コレクトではなくハンティング
――見つけたものをあまり手元に置かないとのことですが、先日のイベントでもけっこう披露をされていて、やはりそれなりの数が手元にあると思います。パチモノ集めをしていて、何か困ることはありますか?
麟閣氏:
コレクターの皆さんと同じで、置き場所には困っています(笑)。それと中国製品が多いので、劣化が早いんですね。
――何か対策はされていますか?
麟閣氏:
もともとパチモノですし、ロムカセットは突然寿命が尽きるものなので、スッパリあきらめます。ダメになったカセットは、欲しい方がいたら差し上げています。
――イベントでも「断捨離」と言いながら、かなりの所蔵品をお客さんにプレゼントしていましたね。
麟閣氏:
はい。ダブっているものや、遊んで気が済んだものはどんどん手放しています。いまは生活環境の変化もあって厳選している時期でもあるので、思い入れのあるものだけを手元に残しておくだけで十分です。
でも、新しく買うかどうかはわかりませんが、見つけに行く旅はすると思います。
――買わないのに見つけに行く。
麟閣氏:
僕のテンションがいちばん上がるのは、“パチモノが店先に並んでいるのを見つけたとき”です。そこで買うかどうかは、お金や荷物の多さで変わります。これまでも泣く泣く諦めたものもありますし、持ち帰って遊んでみて期待外れだったものもありますし。
――まさにハンティングですね。
麟閣氏:
喩えれば釣りみたいなもので、「ここに魚がいるだろう」と見当をつけて針を投げ、「いた!」となったときがいちばん楽しいんですね。
だから、最近はとくに「自分はコレクターじゃない」と思うんです。僕の数百倍、数千倍も多くパチモノソフトを持っている人もいますし。
――では、「資金を渡すので、現地で探してきてください」と依頼されたら行くんでしょうか?
麟閣氏:
いやー、それはどうかな(笑)。たとえば、『SOMARI』という有名なパチモノソフトがあるのですが、「それを探してきてください」とお願いされても、もう発売から時間が経ちすぎていて無理。「そのお金で淘宝网【※】で見つけてください」とお断りすると思います。
※淘宝网
中国のアリババグループが2003年に設立したオンラインショッピングサイト。設立から数年で巨大ECサイトに成長し、その規模は中国のオンラインショッピング市場の約70%占めるまでに至った。アジア最大のショッピングサイトを謳っている。「中国のAmazon」と呼ばれることも。
いま出品されているものも、劣化コピー版しかないんじゃないでしょうか。
――コピーものの劣化コピー版?
麟閣氏:
そういうものはいっぱいありますよ。たとえば……イベントでお見せしたこれ。
――あああ(笑)。ファミコンの『名探偵コナン』。読者の皆さんにご解説いただけますか?
麟閣氏:
もちろんこんなもの正式には発売されていませんよ。……そして、このタイプのカートリッジは、すぐ割れるやつです(笑)。じゃあこれはいったい何かと言いますと、まずプレイを始めるとですね……。
――イベントを拝見しながら、爆笑しました(笑)。これはいったい何が起こっているのでしょう?
麟閣氏:
まず『赤川次郎の幽霊列車』【※】というファミコンソフトを外星科技というメーカーが勝手にコピーして、中国語版を発売します。それをさらにこの星星科技という会社がパクッてタイトルだけ『名探偵コナン』にしたものがこのソフトです。
※赤川次郎の幽霊列車
日本のミステリー小説家・赤川次郎が1978年に発表した著作『幽霊列車』(第15回オール読物新人賞受賞)を題材にした、1991年発売のファミコン用アドベンチャーゲーム。キングレコードより発売。音楽をすぎやまこういち氏が担当している。
――カオスですね(笑)。ご丁寧に箱入りで、取扱説明書までついていますよ?
麟閣氏:
たいしたこと書いてませんよ(笑)。コナンだと思って、ゲームを立ち上げてから「あれあれ?」と思っているうちに、わたせせいぞうの絵が「ドン!」と出てくる、この出オチ感が最高なんです!
――こんなものはどこで見つけるんでしょう。
麟閣氏:
これは上海からバスで2時間ほど行った市場で見つけましたね。ファミコンで『コナン』が出ているなんて聞いたことがありませんから、かなりドキドキしました(笑)。
「これはすごいものを見つけたぞ!?」と持ち帰って遊んでみたら、「うへぇ、『幽霊列車』だ!」……と、ここまでをひっくるめて楽しい(笑)。
――(笑)。価格も何も書かれていませんね。
麟閣氏:
これは20元(約340円)くらいだったかと。値段はお店の人に聞くんですよ。中国はコピー品をタダでダウンロードして遊ぶのがふつうですから、相場としては高いほうですね。
ファミコンソフトに20元を払って遊ぶということは、まずありません。しかも、これはカセット1本にゲーム1本しか入っていませんから。
――そりゃ高い(笑)。旅先でパチモノを見つけるコツってあるんですか?
麟閣氏:
いまはインターネットで検索できるから楽ですよ。昔はインターネットでも情報はそんなにありませんでしたから……。
たとえば東ティモールへ行ったときなど、事前の情報がまったくないときは、ホテルの人に家電製品を扱っているところを教えてもらっています。街に電気街みたいなものがない場合は、デパートや市場、おもちゃ屋さんの場所を聞いてから出かけます。
――なるほど。そうやって現地で聞き込みをするんですね。
麟閣氏:
ええ。そうやって聞き込んでいくうちに、“ありそうなニオイ”にたどり着くんです。ゲームを扱っている店は、いまならたいてい携帯電話を手前に陳列しています。
あとはパソコンショップが狙い目ですね。パッと見てゲームがなくても、店の人に聞くと棚から出てくる場合もあります。
あとは、おじちゃんやおばちゃんがいる店がズラーッと並んでいるような場所があるので、そういうところは狙い目です。
それと、街の中心に総合市場みたいなものがあって、食べ物や服、おもちゃ、動物……何でも売っているようなところがあるはずです。そこへ行けば何かしらのきっかけはつかめるかなと。
――たどり着けば、「これだ!」となれるものなんでしょうか。
麟閣氏:
まあ言葉がわからなくても、パッケージの絵で判断できますよ。僕は、その絵がおかしかったり、タイトルが間違っていたり、パッケージに描かれたゲームがそもそも入っていないところをおもしろがっています。
奇跡の発見?
――奇跡の発見をしたことはありますか?
麟閣氏:
発見ではありませんが、奇跡はありますよ。中国にいた当時、僕が雇っていたアシスタントに手伝ってもらって淘宝网でパチモノを探していたんですね。
あるとき、個人で出品している方とアシスタントがチャットをしていたら、その方に「なかなかいいセンスをしている」と言われたそうなんです。
アシスタントが「日本人の上司が欲しがっているものなんです」と返したら、「そいつは麟閣か?」と言われたそうで(笑)。
――(笑)。
麟閣氏:
僕、なんか悪いことでもしたのかと思いましたよ(笑)。よくよく聞いてみたら、昔中国の人にパチモノを貸したことがあって……。
――中国の人が持っていないパチモノを持っている日本人(笑)。
麟閣氏:
当時のやりとりでは言葉などの行き違いがあり、先方がイヤな思いをしたまま連絡が途絶えていたらしいんですね。だからアシスタントに「それは誤解で、本当はこういう気持ちでやりとりしていました」と伝えてもらいました。
するとわかっていただけて……。「もし麟閣だったら、このよさがわかるはず」と言って、この“Paradise”という機械を渡されたんです。
――これはファミコンに挿して使うものでしょうか?
麟閣氏:
そうです。そしてこっちが専用のカセットです。
――あれ? もしかすると、中身はぜんぶディスクシステムですか?
麟閣氏:
そうです! ディスクシステムのゲームをカセットに入れて、それをファミコン本体で動かせるツールなんです。……ちなみに1本カートリッジが割れちゃってるのが中国らしいところです(笑)。
――あー。素材の質が悪いんでしょうね。
麟閣氏:
素材もそうですが、成型も悪い。挿した瞬間に割れるものもあるくらいなので、これはまだいいほうです。
――違う意味でデリケートですね(笑)。
麟閣氏:
「よさがわかる」と言われて渡されたわけですけど、こんなものは初めて見ました。しかも、そんなに高くない額で譲ってくれたんですよ。これが僕の人生においてのいちばんの奇跡です。パチモノ探しをやっていて、よかったと思った瞬間ですね(笑)。
――続けていると、何が起きるかわかりませんね(笑)。
麟閣氏:
これを最初にお披露目したのが、ゲーム探偵団BARで開いた最初のイベントですね。お客さんからも「うおおおお」と声が挙がっていました(笑)。
――(笑)。Paradise自体はメジャーなものなんでしょうか?
麟閣氏:
いや、長年この趣味をやってきた僕が、初めて見たくらいです。イベントでは『銀河伝承』【※1】を実際に動かして皆さんにお見せしていたんですが、別の機会に動かしたところ『ドンキーコング3』【※2】が始まったことがあって、またシビレました。
※1 銀河伝承
1986年にイマジニアより発売された、ファミコン ディスクシステム用の縦スクロールシューティング/縦スクロールアクションシューティングゲーム。正しくは『銀河伝承 ギャラクシーオデッセイ』。パッケージの中に、短編小説などが書かれたサブテキスト、ボイスドラマなどを収録したカセットテープ、心理学系の研究所が監修した謎の「感性教育のしおり」が同梱されていた。
※2 ドンキーコング3
1983年に任天堂から発売されたアーケード用シューティングゲーム。『ドンキーコング』、『ドンキーコングJr.』に続くシリーズ第3作。高い位置から降りてくるドンキーコングやコングが放つ羽虫を画面下部から薬剤で撃退し、画面下部にある植物を奪われないように奮闘する。本文で言及されているのは翌1984年に移植されたファミコン版。ちなみに主人公はマリオではなく、スタンリーというキャラクター。
――? 『銀河伝承』のソフトを挿したのに、『ドンキーコング3』?
麟閣氏:
そうなんです。おかしいなと思ってリセットボタンを押したら『銀河伝承』が始まった。つまり、ディスクシステムの裏、表……、もしくは『ドンキーコング3』を『銀河伝承』に書き換えたものをカセットに詰め込んでいるので、データが残っていたんじゃないかなと。
――何がなんだか(笑)。
麟閣氏:
パチモノゲームイベントに、まさに神が降りてきた瞬間でした(笑)。もう、手に入れたときから、ネタにして披露するまでが完璧! そういうのでみんなが盛り上がっているところで、ニマニマしながらお酒を飲んでいるのが、いちばん楽しいんです。
ゲー探BARでパチモノで遊びながら飲んでるお酒のほうが5000兆倍美味しい pic.twitter.com/oHGJ2yx5CB
— 麟閣 (@rinkaku89) October 6, 2017
――ああ、なんだか麟閣さんという人がいまわかった気がします。そういう奇跡のパチモノは、数が無限でしょうから、楽しみに終わりがなくていいですね。
麟閣氏:
そうですね。いまだに新しいものが出続けていますし、過去にどんなソフトがあったかもわかりませんから、コンプリートは絶対にありえないですね。だからやめられない(笑)。
まだ見つかっていないおもしろいものも、絶対にどこかにあるはずなんです。そういうものが、ある日フッと見つかるのがものすごくおもしろいんですよね。
ただ、やっぱり、パチモノって根っこの部分でやましいものじゃないですか。だからなかなか表にはでてきません。だけど、「当時はこんなものがあった」という文化としては貴重だと思うんです。
――20年ほど前にワーッと賑わった文化ですね。いまから麟閣さんと同じ道を歩みたいと思ったとして、できるものですか?
麟閣氏:
インターネットも淘宝网もありますから簡単ですよ。個人輸入されている方も多いですしね。でも、僕のように自分の足で現地まで探しに行く人は少ないと思います。
最終的に、パチモノはお金を出せば手に入るもの。でも、それじゃ僕はおもしろくないんです。現地に行ったという経験が伴わないと。
人生はムダであるほどおもしろい
――パチモノ掘りの活動に、最終的な目標なんてあるのでしょうか?
麟閣氏:
いまのところ特には。ただ、いっしょにお酒を飲んだり、旅行へ行ったりするような、愛好家たちが集まる空間が偶然作れましたので、なんというか、子どものときにみんなでファミコンで遊んでいた感覚が戻ってきたといいますか。
――「これスッゲーよ! 見た!?」みたいな感覚ですね(笑)。
麟閣氏:
僕はそんなにゲームに詳しくも、腕前があるほうでもないんです。世代的にファミコンで育っているから、広く浅くはわかるという感じで。そんな僕でも、この活動を通じて絶対的な知識量を持った方たちと知り合うことができました。
一方で、その皆さんはパチモノのことをよく知らなかったりします。そんなときに僕が「こんなゲームを見つけたんですよ」ってお見せすると、いろいろな角度でそれぞれの人がめずらしがってくれるんです。
――いろいろな角度?
麟閣氏:
たとえば『驚爆 911』という『メタルスラッグ』【※】をベースにしたソフトは、僕としては「こんな不謹慎なゲームを見つけた」と喜んだものだったんですが、ある人は「なぜ『メタルスラッグ』がゲームボーイカラーで出ているの?」というところに興味があったりするんです。
またある人は、「ゲームボーイカラーでこんなソフトが作れるんだ!」と技術的におもしろがってくれる。
僕は僕がみんなに委ねた話題に反応が返るのが楽しいですし、もう僕もオッサンなので、そういうやりとりをお酒を飲みながら聞いているのが楽しくてしかたがないんですね。ゲームに詳しい方が「何コレッ!?」と驚いていることが、本当にうれしいんです。
――反応が自分に返ってきて、結果的につながりのあるみんなが楽しくなるという。いいですね。
麟閣氏:
そうですそうです、単純なこと。パチモノゲーム探しのツアーのときに、みんなでひとつの部屋に泊まったんです。見つけてきたゲームソフトを床に並べて、みんなで動作確認をして……。
もう、その瞬間瞬間がすごく楽しかったですね。上海へ行ってまで合宿みたいなことをしているという、ムダすぎる感じがたまらなかったです(笑)。
――最高にムダですね(笑)。
麟閣氏:
ムダなことしたいですよね。……人生はムダがあるほどおもしろいですから。
【おまけ】麟閣的山塞軟件十選
インタビューのおまけとして、その道の第一人者となった麟閣氏に、入手の過程にストーリーがあり、大切にしているソフトという前提で、「これは」というパチモノを10本ピックアップしてもらった。
ぜひ「何コレ!?」と驚いて、ツイッターなどで反応していただければ幸いだ。きっとネットの向こうで麟閣氏がお酒を飲みながら、その反応をニマニマと楽しんでいるはずだから。
1.『テトリス』
本文参照。近所の駅地下の店で売られていた、中学生の麟閣氏をパチモノの世界に誘ったソフト。
2.『SOMARI』
麟閣氏:
これは「ソニック」と「マリオ」が一体化した、パチモノ界では伝説のソフトです。鶴見さんがゲームラボで紹介していたのが知ったきっかけです。
――うわー。これは……。しかも、ここに書かれた住所はバンダイあたりという(笑)。
麟閣氏:
ラベルから何から、パチモノとしては完璧。実際に動かしてみると、「ソニック」のフィールドで「マリオ」が動きます。こういうのが僕は楽しいんですよね。
――こんなのを紹介したら、いろいろなところから怒られそうですが……載せます。
3. 『AV美少女戦士』
麟閣氏:
『SOMARI』と同じところが作ったソフトです。『らんま1/2』や、『美少女戦士セーラームーン』、『ストリートファイターII』の春麗などのキャラクターが登場する格闘ゲームです。
――あ、ちゃんとタイトルバックで流れる曲が『ムーンライト伝説』ですね(笑)。キャラクターだけパチって、何かのゲームのシステムを流用しているんですか?
麟閣氏:
どうなんでしょう? これはゲームバランスもわりとしっかりしていて、勝つとエッチなシーンが見られるんですよ(笑)。
――……負けた。残念(笑)。どうしてこのソフトに思い入れがあるんですか?
麟閣氏:
僕にしてはめずらしく、欲しくてわざわざ探しに行ったソフトなんです。鶴見さんがタイで見つけたそうなので、僕もタイへ行きました。
でも、サパーンレックにはなくて。いろいろな街を回ろうとしていたときに、バンコクから1時間ほど離れたサラブリという街へなんとなく寄って1泊したんです。
そうしたら、その街のデパートで6本も見つけたんですよ! 世界最大の闇市場と呼ばれるサパーンレックにないものがふつうのデパートにあったから、シビれるほど感動しました(笑)。
4. 『35合1』
麟閣氏:
先ほどもお話をした『35合1』は、ラベルのイラストがかわいいですし、中身のダブりも多くて好きですね。
――ダブりが多いほうが麟閣さん的には高評価なんですね(笑)。
麟閣氏:
そうです。たとえばリストの最後に書かれている『勇救美人完結篇』は、“美人を救う人の完結編”という意味ですが、『スーパーマリオ』が8面から始まるだけという。このタイトルの付けかたが、ひとつひとつ熱いんですよ!(笑)
――(笑)。『スーパーマリオ』以外には何が入っているんですか?
麟閣氏:
テトリスと中国将棋、それに台湾麻雀ですね。これを『35 in 1』と言い張る力技!
――ああ、右側のキャラクターは謎だったんですが、牌なんですね(笑)。
5. 『1993 SUPER RPG HIK 4 in 1』
麟閣氏:
これは『ファイナルファンタジーII』、『ドラゴンクエストIII』、『三國志II』、そして『天地を喰らう』という4本のゲームが入っています。
――光栄、スクウェア、エニックス、カプコン、と大手メーカー揃い踏みですね(笑)。中身は日本語ですか?
麟閣氏:
はい。これを見つけたのはボルネオ島のマレーシア側です。スクウェアとエニックスが合併する前に見つけたものだったので、単純に『FF』と『ドラクエ』がいっしょに入っていたことに驚きました。「合併を予言していたソフトだ!」って、後に適当なことを言っていましたね(笑)。
――なるほど(笑)。
麟閣氏:
中国だけに、『三國志』が入っているものはそんなにめずらしくないんですが、『ドラクエ』が入っているのがめったになく、すごいんですよ! この“HIK”というのがブランド名ですが、ここはなかなかいいものを出しています。
6. 『4 in 1』
麟閣氏:
これは見てのとおり『ポケモン』のオリジナルゲームが4つ入っています。
――オリジナルゲーム?
麟閣氏:
『ダンスダンスレボリューション』みたいなものと、スロットゲームと、『パックマン』のパックマンがピカチュウになっているものと、『ピカクリック』という名前の『さめがめ』【※】の4種類です。
※さめがめ
数種類の正方形のコマが縦横に積み上げられた状態で、任意のコマをクリックすると、隣接した同じ種類のコマが消え、消えたコマの上部のコマが落下。縦一列で消した場合は左にコマが詰まるというパズルゲーム。消せるコマがなくなるとゲームオーバーとなる。もともとは1980年代半ばに森辺訓章氏が考案したPC用フリーゲームが発祥。さまざまな機種への移植がくり返されたのち、1990年代にWindowsやMac用に移植され、10年越しにブームが拡大する。名前は同じコマを消すゲーム(Same Game)に由来。
――『パックマン』風のゲームでは、ピカチュウがドットを食べるんですか?
麟閣氏:
そうです。追いかけてくるのは、よくわからない謎のキャラです(笑)。火星電子というところが出した『4 in 1』を、どこかの会社が勝手にコピーして、安価で売ったやつです。
――勝手にコピーしたと言っても、そもそもがダメじゃないですか(笑)。
麟閣氏:
ヒットしている『ポケモン』をファミコンで出すというのが、一時期パチモノメーカーのあいだで流行ったんですよね。これはもうカセットが壊れてしまって遊べなくなってしまったんですが、手放せません。……ここなんかこんなに割れちゃって。
――あー、ボロボロ。
麟閣氏:
これは中国の杭州からバスで2時間ほど行った地方都市で見つけたもので、確か2元でした。
――30円ちょい。粗悪なわけですね(笑)。
7. 『名探偵コナン』
本文参照。パッケージからマニュアルから、カートリッジからコナン尽くめだが、プレイすると中身は『赤川次郎の幽霊列車』というシロモノ。
8. 『孫小毛 奇幻島』
――ああ、カートリッジの真ん中、なんかニンニキニキニキ【※】な感じが……。それで孫小毛。
麟閣氏:
再生するとさらにですね……。
――まさかこれは……『高橋名人の冒険島』【※】?
※ 『高橋名人の冒険島』
1986年にハドソン(当時)より発売されたファミコン用の横スクロールアクションゲーム、およびそのシリーズ。セガがアーケードで同年にリリースしていた『ワンダーボーイ』のキャラクターを当時人気絶頂のハドソン・高橋名人に差し替えたもので、キャラクターに即して苦手のアイテムが「なすび」などに変更されている。シリーズは1994年6月24日発売の『IV』まで続き、この『IV』が実質的な最後のファミコン用ソフトとなった。
麟閣氏:
ベースはそうです。キャラクターと音楽を挿げ替えただけのものなんですが、私が聞いたところによると、この主人公は台湾に実在するお金持ちらしいんです。
――まさか、そのお金持ちが金にモノを言わせて作らせたとか?
麟閣氏:
そうです。「自分が出るゲームを作れ」と言って市場に流通させたという(笑)。定かではない話ですが。
――高橋名人もそのお金持ちも、実在する人物という共通点がありますね(笑)。
9. 『ドラえもん ギガゾンビの逆襲』
麟閣氏:
これは『ドラえもん ギガゾンビの逆襲』【※】です。これだけを見て、何か大事なことに気づきませんか?
――……のび太がいない!
麟閣氏:
そうなんです! 発売元の外星科技は、オリジナルのゲームも出しているんですが、勝手に日本のソフトを中国語版にして「自社製品です」と言い張っている会社です。
――あらー……。
麟閣氏:
ちょっと遊んでみてください。
――え、この青い生きもの、誰?(笑) なんか男女が選べるんですけど……。
麟閣氏:
もう、ゲームスタート後のドラえもんの顔が、ひたすら変なんですよ。そのままで権利元に見つかるとヤバいから、「これはドラえもんではない」という扱いなんですよね。
――でも、パッケージはドラえもんじゃないですか……。
麟閣氏:
彼らとしては、パッケージは最悪引っ剥がしてカセットだけ売ればいいわけなんです。ですが、ゲームの中身は一生残るものなので、そのときに「ドラえもんであってはならない」という考えかたですね。
――なんというか……新しい価値観に出会った気がします……。
麟閣氏:
この会社は『ソニック ザ・ヘッジホッグ』のキャラをドラえもんに変えたソフトも発売していますが、それは平気で出しているにもかかわらず、このドラえもんは全部顔を変えているんです。
――謎ですね。よくわからない……。
麟閣氏:
ここはパチモノファミコンの本体も作っているような会社なので、中国でのファミコンの歴史を語るときには欠かせない会社です。
10. 『驚爆 911』
麟閣氏:
最後は……これですね。
――これが先ほどの……。イベントで拝見しましたが、見ていなければ内容の見当もつきません。
麟閣氏:
なぜかゲームボーイカラーで出ている『メタルスラッグ』がまずありまして、さらにそれのパチモノなんですが、オープニングでワールドトレードセンターに旅客機が突っ込むというめちゃくちゃな内容になっています。
このソフトは台湾にあるという情報があったので、現地へ行って見つけました。
――これをイベントで目すると、やっぱりどんなお客さんも「うおおおお」と声を挙げますね(笑)。
あまりに広く深く、底の見えないパチモノ世界。
麟閣氏自身も言っているように、他人の権利を侵害して作られた品の数々は褒められたものではない。だけども、これらのソフトを見て、わけのわからない驚きや衝動で楽しくなるのもまた事実。
時代は下ってディスクメディアが中心になってからは、さらにコピーがされやすくなり、気軽にコピーできないファミコンカセットはすでに市場がすたれ、中国でも見つけるのが難しくなっている。
ただ、片田舎の街角で新しいハードが高くて買えない子どもらが、いまでもこうしたソフトをパチモノと知らずに触れ、夢中になってプレイしている。そういう話を聞くと、記者自身も以前上海で取材してきたデベロッパーの人々が、口々に「パチモノファミコンで育った」と言っていたことを思い出す。
パチモノの罪深さを考えると身動きが取れなくなるが、そういう文化があり、そこからゲームを好きになる子どもがいることを思うと、少なくとも記者個人は100%で断罪できない。
罪深きはゲームの楽しさよ。
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