「『我らを導く死体の乙女よ!
信心と結束をいま示します!
ご照覧あれ!!』」
これで2人が僕を指さしたら
すげえ面白いな。
「血と肉と骨にかけて──
みっつ!
ふたつ!
ひとつ!」
……ふうん。
思ったのと、少し違ったな。
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「僕が指さしたのは、ゴニヤ。
ジジイも、ゴニヤ。
ゴニヤは、僕か。
結局、僕の仕掛けには動かず、
ジジイを信じ切ったわけだ。
裏切られたわけだけど。
ゴニヤを指さしたのが2人。
決まりだ」
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「……一応、聞くけど。
異存はあるか、ウルヴルさん」
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「……ない……
どれほど嫌でも、逆らえん……」
そうだろうな。
『死体の乙女』に逆らえない。
当然『儀』の結果にも。
そのかわり、全ての決断を、
『死体の乙女』は祝福する。
現世の苦しみを、和らげる。
それが僕ら『村』の人間の、
強みであり弱みなんだろう。
タネが割れれば、
味気ないもんだ。
さあ、すべきことをしよう。
このひどい旅のオチは
一応、見ておきたいから。
老い先短いじいさんがそれでも
生き延びるのか、それとも、
狡猾(こうかつ)な『狼』のジジイが
最後に僕を引き裂いて
終わるのか。
じゃあ、やるよ。
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「ゴニヤ、目隠しを──」
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「みとめないわ」
……なんだって?
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「たしかに、
ビョルカをころしたのは
わたしよ。
でもレイズルはころしてない。
わたしは『狼』じゃない!!」
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「……
いま、なんて言った」
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「ゴニヤ……そいつは本当か!?
そうじゃとて……!
なぜ殺したというんじゃ、
ワシらのビョルカを……!」
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「どうしてウルじいが
それをきくの?
ビョルカがウルじいのことを、
わるくいったからに
きまってるじゃない……!」
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「ウルじいは
いっしょけんめい、
かんがえてかんがえて、
フレイグをうたがったわ!
信仰にそむいてでも、
みんなをまもろうと
したのでしょう!?
なのに、なのにビョルカは──」
![]() |
「“よって『理』は
『死体の館』に
秘めるべきもの、
ヴァルメイヤに
委ねるもの!
軽々しくもてあそぶもの
ではなかったのです!“
……なんて言って!」
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「──ばかなおんな。
『村』がほろびたときに、
わかっておくべきだったわ。
信仰は、負けたのだって。
かわりに、『理』をたのんで
いきるべきだったって。
ゆるせなかったわ。
だから、ころしたわ……!」
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「……ゴニヤ、それは……
違うんじゃ……
ワシが『理』など
持ち出したのは……」
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「待て、ゴニヤ。
じゃあ、レイズルさんを殺した
『狼』が他にいるって
言いたいんだな?」
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「とぼけないで!
あなたなのでしょう、
フレイグ!」
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「ああ僕も自分がそうだったら
話は簡単だなと思ってるよ。
ビョルカさん殺してないなら
もう何でもいいやってな。
でも少なくとも
僕がやった記憶はない。
となると可能性があるのは、
ヨーズ、ビョルカさんと……」
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「ワシでもない!
何を考えとるんじゃ!!」
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「……とまあ、何も進まない。
結局、僕らは『儀』を
終わらせるしかないんだ。
ゴニヤはそれで、
結局何がしたかったんだ?
罪を告白して
楽になりたかったの?」
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「フレイグ!
きさま、もうすこし言葉を──」
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「フフ。
それなら、
ヴァルメイヤをしんじていれば
よかっただけのはなし。
わたしはただ、
しょうめい、したかった。
ヴァルメイヤなんていないし、
『理』だけがひとをすくうと。
それを、みせて、あげ、」
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──途切れた言葉の代わりに、
ゴニヤの口元から、
おびただしい血がこぼれた。
それで、気付いた。
ゴニヤは
自分の腹を
刺したんだ
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「
……な、んで、
そんなことが、できる……!
いや、そもそも!
同胞を傷つけることも
できないはずなんだ!
夜の嵐を越えることも!」
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「『理』にすがっても
できなかっただろジジイには!
僕らには信仰以外に
道はなかったはずだ!!
なのに、お前は……!
許せるか、そんなの!
お前は! 僕らは!
『死体の乙女』の腕の中で
死ななきゃならないんだよ!」
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「かわい、そうね、フレイグ……
そんなになっても……
まだ、とらわれて……
フフ……
わたし……
きになるわ……
もっと……
たんじゅんな……
ことが……」
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「わたし
た
ちは
な
に
も
の
な
の」
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「……死んだ……」
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【ゴニヤ死亡】
【3日目の日没を迎えた】
【生存】
フレイグ、ウルヴル【死亡】
ヨーズ、ゴニヤ、ビョルカ、
レイズル
こうして僕らは
残り2人になった。
一応、全ての埋葬はした。
一応、そのあとで出発もした。
意味はない。
いや、強いて言えば、
ゴニヤが遺した得体の知れない
違和感と不穏さに、
各々勝手に向き合う機会として
意味はあったかもしれない。
明らかに、
最後のほうのゴニヤは、
ゴニヤらしくなかった。
ジジイも当初は
ジジイらしくなかった。
僕だって人から見れば
僕らしくないかもしれない。
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『わたしたちは
なにものなの』
ゴニヤの最期の言葉は、
僕らが抱く疑問を
率直に表していた。
僕らは一体何者で、
この旅は一体何だったんだ?
疑問はやがて
いら立ちに変わり、
僕は黙ってられなくなった。
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「なあ、ウルヴルさん」
返事がない。
振り向くと、姿もない。
へばったのか?
雪をかき分け、少し戻ると、
奇妙なものを見つけた。
足跡が、途中で途切れてる。
は?
本人はどこに消えた?
……
その後、僕はジジイを探した。
割と、必死だったと思う。
自分たちは何なのか。
その疑問が、より大きく、
より不安の色味を増していく。
話ができる相手が欲しかった。
望みは叶わないまま。
僕はついに、倒れる。
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【ウルヴル死亡】
【生存】
フレイグ【死亡】
ヨーズ、ウルヴル、ゴニヤ、
ビョルカ、レイズル
![]() |
シークレットを見る(Tap)
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(ゴニヤのオスコレイア態は、
自傷と自殺が可能だ。
その行動は、
フレイグとウルヴルに内省を
うながしたが、
何かを悟らせるには
時間が足りなかったな。
ウルヴルに続き、フレイグも
ここで『寿命』に達した。
ここまでだ。
様子を見て、
『護符』を回収する。)
僕は、何者なのか?
実は本当に、『狼』なのか?
ジジイが消えたのは、
実は無意識に僕が殺したから
じゃないのか?
ああ、
そう考えたら、
霞んだ目に映る僕の手は、
最初から血に塗れていたような
気さえする。
『わたしたちは
なにものなの』か。
もっと早く、
その疑問に至っていれば。
知らないままに終わるよりは、
マシな最期だった、
かもしれない、な。
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【フレイグ死亡】
【巡礼者が全滅しました】
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