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どうすれば子どもに「プログラミングが楽しい」と思ってもらえる?→「自由にやってみよう」よりも「自分でもできそう」という気持ちが大事。ロボットトイ『toio™(トイオ)』はプログラミングへの苦手意識を持たせない、入り口として最適な“おもちゃ”だった

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「プログラムへの苦手意識」という呪いを解呪する方法とは?

どうすれば子どもに「プログラミングが楽しい」と思ってもらえる?→「自由にやってみよう」よりも「自分でもできそう」という気持ちが大事。ロボットトイ『toio™(トイオ)』はプログラミングへの苦手意識を持たせない、入り口として最適な“おもちゃ”だった_012

草野氏:
 それは鳥嶋さんが編集者としてやってきたこととも一緒なんです。昔の編集者の時代と今の編集者って考える量とかの範囲に3~4倍ぐらいの差があるんですよ。

 たとえば、今どきの編集者はメディアミックスも考えて仕事をしますけど、それを無視すればほぼ確実に怒られてしまう。そういう業界の流れと共に変化したものがある話を鳥嶋さんにしまして、今のプログラマーの大変さを伝えたんです。それで「編集者にも優しくしてあげてください」とも言いまして(笑)。
 そしたら、鳥嶋さんが「ああ、なるほど。ちょっと優しくしようか」と納得していただいて良かったと思いましたね。世界観を広げられた、という手応えがありました。

──そもそもどんな話だったかと言うと、ある日突然、鳥嶋さんが「プログラミングを勉強したいんだ、平くん」と言い出したんです。でも、「鳥嶋さんにプログラミングを勉強させるのって、一体どういうことだろう?」って考えまして。
 何かプログラムを打たせる、というのもあったんですが、それを考えた時、草野さんが先ほど言っていた、N高で『クッキークリッカー』を作ってバグらせるみたいなことをやっていると聞いたんで、草野さんに相談したんです。草野さんは「えーっ!?」となってたんですけど(笑)。

草野氏:
 そもそも罰ゲームじゃないですか!あの伝説のDr.マシリトに何を言えと(笑)。

田中氏:
 あの伝説の(笑)。

草野氏:
 丁度、話が来て、実現まで1ヶ月ぐらいでしたかね。その1ヶ月間は毎夜資料を作っていて、3日前までプログラムを書いてみましょうかという設計をギリギリまでやっていたんです。ただ、2日前ぐらいにインターネットと古本屋で手に入る鳥嶋さんのインタビューを読んだんですよ。

 それを読み終えたら、「この『ドラゴンクエスト』堀井雄二さんたちと一緒に作り上げた人に俺がプログラムとは何か教えるのは、おこがましいのでは?」という気持ちになりまして。それなら別に堀井さんと一緒にやればいいじゃん、と(笑)。

 それで作った資料を全部捨てて、プログラミングとは何か……それこそもうハードの初期、1世紀以上プログラミングという行為は人類が行ってきていて、それは機械産業と統一したものになっているんですという、歴史の授業みたいな所から入る形のものに全振りしたんです。それでプレゼンをしてみたらけっこう、喜んでくれましたね。

田中氏:
 鳥嶋さんがプログラミングを知りたいと思った動機はなんだったのでしょう?

草野氏:
 まず「プログラミングとは?」「創造性があるとは?」「今どきのプログラマーさんは大変とは?」、というのを理解したいというのがあったみたいです。

 それで「構造物(ストラクチャー)なんだ」という説明をプレゼンでしたら、「確かにそうだよな」と納得いただきまして。たとえば部屋にランプ1個追加しようとした時に、ランプ1個じゃんとなりますけど、そのスペースはどうするのか、消費電力上の問題は何があるのかとか、いろいろ出てくるではないですか。

田中氏:
 建物の部屋、電気を変えるとか、水道を通すとか。家の設計や内装の配置と同じように……

草野氏:
 はい、なのでプログラムというのは構造物で、それはソフトウェアもハードウェアも一緒で、計画がないと変えられない、という話をしていきましたね。

──たしかあの話があった時ってカドカワとドワンゴが統合されて、「カドカワの中でも編集者がプログラムを覚えると少し給料が上がりますよ」という取り組みがあったんです。それで鳥嶋さんにプレゼンをしてみたら喜んでもらって、後に白泉社でもやったんです。

 鳥嶋さんがこだわっていたのは、アナログ的な感性で取り組む漫画界隈の人と、プログラミング界隈の人たちの間にある壁を突き崩すことだったんです。
 たとえばゲームを作ろう、あるいはその漫画アプリを作るから一緒にやりましょうとなった時、業種ごとの考え方の違いがあって、意思疎通が図れずに難航してしまうことがありまして。それで自分も勉強しなきゃ、というのがあって、草野さんがプレゼンされる流れになったんです。
 そのプレゼンでプログラムって何か分かるんだけど苦手という意識があるものに対し、取り除く方向に全振りしてきたので、「ああ、なるほど。そう来たのか」と感心しましたね。

草野氏:
 “解呪”ですね。呪いを解きましょう、というか(笑)。

──あれは本当に面白かったです(笑)。

草野氏:
 もともと、プログラミングに苦手意識のある人たちの多くは、あの“黒い画面”に苦手意識があると思っていまして。別にプログラミングという物事自体は極端に難しくはないではないですか。

 どんな見た目が素晴らしいプログラミングでも、やっているのはこのオブジェクトの色は赤でこっちは青みたいに決めつけているだけなんですよね。ただ、赤と青をものすごく速く表示するために不思議な書き方をしなければいけないし、難しい数学を使わなければならない。
 けれども、やっているのは表示と決めつけなんですね。それをあまり難しく捉えないでほしいというのを思って、そういうプレゼンに構成したんですね。

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田中氏:
 こういう製品に込めた思いが良いところに現れていますね。なんというか、今って世の中のものがあまりにも洗練されて高度になっていて、とても自分では作れるものじゃない遠い世界になってしまっているように思うんですよね。

 僕はモノづくりが好きだし、分解するのが好きだったので、やっぱりその裏側に少しでも興味を持てるような、「表の見た目はフレンドリーだけど、裏側に通じる穴を開けてズルズル引っ張り出すようなものにしたいな」という気持ちは今もあります。同じことをしたいんだなと分かりますね。

草野氏:
 ちなみに『toio』って、この後バリエーションが出るんでしょうか。

田中氏:
 いや~……まだこの『toio』、「まだ」と言うのも変なのですが(笑)、これは共通の土台と言いますか、ロボットとしていろんな形で表現できると思っていますから、ぜひこのままどんどん発展させて使っていただければと思っていますし、発展させたいです。

草野氏:
 倍大きい『toio』とかはどうなんでしょう。

田中氏:
 ああ~そうですね。そういう声がたくさん集まればぜひ考えていきたいなと(笑)。

草野氏:
 サイズが倍大きいと、できることも変わってくるじゃないですか。建造物が載ったりするんで。

田中氏:
 まあ、本当にこれを4台並べて大きいのを載せて動かす、みたいなのはできなくもないんですよね。今の『toio』でも工夫次第で何かできると思いますので。
 ただ、当然できないこともあるでしょうし、その要望が出てくるようでしたら考えたいと思います。

草野氏:
 確か絶対位置とか、距離が取れるんですよね?これメジャーにはできるんですか?

田中氏:
 できますね。この中(ビジュアルプログラミングtoio Doのサンプル集)にノギスのプログラム例が入っていますので。

草野氏:
 メジャーと言ったらノギスが出てくるのが分かっているというか(笑)。

田中氏:
 (デモを実践しながら)絶対値の差を取って計算すると相対的な角度が検出できるようになっているんですよね。マット部分に位置の情報が埋め込まれていますので。

 なので、メジャーのような身近なものも作れるようになっています。それで、いざ作ってみると、距離とか角度とかの仕組みが自然に分かってくるんです。そして、いつの間にかに三角関数……sin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)も使えるようになっていくという。

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草野氏:
 「サイン、コサイン、タンジェントは人生に必要なんでしょうか?」という人が何人もいるんですけど、サイン、コサイン、タンジェントほどお世話になるものってないんですよね(笑)。

田中氏:
 ですよね(笑)。それこそコンピュータで絵を描きたくなったら、避けて通れないですし。

草野氏:
 コンピュータで絵を描きたい、コンピュータでゲームを作りたい、コンピュータで音を鳴らしたいって時の全てに登場してくるんですよね、サイン、コサイン、タンジェントというのは。

田中氏:
 それで実は音って波で、それはサイン、コサイン、タンジェントで書くんだなと分かるんですよね(笑)。

草野氏:
 やばいですよね(笑)。なんでこんなにあるんだ、という。

田中氏:
 サイン、コサイン、タンジェントが何のためにあるのかと言ったら、綺麗な円を描いたり、円運動をさせるために必要なんですよね。

 コンパスのように一定の半径で角度をちょっとずつ変えながらその時のXYの座標はどこにあるのかとか、それを測りながら点を打っていくと円が描かれるという。実際コンパスで丸を描いているのと同じなんですけど、コンピュータに描かせるには数学が必要なんですよね。大げさな名前こそ付いていますけど、コンパスの動きみたいに、原理は単純というものですね。

草野氏:
 僕は中学の時にプログラミングでsin、cos、tanをすでに見ていたんですけど、高校に入ってからこれをサイン、コサイン、タンジェントと読むと知って変に興奮しましたね。あ、これって“シン”じゃなくて“サイン”って読むんだーという(笑)。

田中氏:
 (笑)。プログラミングしてると英語も数学も覚えられますよね(笑)。

草野氏:
 高校生にプログラミングを教える場合って、もっと技術に寄る形になるんですけど、それは彼らが望むからというのもあるんですよね。ただ、彼らがそこでネックになるものって実はプログラミングではなく“手札”でして。たとえば英語ができないとか、そういうのが響いてくるんです。

 プログラミングってカードゲームに近いので、手札が増えればその分、できることは増えていくんですよね。何かプログラミングでやったことがある場合でも増やせる。だからいきなり自由帳を渡すみたいな形だと厳しくて、むしろこれを作ってみようという明確な課題があった方がプログラミングを覚えやすいというのがありまして。

 「自由にやってみよう」というのはすごく聞こえがいいんですけど、自由にやってみようというのは教える側の無責任だなと思っているのもあるので、あまり自由にやってみようとは言わないようにしようと思うようになりましたね。

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田中氏:
 まあ、やっぱりこれなら自分でもできそうだというサンプルがあった方がやりやすいんですよね。なんでも目指していいよと言われても、その目指したものが今までになかったらものすごく難しいですし。

草野氏:
 難しいですよね。逆にサンプルがあると積極的に取り組んでくれたり、想像以上の結果を出すこともありまして。生徒の成績テストでWEBサービスを4つぐらい作って、この中には脆弱性が少なくとも5つ埋まっていて、全部直し終わったら満点を付けます、それ以外の改修も評価しますとしたら、一番いいので100点を超えて160点ぐらい取った子がいたんですよね。

田中氏:
 それはまた実践的で……(笑)。

草野氏:
 まあ、おかげで採点がものすごく大変なんですけどね(笑)。生徒が出した結果を全て確認しなければならないので。けど、意味のある試験だったとは思っています。

──他のプログラミング教育の場でもそういうことってやっているんですかね?

草野氏:
 それは対象年齢次第なところがまずありますね。小さい子向けのプログラミング教育でも、ガッツリとプログラムを書かせるところはありますし、ロボットサッカーみたいなロボットのプログラムを書いて大会に挑戦しようぜとか、AIやスマホアプリを作ってみようよなど、割とモノづくりにフォーカスした明確な目標を打ち立てているものが多いです。

 年齢が上がってくると技術系、JavaScript、Ruby、Perlを覚えましょうというコースが増えてきます。そうなるともう、お金になるための技術みたいな覚え方をしたいとか、グループワークが実施されたりもしますね。
 みんなでWEBサービスを作ってみましょう、みたいに。あと、このWEBサービスと全く同じクローンを作って、それをポートフォリオとして提出するとかもあります。

 けど、僕としては学童保育みたいにプログラミングの遊びができる施設があっていいと思うんですよね。それこそ『toio』がいっぱい置かれていて、それで遊ぼうといった感じに。なので、塾とか学校ではなくて、もっと遊び場、遊具のひとつとしてプログラミングが提供されるようになってくれないかなと願っています。

田中氏:
 SIEもテクノロジーとエンターテインメントのふたつで成り立っていますが、プログラミングはエンターテインメントとしても楽しい遊びでもあります。その魅力を教えて広めていきたいと思いますね。仕事にも趣味にもなるし、ゲームとしても楽しめる。

 別にプログラマー以外の仕事に就くにせよ、学んで体験しておいて損はないだろう、と。もっとこう、ピアノを習っているのと同じ感覚にプログラミングもなればいいなと思います。趣味で歌を歌っているのと近い、生活の一部になってほしいですね。

プログラマーが憧れの職業になるためには“スタープログラマー”の存在が不可欠?

草野氏:
 そんな子どものなりたい職業でプログラマーを上位にするためには何をするのがいいんでしょうかね?

田中氏:
 (笑)。

草野氏:
 まあ、僕には明確な答えがひとつあって、まず「あのプログラム書けるぞ!」と、ある程度理解した子が思えるようになった時が始まりだと思うんです。

 そこからすごさの解像度が伝わるようになるのが必要ではないかと。たとえばレーサーがカッコイイのって、車を運転しているからではなくて、メチャクチャすごく運転をしているからではないですか。
 スポーツ選手もそうですが、マラソンランナーもそうですね。パッと見は走っているだけじゃんとなりますけど、実はあの距離をあんなにも綺麗に走れるのはすごいことなんですよね。そういうすごさの解像度が分かるようになれば、憧れる子が出てくるのではないのかと思うんです。

 そのためには入り口も重要で、漫画家が今も人気の職業としてランクインするのはそこが大きいと思うんですよね。自分で絵を描いてみると一瞬で分かりますから。「漫画家の絵はものすごく上手い!」と。
 プログラマーも単純に作業の延長線上の入り口がないと、そういうすごさって分かりにくい。そして、その入門した少し先にあるすごさというのも見えてこない。その解像度が上がって、ざっくりでもいいので分かるようになるとイメージも変わってくるだろうと。今、プログラミングのイメージって「カチャカチャ、ターン!」の人とか、ろくろを回している人とか、そういうのが先行してしまいます(笑)。
 それ以外のことが想像できるようにならないと、カッコよさも何も言いようがない、もう、そんな風に言われる時代はとっくに終わっていると思うんですよね。

 大人はみんながパソコンを触っているじゃないですか。なので、子ども側がある程度入門している状態じゃないと憧れてもらえないでしょうし。ゲームプログラマーになりたいとかいう子とか、メチャクチャゲームを壊していたりしますから。
 そういうすごさが分かるようになれば変化してくるんではないのかと僕は思います。田中さんは何かありますかね、夢を持たせるためには。

田中氏:
 先ほどの話にも繋がるのですが、「プログラミングすること自体が仕事に絡まなければいけない」とは思っていなくて。10~20年後の世界がどうなっているかは分かりませんけど、プログラミングはもしかしたら、ワードやエクセルを使うのと同じくらい、一般的なことになっているかもしれません。
 むしろ、そのぐらいになったらいいなという気持ちがあります。表計算をちょっとデータにまとめたり、機械を走らせるぐらいが怖くなくなるような。土日に本を読めば、大体のことは分かってしまうぐらいに理解のハードルが下がった方がいいように思います。

 そういう中で、企業に所属している人などでも、スターとも言えるプログラマー(エンジニア)が出てくるといいな、と。特にアメリカや中国は、すでにエンジニアが一時代を築き上げ、ヒーローになるのが当たり前のようになってきています。
 日本は今のところ、そこは出遅れているところがありますので、そういう時代になっていくのがいいだろうなと思いますね。それこそ、料理で言うところのトップシェフ、料理研究家、そして自分が日常で作る料理に差が出るように。そんな構造が出来上がればもしかしたら……と思いますね。

──今って、そういうスタープログラマーみたいな人っているんでしょうかね?

草野氏:
 割と今もいるとは思いますけどね。Rubyを作ったMatzさん(※まつもとゆきひろ氏)は間違いなくスターでしょう。ただ、プログラマーは縁の下の力持ちなところが割とあるので、表立って出てこないんですよね。

──昔の日本だと黎明期のゲーム業界とか、IT業界にはそのようなプログラマーがけっこういましたね。けど、最近はあまりそういう人は表に出てこなくなってしまった印象があります。

草野氏:
 まあ、工業化してきた背景もありますからね。天才ひとりが作るものではなくなってきてしまいましたし。それでもスーパープログラマーはスーパープログラマーだったりしますけどね。

田中氏:
 それこそ映画『マトリックス』みたいな、あの世界だとプログラミングができるのが当たり前みたいになっていますよね。

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草野氏:
 あと、プログラマーって貧富の差に強いので、貧しい人間が勝ち上がりやすかったりするんですよね。参考書を買わなくても、今ならインターネット上に膨大な量の資料が転がっていますから、それに対してたくさんの時間をかけ、玉石混交の中から見つけ出す労力さえ払えれば、なんとかなっちゃったりする。
 パソコンだって、プログラミングをするだけなら高いものでなくても十分いけるんですよね。究極、エディターとコンパイラさえ動けばいいですし。

田中氏:
 そういうチャンスを得られるところでも、プログラミングというのはいいツールであると思いますね。外国語を覚えるのと同じぐらいに。

草野氏:
 ひとつの言語を覚えるのもそんな感じですよね。コンピュータを相手に喋るのか、アメリカ人相手に喋るのかで。コンピュータはアメリカ人よりも融通利かないですからね(笑)。本当に正確に喋らないと伝わりませんし。気楽にいかないんですよね。

田中氏:
 いつかAIがそれをアシストしてくれる時代が来るかもしれませんよね。

草野氏:
 そのAIにしても、やっぱり「命令する」に勝る使い方はない訳で……。

田中氏:
 はっきり意志を持って正確に伝えるというのが大事だと思いますね。

草野氏:
 正直、AIがこんなにも流行るだなんて思いもしませんでしたからね。前にニューラルネットワークを書いていたことがあるんですけど、これは全然流行らないだろうと実装して思い知らされたんです。

 すごく賢くなるのは分かるのだけど、計算時間を喰いすぎるから絶対流行るはずがない。そうしたら、GPUで動かす方法が見つかったんですよね。その時は「そんな暴力的な話があるのか」と思いましたけど(笑)。まだそのようなブレイクスルーが残されていたんだ、という感動もありましたね。

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田中氏:
 ガラッと変わりましたからね。スマホにすでに当たり前にAIチップ(ニューラルネットワークエンジン、機械学習に特化したプロセッサー)が入っているというか。

草野氏:
 暗号通貨だったり、ブロックチェーン技術とかも見ると、まだ人類がゲットできるおもちゃはあるんだなって思いますね。計算空間上で手に入れられるおもちゃは品切れかと思っていました。けど、ディープラーニングとかを見ていると、まだ全然残っているんですよね。

 「これ、何で動いているんでしょうか」と聞いてみたら、作った本人が分からなかったりして(笑)。ディープラーニングというのは食わせたデータ次第ですからね。「どうしてこのようになるのかは分からないけど、これは賢いんだ」という。

田中氏:
 入出力は分かっているけど、その間がよく分かっていないみたいな感じですね(笑)。

草野氏:
 説明可能AI【※】のように解析技術も発達していますし、本当に思いもしないところにおもちゃは眠っていると思いますね。

※説明可能AI
機械学習の計算過程が外部から観測できないことを指してブラックボックス(説明不可能 AI)と呼ぶのに対する、計算過程の説明可能なホワイトボックス型のAI。

今、技術者として最もワクワクしたもの、これから突き詰めたいこと

──そろそろ『toio』のことから離れまして……おふたり共に最近、技術者としてワクワクしたものや興味のあるものとかでは何かありましたか?

田中氏:
 そうですね……僕はリアルとバーチャルの中間ぐらいのところが一番好きなんです。コンピュータが人間のことを理解してくれたりとか。
 AIがまさにそうですけど、世の中にいろんなセンサーが増えてきて、実世界のいろんなものがデータ化され、コンピュータが実世界のことを分かってくるようになってきたのはワクワクしますね。

 あとはバイオテクノロジーですね。最近は新型コロナウィルスのこともあって、生物やワクチンの仕組みにも以前にも増して興味をもったのですが、知れば知るほど生き物ってよくできていてすごいなという感動がありました。また、ウイルスやワクチンがこれだけ生活、社会全体を変えるほどのことにつながるんだというのも身に沁みましたので、そういうところに自分たちの技術、エレクトロニクスとかロボティクスが応用できることはないのかなと、本当にピュアなものですが個人的にすごく興味があります。
 あとは子どもたちや身の回りのことに関連して、環境のことも気になってきていますので、まずゴミをリサイクルしてロボットで何かできないのかなと考えたりしますね(笑)。

草野氏:
 最近、一番面白かったのはやっぱりワクチンです。人類の身体ってプログラマブルなんだなって(笑)。普通に「ワクチンのソースコードが読める!」と思うとテンションが上がりましたし。

 あれこそまさに一番最初のテーププログラミングに近いじゃないですか。すごいなと思ったし、これを1000~3000年も作っていたんだという。人類誕生から3000年かけて似たようなことを電子でやるんだ、というのはけっこう感動的でした。
 あと、最近少し考えていたもので、「レイトレーシング【※】をもう一回やろうよ」というのがあります。

※レイトレーシング
光線追跡法ともよばれる古典的なCGの描画やシミュレーションの手法。光の進み方をシミュレートし、すべての画素について計算するためコンピューターの負荷が非常に高いが、リアリティが高い映像が得られるため再注目されている。

──というと?

草野氏:
 レイトレーシングのアルゴリズムを音に転用してみたいんですよ。そうすると、空間音響がさらに良くなる気がしていて。

 どうして空間音響をやりたいかというと、WEB会議をやりたいんですよ。たとえば飲み会って十人ぐらいで喋れたじゃないですか。あれ、僕は一種の空間音響だと思っていまして。興味のない話はその音源方向を探知して自動的にシャットアウトしているから、「10人でガヤガヤ喋る」ことができてるんですよね。

 でも、いまのWEB会議って飲み会みたいに10人で会議はできないじゃないですか。どうしても1人ずつ喋る順番式になっちゃう。でも、あれって空間音響さえどうにかなればどうにかなるんじゃないのかと思ってるんです。

 前々から『新世紀エヴァンゲリオン』「ゼーレ」「SOUND ONLY」のパネルが並んでいる場面って、すごく無駄だと思っていたんですよ。別にそんな空間音響演出要らないでしょう、と。
 でも今、この歳になってWEB会議をやってみると、「あれ、これ空間音響必要じゃん、ゼーレって正しかったんだな」と思い知らされて(笑)。エヴァンゲリオンはオーバーテクノロジーの世界ですから、我々よりもいい空間音響を使っているんでしょうけどね。ただ、やっぱり15人も参加すると大変なんだなと。

──VRがそうですけど、「現実空間の情報量の多さ」に驚かされますよね。いろんな情報を受け取りながらコミュニケーションを取っていたんだな、と。なので、WEB会議も足りないところがあるんですよね。

草野氏:
 VR空間はある程度、情報を削っているからこそ楽しく感じやすいように思います。現実は解像度が高すぎるんですよね(笑)。WEB会議のコミュニケーションについて、僕は「帯域が細い」とよく言うんですが、それって耐え難いものがあるんです。情報量が減るだけじゃなく、単純に時間が奪われていきますから。
 それをどのように解決するかというのは今、僕の中で興味深いところですね。それをレイトレーシングの転用でどうにかできるんじゃないのかな、と友人とも話していますから。

田中氏:
 デジタルと現実のギャップみたいな。逆にそれで中間にあるものが見えてくるというのもありますよね。

草野氏:
 ボードゲームも現実とネット越しだと大きな差があるんですよね。現実だとすごく上手くできる。それは目の前に相手がいるからではなくて、手をワチャワチャ動かしている影響みたいで(笑)。

 手を動かすと人間の脳は活性化して、少し賢くなるようなんですよ。それを知ってからはネット越しでも手を動かすようになったのですが、本当にちょっとだけですが強くなる。判断ミスの直前に「ん、ちょっと待てよ?」と気付けるようになるんですね。そういうのも本当に面白いですし、謎ですね。

怖がらずに触れ、遊びながらプログラミングの楽しさ、面白さを知ってほしい

──最後に「将来こうなるといいよね」みたいな未来の話をして終わりたいと思うのですが、『toio』を通してこうなるといいな、『toio』をこうしていきたいと思っていることはありますかね。

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田中氏:
 解像度を高めるきっかけ、その深みにはまっていただければというのは改めて思いました。今日、草野さんとお話をして、プログラミングの楽しさとか、その裏にある面倒くささとか限界に対する考え方がすごく似ていると感じまして、特に解像度のことは本当にその通りで、大事にしていかなければなと。

 仕事の幅を広げるだけでなく、その楽しさにも気付きやすくなりますし、何よりもそれ自体が遊びにもなるんだよ、ということは『toio』を通して知ってくれればと思います。ぜひ、それを掴むための入り口にしてもらいたい。
 遊べば遊んだ分、解像度が高まっていく深みのある出来になっているとの手応えがありますので、ぜひ、怖がらずに触れて、プログラミングの楽しさ、面白さを知っていただきたいですね。

──結局この、「いい出会い方をするかどうか」というところがプログラミングに対する苦手意識とか興味みたいなの重要なファクターだと思っていて。『toio』ってそういう幸せな出会い方をさせたいですね。

田中氏:
 そうですね。逃げ手にならないように。身近な怖くない、楽しそうなものという考え方になってもらいたいですね。

草野氏:
 ファーストインプレッションを大事にするって言った時に、僕は人間が作る物の中で一番気が利いているものってやっぱり「おもちゃ」だと思うんですよ。子どもにみんな危ないものを持たせたくないし、かといって楽しくないものを持たせたくないですから。

 おもちゃってすごく気を遣って作っていると思うんですよね。これはなんかすごい機械だって褒める人がいると思うけど、僕はむしろこれはおもちゃだから素晴らしい、ちゃんとおもちゃだ思ってほしいですね。
 今日メチャクチャ遊んじゃったんですけど、本当にすごくちゃんとしたおもちゃだと思いました。手触りもおもちゃだし重量感もあってこの形だって、デザインだって、実際できる遊びもおもちゃとしてちゃんと完成していますし。

 正直、プログラミングの教育のためのツールです、みたいに紹介されたらどうしようかと思っていたんですよね(笑)。これは素晴らしいテクノロジーを結集して作られていますとか、そういうアピールをされたらどうしたものかと。
 けど、田中さんはずっと“いいおもちゃ”として紹介されていて、すごく安心しました。いいおもちゃが子どもに届くのは大事だと思いますし、プログラミングっておもちゃにしていいものなんだという前提が社会に広まっていいと思うんですよね。
 今はテクノロジーでサイエンティックで、みたいなことになっていますけど、もっとおもちゃ扱いしていい。これがもっと流行って、もっとプログラミングおもちゃって言えば「あ~『toio』から始まっていろいろ増えたよね」みたいな世の中になってもきっと楽しいし、それこそ図書室に置かれた『toio』で遊ぼうとか、そういう世界になってもいいかと思うんですよね。

 そういう意味でプログラミングという出発点、あるいは通過点に対し、おもちゃという回答が出てきたのは良かったと思うし、そのおもちゃがちゃんとおもちゃとして真剣に大人が考えて作ったものというのが出てきたのは本当にいいことだと思いました。
 こういうのがもっと広まって、子どもが触れるおもちゃが増えてほしいなという気がしましたね。
 多分、これは増えてくれそうな手応えがすごくありますので、今後にとても期待しています。(了)

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プログラミング教育と『toio』のこれから

 なぜ、プログラミングがこれほどまでに叫ばれて必修化に至り、世に教材やおもちゃが数多く出回るようになったのか? その背景には、将来を担う人材の育成といった国の狙いがあるのは間違いないだろう。
 だが、今回の対談を聞いていると、ひと昔前に比べて、世に溢れるものが洗練されて高度になり、「ちょうどいい原体験」が得られにくくなっているのも何か影響しているのではと感じられた。

 対談でも話題にあがったゲームの例がわかりやすいだろう。今、家庭用ゲーム機向けに出ているタイトルの多くはどれもリッチでボリュームもある一方で、「自分でも同じようなもの作ってみよう」とは到底思えないだろう。
 ひと昔前であれば、「実はひとりで作れてしまうのでは?」と思える余地があったし、実際、筆者もそれに焦がれてゲームを作ってみたい気持ちが出て、プログラムに興味を持ち、学ぼうとしたことがある。だが、今となっては制作に200人以上が参加するのは当たり前となり、CGを始めとする技術も大きく発展し、興味を持てる対象になりにくくなっている。
 視野を広げれば、インディーゲームのような小規模制作の世界もあるので、絶対にそうとは言い難いものの、洗練されて高度になり過ぎているのは確かで、それはスマートフォン向けのアプリ、業務用ソフトウェアの世界もまた然りである。
 
 そうした世の中に、『toio』を始めとするプログラミングおもちゃが増え、“遊び”としてのプログラミングを伝え、より気軽に振れやすく、入口を増やしていくのは、とても意義のあることだと感じる。
 モニターと睨めっこしながら、キーボードを叩くというプログラミング(プログラム)に対する世間の印象の緩和にもひと役買えるし、こういうものが教育の場で使われるようになっていけば、ただ課題を解くだけに終わらなく、創意工夫次第で無限に世界が広がっていくプログラミングの魅力に気付きやすくなるだろう。
 
 実際に『toio』は2021年7月より、千葉県流山市教育委員会、東京理科大学、株式会社内田洋行による産官学連携プロジェクトとして、小・中学校におけるプログラミング授業に採用される運びとなった。
 これがおふたりの語る、「遊び場としてのプログラミング」を確立させるきっかけになり、いずれはピアノ教室や武道の道場のようなものが誕生するのか。今後の使われ方と、それと共に出てくる未来の世代の成長から目が離せないところだ。
 
 また、体験の模様を通して、『toio』はひとつの思考型パズルゲームとしても非常に面白そうなものを感じられた。「けっこう骨の折れるものもあります」と田中氏が語られた通り、『GoGo ロボットプログラミング™ ~ロジーボのひみつ~』の後半には友達であるキャラクターと一緒にゴールを目指したり、冒険を邪魔するキャラクターから逃げ延びるといった手ごわい問題が用意されているのだ。
 それらを突破するための策をあの手この手と考えるのは、プログラミング関係なくパズルゲーム好きならば至福のひと時が味わえるだろう。

 シリーズには他にも美術館に潜入し、お宝を奪い合う対戦が楽しめるボードゲーム『大魔王の美術館と怪盗団™』などが用意されているので、もし、今回の対談を通して少しでも興味を持ったのであれば、ぜひチェックいただきたい。

【「toio」ホリデーセール実施中】

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 本記事で『toio』に興味を持った方に、現在、「toio」ホリデーセールが実施されており、toio™バリューパック(「トイオ・コレクション」同梱版もしくは「GoGo ロボットプログラミング ~ロジーボのひみつ~」同梱版)がお求めやすい価格で購入が可能だ。
 詳しくは下のサイトをチェックして欲しい。

●キャンペーンサイト:https://toio.io/sp/holidaysale21/

【プレゼントのお知らせ】

toio™バリューパック(「GoGo ロボットプログラミング ~ロジーボのひみつ~」同梱版)を1名様にプレゼント!

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop

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