選ばれし異世界の亡霊が、
人として生まれ変わる。
その際に一瞬、
垣間見えたものは──
「鍵の言葉」が書き換わります。
『理を捨てよ』
→ 『理をもって愛せ』
ヘルドラ大陸、北方の雪原。
寒風吹きすさぶ黎明(れいめい)の魔境(まきょう)を、
ひとり横切っていく、
旅人の姿があった。
「う~~~~
おなかがすいたわ!!
なにかしら、ここは!
雪しかないし!
アオイトリと別れたあとは、
だれともあわないし!
だれも……いないし……
ううん……!
ゴニヤは、ひとりじゃない!
みんなそばにいるんだもの!
それに……
『理』だって、あるわ!」
「『理をもって愛せ』
……うん。だいじなことね。
かんがえることを
やめてはだめ。だけれど、
それでつめたくなってもだめ。
あったかくするため。
愛するために、かんがえるの。
そうでしょう、ウルじい?
ふふ!
なんだか、
あったかくなってきたわ!」
「とりでで何ができるかしら?
つまみぐい?
したいあさり?
……やみうち?
ふふ、ゴニヤけっこう、
いろいろできるわ!
それに、この体はすぐに
おおきくなる。『巡礼』では
なかった、おたのしみね。
みんな、どうか、みてて。
さあ、きばっていきましょう」
娘は口をつぐみ、視線を上げて、より力強い、一歩を踏み出す。
長い旅路の果てに得た、自分だけの力と、希望を胸に。
やがて吹雪は止み、夜は明ける。
かくて、偽典もまた、祝福されたのでした。
めでたし、めでたし、ってね。
【ギ・クロニクル 完】