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夜が明けた。
浅い眠りから覚めた僕は、
吹雪と闇が閉ざす東の地平を、
不気味なほど温かい
陽の光が引き裂いて、
オスコレイアの時間を
終わらせるのを見た。
知っての通り、
僕らの受難は終わった。
それをただ確かめる朝になる。
そのはずだ。
そのはずだったろ。
なあ。
誰か説明してくれよ。
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【ビョルカ死亡】
【3日目の夜明けを迎えた】
【生存】
フレイグ、ウルヴル、ゴニヤ【死亡】
ヨーズ、ビョルカ、レイズル
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惨殺された巫女の遺骸の前で
どれだけ佇んでいただろうか。
いつのまにか老人と幼い娘が
すぐそばにやってきている。
反応する気にもならない。
でもこうしていても無意味だ。
意味?
何もかもが、無意味だ。
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「……フレイグ……おまえ……
だいじょうぶか……?
しっかりせえ、
気をしっかり持つんじゃ!」
別に僕は狂ったわけでも
混乱してるわけでもない。
僕という装置の存在意義が
失われてしまったのだから
何もしないのは自然だろう。
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「これ……
フレイグがやったの……?
……いや……
ひとごろし……!」
状況も関係性も認識してる。
だから奇妙だと分かる。
昨日までなら、
僕を責めるのはジジイで、
僕をかばうのがゴニヤだった。
なぜか逆転してる。
別に気にはならない。
どうでもいい。
なにもかも、
目の前の遺骸(いがい)に比べれば。
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「何を言っとるんじゃ、ゴニヤ!
小僧が……フレイグが、
ビョルカを殺すハズが
ないじゃろうが!」
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「ウルじいこそ、
なにをいってるの?
ゴニヤたちのてきは、
ひとにばけた『狼』よ!
これはもう、
フレイグではないの!!
それともウルじい、
あなたが『狼』だとでも
いうのかしら!」
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「そっ、それは違う……
じゃが!
ワシにはこやつが、
いつものフレイグにしか
思えんのじゃ……!」
知ったようなことを言うな。
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「きさまは誰よりもビョルカを
敬っとったじゃろ!
何なら『死体の乙女』よりも!
きさまは昔から、得体の知れん
熱と歪みを秘めておった。
それでも折れんかった!
強靭なビョルカへの敬愛が
魂の芯にあったからじゃ!」
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「あっぱれな筋金入り!
得体の知れんきさまは
気に入らなんだが、
敬服もしとった!
じゃからこそ今、ぶち折れて、
何もかもを曝(さら)け出しとる……
きさまは間違いなく
きさまのままじゃろ、
フレイグ!!」
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「……」
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「……そう。
じゃあウルじいは、
ゴニヤが『狼』っていうのね?」
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「……そ、それは……
そうは言うとらん……」
うるさいな……
もう何でもいいから、
早く片付けて……
ぜんぶ終わらせてしまおう。
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真相は以下のどれか。
1。僕が『狼』。
僕が狂っていたら証明不可ゆえ
考えるだけ無駄。
2.ジジイが『狼』。
ここしばらく情緒がおかしいが
怪しむほどかというと微妙。
3.ゴニヤが『狼』。
ずいぶん攻撃的だが、
子供が錯乱すれば
こんなものかって気もする。
決め手はない。
その上で、できることは何か。
1、自殺。
→不可。さっきから何度も
剣を執ろうとしてるが無理。
2、2人を攻撃。
→不可。自殺と同じ手応え。
3、共謀。
→不可。2人に『協力して
もう一人を陥れよう』と話そう
としてみても、できない。
4、冒涜的(ぼうとくてき)な思考
→可。現在進行形。
つまりヴァルメイヤ信仰に
反する言動は『できない』。
仕組みはわからない。
とにかく、心の問題以上の
何かがある。
しかし思考は可能ということは
『冒涜(ぼうとく)を形にする』ことが
できないだけだ。
それを踏まえて、
この不快な膠着(こうちゃく)を終わらせる
にはどうすればいいか。
ああ、分かった。
ちょっと力加減をして、
口を閉じたまま喉の奥を開く。
簡単に涙があふれてくる。
それをこぼしながら、言う。
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「……どっちだよ……
ビョルカさんを殺したのは、
どっちなんだよ!!
もう日没を待つまでもない……!
『狼』を……
『死体の乙女』の名のもと
ブチ殺してやる!!
『ヴァリン・ホルンの儀』だ!
それで決着をつけてやる!!」
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「……!」
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「!!」
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シークレットを見る(Tap)
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(……本当は、フレイグ氏は、
『村』で誰よりも賢い頭脳と、
冷酷な心を持っています。
でも、それを誰よりもおそれ、
ビョルカ氏への信仰で
抑えていた。
そう決められた時点で、
いい人に違いないんですが、
こうなっちゃうと、
もう止められないですね……)
これでいい。
最大の被害者を演じれば、
『狼』は僕以外のどちらか、
という流れに持っていける。
すると、2人は『儀』で
お互いを指さす。
『狼』は僕を指さしても
『犠』にできないと踏み、
避ける。
もう一人は当然、僕でない方を
『狼』だと思い、狙うからだ。
あとは僕の選択次第だ。
僕は、
何で……こんな、
冷酷な考えをスラスラスラスラ
並べ立てられるんだ?
僕はやはり『狼』なのか?
だとしても、
結局自殺はできないので、
手順に従って、
終わらせるしかない。
魂の抜け落ちた、
このカラッポな儀式を。
【ルート分岐:悪意】
ビョルカさんが殺された。『狼』はまだいたんだ。
くだらない言い争いはもうたくさん。
とっとと1人殺して終わらせよう。
道筋はつけたので、2人は互いを指さすはずだ。
さあ、どちらを殺す?