香川県「ゲーム規制」が全国に波及する可能性── 規制に反対する若手都議に問題の本質を訊いた

 2020年3月18日、香川県議会で正式に可決された「ネット・ゲーム依存症対策条例」

 2019年に世界保健機関(WHO)がゲーム障害を依存症に認定したのをきっかけに、日本で初めて本格的なゲームの依存症を対策する条例となっているが、条例の内容や経緯、特に市民が寄せたパブリックコメントの取り扱いには、多数の疑問点が県内外から指摘されている。

 東京都議会議員である栗下善行議員も、疑問を呈する人間のひとりだ。26歳という若さで2009年に初当選。前例踏襲主義に縛られがちな行政の在り方に疑問を抱き、世代間のギャップを乗り越えた政治を実現するため、SNS等ネットも活用しながら発信している。

 香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」に対しても、素案が提出された時点で早くから疑問点を発信し、香川県外から積極的に条例を見直すよう働きかけている。

 果たして、ネット・ゲーム依存症対策条例は十分に民主主義に則った条例と言えるのか。今回、栗下議員に本条例に対して発信し続ける理由、また本条例に対する意見、疑問をうかがった。

 なお、本稿の取材は本条例の可決以前になされたひとつの意見であることを留意されたい。

取材・文/J1N1@J1N1_R


栗下善行議員

──本日はお忙しい中、取材のお時間をいただきありがとうございます。昨今はコロナウィルスの流行もあり、正直「ネット・ゲーム依存症対策条例」(以下、ゲーム規制)のお話をうかがうどころではないかと思いましたが。

栗下善行氏(以下、栗下氏):
 そうですね。正直、議会でもその話題でもちきりですし、世論でも一度ゲーム規制の話は話題として挙がったものの、コロナウィルスの話題で流されてしまった印象はあります。ただ当然、ゲーム規制の問題をこのまま見過ごしていいものではないと思います。

──仰る通り、緊急時だからこそ問題は個々に検討するべきだと思います。まずお伺いしたいのが、栗下議員は東京都議会議員であるにも関わらず、香川県の条例案について何故言及されていたのでしょうか?

栗下氏:
 仰る通り、都議の立場で他の都道府県の条例や制度にあまり批判をしたくはありません。ただ本条例案に関しては、あまりに問題点が多いこと、加えて他の地方自治体にも波及する恐れがあるので言及した次第です。

 行政は前例踏襲主義に陥りがちです。一度香川県でゲームを規制する条例ができてしまうと、全国に同じような内容の規制が制度化される可能性は十分にあります。事実、秋田県大館市教委では同様のゲーム規制に関する条例が提案される動きもあります。こうした点を踏まえても、「香川県だけの問題だ」とは思えなかったのです。

──この条例は香川県外に波及する可能性も高いと。ではこのゲーム規制条例について栗下議員はどうお考えでしょうか。

栗下氏:
 まず内容以前に、条例を作り、審議するプロセスに大きな問題があります。

 条例検討委員会もほぼ表に出さない形で進行しましたし、発表から施行までの期間があまりにも短い。加えて外部からの意見はシャットアウトされ、議事録は全く公開されませんでした。

 議論を必要とする重要なテーマであるにも関わらず、そのほとんどがブラインド化されている今回の条例決定のプロセスは他の地方自治体の議会と比較しても非民主的であると言わざるをえません。

 都議の私が他県の政治にあまり言及するのは本意ではありませんが、ブログやTwitter等で意見を発信せずにはいられませんでした。

──3月16日、自民党議員会が「パブリックコメントの結果の公開を求める申し入れ」を行いました。

栗下氏:
 検討委員会がゲーム規制に関するパブリックコメントを募集した結果、賛成が2269件、反対が334件ということでしたが、この結果に疑問が残るからですね。パブリックコメントでありながら一般の方のみならず、県議の方にすら公開されていないようです。意見の内容を列挙した資料については、賛成はたった1ページ分で、反対意見は76ページ分にも及びました。

 香川県議会の中でも、大山議長擁する県政会20名に対して、8名の議員会の議員と2名の共産党の議員が疑問を呈しています。妥当なプロセスのもと審議が進められていないと、同じ自民党内でも反対の声はあがっています。まして、そうしたプロセスを経て作った制度が、全国に波及する可能性は見過ごせません。

──ゲーム規制のプロセスを問題視されていますが、規制の内容自体はどう思われますか。

栗下氏:
 前提として、本当にゲーム依存症で苦しんでいる方々に対しては行政でサポートすべき、また未然に防ぐべきという思いは私にもあります。

 ただ「平日に遊ぶゲームは60分まで」等の対策が、ゲームに関する依存を防ぐ効果があるのか、そもそもゲーム依存の定義は? 等、検証すべき点はたくさんあると思います。実際にその点は、他の議員や専門家からも同様の懸念が多数指摘されています。

 また根本的に、ゲーム自体に依存性があるのか、他の問題がありその結果、ゲーム依存になったのか等には議論の余地があります。よくゲーム依存の根拠として「ゲームを長く遊んでいる子供ほど、成績が落ちていた」という調査結果が引用されますが、元々勉学に関心が持てない、また勉学に集中できない環境にいた子供がゲームをやっていただけかもしれません。それならゲームを規制するより、教育の環境を改善する方が先です。

 こうした若者の学力低下などの議論でゲームが原因とみなされたりするのは、明治時代などで小説が劣った趣味とみなされたり、戦後に映画が危険な文化とみなされたのに似ています。単純な価値観の違いが、そういったレッテル貼りに派生している面もあるのではないでしょうか。

──今回の規制はあくまで保護者に対する「努力義務」であり、具体的な罰則等はないから問題ないのではないか、という声もあります。

栗下氏:
 実際そう楽観的なものに思えません。子供や家族に直接影響を与えずとも、行政と子供の間にある学校や企業には十分影響を与えうるものです。特に小学校などではゲームを遊んでいるか否かで内申点まで響くことも考えうるでしょう。こうした見えづらい影響を軽視はできません。

──ゲーム自体への依存の可能性は否定できない、しかしただ遊ばせないという規制によって解決するのか、また他の教育問題と混同されていないか、検討する必要があるということですね。栗下議員ご自身はゲームの在り方に対してどうお考えですか。

栗下氏:
 それぞれのご家庭で決めることであって、行政側で一方的な解決を図るものではないと思います。
 あくまで各ご家庭で教育、お子さんご自身もちゃんとゲームと学校生活を分けて取り組もうとするべきですし、どうしてもゲームを遊び続けてしまう時は環境からゲームを遠ざける必要もあるかもしれませんが、実は学校や他にどうしても嫌なことがあって、そこから逃避するためにゲームを遊んでいるだけかもしれない。その時、ゲームに没頭するお子さんと向き合えるのは、ご家族やご友人の方です。

 いずれにしても、ゲームというひとつの単語だけでなく、個人の価値観や事情が大きくかかわる問題だからこそ、ちゃんと納得のいくまでお互いが話し合うこと。そうした取り組みを尊重する前提で、行政がサポートできることは取り組むべきだと思います。

──子供は大人に「ダメ」と言われたものほど、かえってやりたくなるものだという意見もありました。

栗下氏:
 私も似た経験があります(笑)。私自身、子供の頃からゲームを遊び続けてきた世代です。よくゲームというと何の役にも立たない、暇つぶしだと思われがちですが、実際は受け取り方次第だと思います。
 私は『ストリートファイター』シリーズにたぶん外国語を習得できるくらいの時間を費やしましたが、あのゲームは本当に奥深い。とても頭を使うゲームで、どうすれば勝てるかロジックが頭にある人じゃないと勝てないように作られているんです。

──栗下議員は「「ゲームはくだらない」「勉強は良いこと」という固定概念が日本では根強いけど。大切なのは何を学ぶかだし、すべてのことは地続き。」というツイートもされていました。

栗下氏:
 結局、ゲームと一言に言ってもそこから何を学ぶかは人それぞれだと思います。暴力的な映画をみて暴力の不毛さを知る人もいれば、暴力を肯定的にとらえる人もいるかもしれない。
 ゲームに限らず、映画や小説でも同じですよね。表現ではなく受け取る人間の問題だからこそ、ゲームをひとくくりに危険なものと断じて規制することは、的外れだと思います。

──2018年に各賞のGotY(ゲーム・オブ・ザ・イヤー)を総なめにした『God of War』も、元々過激な暴力が売りだったゲームから、新たに暴力を反省する父親の心理を抉る物語へ変わった点が衝撃的でした。ゲーム側もまた変化し続けているのだと思います。

栗下氏:
 今、色々な意味で多様性が問われる時代になっています。ただいい大学を出て、いい会社に就職して、それで安泰だという時代でもないですし、逆に言えば、Youtuberやプロゲーマーなどこれまで存在すらしなかった職業で、成功することもできる時代です。そんな時代を生きる子供にこそ、ゲームを含めた、これまでの伝統的な学習以外からも学ぶべきことは多いのではないでしょうか。

──ありがとうございます。とはいえ、今後香川県に端を発するゲーム規制は確実に東京都を含めた全国に波及すると思われます。栗下議員は今後どのように向き合われていきますか。

栗下氏:
 都議会議員として、私個人として東京都にこのような形でゲームを規制する制度作りは反対します。小池知事に対しても、他の議員とも協力してはたらきかけるつもりです。加えて、市民の方にもゲーム規制が本当に必要か、この手段で正しいか等、よりわかりやすく、大きな声で訴えかけていきたいと思います。

──若者の政治関心の低さが嘆かれる現代ですが、今回のゲーム規制を通じて、香川県内の高校生が反対の署名を提出するなど、10代から若者たちの政治関心が強まったと思います。選挙権のない10代や、少子化で少数派になってしまう20代・30代の若者の意見を政治に反映するために、私たちができることは何でしょうか。

栗下氏:
 今の世代にはネットという、30年前にはなかった強力な武器があります。そこでの各個人の発信が世論を動かす原動力になります。同意できる意見に対してRTしたり、いいねするだけでも大きな意味がありますね。

 皆さんが想像されている以上に、政治の世界ではSNSが注目されていますし、行政もネット上での意見を参考にするようになってきました。だから積極的に発信・拡散していただくだけで、大きな影響を及ぼします。

 また現実の集会や勉強会などに参加いただくのも良いと思います。マスコミも注目しますし、それをみた世間の人が考えを変えることもあります。地道なことでも参加・行動すること自体が強力なパワーになると言えますね。

──小さなことでも自発的に行動し、発信することが大切ということですね。本日はありがとうございました。(了)


 栗下議員からうかがった話からも、既にこの「ゲーム規制」を巡る議論は、ゲームという媒体に留まらないものになっていると筆者は感じた。

 今回の条例を制定する上での、あまりにも早急かつ議論を排除した一方的なプロセスにしても、教育や趣味に対して直接関与しようとする行政の姿勢も、「ゲーム」という概念にとらわれず、市民が自ら意思決定し、それが尊重されるべき民主主義そのものを脅かしかねない動きがみられる。

 加えて、26歳で初当選という異例の経歴を持つ栗下議員が動機として抱いた「世代間のギャップ」も感じずにいられない。条例の中心となる大山議長は、娘が友人たちとゲームに没頭するだけで驚き問題を提起したそうだが、「子」や「子を今後育てる世代」の意見や考えに耳を傾けず一方的に行動規範を作ることが、少子高齢化の現代で求められることなのか。

 任天堂が家族で遊べることをコンセプトに、「ファミリーコンピューター」を販売してからもう36年も経つ。当時、ゲームに熱中した子供が親世代となり、親子揃ってゲームに熱中することも珍しくない。

 だからこそ、ただ楽しむだけでなく、ゲームとの向き合い方を考えなければいけない時代が到来している。だがそれは、栗下議員が主張するように人と人同士の話し合いによるものであって、無理解による制度ではないはずだ。

プロフィール
個人ゲームメディア「ゲーマー日日新聞」でゲームの批評とか書いてます。何でも遊びますが、深いコクのあるゲームが大好物です。でも古い銃がたくさん出てくるゲームにはすぐ惚れます。
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