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『プロセカ』がボカロファンやミクたちに与えた影響 ― ニコニコ動画が果たしていたような役割を担うかもしれない【開発者座談会】

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 セガとColorful Paletteが共同で開発・運営を行うスマートフォン向けリズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、プロセカ)は、2021年3月30日でサービス開始から半年が経過し、ハーフアニバーサリーを迎える。

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 2020年9月30日にサービスが開始されて以来、ユーザー数は300万人を突破するなど非常に好調で、「懐かしのボカロ曲がTwitterのトレンドに入っていると思ったらプロセカだった」ということも頻繁に起きている。また「Google Play ベストゲーム2020」ユーザー投票部門ゲームカテゴリの最優秀賞を受賞するなど、その内容も高く評価されている。

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 電ファミニコゲーマーではこれまでに、『プロセカ』の世界観やストーリーと、本作の最大の特徴でもあるバーチャルライブについてのインタビューをお届けしてきた。だが取材時にはサービス開始前だったこともあり、実際にサービスが開始された時点で新たにわかったことも多い。

 そこで今回は、『プロセカ』の開発・運営に欠かせない3名のキーパーソンに、これまでの歩みを振り返ってもらうとともに、次の半年、そして1周年に向けてどのような展開が考えられているのかを、自由に語ってもらった。

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左から近藤裕一郎氏佐々木渉氏小菅慎吾氏

 『プロセカ』のプロデューサーでありColorful Palette代表取締役社長の近藤裕一郎氏と、セガ側のプロデューサーである小菅慎吾氏は、過去のインタビューにも登場していただいたが、今回はさらに、『プロセカ』立ち上げから企画に深く関与していたクリプトン・フューチャー・メディアで音楽ソフト「初音ミク」の開発などを担当している、佐々木渉氏にも加わっていただいた。

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 この10数年で世界の音楽シーンを大きく書き換えたプロジェクトのリーダーである佐々木氏が、以下で語っている言葉からも明らかなように、『プロセカ』は単にリズムゲームとしての展開だけでなく、初音ミクをはじめとするバーチャル・シンガーたちにとっても大きな影響を与えたプロジェクトとなっている。

 なにしろゲームの中では、『プロセカ』のキャラクターとミクたちがフルボイス(※バーチャル・シンガーは一部パートボイス)で会話を繰り広げるだけでなく、有名ボカロPが生み出した名曲の数々を人間とミクたちが一緒に、それもあくまで自然な形で共演して歌っているのだから。

 今回の鼎談では『プロセカ』の現在と今後だけでなく、バーチャル・シンガーやいわゆるボカロカルチャーのさらなる可能性にまで話が広がっているので、そうした点に興味がある方も、ぜひご一読いただきたい。

取材・文/伊藤誠之介
編集/クリモトコウダイ
カメラマン/佐々木秀二

20代前半までのユーザーが『プロセカ』全体の8割を占めている

──過去のインタビューにご登場いただいた方もいらっしゃいますが、改めて『プロジェクトセカイ』でどのような役割を担っているのかを教えてください。

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近藤氏:
 Colorful Paletteの近藤です。『プロジェクトセカイ』ではColorful Palette側のプロデューサーと、あとはディレクターを務めています。プロデュース業務全般と、あとはゲームの品質管理とか、そういうことをやっていますね。

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小菅氏:
 小菅です。セガのプロデューサーとして、ゲームやその他色々なお取り組みを全部見ている形になります。近藤さんと同じようなプロデュース業務と、あとは3DCGのところに入って見ています。

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佐々木氏:
 クリプトンの佐々木です。初音ミクのライセンス元として、プロデューサーに近い立場で、大枠の相談から監修業務であったりとか、あとはサウンド制作周りの調整であるとかを、セガさんたちと連携してやらせていただいています。

──この記事が掲載される頃には、『プロセカ』のサービス開始からちょうど半年を迎えることになります。ここまでの間には、「Google Play ベストオブ2020」のユーザー投票部門で最優秀ゲームを受賞するといったこともありましたね。

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「Google Play ベストオブ2020」ユーザー投票部門

小菅氏:
 一緒にノミネートされたタイトルが、ユーザーさんから高く評価されている作品ばかりだったので、その中から選んでいただいたというのは、めちゃめちゃ嬉しいですね。近藤さんも「このアワードがいちばん良かった」と言っていましたよね。 

近藤氏:
 常日頃から、ユーザーさんのことをいちばん大事に考えてやらせてもらっていたので、ユーザーさんから高い評価をいただけたのは、本当に嬉しかったですね。これを話している時点ではまだ半年続けられていないので、正直あまり実感はないんですけど、今の難しい業界でいいスタートを切れて半年間サービスを継続できたので、今後もがんばらないといけないなと思います。

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PS4『初音ミク Project DIVA Future Tone DX』

佐々木氏:
 ウチは『初音ミク -Project DIVA-』の1作目から、ほとんどプロデューサーに近い立場でセガさんといろいろとやらせていただいたので、僕のほうからこちらのお二方に、「『DIVA』の時はこういうふうにユーザーさんに喜ばれた、怒られた」だとか、「こういうところでプチ炎上した」というような、ポジティブだけではない情報もいろいろと説明していたんです。新キャラとミク達のバランスとか、最初はおっかなびっくり、緊張しながらやっていたところがあって。それに対して今は、すごくリラックスできているというか、受け入れられた感がありますよね。

近藤氏:
 初音ミクさんをはじめとするバーチャル・シンガーは、これまで10年以上続いている歴史があって、大勢のファンがいらっしゃるコンテンツなので。それに対して『プロジェクトセカイ』はけっこう踏み越えた部分があったので、最初はかなりセンシティブにやり取りをさせてもらいました。情報のひとつひとつにまで、細やかに配慮してもらっていましたね。

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佐々木氏:
 そうですね。ファン層が何レイヤーかに分かれているので。昔からの初音ミクファンの方もいらっしゃれば、『千本桜』や『カゲロウプロジェクト』の時代にすごく楽しまれていた女性ファンを中心としたレイヤーもあれば、今のYOASOBI【※】さんのようなネット発の新しいJ-POPみたいなところを楽しまれている方もいるので。そのみんなに通用するものって、どういうものなんだろう? むしろあんまり考えないほうがいいのかな、みたいにいろんな話をさせてもらった記憶がありますね。

※YOASOBI
コンポーザーのAyaseとボーカルのikuraによる、2人組の音楽ユニット。2019年に発表された「夜に駆ける」が大ヒットを記録した。コンポーザーのAyaseは、YOASOBI結成の以前からボカロPとして楽曲を発表しており、YOASOBIの楽曲を初音ミクがカバーしたアルバムもリリースしている。

小菅氏:
 スマホのユーザーはすごく人数が多いので。その人たちが一度にドバッと入ってきたら、どうなっちゃうんだろうというのはありましたね。

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佐々木氏:
 そうですね。『DIVA』からのユーザーと、スマホのリズムゲームユーザーが一体化するのかというところは、まったくの謎でしたね。でもその辺を明らかにするための近藤さんのマーケティングリサーチがスゴくて。「こんなにアンケートを採るんだ!」みたいな。

近藤氏:
 いやいやいや(笑)。僕はユーザーインタビューやアンケートを、けっこう大事にしているんです。自分の感覚も大事だと思うんですけど、100万人規模のコンテンツでそれを過信しすぎると、本当に大きな失敗をしてしまうことがありますから。自分が見ているユーザー像と、実際のユーザー像に乖離がないかどうかを、ちゃんと確認しなきゃいけないので。もし乖離があれば、それが100だろうが1だろうが、埋めていかないといけない。その作業は今現在でもやっているんですけど。

──今お話にあったように、初音ミクのファンがかなり幅広い層に渡っているなかで、『プロセカ』は特にどういった層の人たちに受け入れられているのでしょうか? 

近藤氏:
 事実だけの話をすると、20代前半まででユーザーさん全体の8割ぐらいですね。さらに言うと、10代の方が5割から6割を占めています。あと、これは当初考えていた比率より多かったんですけど、今は女性ユーザーさんのほうが若干多いですね。6割強ぐらいが女性の方々です。

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──SNSなどで『プロセカ』を話題にしているユーザーさんの様子を見ると「けっこう若いのかな?」と思っていたんですけど、本当に若いんですね。そして今のお話だと、女性ユーザーのほうが多いというのは、事前に想定していなかったのですか? 

近藤氏:
 そうですね。キャラクターの比率的にも女性キャラクターのほうが多いですし。もちろん僕も、以前関わっていたゲームでの経験から、男性向けのリズムゲームでも3~4割ぐらい女性のユーザーさんがいらっしゃるのは分かっていました。でも女性ユーザーさんのほうが若干多い、という比率にまでなるのは、想定外と言えば想定外でしたね。それが良いとか悪いとかの話ではなくて、あくまで事実としての話ですけど。

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小菅氏:
 セガとしては正直を言うと、年齢層がもっと上だと思っていたんです。それが蓋を開けてみたら、ふだん僕らが相手にしているお客さんとはまた違う層の方たちだったので。そのあたりはColorful Paletteさんのほうでやっている、ユーザーさんとの信頼感の結び方みたいなものが、上手くいっているのかなと思います。

佐々木氏:
 20代前半までのユーザーというところで逆算すると、『カゲプロ』が流行っていたり、小説が沢山リリースされていた時期もそうですし、あとはニンテンドーDSが流行った時に「うごメモ」でボカロ曲を楽しんでくれた人たち【※】だとか。ちょうどニコニコ動画からYouTubeへと楽曲の発表場所が広がっていくなかで、あの時にいたファンの子たちが今、『プロジェクトセカイ』というフォーマットでカジュアルに遊んでくれているんだなと。

 ネットで個人クリエイターの情報を追いかけるのはそれなりにカロリーが高いなかで、ボカロ曲を何らかの形で気軽に楽しみたいという需要と、『プロセカ』ならではのポップな部分が結びついて、こういったネットカルチャーに対する潜在的な遊び方というか、楽しみ方がひとつハマったんだなと。

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 『プロセカ』ファンの内訳では、20代でボカロ曲が好きでも日常的に接する機会が減っていた方もいる一方で、昔からボーカロイドに注目してくれている古参ファンや、曲やイラストを手がけてくれていた人たちでも、『プロセカ』を遊んでくださっている方はたくさんいて。そういう意味では、プロセカによって、どこかの層が離れてしまったという反動や副作用は最小限で、当初思っていたよりも「平和だなぁ」と思う部分はありますね。

※「うごメモ」でボカロ曲を楽しんでくれた人たち
ニンテンドーDSiやニンテンドー3DSでリリースされた「うごくメモ帳」では、ボカロ曲に合わせて手描きアニメが動く動画が人気を集めて、数多く投稿されていた。

近藤氏:
 「平和」という言い方が正しいのかどうかは分からないですけど、オリジナルキャラクターがいたりといった『プロセカ』の世界観が受け入れられるまでに、僕としては正直を言うともう少し時間がかかるだろうと思っていたんです。なるべく悪いほうに考えていたほうが、なにかあった時にすぐ対策を打てるというのもあるんですけど(笑)。そこが思った以上に早めに受け入れてもらえたのは、嬉しい誤算というか。

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佐々木氏:
 2007年から2012年位のニコニコ動画での盛り上がりの時期を思い返した時に、ひとつの動画に対して「この曲いいよね」と、みんなでコメントを寄せ合う楽しさがあったと思うんです。それに対して今は、『プロジェクトセカイ』に何か曲が追加されたりした時に、Twitter上でみんながその曲に対して、「懐かしい」だとか「こういうふうに楽しんでいた」だとか、いろんなコメントをしていて。

 そういうコメントがたくさん集まって、Twitterのトレンドになる。そういう現象そのものがみんな大好きというか…ボカロ曲やクリエイターにそれぞれ思い入れがあって、それに対していろんなコメントをするロケーションがあることが、懐かしくて幸せな行為になっているんじゃないかと思っていて。『プロセカ』については「だから、これで良かったんだな」と感じることができました。

 最初期に、近藤さんとはいろんな可能性のお話をしたのですが、ここにたどり着けてよかったなと思います。

──本当に『プロセカ』のサービス開始以来、何か新しい発表があるたびに、それが必ずTwitterのトレンドに上がってきますよね。

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近藤氏:
 若いユーザーさんが多いというのもあると思うんです。若い方はやっぱりSNSを使われているので。

 僕らが生放送をやる時は、絶対に何か1つは、ユーザーのみなさんの期待を超えるサプライズをするぞという気持ちで挑むんですけど。それでSNSが盛り上がってくれているのは嬉しいですね。

佐々木氏:
 SNSの展開は、もともとセガさんのほうで『DIVA』が展開していたチャンネルなども使わせていただいていたんです。「これで『DIVA』に追いついていければいいよね」とか言ってたら、『プロセカ』の方がとんでもない勢いになってしまって(笑)。

──僕ももう少し年齢層が高めのイメージで考えていたので、ストーリーに関しても、たとえば学生時代にボカロ曲が好きだったユーザーさんが、自分の思い出を振り返りつつ、あの頃のボカロ曲で……みたいな楽しみ方になるのかなと思っていたんです。ところが先ほど伺ったように10代から20代前半が中心だと、むしろリアルタイムの感覚で『プロセカ』のストーリーを捉えているのかなと。

近藤氏:
 まさにおっしゃる通りかと思います。作っている側としては、僕らの学生時代というよりは、今の子たちが感じている問題だとか、抱えている思いのほうに共感してもらえたらという気持ちで作っていますから。なにしろ僕らが若い時には、インターネット音楽サークルなんてほぼなかったですし(笑)。今の若い子たちに共感してもらえるお話にしたいというのは、常に思っています。

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