「……」
「……
話した通り、
『儀』は無効じゃな」
……ちっ。
まあ、そうか。
これであんたを殺せたら、
痛快にもほどがあったけど。
あんたはやらないよな。
「……その『護符』は、
おまえが持っていくんかの」
「……あー。
もうこれ、無意味。
力が尽きたんだろ。
手足はもう、凍え始めてる。
それでも持っていきたいなら、
持ってけば」
「……いや、ええ。
ゴニヤはワシが弔(とむら)う。
おまえは、行ってくれ」
「りょうかーい」
それで、あっさり別れた。
雪の山肌を、一人で行く。
あー。
ひとりは気楽でいいや。
山で生き残るだけだったら、
ひとりのが断然、楽だし。
人里に未練があるか。
多分、ない。
もう。
適当に南下する。
ウルヴルの気配を避けて。
離れる。
離れる。
沢渡(さわわた)り。
止め足。
雪庇(せっぴ)を崩す。
何でもいい。足跡を消す。
人里への道っぽいのを
見つけたけど、無視。
さらに南下。
夕刻。
崖の下に、
いい感じの洞穴(どうけつ)を見つける。
獣が使ってる気配もない。
枯れ枝や枯れ葉を
ありったけ集めて放り込む。
最悪、火は焚く。
けどとにかく隠れるのが先。
雪で入り口をふさいだ。
とにかく、乗り切るんだ。
【誰も犠とされなかった】
【3日目の日没を迎えた】
【生存】
ヨーズ、ウルヴル【死亡】
フレイグ、ゴニヤ、ビョルカ、レイズル
息を殺して、待つ。
来なけりゃ、いい。
でも来るだろ。
多分。
『狼』とかいう、
名前に偽りありの、化け物。
まあ私がそうかも
しれないけど。
それならもう、
一生ここで暮らす。
夜に旅人を狩って、
昼はあいつらを弔って暮らす。
悪くない。
そもそも
人でなし
の
私
……
え。
気付くと、
空気が変わっていた。
低温。嵐。真夜中?
意識が途切れてた?
私が? なぜ?
力が、あまり入らない。
おでましか。
ああ、
雪で塞いだ入り口が、
突き崩されてる。
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(お出ましか、ヴェズルング。
ウルヴルのオスコレイア態は
極めて特殊だ。
暴力では他に劣るが、
人間離れした知識と精神を持ち
『巡礼』の繰り返しを含めて
多くの事実を認識している。
奴もまた『巡礼』の終結を
願っているはずだが……
味方とは、到底言えない。)
「……はは。
あははは。
随分な、変わりようじゃん。
ウルヴル」
それは、巨大な、
巨大な……なんだ?
毛むくじゃらの、人間……?
いや、その顔面……
……ははは、
『狼』って
オオカミじゃないのかよ。
いいね。そのツラ。
オオカミなんかより、
ずっとあんたにお似合いだ。
おかしいと思ってた。
必ず嵐になる。
必ず身動きとれなくなる。
必ず意識を失う。
会えば必ず、死ぬ。
どこかで聞いたな、ってね。
どうせ私も死ぬんだろ。
正直、あんたの見た目は
伝説よりは肩透かしだけど、
それでも猟師冥利に尽きるよ。
最後に、あんたを狙えるのは。
なあ。
夜の雪山の支配者。
氷と嵐の象徴。
死神の猟団。
『死体の乙女』を追うもの。
オスコレイア──
【ウルヴル脱落】
【ヨーズ死亡】
【巡礼者が全滅しました】