「えっ、
なぜ、
あなたがたは、
私を、
指さしているのですか……?」
シークレットを見る(Tap)
(ごめんなさい、ビョルカ。
ゴニヤたちは、
もう人じゃない。
あなたもそうかも。
けれどあはたは、きっとそんな
じぶんを許せないでしょう?
だったら、こうしても同じ。
これが『理』というものよね、
ウルじい?)
「……言葉は無用、じゃったな」
「これも『死体の乙女』の
おぼしめし、だったわ」
「……待って、待って下さい!
これじゃ私が何を指さそうが、
私が『犠』に……
どうしてです、
どうして私が!
教えて下さい!
何がまずかったのですか!?」
「……納得も理解も
無用なのじゃろ。
受け入れてくれ、
ビョルカ」
「……」
「……いい、でしょう。
あなたがたが辿る道が
どこに繋がっているか、
見届けさせてもらいます。
『館』から、必ず。
心して生きなさい。
……以上です」
「ウルじい、
これをつかって」
「……すまんの」
【ビョルカ死亡】
【3日目の日没を迎えた】【生存】
ウルヴル、ゴニヤ
【死亡】
フレイグ、ヨーズ、ビョルカ、レイズル
……こんなもの、
もう縁起でもないが、
曲りなりにも魔術の品、
二束三文にはなるかもしれん。
今後を考えれば、捨て置けん。
それを拾い上げ、
荷物に仕舞ったのち、
ゴニヤに向き直り、訪ねた。
「大丈夫じゃったか、
傷は痛まんか、ゴニヤ……」
「ええ……いたくないわ……」
昨日の晩、ひっそりと訪れた
ゴニヤは、打ち明けてくれた。
自らが負った重い怪我が、
その実、少しも痛まんこと。
自分が本当に人であるか、
不安に陥っておること。
ゴニヤは自分がこれまでの
どの殺しにも関わっていないと
請け合った。
ならば問題もなかろう、
などと流せる話でもなかった。
大怪我が痛まんのは、
ゴニヤだけではなかった。
ゴニヤの話を聞いてから、
自分も密かに試してみた。
痛みや、触る感覚はある。
しかし……血が出るほどの
傷をつけると、
とたんに痛みが消える。
まるでその部分が
無くなったように……
なんじゃ、これは……
どれほど考えても、尋常の、
人の有様とは思えん。
それどころか、
考えれば考えるほど、
恐ろしい想像ができた。
自分もゴニヤも、
とっくに人ではない、
何なら『狼』なのでは
なかろうか?
だとすれば……
『死体の乙女』の巫女である
ビョルカが、
我らを許すはずがない。
頭を抱える自分に、
ゴニヤは驚くべき提案をした。
今日、あえて『儀』をやり、
ビョルカを陥れる、
それで生き延びるという、
策略。共謀。同胞殺し……
禁忌を提案できたゴニヤも、
いさめられなかった自分も、
既に人ならぬものに変わって
しまったのだと、思えた。
だから、腹をくくった。
いくところまでいく。
『死体の乙女』が罰を下すなら
甘んじて受け入れよう、と。
そして、何事もなく、
ビョルカは死を受け入れ、
自分たちが、生き残った。
結局、神などおらん、
ということか。
「……どうする? ウルじい……」
こっちが聞きたい、などとは
言えるわけもない。
いま思えばなにもかも
過ぎた考えにしか思えん、
などとも。
死ぬのが嫌でつい……
などといった無責任、
口が裂けても言えん。
それは、大人ゆえに。
子供を守らねばならんゆえに。
弱みを出して、
楽になることは許されんのだ。
「ええか、ゴニヤ。
ここまでやった以上、
ワシらは生きねばならん。
何をしてもじゃ」
眼下(がんか)の街を見下ろす
ワシの目は果たして、
獣のようなものじゃったろう。
「……どうしてかしら?
『死体の乙女』が、
ゴニヤたちのおこないを
みとめたから?
ビョルカをころしておいて、
『死体の乙女』をしんじるの?
よくかんがえたらおかしいわ」
「……それでも、じゃ。
このうえワシらが死んだら、
ビョルカや、
他のもんの犠牲を、
無駄にしてしまうじゃろう?」
なぜか、自分のその弁解は、
ひどくなじみ深いものに
感じられた。
踏みにじってきた命を
肯定するという理由で、
さらなる命を踏みにじる。
ゴニヤの言う通り、
よく考えたらおかしい。
それでも、自分はそうやって
ここまでやってきたのでは
なかったか。
「……なにがむだで、
なにがむだじゃないのかしら?
みんな、ゴニヤたちを生かす
ために死んだわけじゃないわ。
ゴニヤとウルじいは、
死にたくなかった。
みんなは死んだ。
それだけだわ!」
──ゴニヤは賢い。
このみじめな老人の見栄など、
いずれ見破ってしまうだろう。
それでも、認めるわけには
いかなかった。
罪悪感を背負い、まっすぐに
生きてゆくのは難しい。
ゆえに負うのは大人でいい。
自分はつまらぬ人間だが、
ゴニヤにこの罪を負わせる
ことだけは、させたくない。
「……ええか、ゴニヤ。
ゴニヤの言う通り、
ワシらは生きることを選んだ。
それは今までの生き方とは
全く違うが、それはそれで
尊いことじゃと、ワシは思う。
ワシらにはもう、信仰も、
『理』もない。
そんなもの捨てて、忘れて、
ただ生きる。
心配ない。ワシだけは、
決してお前を裏切らん。
必ず、ゴニヤを守る。
じゃから、信じてくれ。
ゴニヤが生き抜くために」
「────……」
ぽかんとしたゴニヤを、
力いっぱいに抱きしめた。
もともと
弁が立つわけでもない、
目の前の鉄を力いっぱい
打つしか、能のない男ゆえ。
ゴニヤ以外の全てを失った今、
自分にできることは
それだけだった。
しかし。
シークレットを見る(Tap)
(ここにきて、か……
『理』を持ち出すウルヴル。
『理』を渇望するゴニヤ。
『理』を却下するビョルカ。
この3人が残るケースで
ゴニヤの『鍵』が
回らないのは極めて珍しい。
今回は、もった方だが……
結局、ここで回るか……)
「……ご、に……や……?」
腕のなかで、
ゴニヤの、
形が、変わっ、て、
「────『理』をすてたら
かいぶつになるだけよ
こんなふうに」
やはり、
ゴニヤは、
自分らは、
人ではなかったということか?
それでもよかった。
共に生きられればよかった。
なぜ、殺した。
なぜ、自分を真っ二つにした。
なにがいけなかった、
ゴニヤよ。
──しかし、まあ、
それでも、よかった。
自分が化け物になってゴニヤを
殺すよりは、
化け物になったゴニヤに
殺されるほうが、ずっといい。
そう思えて、よかった。
この取るに足りん人生で、
最後に思うことが、
ただの保身でなかったこと、
それだけが
ワシにとっての救いとなった。
【ウルヴル死亡】
【ゴニヤ脱落】
【巡礼者が全滅しました】