもなくていい
またなにかがきりおとされる
ビョルカがまたいう
それもこれもなくていい
ばら ばら ばら ばら
なのに
まだ いってる
なにをすてても
しんこうからは
のがれられないと
こわい
こわい
こわい
きづいたら
わたしは
鎌をじぶんにさしていた
ああ いたい
たぶん いたい
よかった
これでわたしは
しんこうから
のがれられるんだ
さいごに
じぶんのしたことが
とてもうしろめたく
おもえたけれど
そのこころも
めのまえのさんじょうも
すべてわるいゆめのように
ぼやけて きえたのでした。
【ビョルカ死亡】
【ゴニヤ死亡】
【巡礼者が全滅しました】