2018年1月からスタートしたTVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』が放送2年目に突入した。とりわけ事前に注目されていた作品ではなかったが、放送が始まった直後から、今どき珍しいオーソドックスなロボットアニメとして、幅広い層から注目を集めた。
また、主人公・速杉ハヤトのマニアック過ぎる鉄オタトークも話題を呼ぶことになった。ハヤト語る鉄道ウンチクは、本作が新幹線をメインに据えた理由が感じられるほどの説得力があり、こちらも作品の“本気”を感じさせる大きな要素となった。
本気といえば、多くのファンを驚かせたのが、500系新幹線が『新世紀エヴァンゲリオン』とコラボした「500 TYPE EVA」の登場と、シンカリオンへの変形。TV放送時には、BGMにも『エヴァ』オリジナルの楽曲が用いられ、大きな話題を呼んだ。
そしてなにより『シンカリオン』が魅力なのは、人と人とを繋ぐ“鉄道”をモチーフに、仲間どうしが、そして敵キトラルザスと自分たちが繋がれていく様子を丁寧に描いているからだ。
このような『シンカリオン』はどのように生まれたのか。それはロボットアニメというジャンルにおいてどんな位置を占めているのか。 また今回は、本作からロボットアニメの未来にも迫る。
そこで、企画から携わる小学館ミュージック&デジタル エンタテイメントの山野井創プロデューサー、3DCGシーンの演出を手がける大畑晃一氏、様々なロボット作品のクロスオーバーを実現させている『スーパーロボット大戦』寺田貴信プロデューサーをお招きし、『シンカリオン』とロボットアニメを軸に、それぞれの視点から存分に語り合ってもらった。
『シンカリオン』を『スパロボ』で扱うのは難しい
──今回はTVアニメ『新幹線変形ロボシンカリオン』(以下、シンカリオン)×『スーパーロボット大戦』(以下、スパロボ)ということで……まずは皆さんが気になっていることを最初に聞いておこうと思います。
ずばり、『スパロボ』に『シンカリオン』は参戦するのでしょうか。また、『スパロボ』作品として見た『シンカリオン』はどのような作品でしょうか。
寺田氏:
これに関しては「出る」とも「出ない」とも言えませんが、仮に出るなら……という仮定のうえでお話しますと、僕らとしても、昨今1年50話以上続くロボットアニメというのは非常に貴重な存在です。
まだちゃんと観ていなくて「子ども向けなのでは?」と思っている人もいるとは思いますが、そういう人にも「シンカリオン 500 TYPE EVA」の存在は届いていたりするので、すごくよいコンテンツに育っているということを感じています。
実際、『スパロボ』の収録をしていると声優さんから、「今後『シンカリオン』は登場するんですか?」なんて聞かれることもありました。
ただ、『シンカリオン』は『スパロボ』で扱うのは難しいタイトルだといえます。『シンカリオン』は日本の新幹線ありきの物語なので、未来世界の宇宙などで戦っていいのかどうか。
あと、ロボットがたくさん出て来て、色々と合体するロボットなので、戦闘アニメーションを作るのが大変そうですね。
──なるほど。さて、そんな『シンカリオン』ですが、まずはその概要から入って行ければと思います。
本作のような企画は、玩具中心の企画としてスタートすることが多いように思いますが、そもそもどういった経緯で誕生したんでしょうか。
山野井氏:
まず、2013年に弊社のデザイナーが描いたロボがあり、親会社の小学館集英社プロダクション経由でジェイアール東日本企画さんに相談し、JR東日本さんからの許諾を取りに行ったところ、OKをもらうことができたんです。
そこから改めて「企画としてやりましょう」と動き出したのが、今の『シンカリオン』です。
だからプロジェクトの初期段階に関しては、タカラトミーさんは全く関わっていないんですよ。タカラトミーさん的にはJR東日本さんのOKが出たので「え!? 新幹線ってロボにしていいんですか!?」という形で、後から参加が決まったというのが経緯なんです。
──そうなんですね。そして2018年1月にTVアニメがスタートするわけですが……企画の立ち上げからかなり時間が空いていますね。
山野井氏:
最初に弊社が作ったロボットのデザインは、変形や玩具化するという前提がなくて、絵としての格好良さ優先で描いたものでした。
だから変形機構もまったく考えられていなくて。それでは商品化ができないという問題があるので、リデザイン作業を始めたのですが、それに約1年かかって。
そこからPVを作りはじめ、さらに2年かかって、ようやくアニメ化にこぎ着けたという感じです。
寺田氏:
何かのショーで、今の『シンカリオン』と全然違うものを見た記憶があるんですよ。「Project E5」という名前で。僕はそれが最初に見たものですね。
山野井氏:
それは2014年の「東京おもちゃショー」ですね。その「E5」が弊社デザインのものです。
寺田氏:
新幹線をモチーフにしたロボットというと、『超特急ヒカリアン』(1997年)があったし、サンライズさんの勇者シリーズでも新幹線を組み込んだ機体がありますから、前例は存在しているんですよね。
でも、現実世界でレールの上を走っている新幹線をロボットに変形させる点に驚きました。
そのショーの次に僕が『シンカリオン』を見たのは、タカラトミーさんの玩具販促用DVDですね。僕は「プラレールアドバンス」が好きで商品を買っていて、お店でもらいました。
そこに『シンカリオン』のプロモーション映像も入っており、土偶型の敵と戦っていて、「え? これはどういう世界観?」と思ったのを覚えています(笑)。
確か地下でライトアップされた『シンカリオン』が登場するシーンもありました。でも、キャラは出ていなかったですよね?
山野井氏:
当時は企画自体がどういう方向に振られるかまだ分からないので。いっさい人間キャラクターを出さず、イメージが固定化されるのを避けていました。
寺田氏:
なるほど。あとは駅のポスターか何かで見ました。
山野井氏:
その頃は「現状から一足飛びにアニメは無理だろう」とみんな思っていましたね。しかも、今の時代にロボットだけで勝負しても、ビジネス的にはなかなか戦えないというのも事実なわけで。
だから、一旦「90秒のPVをシンカリオンごとに詳細を作って流す」というのが当初のプロジェクトの流れでした。
その前に、うちは『テンカイナイト』という作品をやった経験があり、やはり作品は積み重ねてやっていかないと駄目だという実感もあったので、そうやって地道にキャラクターを展開していくことからスタートしていったんです。
ただそのときも、JR東日本さんのオフィシャルの許諾がとれたことがとても大きかったです。そのおかげで、東京駅や幕張駅などの広告スペースに、ポスターを貼っていいということになって。
当時はプロジェクトもそんなに予算がなかったので、内輪でデザイン制作などをして。みんなで作っているという感じでした。
──そうやって蒔いた種が、ちょっとずつ大きくなってアニメにつながったわけですね。
山野井氏:
種を蒔いて、みんなで肥料をやったり水をやったりという期間が、おおよそ2年半くらいあったという感じです。
寺田氏から見た『シンカリオン』とJR各社ごとレギュレーションとは
──先ほど寺田さんには「『スパロボ』作品として見た『シンカリオン』はどうか」という質問をしましたが、いちロボット作品と見た場合はいかがでしょうか。
寺田氏:
まず言えることは、分かりやすいということですよね。
変形前の実物が実際に見られるロボットアニメって実はそんなにないですから。
あと、アニメになって明らかになったこととして、舞台も現実に存在する場所を使っているんですよ。
たとえば主人公のハヤトが所属する新幹線超進化研究所・東日本指令室大宮支部は、埼玉県の鉄道博物館の地下にあるという設定になっている。これも視聴者にとっては楽しい設定ですよね。
あと、ロボットは顔で識別することが多いのですが、シンカリオンは胴体の形状とボディーカラーで判別がつくというのも特徴的です。これも新幹線を題材にしているからこそだなと。
3DCGキャラクターは走らせるアクションに手間がかかるにもかかわらず、なかなか空を飛ばず、陸上戦中心で進むのも印象的でした。こんなにロボットが走り回るアニメは『戦闘メカ ザブングル』くらいじゃないかって (笑)。
大畑氏:
(笑)。
寺田氏:
あと、観ていると「捕縛フィールドを発生させる人工衛星が一番の弱点なのでは?」とかも考えちゃいますね(笑)。
山野井氏:
そこは本読み(脚本打合せ)でも話が出ます(笑)。だからこそ敵のキトラルザスは地の底に住む種族にしているところがあって、地底人だからあまり空の上まで意識がいっていないんだろうと。
シンカリオンの飛行については、最初にJR東日本さんから「空は飛ばせないでほしい」と言われたんです。「新幹線はレールの上を走るものだから」と。
それはごもっともなお話なので、こちらとしては「ならジャンプはよいですよね」という形でアクションの幅を確保するようにしました。
ただ面白いのは、JR各社さんでスタンスが違うんです。たとえばJR九州さんは飛行OKだったり。
だから「シンカリオン 800つばめ」は飛行できるという設定になっている。
新幹線を持つJR5社が、みなさんそれぞれのスタンスをお持ちなので、シンカリオンごとにやっていいこと/やっていけないことのレギュレーションが違うという。
そのあたりは、普通のロボットアニメとは違う、いろいろな制約があって、PVの頃からそこを踏まえていろいろ作ってきました。
──具体的にはどんな縛りがあるのでしょうか。
山野井氏:
たとえば、シンカリオンは現場急行するにしても、制限速度の中でしか急行できないんです。
たとえシンカリオンであっても制限速度以上は走ってはいけないのである、と。だから北海道に行くときも4時間以上かかるわけです。
JRさんから特に言われているのは、現実にある場所を扱う以上、そのあたりのルールはきっちり守ってほしいということです。たとえば、シンカリオンは線路上では変形してはいけないんです。
なぜかというと、変形したら架線に引っ掛かって危ないし、ほかの新幹線の邪魔にもなるわけで。あるいはPVのときに、シンカリオンが海岸線を走る映像を作ったら、「その新幹線は海沿いを走りません」という指摘を受けたこともあります。
そうやって、気になる部分を問題ない形で落とし込んでいったら、結果ものすごく地に足がついたアニメになりましたね。
寺田氏:
でも、そこが全然欠点に見えていないのがいいところですね。
大畑氏:
昔からそうですけど、やりにくいとか面倒くさいことをやることで、新しさが出るとかあるんですよ。
山野井氏:
そういう意味でいうと、『シンカリオン』の本当の限界点は、現在走っている新幹線の種類以上にシンカリオンを登場させることができないというところかもしれません(笑)。
最近はロボットアニメをやりたい人たちがいないらしい
寺田氏:
『シンカリオン』は3DCGパートが結構多いと思うのですが、そのあたりはどうなんでしょうか?
山野井氏:
基本は、予算との兼ね合いで「1話あたり4分目安」で考えています。ただ、会社的なことをいうと、CG屋さんとして『シンカリオン』には賭けている部分がありました。
そこで、取締役を含めて上のほうからは「最初の1クールは3DCGシーンの尺については目をつぶれ」と言われていたので、そこまで尺については厳密なものでもなかったです。
結果、1クール目終わった時点で、3DCGシーンが平均5分くらいになっていたんです。
しかも2クール目に入ったら400秒、6分強という回も出てきた。それでこのあたりが限度だと。
それでそこから改めてグッと3DCGシーンを圧縮していって、本来の平均4分の枠内に収めていくようにしました。
大畑氏:
最初の頃は戦闘シーンが“Aパートで1回、Bパートで1回入る”というパターンが多かったですよね。
それが途中から、まずはハヤトたちが、ご飯を食べたり遊びにいったりする日常パートから入るようになって、そこにピッと呼び出しが入って、「ここからバトルタイムです」となるパターンになってきた。
山野井氏:
考え方からすると、戦隊もののフォーマットに近いです。
もちろん各話それぞれにメリハリはあっていいので、時々重たい戦闘シーンが入るのはいいのですが、毎回そうなってしまうとメリハリも効かなくなってしまいますし。
そういう意味では3クール目から、そういう塩梅の調整を池添監督と脚本の下山さんがコントロールしてくれました。
3DCGカットでひとつ補足しておくと、普通にご覧になっている方は忘れがちかもしれませんが、ただ走っているだけの新幹線も3DCGの尺にカウントされるんです。アクションシーンだけではありません。
あと、アクションに頼って盛り上げようということになると、3DCGシーンがどうしても増えがちということもありました。しっかり脚本の段階で、お話に牽引力を持たせることが“3DCGシーンの尺を抑えることにも繋がる”ということです。
この点は、シリーズ構成の下山健人さんたち脚本チームにはすごくお願いしたところです。
──3DCGシーンはそうやって作られているんですね。では、3DCGシーンの中でうまくいったシーンや、逆に苦労したシーンはどこでしょうか。
大畑氏:
うーん、苦労した、ですか……。今が一番苦労しているところで(笑)。
ちょうど大きなエピソードの区切りのところの、ずっと戦ってきたキトラルザスとの決着がつく第64話をやっています。先日発表になりましたけれど「E5はやぶさ MkⅡ」という新しい機体が出てくるので、そこはちょっと楽しみにしてもらってもいいかなと思います。
【情報解禁①】
— 『シンカリオン』シリーズ(公式) (@shinkalion) February 9, 2019
本日開催した「超進化研究所がおくる!冬のシンカリオン感謝祭」にて、ある重要解禁情報が!
まずはこちら!
4月以降、主人公機「シンカリオン E5はやぶさ」が「シンカリオン E5はやぶさMkⅡ(マークツー)」としてパワーアップします!!#シンカリオン pic.twitter.com/8d63elcUQc
寺田氏:
「E5はやぶさ MkⅡ」は日本刀っぽいもの持っていましたね(笑)。これは映えるなあと。
シンカリオンは得物でいうと剣(E5はやぶさ)、ライフル(E6こまち)、ドリル(E7かがやき)の順番で出てきて、さらに忍者(E3つばさ)もいたなと。
僕ら世代だと、ゲッターロボのパターンで考えてしまうので、2号機的なスタンスの機体がドリルのほうが納得いくなとか思ったりしました。
大畑氏:
(笑)。
山野井氏:
各シンカリオンの個性は、ロボットアニメのお約束というより、路線の個性に寄っています。
なので、デザイン作る際、秋田新幹線の「E6こまち」であれば、まず「なまはげ」と「マタギ」というお題があるんです。そこからライフルという小道具が出てきたんです。
「E7かがやき」の場合も、飯山トンネルという大きなトンネルがあることからドリルが決まり、JR東日本の、新幹線の中で一番パワーがあるということを踏まえてキャタピラを装備させています。
もともとのコンセプトは「相撲取り」でしたが、それをブレイクダウンするうちに今のような形に。
ちなみにシンカリオンの特徴のひとつは、そういう武器のネーミングが「カイサツソード」「フミキリガン」「シャリンドリル」といった具合に、結構バカバカしい名前になっているところです。
──それは、なにか狙いがあるんですか?
山野井氏:
『シンカリオン』のターゲットはまず小学生男子ですが、そこにウケるための大事な要素として、ダサい感じのフックが必要なんです。
“ダサパウダーを振りかける”といいますか。新幹線そのものはかっこいいものなので、いじりづらいのですが、手に持っている武器はあえてちょっとダサいネーミングにしていこうと。
寺田氏:
『秘密戦隊ゴレンジャー』なども、そういうところがありますよね。敵の怪人もユニークなのが多いし、親戚の子どもに観せたら、必殺技のゴレンジャーストーム(ラグビーボールをパスして、最後に敵怪人に蹴り込む)もバカウケで。
平成の『仮面ライダー』も最終フォーム的なものは、かなり大胆なスタイルになっていたりしますけど、やっぱりそういうのが子どもにウケたりするんですよね。
山野井氏:
そういう部分は子ども向け番組であれば、忘れてはいけないことだと思っています。
自分としても、「うんこちんちん」で笑っていた頃のマインドを思い出しつつ(笑)、やっているところはありますね。まあ、とはいえ『シンカリオン』では「うんこちんちん」的な方向はできませんが。
──また、シンカリオンと戦う巨大怪物体もさまざまなタイプが登場します。3DCGキャラクターなので、もうちょっと使い回しされるのかなと思っていたのですが。
山野井氏:
最初に、巨大怪物体をどれくらい出せるかを考えました。
そのときに、1年のシリーズでエピソードが50本もあるのに、敵が10体しか登場しないということはありえないだろう、そこはそれなりの数が必要だよね、と。
うちでは『デュエルマスターズ』というカードゲームアニメも担当していますが、そこでは年間に120体くらいクリーチャーを出しています。
しかも、そのうち100体くらいはほぼ使い切りです。だから巨大怪物体についても、登場が1回きりということには抵抗はありませんでした。
──3DCGの話題ですので、大畑さんについてもいろいろと伺いたいのですが、大畑さんはメカデザイナーや監督として大畑さんの名前を覚えているファンも多いと思います。CG演出という肩書は初めてですよね?
大畑氏:
そうですね。私は、元々メカデザイナーという仕事からこの業界に入りまして、メカデザインの仕事から広がっていく形で、メカシーンやアクションシーンも演出できるのではないかということで、監督も手がけることになりました。
1980年代半ばから1990年代初頭はまだOVA(オリジナルビデオ)も多く作られていて、メカキャラクターに特化したジャンルだと、しれっと監督になって好きなことができたということがありました。
そういうどさくさに紛れて監督になれる時代だったんです(笑)。『装鬼兵MDガイスト』はそうして生まれた作品でした。
寺田氏:
『MDガイスト』は、すごくカロリーの高い作画をやっていましたよね。当時「TVアニメと比べてOVAのほうが、作画レベルがずっと高いな」と思った記憶があります。
大畑氏:
ありがとうございます。自分はアニメブームの最盛期のお尻のほうから仕事をスタートしたので、いろんなフラストレーションがありまして、『ガイスト』はそのフラストレーションによって作られた作品ですね(笑)。
寺田氏:
(笑)。
大畑氏:
自分は、もともとメカデザイナーになりたいとか、アニメーションの監督になりたいとか、そんなに確たる目標はありませんでした。
ただ、東京で映像やイラスト、デザイン関係の仕事がしたいという気持ちだけで業界に入って、やりながらいろんなことに興味を持っていくようになった感じで。
なので監督業も、改めて声がかからなければ、またメカデザイナー専業に戻っていたと思います。でも幸い、監督業のほうも定期的にお声がけいただいてきたので、これまで続いてきた感じです。
ただ、絵コンテでいろんな作品に参加したことはあっても、演出として参加するのは『シンカリオン』が初めてで、当然クレジットに恥じない仕事をしないといけないということは強く思いました。
──3DCGシーンのチェックが主な仕事ということでしたが、具体的にはどういう形でお仕事をされているのでしょうか。エンディングクレジットをみると絵コンテに連名で名前が出ていることも多いですよね。
大畑氏:
『シンカリオン』では第7話の3DCGパートの絵コンテが最初の仕事でして、「後続で上がってきた絵コンテにも少し手を入れてほしい」となり、第4話と第5話の3DCGパートの絵コンテについて少し手を入れさせてもらって。だからクレジット的には第4話から参加した……ということになると思います。
ただ、その頃はまだ“お客さん”的な立場で、自分自身も全体の制作体制を把握するのにとまどっていた時期でしたね。その後、1クールを過ぎた頃になってようやく自分の役割がハッキリしてきたかなという感じでした。
制作側も「呼んだはいいけど、コイツをどう使うんだ」というのは皆さん悩まれたんじゃないかと思います(笑)。
池添監督が元々CGアニメーションの演出もやられていた方で、たとえば第1話、第2話は最初から参加していたメインのスタッフで3DCGシーンが作られているんです。
ただ、毎週作るとなると物量的に大変ということで、だんだん3DCGシーン関係のチェックをこちらで専門に受け持つようになっていきました。
──なるほど。
大畑氏:
池添監督からまず言われたのは、「ロボットの戦闘シーンで、なにかアイデアがあれば協力してほしい」ということでした。そういうことであれば自分のフィールドだから、絵コンテもお手伝いしますよ、と。
そうすると「最近はロボットアニメをやりたい人たちがいないらしい」という話が聞こえてくるんです。ロボットアニメの絵コンテも、めんどくさくて大変だから、やりたくないと。
私としたら「えっ?」という感じですけど(笑)。それで戦闘シーンの絵コンテが、最初から私のほうに振られることが多くなってきたんです。
とはいえ、もちろん戦闘シーンの絵コンテを描いていただいている方も多くいらっしゃいます。
なので、そこは全体の統一感をとるために、ある程度のパターンの中に収めるように手を加えつつ、状況を見て、「少し違いを出してみよう」とか「変わったことができるな」というときには、池添監督にアイデアを提案して修正をすることもあります。
あとは、それがうまく3DCGの映像になっているかどうかをチェックする。それが今の『シンカリオン』における仕事の全容ですね。
だから、全くタッチしていない回もありますし、逆にかなり修正をしたという回もあります。どうにかこうにかおかげ様で評価をいただいているので、このままテンションが落ちないよう、最後まで走り抜けたいと思っていますね。
──シンカリオンは、胸も肩も張り出しているデザインなので、アクションをさせるといろいろなところが干渉しそうに思うのですが、そういった苦労はありますか?
大畑氏:
デザインだけ見ていれば確かにそうですが、アクションのときは人間の動体視力で判断できないレベルで相当ごまかしを入れています。
これはすべての3DCGキャラクターにいえることでもあって、早い動きのときはそれほど気にはならないんです。
もっといえば、人間が作画をしている2Dアニメでも、ロボットはデフォルメしたりパーツを付け加えたりして、ある意味ごまかしてかっこよくしている画面も多いですから(笑)、そのあたりは似たようなものかなと思います。
むしろ困ったのは、バトルフィールドがひとつしかないし、しかも、外では戦わないという縛りですね。あと、シンカリオン自体を戦いの中で壊すのも難しい。
普通にメカアクションを演出しようとしたときに、「これでどうやっておもしろくするんですか?」というような制約があって、そこは最初の段階でなかなか飲み込めませんでした。
こんな不自由なところで自分の持っているものが出せるのかと不安にも思ったりして、慣れるまではやっぱり時間がかかりましたね。1カ月くらいでなんとか慣れましたけれど。