新作『ルパン三世』はシャーロック・ホームズが登場するミステリーものに!小説家・大倉崇裕が『名探偵コナン から紅の恋歌』『紺青の拳』を経てPART6のシリーズ構成に抜擢されるまで【インタビュー】

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押井守氏とは10年来の付き合い。きっかけは「空手道場」

──『PART6』ではシリーズ構成ということで、担当するエピソードを書くだけじゃなく、すべてのエピソードのテイストをまとめ上げるお仕事もあったかと思います。オムニバスエピソードを担当するゲスト脚本家の方々とはどういったやりとりをしてきたのでしょうか?

大倉氏:
 どういう方に書いていただこうかという意見は、私のほうからも出させていただきましたし、プロデューサーの方の案もあります。
 でも基本的に、「こういうものを書いてください」とこちらから申し上げたりはしていないです。「好きに書いてください」と。というのも私が『PART5』で1本書かせていただいたときもそう言ってもらっていたので。

 そういうふうにお願いしていてもネタが被ることなく、凄く個性的な脚本がバンバン上がってきたので、やっぱりこれで良かったんだろうなと思っています。

──やはり脚本を受け取る側になると『PART5』のときとは立場は全然変わってきますか?

大倉氏:
 やっぱり全然違います。しかもかなり凄い方々の脚本ですし(笑)、それをいの一番に読めるわけですから。特権みたいなものですよね。とても楽しかったです。

──大倉さんよりも年齢がずっと上の方もいらっしゃいますし、チェックする側としてどんな気持ちなのかなと気になりました。押井守さんとのやりとりなど、かなり恐縮してしまいそうですけれど。

大倉氏:
 押井さんは今回飛び込みで依頼したわけではなくて、ずっと知り合いだったんですよ。空手仲間なんです

──空手仲間!? へぇ~~!

大倉氏:
 私の兄弟子なんです、押井さんは。空手道場への入門が私よりちょっと早くて。もう10年くらいですかね。
 押井さんは映画の制作に入ると稽古どころではなくなるので、しばらく休まれたりするんですけど、いらしているときは一緒に稽古したりして。殴ったことも殴られたことも何度もあるんです(笑)。そういう縁があるので、駄目もとではありますけど依頼してみました。

──では大倉さんから直接、押井さんに?

大倉氏:
 そうです、押井さんは私からの依頼でした。たまに一緒に飲みに行ったりもしていたので、コナンをやることになったときも相談したりしていたんですけど。そのときは「やるといいよ」と言ってくれて。
 そういう縁もあって「ルパン三世のシリーズ構成をやることになったんですけど、押井さん書きません?」と駄目もとで言ったんです。

 そしたら「いいよ」って、その場で即決で(笑)。「えっ、いいんですか!?」ってこっちもビックリしましたけど。プロデューサーには事後承諾で「押井さんが書くって言ってくれています!」とお伝えしました。幸いにもそのまま上手く話が進んで脚本は完成しました。

ゲスト脚本家4名の、それぞれ異なる起用の経緯

──押井さん以外の4名のゲスト脚本家の方のこともお伺いします。湊かなえ【※】さんも大倉さんから推薦した形ですか?

※湊かなえ
娘を殺された女性教師の復讐劇を描く『聖職者』で第29回小説推理新人賞を受賞し、2007年より小説家として活動を開始。同作から続く連作集『告白』が大きな話題を集め、2010年には中島哲也監督による映画化もされた。その後も『贖罪』や『Nのために』といった作品をはじめ、映画やドラマを中心に多数のメディアミックスを展開。アニメへの脚本提供は今回が初となる。

大倉氏:
 湊さんは唯一プロデューサーの方から提案をいただきました

 湊さんと私ってそれまで面識はまったく無かったんですが、同じ新人賞出身なんです。双葉社さんが主催する「小説推理新人賞」という賞なんですけど。それで担当編集さんも一緒で。
 映画にもなった『告白』という湊さんの小説がありますけど、その原型となった短編で受賞されたとき、担当編集さんが「凄い人が受賞した!」とメールをくれたんです。読ませていただいたあとは、「本当に凄いですね!」とやりとりも交わしたりして

 そういうご縁があったんですが、偶然にもトムスさんから「依頼書を送るので文章を添えてほしい」と言われまして、「ずっと前からファンでした」と偽らざる本心を書きました。結果的にありがたいことに引き受けてくださって。

──ではこの『ルパン』の脚本の関係で初めて直接やりとりされたと。

大倉氏:
 ただ、そのあとまた別のご縁があって、とある賞の選考委員を一緒にやることになりまして。それはリモートになってしまったので、画面越しにはなりましたが、対面を果たしたのはそのときが初めてです。
 情報解禁前だったので、ほかの方もいらっしゃるところで「ルパン三世の件、引き受けていただきありがとうございます」とは言えなかったので(笑)。その後、改めてご挨拶はさせていただきました。

──辻真先【※】さんはいかがでしょうか?

※辻真先
漫画の原作からエッセイの執筆、アニメや特撮への脚本提供まで幅広い顔を持つ推理作家。過去には『ジャングル大帝』などのアニメ脚本を手がけ、早川書房による推理小説のランキング「ミステリが読みたい! 2021年版」では『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』が国内編の1位に輝いた。

大倉氏:
 ゲスト脚本家の中でいちばん最初に名前が出たのは、辻先生だったんです。私は辻先生が脚本を書かれたロボットアニメなどを観て育った世代なんです。一方で推理作家協会にも入っておられる現役の推理小説家でもあって、このまえも『たかが殺人じゃないか』がベストセラーになられました。
 もうレジェンドですよね。この方抜きでは考えられないくらいに思っていたので、「辻さんが駄目だったらシリーズ構成を降りる」みたいなことも、冗談ですけど言っていた覚えがあります(笑)。

 それでオファーしてもらったら無事お引き受けいただけたんですけど。でも辻さんって『ルパン三世』の脚本は書かれたことがなかったんです。それを私は不勉強ながら知らなくて、絶対何本か書いていらっしゃると勝手に思い込んでいたんです。「ええっ!? そうだったんだ!」と。

──『名探偵コナン』の脚本は今でも書かれているわけですからね。

大倉氏:
 ときどき『コナン』の打ち合わせで会うんですよ(笑)。そういう経緯もあったので、ぜひ辻先生にはやっていただきたくて、いちばんにお願いしました。

──芦辺拓【※】さんについてもお聞かせください。

※芦辺拓
弁護士の主人公が活躍する『森江春策の事件簿シリーズ』で知られ、博識に基づく本格ミステリの作風で知られる。同シリーズはテレビドラマとして映像化もされており、別シリーズの『金田一耕助VS明智小五郎』は山下智久氏を主演に迎え2013年にドラマ化された。

大倉氏:
 芦辺さんも推理作家協会などの繫がりで、親しくさせていただいています。それで、内容は明かせないんですけど、『ルパン三世』でミステリーをやる上でどうしてもやりたいネタがあったんです。
 先程ゲスト脚本家の方には自由に書いていただいていると言いましたが、芦辺さんにだけはひとつお題をお願いしているんです。先程のやりたいネタが書ける人を考えたとき、ちょうど芦辺さんの作風がピッタリだったんです。

 これもパーティの席で直談判だったと思うんですが、芦辺さんも『ルパン三世』が大好きということで「喜んでやります」とおっしゃっていただきました。

──最後に樋口明雄【※】さんはいかがでしょうか。

※樋口明雄
雑誌記者、フリーライターを経て作家としての活動を開始。山岳小説やSF、ゲームブックなど多彩なジャンルの作品を発表し、『「超」怖い話』シリーズの2代目編著者も務めた。『ルパン三世/戦場は、フリーウェイ』は1987年に双葉社より刊行。

大倉氏:
 樋口明雄さんも小説家として知り合っています。昔『ルパン三世』の小説(『ルパン三世/戦場は、フリーウェイ』)を書かれていたという経歴は知っていたんです。
 山梨にお住まいで、自然派でワイルドな生活をされている方です。私、昔は山岳部だったりもしたので、そのあたりでも気が合って、パーティでお会いしたときなどはお話させていただいていたんです。

 『ルパン三世』がお好きなのも知っていましたし、その上、関わっていたこともある。こちらとしては、やっぱり『ルパン三世』が好きな人に書いていただきたいというのはあるんです。
 銃などの知識も豊富だったりと、頭で考えて推理してっていうミステリーとはひと味違うものを書いていただけるかもしれないという思惑もあってお願いをしました。樋口さんには確かFacebookで打診したんですけど、すぐ快諾していただきました

──いろいろな人脈やツールを総動員されていますね(笑)。

大倉氏:
 そこはやっぱり『ルパン三世』ですから。ほかの作品だったらここまでスムーズに凄い人たちが集まったりはできなかったと思います。私が思い浮かぶ方も違ったでしょうし。やっぱり『ルパン三世』が凄いってことですよね(笑)。断る人がいなかったっていうのは。

「次元大介の声優交代」という歴史的ターニングポイントに立ち会って

──『PART6』から次元大介を演じる声優が小林清志さんから大塚明夫さんに交代になるということで、驚いたファンは多いと思います。大倉さんがこのことを知ったのはいつ頃の段階で、そのときどう感じましたか?

大倉氏:
 脚本を書いている段階ではまったく知らなかったんです。多分知ったのは全話書き終えてからだったなぁと。

──大倉さん自身『ルパン三世』が大好きだったということで、いろいろな想いがあったのかなと思いますが。

大倉氏:
 そうですね。だって小林さんは次元を演じて50年。私が2歳のときから演じているんですから。でも同時に、リモートではあったのですが、大塚さんが次元を演じられているのを見る機会があったのには、大変感慨深いものがありました。歴史的なターニングポイントに立ち会えたわけですから。

──次元は第1話にももちろん登場していましたが、やはり大塚さんの次元もカッコよかったですよね。

大倉氏:
 カッコいいですよね、ビックリしました。声優さんの凄味というか、技術力というか。我々では計り知れないものがあります。凄いなぁと思いました。

──最後に『ルパン三世 PART6』に込めた想いをお願いします。

大倉氏:
 やはり『ルパン三世』にはいつまでも変わらない魅力があります。今回は謎解きミステリーという要素こそ入っていますが、ある意味王道の『ルパン三世』だと思うんです。ストレートにルパンたちのカッコよさを楽しんでいただければ嬉しいです。
 若いファンの方には、シャーロック・ホームズという新たなライバルキャラクターが登場するので、彼の存在も含めて、ミステリーという部分の魅力も楽しんでいただきたいです。リリーという可愛い女の子も登場するので、彼女にもぜひ注目してください。

──本日はありがとうございました。(了)


 大倉崇裕氏の人柄をまったく知らなかった筆者は、「気難しい方だったら大変かも」と、ちょっと緊張しつつインタビューに臨んだ。しかし実際にお会いしてみると、こちらの聞きたいことに対して真摯に、ユーモアも交えて答えてくれる、とても気さくな方だった。

 その中でとくに印象に残ったのは、氏の真っ直ぐな「ルパン愛」、そして「ミステリー愛」だ。『ルパン三世 PART6』のシリーズ構成という役回りへの強い責任感を持ちながら、心から楽しんで仕事をしていることが、その語り口や表情からハッキリと伝わってきた。

 そんな大倉氏のさまざまな愛が詰まった『ルパン三世 PART6』、そしてちょっと不思議な縁で集まった豪華ゲスト脚本家たちが紡ぐオムニバスエピソードの数々がどんなものになっているのか? 毎週の放送を楽しみにしていきたい。

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ライター
ゲームメディアでアニメの話をしたりしている人。ゲームライターと名乗ってよいものか分からず、かといってアニメライターではない気がする。いい感じの肩書き募集中。両ジャンル追いかけるには人生はあまりに短い。ゲームは和・洋・大作・インディーなんでも楽しみ、アニメはとりわけ『アイカツ!』シリーズや『プリキュア』シリーズなど、女児向けのものを好む。
Twitter:@Kusare_gamer
編集
新聞配達中にトラックに跳ね飛ばされたことがきっかけで編集者になる。過去に「ロックマンエグゼ 15周年特別スタッフ座談会」「マフィア梶田がフリーライターになるまでの軌跡」などを担当し、2017年4月より電ファミニコゲーマー編集部のメンバーに。ゲームと同じぐらいアニメや漫画も好き。
Twitter:@ed_koudai
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