ゲーム実況動画は、人気芸能人が相次いで参入するなど、最近ではゲーマーだけでなく一般層にまで広く認知されるものになった。このゲーム実況で採り上げられるタイトルといえば、『あつまれどうぶつの森』や『フォートナイト』のように、世界的に著名な作品が定番となっている。
ところが今、ユニークな経緯から生まれた1本のスマホアプリゲームが、小学生をはじめとする若年層を中心に人気を集めている。iOS/Andoroid用アプリゲーム『脱獄ごっこ』は2019年6月の配信開始以来、約1年間で400万ダウンロードを達成しており、YouTubeの動画やライブ配信アプリ「Mirrativ(ミラティブ)」などで、盛んにゲーム実況が行われているという。
この『脱獄ごっこ』をリリースしているのは、HIKAKINやはじめしゃちょーなど多くの人気クリエイター・インフルエンサーのマネジメントを中心に幅広く事業を展開するUUUM(ウーム)であり、『脱獄ごっこ』の開発やリリース後の展開には、UUUM所属の人気YouTuberである「まいぜんシスターズ」が深く関わっている。
そして『脱獄ごっこ』の初期開発は、YouTuberとひとりのゲーム開発者が約3カ月で作り上げたというのだ!
『脱獄ごっこ』は、人狼ゲームにインスパイアされた非対称型のオンライン対戦ゲームだ。プレイヤーは、マップ上に配置された宝箱を開けてスイッチを探し出し、門を開いてマップ外に脱出すれば勝利となるが、4人のうちひとりが密かに“人狼”に選ばれており、他のプレイヤーを攻撃して脱出を阻むことで勝利できる。
そこで今回は、開発者であるUUUM株式会社の戸塚友氏に、『脱獄ごっこ』が誕生するまでの経緯と、そのヒットの要因についてお話を伺った。その結果、明らかになったのは、想像以上にインディー精神あふれる開発現場と、だからこそ実現できたゲーム開発者とゲーム実況者との理想的なコラボレーションの様子だ。
実況動画がゲームそのものの人気や売り上げに影響を与えるようになってきた現在、開発やデザインの段階でどのようにゲーム実況を意識するべきなのか。その1つのあり方が、このインタビューから見えてくるはずだ。
聞き手/TAITAI
文/伊藤誠之介
編集/実存
撮影/佐々木秀二
クリエイターとひとりの開発者が3カ月で作り上げたオンラインゲームが、400万ダウンロードを記録
──まず最初に、『脱獄ごっこ』の現状について教えてもらえますか。総ダウンロード数やMAU(月間アクティブユーザー数)などは、現時点でどれぐらいですか?
戸塚友氏(以下、戸塚氏):
400万ダウンロードぐらいですね。MAUは、今は60万(※最新のデータでは70万)をちょっと超えているぐらいです。DAU(日間アクティブユーザー数)に関しては、ちょっと前まで新型コロナウイルスによる自粛期間があったじゃないですか。そのときはずっと高かったんですけど、直近は最大で25万ぐらいかな。平日でも10万は超えている感じですね。
──それを戸塚さんおひとりで作られたんですよね。どのぐらいの期間で完成したのですか?
戸塚氏:
まいぜんシスターズと話し合いを重ねて、一緒に作ったものなので、開発に携わったのはクリエイターと自分ですけれど。初期の実装という意味では、ひとりですね。
開発期間でいうと、ベースは3カ月ぐらいでできました。完成してから2カ月ぐらい温めていた時期もあったんですけどね。
──ひとりで3カ月ですか?
戸塚氏:
そうですね。
──すごいスピードですね。ゲームの運営もおひとりで?
戸塚氏:
アップデートのアイデアなどはリリース前と同様、まいぜんシスターズと企画していました。ただ、実装はもちろん、運用当時のCS(カスタマーサポート)対応も自分ひとりだったのでさすがに手が回らない状況が多かったです。リリースして軌道にのったら、徐々に関わってくれるメンバーを増やせたので助かりましたが(笑)。
──考えられないですね(笑)。では、今は運営チームができたのですか?
戸塚氏:
社内にエンジニアが2人増えまして。あとは外部に依頼している部分もありますね。キャラクターのスキンも、最初は自分ひとりで作っていたんですけど、それも外注でお願いできるようになりました。またマーケティングのチームもできあがって、ラスカルコラボやオンラインイベントなどユーザーが喜ぶような施策や戦略も組み立てられるようになりました。
──キャラクターのスキンも当初は、戸塚さんがひとりで作られていたんですか!?
戸塚氏:
タイトルロゴ以外は全部自分ですね(笑)。当初リリースしたマップの3Dモデルとかは、Unityのアセットストアで購入したものなので、さすがに自分で作ってはいないですけど。
──想像以上にインディな作り方ですね。
たったひとりでゲームを作り始めた
──戸塚さんとしては、オンラインゲームの開発はこれが初めてだったのですか?
戸塚氏:
いえ、自分はもともと趣味でFlashのゲームを開発していて、Flash Media Server(現・Adobe Media Server)でオンラインゲームを作ったこともあるんです。だからこれが初めてのオンラインゲームということではありませんね。
その流れでWeb業界で仕事をしていたんですが、iOSの台頭でFlashが下火になってからは、スパイシーソフトで「マンガ★ゲット」というサービスや、『チャリ走』【※】の開発に携わっていました。仮面ライダーのコラボアプリやNintendo Switch版の『チャリ走』の移植は社長と仕様を考えながら実装は僕とデザイナー二人で作っていましたね。
──そこからスパイシーソフトを退社して、UUUMに入社されるわけですが。それだけ実績のある開発者だと、大手のゲーム会社に入るという選択肢もあったんじゃないでしょうか?
戸塚氏:
スパイシーソフトを辞めるときに、最初は独立するつもりだったんですよ。当時はインディゲームが注目を集め始めているころでしたし、Switch版『チャリ走』の経験から、「モバイルもコンシューマもひとりでだいたい全部できるな」という手応えがあったので。でも嫁さんに「子どもが保育園に入ったばかりだから、独立は止めて」と言われてしまって(笑)。
大手に行くという選択肢もあったと思うんですけど、自分のゲーム作りの感覚が大手にハマるかと言われると、ちょっと微妙だなと思いまして。
UUUMにはもともと知り合いがいたんです。レネというオーストリア人なんですけど、彼が「ずっと誘おうと思っていた」みたいなことを言ってくれて、社長の鎌田(和樹氏)と、飲み会をセッティングしてくれたんです。
そのときに「ウチはベンチャーだから望んでいるような開発環境は多分ないよ、それでいいならやりがいはあると思う」と言われまして、「じゃあ入ります」と返答しました(笑)。
──すごく期待されて入社したんですね。
戸塚氏:
僕は「好きなことをやっていい」と言われたので、わりとウキウキで入ったんですけど、社内で「あ…そうなんだ」って初耳みたいな顔をされることも多かったです(笑)。
そのときに「これはひょっとして、ゲーム開発者はこの会社では必要とされていないんじゃないか?」とちょっと思いました。
今は組織刷新もあって「積極的にクリエイターのためになるゲームを作ろう」という思考に変化していますけど。
ちなみに入社前は、「クリエイターのIPは簡単には使えないよ」とも言われていたんです。そのときは僕も、UUUM所属のYouTuberと仕事をすることを想定していたわけではなかったので、「別にいいですよ」と言ったんですけど。
3カ月で3本ゲームをリリースして、求められているものをようやく理解した
──ゲーム開発環境がない社内で、戸塚さんはどのようにアクションを起こしていったのですか?
戸塚氏:
それは僕が作ったゲームを順を追って説明していくのが、いちばん分かりやすいと思います。
いざUUUMに入ってみたら、本当に工数の空いているデザイナーがいなくて。まあでも、「ひとりで作る」と見栄を張って入った以上は、ひとりで作るしかないと。
それでまず、入って2週間ぐらいで『ゾロ目-ZoroMe-』(iOS版/Android版)というゲームを作りました。これは『XI[sai]』を無理やりモバイルに落とし込んだような、サイコロを転がしていくゲームです。
このゲームを作った理由は単純に、入社時に「1カ月あればひとりでゲームを作れる」と言っちゃったので、それを証明しなきゃいけなかったからです(笑)。だからこれでいきなりヒットが出るとは思っていませんでした。
それまでずっと『チャリ走』みたいなアクションゲームを作っていたので、知的なパズルを作ってみたいなというのが主な理由です。
この『ゾロ目-ZoroMe-』のダウンロード数が、200ぐらいなんですよ(※現在はAndroid版で500DL)。ひょっとしたらUUUMのファンにも期待されていないのかな、というのを感じました。
──次のゲームはどうだったんでしょう?
戸塚氏:
入社後の試用期間が3カ月あるので、3カ月の間にゲームを3本作ろうと決めました。次に作ったのが、『アルミホイルでボールをつくろう!!』(iOS版/Android版)というゲームです。
これは当時、アルミホイルを伸ばしてピカピカしたボールを作るのが、YouTube上でバズっていて。これをテーマにしたゲームを作ったらきっと、UUUMのファンと親和性が高いだろうと考えました。ひょっとしたら、「面白いね」と思ったYouTuberがやってくれるかもしれないなと。
実際、リリース後には遊んでくれるYouTuberも出てきて、5万ダウンロードぐらいになりました。2週間ぐらいで作ったゲームなので、この結果ならひとまずはオッケーだろうと。
──1ヶ月ごとに1本のペースですか。2本目でそこそこ手応えがあって、最後はどうだったんでしょうか。
戸塚氏:
当時はハイパーカジュアルゲームの全盛直前ぐらいだったので、『Cube Debris(キューブデブリ)』(iOS版/Android版)というミニマルっぽいデザインのゲームを作りました。これは、ハイパーカジュアル路線で本当にウケるのかな? という実験の意味もあったんです。残り少ない試用期間内で作れますしね。
結果としては、1000ダウンロードぐらいだったと思います。だから、ゲームデザインとしてはウケるかもしれないけど、UUUMのファンが望んでいるものは、やはりこういったものではないなというのが確認できたわけです。
ここまでの検証で、やっぱり「YouTuberに認められる物を作らないと、ファンも喜ばないし、会社内で認められることもない」ということが分かりました。ただ、3カ月の間にゲームをリリースし続けたので、「社内にゲームを作っている開発者がいる」ということは、好意的に認識してもらえたんじゃないかと思います。
──ということは、ここから次の段階に入っていくわけですね。
戸塚氏:
そうですね。次に『Cats Us -キャッツ・アス-』(iOS版/Android版)というゲームを出しました。UUUM主催のクリエイターイベント「U-FES.」のステージで、オリジナルゲームを実況してみたいというゲーム実況者がいて、イベントチームに声をかけてもらえました。その方は自身で作成したキャラクターがいるので、イベントを見るファンも認知が高いかなとそのキャラクターを助けるランゲームという内容にしました。
『Cats Us -キャッツ・アス-』に関しては、他のYouTuberも動画で取り上げてくれたり、自分のキャラクターも出してほしいと言ってくれたりして。そのおかげで、トータルで25万DLぐらいいってるのかな? やっぱりUUUMの中でゲームを作るとしたら、こういう形だよねというのを認識した形です。
その次に出した『おいしいじかん』(iOS版/Android版)というゲームは、ある女性クリエイターから「U-FES.のゲーム実況イベントが楽しかったから、自分もイベントでゲーム実況をやりたい」と言っていただいたので、ちょうどそのとき試験的に作っていたパズル型放置ゲームを流用する形で作成しました。ただ、そもそものゲームのコンセプトもあって動画にしやすいゲームではなかったのもあり、あまり伸びなかったですね。
──ではこの時期から、YouTuberさんとコラボしてゲームを作るようになったのですか?
戸塚氏:
そうですね。以前はYouTuberのIPを活用してファン向けのゲームを作るという形だったと思うんですけど、このあたりからYouTuberと“一緒に”ゲームを作ろうという方向性に、ちょっとずつ変化していきました。
こうした流れの中で、まいぜんシスターズも「ゲームを作りたい」と言ってくれて。それで彼らと一緒に作ったのが『脱獄ごっこ』という流れになります。
──少しずつ理解を得られるようになって、YouTuberさんと一緒にコラボするようになったと。それでも、当時は開発チームを組むまでには至らなかったんですね。
戸塚氏:
いかなかったです。『脱獄ごっこ』を作ったときも、開発としてはひとりだし予算も特になく。なにしろ、これまで自分が開発したゲームの売り上げは微々たるものでしたからね(笑)。
まいぜんシスターズと毎日のように話し合い、彼らのアイデアで生み出された『脱獄ごっこ』
──ここからは『脱獄ごっこ』について詳しくお聞きできればと思います。まず、『脱獄ごっこ』を作るにあたって、まいぜんシスターズさん【※】とはどういったやり取りがあったのでしょうか?
戸塚氏:
最初はバディ(マネジメント担当者)に「まいぜんシスターズのぜんいちさんがゲームを作りたいと言っているので、ちょっと話してみてください」と言われたんです。彼らはずっと、ゲームを作りたいという夢を持っていたようですね。
そこでまいぜんシスターズと話してみると、「ゲーム作りは初めてなので、まずはカジュアルゲームみたいなものがいいのかなと考えています」と言われたんです。堅実で正しい考えとは思ったんですが、僕のほうはこれまでにカジュアルゲームを5本出して、ユーザーさんが喜んでくれている手応えを大きく感じていなかったのでこれでは長期的にはうまくいかないかもしれないと思いました。
YouTuberとカジュアルゲームって、基本的に相性が悪いと思うんです。コンテンツが少なすぎて、単純なゲーム実況は繰り返せないじゃないですか。ゲームが面白かったとしても、たぶん1回実況をやったら終わりなんですよ。
あと、UUUMリリースのゲームだと、ホラーゲームの『青鬼』【※】をリバイバル・オンライン化した『青鬼オンライン』(iOS版/Android版)が成功していて、いろんなYouTuberが、何回も繰り返し『青鬼オンライン』の実況動画を上げているのを見て、「オンラインゲームってやっぱり実況しやすいんだな」と。
まいぜんシスターズは、ユーザーに喜んでもらうために最初のステップとしてカジュアルなゲームから作ろうとしたんですが、僕としてはその次を作ることは難しいとシビアに考えていたので「オンラインゲームにしましょう」と提案しました。
そのときに、「非対称対戦ゲームが今、めっちゃきているんですよ」みたいなことを説明したら、「分かりました。じゃあちょっと考えてみます」と。それからすぐ企画を考えて持ってきてくれたんです。そのときに提案いただいた企画が、ほぼ今の『脱獄ごっこ』そのものですね。
※『青鬼』
個人ゲーム開発者のnopropsによって2004年に制作されたPC用の無料ホラーゲームで、洋館に閉じこめられた主人公が、追跡してくる“青鬼”をかわしつつ脱出を目指す。2009年頃からニコニコ動画などで爆発的な人気を獲得し、ゲームだけでなく実写映画化やTVアニメ化、舞台化など、メディアを超えて広がった。現在はUUUMとGOODROIDによりスマートフォン向けにリメイクされて、新たなシリーズ展開が行われている。
──ということは、『脱獄ごっこ』の基本的なルールは、まいぜんシスターズさんのほうから提案されたものなんですね。
戸塚氏:
そうです。非対称のオンラインというアイデアをベースに「人狼要素を入れよう」と考えてくれたのは、まいぜんシスターズですね。
さらに、プレイヤーには最初にアイテムがランダムに配られて、その中で人狼だけはアイテムをより多く配られるようにしてほしいと。それを聞いて「面白いルールですね」と話したら、「これは『マインクラフト』で試しにやってみたんですけど、面白かったんですよ」と返ってきて。
彼らは自分たちできちんとテストプレイした上で、手応えがあるものを企画にして持ってきてくれたんです。
──企画段階で実証を済ませているというのは、かなり気合いが入っていますね。
戸塚氏:
アイテムの中身に関しても、「こういうものがいいです」と詳しく要望を出してくれました。
その中の一つで、ゲーム中で人狼が必ず最初から持っている「足止めトラップ」に関しては、僕は正直ちょっとネガティブな印象でした。足止めされる人はすごくストレスを感じるし、トラップにかかるのを待っている間、待ち伏せする側も退屈じゃないですか。
だから「これはないほうがいいんじゃないですか?」と言ったんですけど、まいぜんシスターズは「実況には絶対に必要です」と。
──「実況に必要」とは、どういう意味ですか?
戸塚氏:
スイッチを全部押して門が開くと、そこへ向かってみんなが駆け込んでいきますよね。そのときに嬉しそうに駆け込んでくる人に対して足止めトラップを使うと、油断も相まって非常に焦る。そこに動画の展開が生まれるんです。
──そこにドラマが生まれるわけですね。
戸塚氏:
そういうことです。ほかにも、マップのデザインはこんな感じにしてほしいとか、画面はとにかく明るくしてほしいとか、かなり具体的な要望がありました。画面の明るさに関しては特に重要らしくて、画面に暗いところをなくすためなら、「影はなくしてもいい」とまで言っていましたね。
操作性に関しても、「『マリオ』みたいに空中で自由に方向転換できるようにしてほしい」と。物理法則に従ってアクションゲームを作ると、ジャンプ中は慣性で動くじゃないですか。最初はそれで作っていたんですけど、まいぜんシスターズからは「操作性はとにかく気持ちいい方向にしてくれ」という要望がありました。
そんな感じで、とくにリリース前にはこと細かにやり取りして調整していましたね。
──どんなふうにまいぜんシスターズさんと調整を進めていたんでしょうか?
戸塚氏:
最初の頃はバディを通して週に1〜2回ほど資料をもらっていたんですけど、まいぜんシスターズの熱意が高まるにつれ、気づいたら毎日やり取りをするようになっていました。細かい仕様書みたいなものもとくになくて、まいぜんシスターズのアイデアを元にガンガン作ってはすぐプレイして貰ってフィードバックを貰って直していくというスタイルでした。
今でも、頻繁にアイデアや意見を頂いて改善に役立てていますね。
リリース当時はまいぜんシスターズ以外はほとんど誰もやってくれなかった
──組織的に宣伝をしたりしているのかと思っていたのですが、お話を伺っていると、ぜんぜんそういうわけではなさそうですね。
戸塚氏:
そういった宣伝はほとんどしていないですね。『脱獄ごっこ』をリリースしたときは、本当にまいぜんシスターズが実況するだけでした。
ただ、まいぜんシスターズのチャンネルが物凄い勢いで伸びていてパワーがあって。それで徐々に広がっていった、という流れだと思います。
──ゲームクリエイターではなく、実況者やYouTuberが軸になるゲームの持つ可能性って、まさに先ほどまいぜんシスターズさんが言っていた「実況には絶対に必要だから」という感覚なんだろうと思います。
そこをもう少し分解して説明していくと、どういうことになるのでしょうか?
戸塚氏:
正直その感覚は、実況者やクリエイターによると思うんですよね。
まいぜんシスターズに関して言えば、さっき言ったように、自分たちでルールをテストしてみたといった具合に、自分たちでしっかり考えるタイプなんです。動画で自分たちの視聴者さんが喜んでくれたから、これは絶対に面白い、だとか。
YouTuberって、一見タレントのように捉えられがちだと思うんです。
でも、実際に会って話してみると、いわゆるタレント的な印象とはまったく別で。彼らは非常に分析能力が高く、クリエイティブ能力に長けているんです。
恥ずかしい話なんですが、UUUMに入社する当初の僕はひねくれてまして、「自分こそクリエイターだ!」などと息巻いていたんです(笑)。でも、彼らYouTuberと接してすぐに、彼らの発想力や分析力、クリエイティビティーに度肝を抜かれて、彼らの希望を自分の力で叶えようと思ったんです。
──いい話ですね(笑)。
戸塚氏:
UUUMに入社する以前は、「戸塚はとにかく言うことを聞かない」と言われ続けていたので、過去自分と関わった人たちが今の自分を見たらかなり驚くんじゃないかなと思います(笑)。
これは個人的な推測なんですけど、YouTuberはどうしたら視聴者の方々が喜んで動画を見てくれるかを常日頃から考えているので感性が研ぎ澄まされていって、徐々にインフルエンサーとしての能力を身につけたんだと思うんです。
──なるほど、たしかにそうかもしれませんね。
戸塚氏:
まいぜんシスターズとやり取りをしていて面白いと思ったのは、レーザーが縦向きに設置している動画をみんなが喜んでくれたので、マップにもそう配置してほしいと言われたときですね。
『脱獄ごっこ』でレーザーのギミックを入れたとき、レーザーを横に張るように作ったら、まいぜんシスターズから「向きを縦にしてもらえますか」と言われて。
レーザーを縦にすると、天井がない場所だとレーザーが空高くまで伸びている状態になるので「ちょっとヘンじゃないですか?」と言ったら、「縦向きのほうがダイナミックになって視聴者が面白がってくれてる」と返ってきたんです。
──どういうことですか?
戸塚氏:
まいぜんシスターズは、レーザーが縦向きに伸びているほうが目を引くので、視聴者がより楽しんでくれているということに気づいたようなんです。
そういうふうに彼らはどんなことをしたら視聴者が喜んでくれたのか、興味を持ってくれたのかをしっかり覚えているんですね。彼らの案に疑問を持つときも当然あるにはあるんですけど、話を聞くと明確に理由や根拠を説明してくれるんです。
その時の判断基準には、必ず「視聴者が喜んでくれた」というエピソードがあるので、自分としてもそれならきっと正しいに違いないと思うわけです。
──なるほど。『脱獄ごっこ』はまいぜんシスターズさんとかなり密にやりとりをして作られたとのことですが、以前コラボしたときは、そこまでのやり取りはなかったのですか?
戸塚氏:
当時はなかったですね。ただ、それはほとんどの取り組み方が企画からやろうという話ではなかったからだと思います。また、今思い返してみると、プロトタイプを遊んで貰うと「画面をもっと明るくしてほしい」とか、まいぜんシスターズと近いことを言われた印象はありますね。
──改めて考えると、YouTuberさんたちは同じようなことを指摘していたわけですね。
戸塚氏:
そうですね。『青鬼オンライン』も似たような座組で作っています。
『青鬼オンライン』は、最後のひとりになるまで青鬼から逃げ回るバトルロワイヤル形式ですが、企画段階だと『Dead by Daylight』みたいな非対称マルチプレイになる予定でした。そこに「青鬼からひとりだけが逃げ残るゲームにしたほうがいい」というアドバイスがあり今のルールになりました。そうすれば、最後のひとりになりたいから、みんなが何度も遊んでくれる。動画投稿もそのぶん伸びる。「負ければ負けるだけ、動画を上げてくれるはず」と。
──負ければ負けただけ、次こそは最後のひとりになろうと動画を上げていく。その過程そのものがストーリーになっていくということですね。
戸塚氏:
そういうことです。だからどのクリエイターにも共通しているのは、動画に対しての熱意や思想、方法論がしっかりあるということですね。
僕がUUUMに来て改めて体感したのは、「1回の動画だけでは大きな効果は得られない」ということでした。1回きりタイアップの案件動画は、数字が伸びにくいんですね。ファンも「ふだんのこのシリーズが好きなのに、なんで別のことをやっているんだ」と、この人が好きでやってるわけじゃないというのを感じ取ってしまったりもするし。
ところがタイアップ動画であっても、何回も動画を上げていると次第に再生数が伸びてくるんです。何度も続けていると、クリエイターのほうでもコツが分かってくるし、熱意も高まってくるんですね。
だからゲームに関しても、「何回も繰り返し実況できるゲーム性にする」というのが大事なんだと思います。そうじゃないと、たとえ一度バズったとしても、その勢いはすぐに消えてしまう。何回も実況できるものじゃないと、結局ファンもインストールしてくれないです。