少年マンガの金字塔として世界中で広く親しまれ、連載終了から25年以上が経つ現在もなお幅広いジャンルでメディアミックス化が絶えない『ドラゴンボール』。戦闘民族・サイヤ人として生まれた主人公「孫悟空」らの前に立ちはだかる強敵たちとの戦いを描く同シリーズは、マンガやアニメ作品にとどまらず、ゲームにおいても対戦格闘ものからカードバトル、アクションRPGといった多彩なタイトルの数々が制作されてきた。
2021年11月に開発が発表された『ドラゴンボール ザ ブレイカーズ』は、シリーズ初となる「オンライン非対称型アクションゲーム」だ。プレイヤーは高い機動力と破壊力を兼ね備えた「レイダー」(執筆時点では「セル」の登場が確定)1名と、戦闘力を持たない一般人「サバイバー」7名の両サイドに分かれ、フィールドからの脱出をめぐって駆け引きやバトルを展開。2022年内にPS4、Xbox One、Nintendo Switch、PC(Steam)へ向けたリリースを予定している。
強者ぞろいの原作において、戦闘から除外されがちな「弱い一般人」に光を当てたユニークな設定や、緊張感あふれるマルチプレイが楽しめ、実況配信でも人気のゲームジャンルとの異色の組み合わせにより、同作はSNS上でも多くの注目を集めている。
12月に2日間にわたって実施されたクローズドβテスト(以下、CBT)の開催を伝える弊誌のツイートは、1万8000回以上拡散され3万件を超える「いいね」を獲得。「これは面白そう」、「ぜひプレイしてみたい」など多数のコメントも寄せられた。
“戦闘力5”の一般人チームと超強い悪役に分かれて戦う『ドラゴンボール ザ ブレイカーズ』がクローズドベータテストの実施を発表https://t.co/hhGY5xHpKs
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) November 25, 2021
12月4日から2日間にわたりSteamを通じたテストを開催。2022年の発売に先がけ、7対1のオンライン非対称型バトルをいち早く楽しむチャンス pic.twitter.com/USLtb1RIpK
そうした期待の高まりを感じられる中、電ファミでは『ドラゴンボール ザ ブレイカーズ』のプロデューサー・原良輔氏へメールインタビューを行う機会を得た。『ドラゴンボール』の歴史に新たな一石を投じる意欲作の背景には、「圧倒的な戦力差」から生まれる“スリル”を通じて、これまでとは一味違う形でシリーズの魅力を伝えたいという作り手の想いがあった。
CBTで露わとなったユーザーの疑問や懸念にも迫る内容となっているので、テストに参加した方はもちろん、いまだベールに包まれた点の多い話題作の最新情報を知りたいという方もご覧いただけると幸いだ。
聞き手・文/dashimaru
超パワーで戦うだけじゃない? 一般人だからこそ楽しめる逆転劇
──まずは『ドラゴンボール』シリーズを題材に、非対称型対戦ゲームの制作に至った理由を教えてください。
原良輔氏(以下、原氏):
弊社ではこれまでにも、さまざまなゲームジャンルで「『ドラゴンボール』ならではの要素」を表現してきました。今回はそうした要素の中でも「圧倒的な戦力差」とそこから生まれる興奮に焦点を当て、一般人が登場する非対称型対戦ゲームを開発する運びとなりました。
シンプルな戦闘だけに収まらない同作の魅力を普段とは違った形で伝えつつ、ゲーム体験としても新しい価値を提供できればと考えております。
──非対称型対戦ゲームといえば『Dead by Daylight』や『IdentityV 第五人格』などホラー要素を取り込んだ作品が人気ですが、本作のトレイラーにおいても、一般人側から見たレイダーは恐怖が強く感じられる存在として描かれていました。こうした視点はどのようにして生まれたのでしょうか。
原氏:
『ドラゴンボール』シリーズは基本的にはホラーや単純な恐怖というイメージはないため、本作では圧倒的な戦力差による“スリル”の表現を目指しております。
少し抽象的な表現にはなってしまいますが、巨大なエネルギー弾が自分に向かってきたり、とんでもない爆発が起きたりしたら、「怖い!」よりも「ヤバい!」という気持ちが先行するように感じられます。本作でサバイバーをプレイする皆さまには、そういった危機的体験をお届けできるよう開発を進めているところです。
──レイダーには現在「セル」のほか、「フリーザ」や「魔人ブウ」の登場がメインビジュアルにて示唆されています。今後これ以外に新たなキャラクターを実装される予定はありますでしょうか。また、サバイバー側ではカスタム機能を通じてオリジナルのキャラを作ることができますが、レイダー側においても同様の機能や本作独自のキャラが追加される可能性はございますか。
原氏:
今後追加されるキャラクターにつきましては、続報をお待ちいただけますと幸いです。
──他の非対称型対戦ゲームと比べ、本作ではサバイバー側にも多くの対抗手段が用意されているのが印象的でした。『ドラゴンボール』シリーズの世界観をこうしたジャンルに落とし込む際、特に苦労された点や成功された点などがございましたらお聞きしたいです。
原氏:
本作のような非対称形式のゲームでは基本的に人数の多い側が脱出に徹するケースが多いかと思いますが、『ドラゴンボール』というIPで追う追われるの攻防を繰り広げるにあたり、「サバイバーがレイダーと対峙する瞬間」というのは切り離すことのできない要素だと考えておりました。しかし、サバイバーとレイダーを対等に戦わせてしまうと、コンセプトにある圧倒的な戦力差というものを描けず大変苦労しました。
そういった中で生まれたのが、「防衛フェーズ」という仕組みです。これによってサバイバーが脱出を成し遂げる過程でレイダーに打ち勝つのを目指すのではなく、脱出に必要な「起動システム」を守り抜くため連携し、強大な力を持つレイダーと対峙する場面を効果的に設けることができました。
たとえ1対1では敵わない相手であっても、仲間と協力して「超タイムマシン」に乗り込み脱出できた瞬間は、サバイバーがもっとも達成感を感じられるポイントなのではないかと思います。そうした工夫により、レイダー側は圧倒的な戦力差による爽快感に満ちたプレイを、サバイバー側では仲間たちとのチームワークを通じて大きな戦力差を覆す達成感を実現しております。
連携スキルが上がり、レイダーを圧倒するサバイバーが増えたCBT
──CBTでは対戦開始後のナビゲーションがほとんど表示されず、一部のユーザーから「操作に慣れるまで時間がかかった」という意見も見受けられました。製品版ではチュートリアルや練習モードのような機能も実装されるのでしょうか。
原氏:
はい、CBTの参加者からは「サバイバー側が何をしたらいいのか分からない」といったご意見を多くいただきました。これを払拭するためにも、製品版ではチュートリアルをしっかり導入したいと考えております。
──今回のテストではサバイバーがレイダーに補足された場合、逃げ切るのは難しく「見つかったらほぼ終わり」の隠れんぼ的な要素が強いゲーム性となっていました。こうしたバランスは意図どおりにデザインされたものでしょうか。
原氏:
特にCBTの前半(第1回目、第2回目)では、レイダーに成す術なく倒されていくサバイバーが多かったと伺いました。ですが実は、焦らずスキルを駆使することでレイダーから逃げ切れるような設計を施しています。
「煙玉」でレイダーの目をくらませたり、「サイヤ人ポッド」を使って一気に遠くへ逃げたりできるほか、超戦士の力を借りて変身する「ドラゴンチェンジ」の発動後に高低差や障害物を活かしてレイダーの視界から隠れ、その場をしのぐことも可能となっております。
──CBTではレイダーの人気が高く「希望してもなかなかプレイができない」という声も多かったようです。サバイバーで遊ぶたびにレイダーの抽選確率が上昇する「優先権」というシステムも実装されていますが、今後新たなキャラクターの登場などでレイダーの希望者がより増えることも予想されます。こうしたマッチングの需要については具体的な対策を考えておられますでしょうか。
原氏:
このようなご意見はテストユーザーの皆さまからも多数いただきました。具体的な対応方針は現在検討中ではありますが、発売に向けて最適なマッチング仕様を模索していけたらと思います。
──今回のテストの終盤では、プレイに慣れたサバイバー側が上手に連携を取り、レイダーを圧倒するという場面もSNS上で散見されました。レイダーとサバイバーの勝率は実際にどのような割合となっておられましたか。
原氏:
勝率の内訳については集計中のためお伝えできないのですが、CBT終盤ではサバイバー側の連携スキルが向上し、レイダーが倒されてしまう状況が多かったと感じております。これはゲームバランスの観点で課題だと認識しておりますので、今後調整を行っていきたい考えです。
──CBTでサバイバーが使用できたスキルは、製品版ではガチャのようなシステムを通じて入手できるものだと伺っています。今回は「サイヤ人ポッド」を召喚できるリモコンが特に強力だと話題でしたが、一部のユーザーからは「実際に引き当てられるか不安だ」という声も上がっていました。こうした点については、ほかにもスキルの獲得が可能な方法などを想定しておられますか。
原氏:
スキルの獲得方法の詳細については続報をお待ちいただければと思いますが、本作では基本的に「このスキルがないと勝てない」といった偏りを回避するべく設計を行っております。
──今回のCBTのフィードバックにおいて、ユーザーから多く寄せられた意見や指摘はどのようなものでしたか。また本テストの結果を受け、リリースまでにどのような点を調整していきたいと考えておられますかお知らせください。
原氏:
CBTでは多くのユーザーの皆さまから貴重なご意見をいただきました。どれも参考になるものばかりだったのですが、中でもレイダーとサバイバーのゲームバランス、操作性やナビゲーションの表示方法、レイダーの優先権機能の改善などについて数々のご意見やご要望をいただきましたので、これらの点については確実に改善をしていきたいと考えております。
──ありがとうございました。(了)
インタビューを通じて、非対称型オンライン対戦ゲームの開発はひとりひとりのユーザーの声に強く支えられているのだとあらためて強く思わされた。感覚の異なるプレイヤーたちの多様な意見を汲み取るのは決して容易な作業ではないと想像できるが、それらに可能な限り耳を傾け、製品化に向けたブラッシュアップを図ろうという真摯な姿勢が印象に残った。
一方で、ジャンルとしてシビアなゲームバランスが要求される点から、こうした調整はリリース後にも続くことが予想される。わずか2日のCBT期間でもユーザーの習熟度に応じてプレイスタイルが変化していったように、攻略法やテクニックの発見などでゲーム性が失われないための対策が必要となるだろう。
だが本作『ドラゴンボール ザ ブレイカーズ』が、かつてない切り口でシリーズの魅力を提示しようとしているのは確かだ。これまでさまざまな角度から掘り下げられてきた『ドラゴンボール』の世界に、新たな奥行きをもたらすポテンシャルを秘めた作品なのは間違いない。
公式Twitterによれば、発売前には別途テストの機会を設けることも検討しているという。今回のCBTを逃したという方も、実施の際には参加してプレイの感想を寄せてみてはいかがだろうか。フィードバックによる進化とあわせ、発売を楽しみに待ちたい。