選ばれし異世界の亡霊が、
人として生まれ変わる。
その際に一瞬、
垣間見えたものは──
「鍵の言葉」が書き換わります。
『私はいらない』
→ 『夜明け前の我が道を行け』
ヘルドラ大陸、北方の雪原。
寒風吹きすさぶ黎明(れいめい)の魔境(まきょう)を、
ひとり横切っていく、
旅人の姿があった。
「……うう、
旅立ち早々に情けないですが、
やはり少々、一人旅は、
心細いものですね……
これまで自分がいかに、
守られていたのか、
痛感します……
同胞たちに、信仰に、
光り輝く偽りの全てに」
「光しか知らぬ日々は幻と消え、
これから身を晒すは、
最も深い寒さ、闇、孤独。
見通しもない。
道しるべもない。
ちょうど、この道のように。
そこにひそむものを学び、
見極め続けていきたい。
その姿勢にのみ、真なるもの、
善なるものは表れる」
「『夜明け前の我が道を行け』
この言葉から、
我が新たな信仰は始まる。
そう決めたのですから。
ね、フレイグ。
……よし!
元気出てきました!
改めて、
騎士団の砦に向かいます!」
「時に人と正面からぶつかり、
時に泥にまみれ、
試み、傷つき、疲れ果てても、
己を磨いてゆきましょう!
やっぱり、そんな生き方が、
不器用な私には
お似合いですから!
──さあ、本当の、
信仰の旅が始まりますよ!
頑張りましょう、皆さん!」
巫女は口をつぐみ、視線を上げて、より力強い、一歩を踏み出す。
長い旅路の果てに得た、自分だけの力と、希望を胸に。
やがて吹雪は止み、夜は明ける。
かくて、偽典もまた、祝福されたのでした。
めでたし、めでたし、ってね。
【ギ・クロニクル 完】