いま読まれている記事

『ギ・クロニクルif』別離d~偶像

article-thumbnail-p17

1

2

『ギ・クロニクルif』別離d~偶像_005
『ギ・クロニクルif』別離d~偶像_006

 夜が明けた。

 浅い眠りから覚めた僕は、
 吹雪と闇が閉ざす東の地平を、
 不気味なほど温かい
 陽の光が引き裂いて、
 オスコレイアの時間を
 終わらせるのを見た。

 知っての通り、
 僕らの受難は終わった。

 それをただ確かめる朝になる。

 そのはずだ。

 そのはずだったろ。

 なあ。

 誰か説明してくれよ。

『ギ・クロニクルif』別離d~偶像_007

 【ビョルカ死亡】

 【3日目の夜明けを迎えた】

 【生存】
 フレイグ、ウルヴル、ゴニヤ

 【死亡】
 ヨーズ、ビョルカ、レイズル

『ギ・クロニクルif』別離d~偶像_008

 惨殺された巫女の遺骸の前で
 どれだけ佇んでいただろうか。

 いつのまにか老人と幼い娘が
 すぐそばにやってきている。

 反応する気にもならない。

 でもこうしていても無意味だ。

 意味?

 何もかもが、無意味だ。

「……フレイグ……おまえ……
 
 だいじょうぶか……?
 
 しっかりせえ、
 気をしっかり持つんじゃ!」

 別に僕は狂ったわけでも
 混乱してるわけでもない。

 僕という装置の存在意義が
 失われてしまったのだから
 何もしないのは自然だろう。

「これ……
 
 フレイグがやったの……?
 
 ……いや……
 
 ひとごろし……!」

 状況も関係性も認識してる。
 だから奇妙だと分かる。

 昨日までなら、
 僕を責めるのはジジイで、
 僕をかばうのがゴニヤだった。

 なぜか逆転してる。
 別に気にはならない。
 どうでもいい。
 なにもかも、
 目の前の遺骸(いがい)に比べれば。

「何を言っとるんじゃ、ゴニヤ!
 
 小僧が……フレイグが、
 ビョルカを殺すハズが
 ないじゃろうが!」

「ウルじいこそ、
 なにをいってるの?
 ゴニヤたちのてきは、
 ひとにばけた『狼』よ!
 
 これはもう、
 フレイグではないの!!
 
 それともウルじい、
 あなたが『狼』だとでも
 いうのかしら!」

「そっ、それは違う……
 じゃが!
 
 ワシにはこやつが、
 いつものフレイグにしか
 思えんのじゃ……!」

 知ったようなことを言うな。

「きさまは誰よりもビョルカを
 敬っとったじゃろ!
 何なら『死体の乙女』よりも!
 
 きさまは昔から、得体の知れん
 熱と歪みを秘めておった。
 それでも折れんかった!
 強靭なビョルカへの敬愛が
 魂の芯にあったからじゃ!」

「あっぱれな筋金入り!
 得体の知れんきさまは
 気に入らなんだが、
 敬服もしとった!
 
 じゃからこそ今、ぶち折れて、
 何もかもを曝(さら)け出しとる……
 
 きさまは間違いなく
 きさまのままじゃろ、
 フレイグ!!」

「……」

「……そう。
 
 じゃあウルじいは、
 ゴニヤが『狼』っていうのね?」

「……そ、それは……
 そうは言うとらん……」

 うるさいな……

 もう何でもいいから、
 早く片付けて……

 ぜんぶ終わらせてしまおう。

『ギ・クロニクルif』別離d~偶像_009

 真相は以下のどれか。

 1。僕が『狼』。
 僕が狂っていたら証明不可ゆえ
 考えるだけ無駄。

 2.ジジイが『狼』。
 ここしばらく情緒がおかしいが
 怪しむほどかというと微妙。

 3.ゴニヤが『狼』。
 ずいぶん攻撃的だが、
 子供が錯乱すれば
 こんなものかって気もする。

 決め手はない。

 その上で、できることは何か。

 1、自殺。
 →不可。さっきから何度も
 剣を執ろうとしてるが無理。

 2、2人を攻撃。
 →不可。自殺と同じ手応え。

 3、共謀。
 →不可。2人に『協力して
 もう一人を陥れよう』
と話そう
 としてみても、できない。

 4、冒涜的(ぼうとくてき)な思考
 →可。現在進行形。

 つまりヴァルメイヤ信仰に
 反する言動は『できない』
 仕組みはわからない。
 とにかく、心の問題以上の
 何かがある。

 しかし思考は可能ということは
 『冒涜(ぼうとく)を形にする』ことが
 できないだけだ。

 それを踏まえて、
 この不快な膠着(こうちゃく)を終わらせる
 にはどうすればいいか。

 ああ、分かった。

 ちょっと力加減をして、
 口を閉じたまま喉の奥を開く。

 簡単に涙があふれてくる。

 それをこぼしながら、言う。

「……どっちだよ……
 
 ビョルカさんを殺したのは、
 どっちなんだよ!!
 もう日没を待つまでもない……!
 
 『狼』を……
 『死体の乙女』の名のもと
 ブチ殺してやる!!
 
 『ヴァリン・ホルンの儀』だ!
 それで決着をつけてやる!!」

「……!」

「!!」

『ギ・クロニクルif』別離d~偶像_010
シークレットを見る(Tap)

(……本当は、フレイグ氏は、
 『村』で誰よりも賢い頭脳と、
 冷酷な心を持っています。
 
 でも、それを誰よりもおそれ、
 ビョルカ氏への信仰で
 抑えていた。
 
 そう決められた時点で、
 いい人に違いないんですが、
 
 こうなっちゃうと、
 もう止められないですね……)

 これでいい。
 最大の被害者を演じれば、
 『狼』は僕以外のどちらか、
 という流れに持っていける。

 すると、2人は『儀』
 お互いを指さす。

 『狼』は僕を指さしても
 『犠』にできないと踏み、
 避ける。
 もう一人は当然、僕でない方を
 『狼』だと思い、狙うからだ。

 あとは僕の選択次第だ。

 僕は、

 何で……こんな、
 冷酷な考えをスラスラスラスラ
 並べ立てられるんだ?

 僕はやはり『狼』なのか?

 だとしても、

 結局自殺はできないので、

 手順に従って、
 終わらせるしかない。

 魂の抜け落ちた、
 このカラッポな儀式を。

【ルート分岐:悪意】

ビョルカさんが殺された。『狼』はまだいたんだ。
くだらない言い争いはもうたくさん。
とっとと1人殺して終わらせよう。
道筋はつけたので、2人は互いを指さすはずだ。
さあ、どちらを殺す?

1

2

この記事に関するタグ

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ