「そんな装備で大丈夫か?」、「大丈夫だ、問題ない」。ネットに触れる者の誰もが一度は聞いたことがある、あまりに有名すぎるセリフ。10年経ったいまも色あせない、ネットミームとして伝説的な存在となっているこのセリフは、『El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON(エルシャダイ アセンション オブ ザ メタトロン)』(以下、『エルシャダイ』)に登場したものだ。
ゲームを遊んだことがなくてもセリフは知っているという人も多いことだろう。『エルシャダイ』は2011年4月28日にイグニッション・エンターテイメント・リミテッド(以下、イグニッション)より発売されたアクションゲーム。10年前に話題となったこのセリフは、発売に先駆けて公開されたE3トレーラーにてお披露目された。
E3トレーラーにてゲームの主人公イーノックは、ひと目見て「ぜんぜん大丈夫そうではない」装備で登場。ストーリーテラーであり相棒であるルシフェルに「そんな装備で大丈夫か?」と問われ、イーノックは「大丈夫だ、問題ない」と答える。しかし、その後の戦闘でまったく大丈夫ではないことが露見し、敵にボコボコにされて倒されてしまう。その様子を見ていたルシフェルは時を巻き戻し(「神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと」のナレーションはここで流れる)、イーノックは前回の反省を活かして「いちばんいいのを頼む」と伝えて無事に敵を打ち倒す……。
新規タイトルでありながら独特のセリフと演出が注目を浴び、『エルシャダイ』は一気に知名度を上げ、まだゲームが発売されていなかったにも関わらず2010年の「ネット流行語大賞」にて金賞を受賞。「そんな装備で大丈夫か?」は10年経っても語り継がれるネットミームとなった。ニコニコにて一大ムーブメントを巻き起こしており、動画コンテンツから世に広まったゲームの先駆けと言えるタイトルだ。
そんな盛り上がりから10年。2021年9月2日、満を辞して『エルシャダイ』がSteamにて完全移植を果たす。家庭用として発売されたゲームがSteamに移植されるのは珍しいことではないが、本作ではオリジナル版の発売元であるイグニッションではなく、『エルシャダイ』のディレクターを務めた竹安佐和記氏の個人会社crimからの発売となっている。
これは現在『エルシャダイ』の権利を取得しているのがcrimであるからなのだが、代表を務める竹安氏が数年にわたる交渉の末にイグニッションから権利を獲得したという逸話がある。
近年、ゲームメーカーに所属していた開発者が独立するケースが増えているが、竹安氏はいまから10年以上前にそれを実践し、さらにはゲームの権利を個人で取得している。これはなかなかに例のないことで、竹安氏は個人として金銭を支払い、個人としてIP権利を取得しているのだ。
電ファミニコゲーマーでは、そんな竹安佐和記氏へインタビューを敢行。Steam版発売に至った経緯のほか、ネットミーム化をどのように分析していたのか、そして『エルシャダイ』の権利をどのように獲得したのかなどについてうかがった。「大丈夫だ、問題ない」を生み出した男は、いったいどんな人物なのか。いちばんいいインタビューにて、『エルシャダイ』に迫る。
※取材に際し、写真撮影時以外はマスク着用、座席間隔の確保等、感染症対策を徹底したうえで実施しています。
ぜんぜん大丈夫じゃなかったコンシューマー版開発
──Steam版『エルシャダイ』発売、おめでとうございます。
竹安氏:
ありがとうございます。やっと発売ができて、ほっとしています。
──プレイステーション3、Xbox 360版『エルシャダイ』発売から10年が経過したわけですが、いま振り返っても『エルシャダイ』は不思議な盛り上がりを生んだタイトルだと思っていて。
竹安氏:
じつはネットミーム化とか、『エルシャダイ』に対するユーザーさんの感想とかは、自分が予想したとおりというか、仕掛けたものがきれいにハマったなと思っているんです。
──え? 狙ったものだったのですか?
竹安氏:
まず考えたのは“無国籍感”。和ゲーでも洋ゲーでもないものと言いますか、3Dのアクションゲームで当時はああいったカラーのものはなかったし、嫌悪感のないデザインにしたんです。
──「そんな装備で大丈夫か?」、「大丈夫だ、問題ない」のセリフも狙ったものだったのですか?
竹安氏:
あのムービーも「意図したとおりに話題になってくれたな」と思っています。セリフがゲーム特有のものじゃないんですね。ほかでも応用がきく、汎用性が高いセリフにすることを意識していて、それがハマったわけです。人間は不思議なもので、「なんだこれ」って疑問に思うと興味が湧くんですよ。興味を持った人にさらに入り込んでもらうには、言葉を選ばずに言うと“バカにしてもらう”のがいちばん楽なんです。イーノックとルシフェルのやりとりは大真面目でありながら、どこか間が抜けているというか。
──たしかに、あのムービーにはツッコミを入れたくなる、さまざまな要素が詰め込まれていますよね。
竹安氏:
イーノックがいちばんいい装備を着て着地するドヤ顔のシーンも話題になりましたが、あれも計画的に入れ込んでいて。というのも、最初はめちゃめちゃカッコいい表情にしようと思っていたんですけど、モデラーの方が作った表情が、イケメンというよりはドヤ顔だったんです。その後、何回かリテイクを出したのですが、どうもしっくりくる表情にできなくて……。なら、いっそのこと、このドヤ顔を活かす方向性にしたらおもしろいんじゃないかと。
イーノックはブサイクではないんだけど、日本人が好きなイケメンでもない。僕が最終的にイーノックに設定したのが、“神が最初に定めた人間の顔”なんです。まだこの世に人種とか国籍とか、そういうものがなかったころの人間がいたら、ああいう顔なんじゃないかなって。まあ、後づけなんですけど(笑)。
──動画を中心に盛り上がりが生まれたというのも、ほかのゲームに先駆けてのことだったと思います。
竹安氏:
2ちゃんねるやまとめサイトなど、テキストで盛り上がるとは予想していたんです。クオリティーはしっかりしているので、「おいおい変なことを真面目にやってるゲームがあるぞ」と言ってもらえるかなと。でも、まさか動画が話題になるとは予想外でしたね。
いまでこそ動画やインフルエンサー、UGCを使ったゲームのプロモーションは当たり前ですが、当時は著作物の取り扱いはかなりグレーゾーンで。僕個人は楽しんでいただけてうれしかったのですが、販売元のイグニッションは「勝手に動画を使うなんてけしからん」と削除依頼を出してしまったり。
──当時はそういう判断をしてしまうのはわかります。
竹安氏:
時代性ですよね。あの盛り上がりって、一生に1回できるかできないかだと思うので、いま同じことをやれと言われてもできないんじゃないかなぁ。
──と言いますと?
竹安氏:
時代性のほかにもうひとつ重要なことあって。それは自分が若かりしころのえげつないパワーといいますか、若いときって感性が高いし、失敗を恐れないっていうのがあるじゃないですか。失敗したことがないから失敗の怖さを知らない。絶対に成功するって勘違いしてるから、失敗も怖くない。大人になればなるほど、負けることを知るから、怖いし、負けたくないから挑戦しなくなりますよね。
──若いバンドのファーストアルバムがもっともエネルギーに満ちているのと同じですね。世の中に対する声とか、内に秘めていた感情やアイデア、表現を一気に爆発させるというか。
竹安氏:
そうです、そうです。「そんな装備で大丈夫か?」、「大丈夫だ、問題ない」のセリフを含め、E3トレーラーのムービーのコンテは、新幹線で移動中の2時間くらいで考えたんだったかな?
──そのときの竹安さんの年齢プラス2時間ということですね。
竹安氏:
全体的な構成はずっと考え続けていたのですが、いざコンテにするときは一瞬でした。そこからはまったく内容は変わっていません。セリフに関しても難しい言葉ではないですし、すっと出てきました。
──時間が巻き戻る演出はどのような発想から生まれたのですか?
竹安氏:
ゲームに対する死の考えかたって“残機”みたいなもので、死んでもすぐに復活しますよね。人間は死んだら終わりなんだけど、ゲームの中ではなぜか生き返ったり、つぎの残機が出撃する。よく考えると変なことなんだけど、ゲームでは誰も突っ込んだりしない。ルシフェルが時を巻き戻す能力があったり、そういう演出を取り入れたのは、“ゲームの中の死”という“ゲームのタブー”に触れるのがおもしろいんじゃないかな考えてのことなんです。
E3に合わせて動画を投稿して、ネットで話題になったのはそれから数ヵ月後。ちょっと沈黙期間があったんです。東京ゲームショウのあたりから『エルシャダイ』に関する動画や話題が広がっていったのですが、そのときは「よし、きた!」とよろこんだ記憶があります。
──『エルシャダイ』は3Dアクションゲームでありながら、2Dアクションになったり、抽象的な背景のステージが登場するなど、変化に富んでいますよね。
竹安氏:
“変わり続ける世界”というテーマがあったので、なるべく違うものを入れ続けようと。ユーザーさんの「つぎはどうせこうなるんだろう」という予想を超えるものにしたいという想いがありました。
──『エルシャダイ』のそもそもの企画はイグニッションからの提案だったと聞きました。
竹安氏:
大阪から東京に出てきて、いろいろなメーカーさんとお会いしていたんですけど、その中の1社だったイグニッションから、「じゃあこういうのをやらないか」と提案をいただきました。もともと、僕が新しい会社を立ててやるかという話もあったんですけど、そういうのに興味がなかったので、僕自身はフリーの外注という形で参加することになりました。
『エルシャダイ』はイグニッションにいるシナリオライターがコンセプトを出してくれて、向こうから「こういうテーマでゲームを作ってくれ」と依頼があったのがスタートです。7人の天使が堕天して、それぞれの世界を作って神の侵入を拒んでいる。それをイーノックとルシフェルが正すために旅に出る、といったプロットまではできていたので、その先は開発チームで考えていきました。
──コンシューマー版の『エルシャダイ』では竹安さんはディレクション、プロデュース、プロモーションなど、多岐にわたって担当されていましたよね?
竹安氏:
何でも屋です(笑)。最初は予算を組み立てたり、スタッフを集めたりと、プロデューサー的なことをしていたのですが、途中で僕がディレクションを担当することになりまして。さすがに両立はきびしいと考え、途中から木村(木村雅一氏。コンシューマ版『エルシャダイ』のプロデューサー)にプロデュース部分をお願いすることになりました。
──キャラクターについてお聞きしたいのですが、ルシフェルは天使でありながらジーンズを履いていて、さらにはビニール傘や携帯電話を持っているなど、いま見ても新しさを感じるデザインです。キャッチーさを意識してデザインを行ったのですか?
竹安氏:
じつは真逆で、キャラクターデザインを上にチェックに出すと、髪型とかアクセサリーとか、キャッチーさを求められるんですね。それらを全部無視して、自分が作りたいデザインにしたのがルシフェルなんです。最初からルシフェルがキーキャラクターになるというのは決めていて、ゲームのセーブやロード、コンティニューをキャラにやらせたらおもしろいかなと思って。
『エルシャダイ』はジーンズメーカーのエドウィンと当時コラボしていたのですが、これも僕が営業にいって快諾していただいた施策で。
──天使にジーンズを履かせようという発想はなかなか出ないと思うのですが(笑)。
竹安氏:
僕がもともとヴィンテージジーンズが好きっていうのがあると思います。ヴィンテージジーンズって1879年以前のものって存在しないんです。でも、コレクターとしてはより古いものをより古いものを、って思っちゃいますよね。だったら「紀元前のヴィンテージジーンズを出しちゃえ」と(笑)。
──ちょっと話が脱線しますが、竹安佐和記という人物を客観的に見たときに、「何をしている人なんだろう?」という印象があって。カプコンで『Devil May Cry』のモンスターデザインや『鉄騎』のモデル制作・パブイラストを担当されたあと、クローバースタジオに移籍し、『大神』の妖怪デザインを務めてから独立。その後、crimを設立して『エルシャダイ』のディレクションを務めている。ディレクターでありながら、イラストも描けて、いまはギャラリーの経営も手掛けていらっしゃると……。
竹安氏:
誤解されるかもしれないですが、最近は絵を描くのが好きではなくて(笑)。ぜんぜん描いていないですよ。
──「絵描きではない」と以前からおっしゃっていましたよね。「絵が描ける開発者」だと。
竹安氏:
音楽業界でも歌が歌えるプロデューサーがいるじゃないですか。それを目指していたんです。当時は絵が描ける開発者っていなかったんですよね。ただ、総じて周囲が「絵描きの人」とまとめたがって。でも、僕は絵が特別好きなわけではないし、「絵描きの人」と言われるのは抵抗がありました。絵は相手に届けやすいから描いているのであって、時間もかかるし、手間もかかるし、描くこと自体は好きじゃない。何もないところから新しいものを作るのが好きなだけで、イノベーションが好きだからゲームに限らずいまもさまざまな仕事をしていて。誰もやっていないようなことを伝えるのに、絵はすごく便利だから描いているだけなんです。
──竹安さんは大阪芸大出身ですが、専攻されていたのは……。
竹安氏:
テキスタイルです。いわゆるアパレル系ですね。
──芸大時代にイラストを学ばれたわけですよね?
竹安氏:
トレースして簡略化してデザインを行う、シルエットドローイングというのをずっとやっていました。大学ではデザインを学びつつ、映像学科のメンバーとアニメを作っていたんです。それがいちばん勉強になりましたね。50分くらいのアニメを制作したのですが、アートディレクターを担当していました。2年くらい作っていたのかな。キャラクターから背景にいたるまで、多くのデザインをさせてもらって。アニメ制作を通じていろいろと学びました。
──ちなみに、イラストで影響を受けた作家、画家は?
竹安氏:
天野喜孝さん、荒木飛呂彦さん、鳥山明さん。あとは寺田克也さんのマネごとみたいなことをしていましたね。美術的には、ジェラール・ディマシオやエゴン・シーレの影響を受けているかな。
──なるほど。と、ここまで楽しくお話をうかがいましたが、『エルシャダイ』は開発途中から暗礁に乗り上げるわけですよね。ゲームをリリースするころにはすでにイグニッションは解散していたとのことですが……。
竹安氏:
開発チームに問題はなく、イグニッション側の問題ですね。スタジオを閉鎖するという判断になって。E3でタイトルを発表して「ネット流行語大賞」の金賞を受賞し、東京ゲームショウではフューチャー賞を頂戴するという華やかさの裏で、じつはチーム解散のミーティングをしていました。僕はもともとカプコンでゲーム開発をしていたということもありますが、ゲーム開発ってどんなことがあっても必ず最後まで作らせてくれるものだと思っていたんです。でも、そうじゃないのははじめての経験で。スタッフも当然戸惑いますよね。自分の担当している作業が終わった人から退職になりますから、真面目に仕事なんかしなくなりますよ。
──作業を終わらせてしまえば、その分早く退職ということになるわけですね。
竹安氏:
だから、僕がそのころにやっていたのは、彼らの再就職先を探すことでした。
──『エルシャダイ』を作りながら、リクルート活動支援を?
竹安氏:
その甲斐あって、多くの会社さんに助けていただいて。詳細は話せませんが、いまでは『エルシャダイ』のスタッフが有名なゲームを手掛けていたり。振り返って思えば、あのリクルート活動支援は、けっこうゲーム業界に貢献できたんじゃないかなって(笑)。でも、発売を迎えた日には、もう開発スタッフはバラバラで、発売のよろこびとかはなかったですね。僕がいちばん怖かったのが、リリース後になにか致命的なバグが発見されて、開発が対応しないといけないようになることでした。もう開発のサーバーも停止していて、ゲームデータも見られなくなっていましたから。絶対にクレームがくると思っていたので、発売直後は「無理無理無理無理……」って思っていました。
いちばんいいSteam版を頼む
──発売前に大きな盛り上がりがありつつも、発売時にはあまりよろこべないような状況だったわけですが、プロモーション活動も満足にできなかったんですよね。
竹安氏:
そうなんです。僕もイグニッションに許可を取りつつ、個展活動などをしていましたが、それも前例のないことなのでいろいろと障害がありました。また、ゲームの未完だった部分を補完するために小説を書いていて、権利元のチェック作業もたいへんでした。チェックに出すといっても先方は海外だから「翻訳は誰がやるの」となり……。幸い、解散した日本支社の社長だった方は残っていたので、その方を経由して本社に連絡を取らせていただいて。あの人がいなかったら何もできなかったので、本当に感謝しています。
──そして2013年5月に、竹安さんは『エルシャダイ』の権利を取得されました。個人でゲームタイトルのIP権利を取得するというのは、ハードルが高いと思うのですが。
竹安氏:
交渉には2年くらいかかりました。お金も時間もすごくかかりましたね。
──権利を取得するためのいちばんのハードルはなんだったのでしょうか。
竹安氏:
「竹安には売りたくない。個人には売りにくい」ということですね。どこまで言っていいのかわからないですが、自分が欲しいものを相手にどれだけ「それはいらないものだよ」と思わせるのがたいへんでした。説得材料となる情報集めに苦労しましたね。でもその甲斐があり、粘り強く交渉を進めた結果、最終的には「わかった。竹安が『エルシャダイ』をいちばんうまく扱える。それならいいよ」と納得してもらえて。
──権利を譲渡されたとのことですが、ゲームデータなども譲り受けたのでしょうか。
竹安氏:
そうですね。ゲームデータやプログラム、イラストなどもすべて譲り受けました。それがあったから、Steam版が発売できたんです。また、続編を作ったりすることも、問題なくできます。IP取得について詳しく述べると、『エルシャダイ』に関するすべての権利をイグニッションからcrimに譲渡するという契約を締結し、既存ゲームの前編、続編、その他すべての派生的権利を取得しています。ただし、PS3/Xbox 360用ソフト『エルシャダイ』についてはcrimからイグニッションに改めてライセンス提供がなされ、永続的に販売される、というものです。
──そこまでの手間と労力、金額をかけて『エルシャダイ』の権利を取得しようと、竹安さんに決意させたものはなんだったんですか?
竹安氏:
綺麗ごとかもしれないんですけど、E3トレーラーがああいう形で盛り上がって、ゲームもオリジナリティーのあるものが作れた。一方でスタジオが途中で閉鎖してしまって、ものすごいスタッフの涙を見ることになって。その涙を無駄にしたくない、人としてやるべきことがあるんじゃないかなと。
──権利を取得するにあたり金銭の支払いがあったと思うのですが、竹安さんが個人でお支払いしたわけですよね。
竹安氏:
そうです。僕個人が支払っています。けっこう大きな都市に土地付き一軒家が買えるくらいの金額かな(笑)。あ、これはぜひ書いていただきたいのですが、どうやってその金額が用意できたのかというと、個展活動などで販売したグッズが売れたおかげなんです。
──ファンの方の応援があったからこそ、『エルシャダイ』の権利を取得できて、10年後にSteam版を発売することもできたと。
竹安氏:
ファンの皆さんに助けていただいたからこそです。この場を借りてお礼を言わせてください。皆さんのおかげで『エルシャダイ』は続いています。ありがとうございました。
ちょっと宣伝をさせてもらうと、今回は完全移植を目指して開発を行いました。当時のゲームをそのままSteamで遊べるようになっています。完全移植なので、いいところも悪いところもそのままになっています。その悪い部分を直したいという想いを実現できなかったことに対する謝罪の意味を込めて、リリース日から45%オフの割引価格にて提供させていただいています。謝罪価格です(笑)。この機会に、より多くの方にプレイしていただければ。
──完全移植にこだわったのには、何か理由があったのですか?
竹安氏:
Steam版の開発は超々小規模で、ゲームメーカーというよりは、ほぼ個人に近い形で行っているんです。開発費も、僕がすべて出して作っています。ゲームを移植してくれたメインスタッフは10人ほどで、出資元もありませんから、新しいことを行うことに対するリスクが負えなかったんです。ヘタにいじることでいまよりも悪いものをリリースしてしまう恐れもあったため、今回は完全移植に留めようと。ただ、もしSteam版がたくさん売れたらバージョンアップ版を開発するのもアリなんじゃないかなと思っています。ですので、皆さんぜひ購入してください。
──完全移植を銘打っていますが、クリアー後には特典があると聞いています。
竹安氏:
コンシューマ版を発売したときにいちばん多かったクレームが、ストーリーが未完だったことなんです。その未完部分は、ゲームのリリース後に手掛けた小説にて公開したのですが、その小説を多数の描き下ろしの挿絵とともにゲーム中に収録しています。テキスト量だけでもかなりのボリュームですし、挿絵も大量にあるので絵をパラパラ眺めているだけでもだいたいの展開を知ることができると思います。
──未完であることに、それだけたくさんのクレームがきたのですね。
竹安氏:
きましたね。愛が深いからこそだと思うのですが。
──小説では結末までが描かれているのでしょうか。
竹安氏:
はい。イーノックの物語が最後まで描かれています。
──ストーリーが未完で終わってしまったのは、スタジオ閉鎖に要因が??
竹安氏:
開発中にスタジオが閉鎖することが決まって、開発期間が半年分、丸々なくなってしまったんです。なので、ゲームを成立させるために、内容の一部を削除して削除して……という感じで。開発スタッフたちにも申し訳ないことをしたなと、いまでも思っていて。その悔しさを10年ぶりとなるSteam版で払拭しているわけです。
──そもそもの話となりますが、Steamに移植しようと決意したきっかけはあったのですか?
竹安氏:
2年ほど前にコンシューマー版のスタッフである、ニックというメインプログラマーに会ったのですが、そこで「『エルシャダイ』ってSteamでできないのかな」という話題が出て。その後、ニックがひとりでSteam版実現に向けての最善策をいろいろ調べてきてくれて。コンシューマー版はWindowsXP環境で開発をしていたのですが、それをWindows10環境に移植するとかなりのバグを生むんです。でも、逆に言えばバグ取りがきちんとできれば実現できるとわかったので「じゃあやろうか」となって。
──ふとした会話の中から、企画が実現したわけですね。
竹安氏:
そのニックは、Steam版の開発でもメインで活躍してくれました。「『エルシャダイ』はケジメだからぜひやりたい」とまで言ってくれて。彼がいなければ、今回の移植は実現しなかったと思います。そのほかにも、当時の『エルシャダイ』スタッフから人員を紹介してもらったり、ニックの知り合いの宮崎にある株式会社イチバイトさんをメインとして、いろいろな方々の助力をいただいて。Steam版を手掛けてくれたスタッフは、当時の『エルシャダイ』のスタッフの空気感に近いかなと思っています。「この先どうなるかわからないけど、これをやっておけば自分のためになるかも」と思ってくれている方ばかりで、モチベーションが非常に高いチームですね。
──当時もいまもスタッフの愛が、ゲームの完成を実現させたと。
竹安氏:
僕にとってゲーム開発は。金儲けがしたいというよりはこの世でやらねばならぬ使命だと思ってやっているところがあります。小規模開発ということもあり、今回は大掛かりなプロモーションはやらないと決めていました。拡散目的のプロモーションではなく、Steamのコメントなどを拾って『エルシャダイ』を本当に愛してくれる人のために改善を行うのがいいのかなと。一気に拡散したりはしないんですけど、ファンの方からのメッセージひとつひとつにすごい熱量を感じています。それはとてもありがたいことですね。
──プロモーションといえば、『エルシャダイ』はフリー素材として提供されていることが最近話題になっていました。以前からの試みでしたが、Steam版発売前にニュースになるなんて、タイミングがいいなと(笑)。
竹安氏:
ご指摘どおり、前からフリー素材として提供していたんですが、この前改めて「フリーで使ってもいいんですよ」とTweetしたんです。そうしたら、今回はなぜか拡散されて、僕自身も驚いています。
あまり告知していませんが
— 竹安佐和記(Elshaddaiの人) (@Sawaki_Takeyasu) June 17, 2021
エルシャダイの"あの動画"は無料素材として公開しています。わりと認知が低く今はブルーオーシャンなのでオススメ
最近はプラズマ技術を利用した表面処理をしているという会社から使用許諾が来ました。一体何に使うんだ…(楽しみ)https://t.co/c1Zb6CdhSA#BlueOcean pic.twitter.com/3E0esV6K3l
──これもそもそもの疑問ですが、ゲーム素材をフリー提供するというのもなかなか前例がないですよね(笑)。
竹安氏:
お金を取るとなると、交渉とか、契約書を交わしたりとか作業が発生しますが、それって個人単位だとけっこうたいへんじゃないですか。でもフリーならそのへん全部スルーでできますから。
──Steam版のセールスが好調なら、続編を計画することも考えられますか?
竹安氏:
それはもう、すごくやりたいです。このインタビューを読んで興味を持ったメーカーさんがあれば、ぜひお声がけください(笑)。売上が上がれば、小説部分をゲーム化するといった展開も考えていますので、ぜひSteam版『エルシャダイ』をプレイしてみてください。(了)
発売前の盛り上がりから一転、スタジオの閉鎖というトラブルに見舞われながらも創意工夫で世に送り出された『エルシャダイ』は、10年の時を経てSteam版が発売となった。
ファンたちの支援によって竹安氏は『エルシャダイ』の権利を取得し、自身も悲願だったという未完のストーリーをすべて描き、Steam版に詰め込んだ。竹安氏と開発スタッフ、そして多くのファンの愛によって育まれた『エルシャダイ』は、まさに神の奇跡とも言える復活を果たした。
「僕にとってゲーム開発は。金儲けがしたいというよりは使命だと思ってやっているところがあります」。そう断言できるゲーム開発者はこの時代になかなか会うことはない。インタビュー中に述べられたとおり、『エルシャダイ』はリリース日から2週間限定で通常版が19%オフの3224円、デラックスパック版が45%オフの3919円で発売されている。
コンシューマー版をプレイしたことがある人も、『大丈夫だ、問題ない』だけ知っている人も、本記事で『エルシャダイ』をはじめて知った人も、購入するならいまがいちばんお買い得だ。この機会にぜひ“いちばんいい『エルシャダイ』”をプレイしていただきたい。
\PS5版制作発表記念/
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) October 7, 2024
竹安佐和記さんサイン入り
Nintendo Switch版『エルシャダイ』ドラマチックエディションを1名様に@Sawaki_Takeyasu@denfaminicogame
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▼インタビュー記事https://t.co/OzwOJmuEJZ pic.twitter.com/uwLib51kyD