2019年、令和初の新たなゲームハードウェアが生まれた──その名はメガドライブミニ。1988年に発売されたメガドライブの復刻版である。『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』、『シャイニング・フォース 神々の遺産』、『スーパーファンタジーゾーン』など、数々の名作とともにあのメガドライブは蘇った。
「セガ ・マークIII」や「マスターシステム」によって家庭用ゲーム機への挑戦における成果を挙げたセガが、さらなる高機能なハードウェアの開発に取り組んだ結果であるメガドライブ。当時のアーケードゲーム筐体に使用されていたものとほぼ同等の16bitCPUを搭載したうえ、もともとアーケード移植作がセガハードの強みであったこともあり、ゲームファンからの大きな注目を獲得した。
テレビCMでは「時代が求めた16ビット」というキャッチフレーズで次世代ゲーム機の存在を大々的にアピール。セガとして初めて、国内で100万台以上が出荷された家庭用ハードとなったのである。
本機は任天堂の「スーパーファミコン」やNECホームエレクトロニクスの「PCエンジン」といった強力なライバルに囲まれながらも、“メガドライバー”とも呼ばれる濃厚なファンの土壌を築き上げてきた。その積み重ねもあってか、「メガドライブミニ」は発表から発売にかけて大きな盛り上がりを見せてきた。
そしてきたる2022年10月27日、第2弾となる「メガドライブミニ2」が発売となった。これを記念し、電ファミニコゲーマーでは同プロジェクトの中心人物であるセガの奥成洋輔氏と、記念生放送の最終回にも出演されたプラチナゲームズの神谷英樹氏による対談の場を用意させていただいた。
『スペースハリアー』や『アフターバーナー』、『ファンタジーゾーン』、『アウトラン』といった、セガ黄金期のアーケード作品に並々ならぬ愛情を注がれている神谷氏と、それらの作品を実際にメガドライブミニ2へと落とし込んでいった奥成氏による今回の対談の中では、メガドライブミニ2はもちろんのこと、周辺機器「サイバースティック」に関する興味深いエピソードもお聞きすることができた。
クラシックゲームを現代に蘇らせるという、通常のゲーム開発とは異なる制作の背景まで語っていただいた濃厚なトークとなっているので、ぜひ一読していただきたい。
※この記事は「メガドライブミニ2」の魅力をもっと知ってもらいたいセガさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
メガドライブミニ2生放送で仕掛けられたドッキリ
──メガドライブミニ2の発売に合わせてコアなファンにも響く記事を載せたいと考え、奥成さんへ対するにあたり、プラチナゲームズの神谷英樹さんにお越しいただきました。正直にお伝えすると、僕がファミ通.comに所属していたときに企画した、“セガ3D復刻プロジェクト”クラシックゲーム対談記事にて、奥成さんと神谷さんの知識と情熱がすごく噛み合っていたことが印象に残っていまして。そこで今回はメガドライブミニ2をテーマに、クラシックゲームについて深く語り合っていただければと、今回の対談を企画させていただきました。
神谷英樹氏(以下、神谷氏):
よろしくお願いします。ちょっと心配しているのは僕自身が“メガドライバー”ではないので、メガドラについてそこまで語れるほどのものがあるかなと。非常に偏ったお題についてしか喋れないので(笑)。
奥成洋輔氏(以下、奥成氏):
大丈夫です(笑)。今日はよろしくお願いします。
──まず神谷さんと言えば、メガドライブミニ2の公式生放送にサプライズゲストとして出演されましたが、ドッキリを仕掛けられていましたよね? どういった経緯で出演されることになったのですか?
神谷氏:
あれはまず、番組に出演してほしいと奥成さんからLINEが届いたんですよ。いきなり「メガドラミニ2に『スペースハリアー』が入るので、それを現場に来てプレイしてもらえませんか」と。もうね、情報が大洪水過ぎて頭の中が「?」だらけになりました(笑)。
僕自身、週の半分は仕事で東京へ来ているので、セガさんの本社にお邪魔する手間は全然問題じゃないんですよ。ただ、「番組にゲスト出演の前に、メガドライブミニ2に『スペースハリアー』が入るって、なに!?」と、奥成さんからのLINEがサプライズ過ぎて、とにかく困惑して。それでもそんな貴重な機会を逃す選択肢はないので、二つ返事でお受けさせていただいて、当日現場に駆け付けたんです。……でもそこで待っていたのが謎のドッキリで(笑)。
奥成氏:
すみません(笑)。ホント申し訳ないです。
神谷氏:
『スペースハリアー』って聞いていたわけですから、期待に胸膨らませているじゃないですか。そして打ち合わせが始まると、「ここで『スペースハリアー』をプレイしてもらいます」と段取りの説明もあって。僕は本番で初めて見る方が視聴者にも興奮が伝わると思って、敢えてその時は「プレイさせてください」とは言わずに、段取りだけの確認で済ませたんです。でも、いざ本番が始まったら、なぜか話の流れはずっと『スペースハリアーII』なんですよね。「いつ『スペースハリアー』の話になるんだろう?」って待っていたら、「それでは神谷さんお願いします!」と(笑)。
奥成氏:
本当にすみません(笑)。
神谷氏:
僕、どちらかというと『スペースハリアーⅡ』はそんなに好きではなくて(笑)。Twitter上でディスったりしていたこともあるんですよ。だからもうパニックで。まさか本番で「あれ? 初代じゃないんですか!?」なんて口走るわけにもいかないし、必死で笑顔を取り繕いながら、頭の中では「奥成さんからのLINE、俺が勝手に初代だと読み間違えてたのか?」「こんなことならリハーサルの時に確認しておくんだった」「俺、『スペースハリアーⅡ』にどんなコメントすればいいんだろう」「ああ、やっぱり『スペースハリアー』をメガドライブミニ2で再現するなんて、あるわけないんだ……」と、いろんな考えがグルグルと(笑)。
そして、こわばった表情のままゲームをスタートさせたら……画面に『スペースハリアーⅡ』とならんで、なんと『スペースハリアー』のタイトルが……!! もう、本当にびっくりしました。でも同時に、すごくうれしかったですよね。
──ドッキリは奥成さんが主導して仕掛けたものなんですか?
奥成氏:
はい、私が悪うございました(笑)。リハーサルのときも触られるとバレちゃうので、「時間がないからプレイはあとで」と伝えてごまかしていました。台本も神谷さん専用のものを用意して念入りに準備してきた企画です。
じつを言うと、すべてのタイトルは最初の発表の前に公開順も決めていたのですが、『スペースハリアー』に関してだけは収録を決めた後もどのタイミングで発表するかを決めていなかったんですね。メニューの中にもないオマケの中のオマケなので、どうしようか悩んでいたら、6月の第1回弾放送でメガドライブミニ2を発表したあとに、神谷さんが「MD版スぺハリ入ってるし」みたいなツイートをされていて……。
神谷氏:
そう、そんな奇跡が起こればいいなと思いつつ、でも「どうせそんなことは起こらないだろうな」と高をくくって、そういうイヤーな当てこすりツイートをしていたんですよ。もちろん本当に開発していたなんて事実は知りません(笑)。
まぁ…アウアーアーアーとかアウオアンは入らねえだろうなぁ…でもMD版スペハリは望みあるな…
— 無職 神谷英樹 Unemployed Hideki Kamiya (@HidekiKamiya_X) June 3, 2022
ありがとう…取りあえず一番高いやつポチっといた…MD版スペハリ入ってるし…
— 無職 神谷英樹 Unemployed Hideki Kamiya (@HidekiKamiya_X) June 3, 2022
RT @abc1357xyz: 限定版等予約開始していますhttps://t.co/WghhISr7iI
奥成氏:
その後、第2回で「サイバースティック」を発表したらファンのあいだで「これはもう『スペースハリアー』決定だ! やったー!!」みたいな空気が醸成されていった感じです。
そのときにはまだ発表していない『スペースハリアー』が「メガドライブミニ2には入っている」と認識され始めちゃったんですね。誤解だけど誤解じゃないという(笑)。
僕のところにはセガ社内から「神谷さんが未発表の『スペースハリアー』のことバラしてますけど大丈夫ですか?」みたいな確認まで来ていましたね(笑)。知ってるわけないでしょ、他社(プラチナゲームズ)さんなんだから。
──(笑)。
奥成氏:
だから「これは僕らを応援してくれているんだよ」と言いつつ、本当に『スペースハリアー』を入れておいてよかったと思いました。もともと「発売前日までは発表しないでおくか」とも考えていたんですが、『スペースハリアーII』だけの発表で終わらせたら怒られてしまうなと。じゃあ第5回の生放送の最後で『スペースハリアー』を発表するとして、「誰に遊んでもらうのが一番盛り上がるかな?」と考えたとき、浮かび上がったのがこの流れを作った神谷さんだったんです。
「第5回目は豪華なゲストを集めてみんなで盛り上がりたい」と思っていたこともあって、最初に『スペースハリアー』の収録を発表してくれた神谷さんしかいない! と確信したわけですね。わざわざ大阪からお呼び立てして『スペースハリアー』を遊んでもらうだけというのもすごく贅沢な使い方なんですが、お受けいただくことができました。
神谷氏:
いや、いろいろしょうもないツイートをしてしまったんですけど(笑)。本当に『スペースハリアー』が来ちゃったらもう頭が上がらないですよね。めちゃくちゃうれしかったです。
いまさらの話ではあるんですけど、このクオリティーの『スペースハリアー』がメガドライブに出ていたら、違う歴史があったでしょうね。あのころ、セガがご乱心というか、なぜか『スペースハリアー』などの主力タイトルをライバル機のファミコンや、PCエンジンにさえも出していたわけですから。
奥成氏:
そうなんです。まさしくメガドライブが発売された1988年の年末商戦、ライバルであるPCエンジンの目玉ソフトに『ファンタジーゾーン』と『スペースハリアー』が並んでいたんですよね。
神谷氏:
あのころは良い時代で、雑誌とかで開発中の画面も出してくれていたのを覚えています。結構PCエンジン版『ファンタジーゾーン』は開発が難航していたんですよね。それでもステージ1ができた、とかステージ2もできた、とかそういうグラフィック部分だけでも発表したりしていて。
そんな画面写真を見るだけでも「すごくアーケードに近い!」ってワクワクしていました。PCエンジンは当時ハイスペックを売りにしていたので、なおさらそういう面を打ち出していたと思うんですけど。発売自体はファミコン版が先でしたっけ?
奥成氏:
そうですね。『ファンタジーゾーン』はアーケードが1986年の春で、「セガ ・マークIII」版が直後に発売。その1年後にファミコン版が出て、さらに1年後にPCエンジン版、といった具合だったはずです。
神谷氏:
ファミコン版はハードスペックの割にすごくよくできていて。チラつきまくってはいましたけど、基地をちゃんと動かしていたり、ボスをなんとかアーケード版と同じものを登場させていたり、プレイフィールもファミコンなりにがんばって再現していました。
それに続いて、いわゆる次世代機のPCエンジンでグラフィックも一気に品質が上がって。……という流れからのメガドライブで、これはセガの主力アーケードタイトルの移植がバンバン来るか!? と思いきや、まさかの『スペースハリアーII』なんですよ。「あれ?」って感じになっちゃいますよね。……と、セガさんを前にこんなにディスっていいのかな(笑)。
──(笑)。
神谷氏:
でもね、いま思えばなんですけど、僕はメガドラがすごく愛おしいんです。本体に金ピカで「16ビット」って誇らしげに書かれているところが、すごくセガらしい可愛らしさを持っているなって。「16ビットやで!」って。しかも“メガ”、“ドライブ”という名前まで付けて、本体があたかもCDドライブがついているみたいな丸みを帯びているじゃないですか。
──でも、実際はカセットを挿すという。
神谷氏:
そう、挿すという(笑)。このあたりが僕はすごく愛おしくて、好きですね。
クラシックゲームの移植には“わかっている”人が欠かせない
神谷氏:
話を少し戻すのですが、『スペースハリアー』と『スペースハリアーII』ってソースコードから移植したんですか?
奥成氏:
いや、完全に目コピーです。
神谷氏:
すごい労力がかかっていますね……。いや、そういうたいへんさもわかっていて現実的ではないよな、と思いつつも、ファンのたわごととして「『スペースハリアー』は当然入ってるよね、うれしいね」みたいな当てこすりツイートをしていたんですけど(笑)。
──まさか本当に入っているとは、という感じですよね。
奥成氏:
まず『ファンタジーゾーン』の話なのですが、じつは最初にファンメイドの土台があったわけですね。とあるファンの方が趣味でプログラミングを勉強して、メガドライブに移植してみよう、といって本当にやってしまったものがもとになっているんです。
彼の作った2本のうち1本が『ダライアス』で、3年前はそちらをベースにタイトーさんに協力いただいて製品クオリティまで完成させました。で、もうひとつが『ファンタジーゾーン』だったのですが、彼は『ダライアス』を完成させた後で、その反省から今度はサウンドドライバーを勉強して完成度を上げていたので、ではそちらも今回製品化しようという話にして、みたいな流れで誕生しました。
神谷氏:
マジですか、恐ろしい……。
奥成氏:
『スペースハリアー』でも同様のことにトライしていた方がいて、そこにエムツーさんが声をかけた形になります。最初に見せてもらったものはやっぱりというか、すごくPCエンジン寄りで、キャラクターが小さかったんです。「『スペースハリアーII』はキャラがこんなに大きいのに、初代がPCエンジンみたいなミニサイズじゃダメだよ」と言って大きくしてもらいました。「そんなことしたらまた作り直しになります」って言われたんですけど、「大きくなくちゃダメだ」とお伝えして。
結果としてめっちゃチラつく『スペースハリアー』になってしまいました(笑)。ただ、それでも『スペースハリアー』も『ファンタジーゾーン』も、いまのセガとしては『龍が如く』内のゲームセンターでカジュアルに遊べる作品になっているわけでして。そんなタイトルがただ入っているだけだと「だからどうした?」って言われてしまうわけですよね。だからこそ「この『スペースハリアー』はメガドライブで動いているんだぞ」とアピールするためにはこれで良かったんじゃないかと思います。
──『龍が如く』に入っているから“メガドラ版”としてちゃんと出したい、と……普通に話されていますが、それって狂気的ですよね。「そこまでやらなくても」というのがふつうの感覚と言いますか……。
神谷氏:
僕もゲーム開発の人間ですが、こういうのってまた世界が違うんですよね。ただエミュレートして、というだけならできるところは広がると思うんですけど、中身に手をくわえるとなると当時の開発環境をバーチャルで再現しないとダメなわけで。その環境を整える、というところが我々には想像もつかない世界です。
奥成氏:
そのあたりはすべてこれまでの蓄積の賜物ですね。2005年くらいから15年以上、エムツーさんと一緒にメガドライブのゲームを移植し続けてきたので。とくにWiiのバーチャルコンソール時代は100タイトル以上の移植をやり続けて、相当ノウハウをため込んできたと思います。
──そんな奥成さんだからこそ、クオリティーの高いミニシリーズやクラシックシリーズを生み出し続けられるのでしょうね。
神谷氏:
そう思います。こういうのって、やっぱり“会社”じゃなくて“人”なんですよ。わかっている人が必要。わかってない人がやったらビジネスで終わっちゃうわけです。奥成さんのようなわかっている人がセガにいて、本当に良かったと思います。
奥成氏:
自画自賛になってしまわないように話したいのですが、僕は自分のことを割と“開発寄り”のプロデューサーだと思っているんです。だから何というか、プロデューサーという存在がどこかお金の計算をする人って見られている部分があるわけですけど、それは違うんです。意外とプロデューサーでゲームは変わるんですよって伝えたい。……やっぱり僕が言ったら自画自賛ですね(笑)。
まあ、ゲーム作りを進めるうえでは、ある程度クリエイターとしての最低限の部分があるわけなんですが、その暴走をどこまで抑えられるか、伸ばせるか、みたいなところはプロデューサーによって変わると信じています。そういう意味では、僕は自分が作ったと言えるゲームはほかよりも良いものを出しているという自負を持っていますね。逆に、Nintendo Switchの「SEGA AGES」シリーズのような自分が直接手掛けていないプロジェクトをみて「僕だったらこうするのにな」というようなことはどうしても考えてしまいます。
神谷氏:
その「僕だったらこうするのにな」というのにくわえて、復刻系のプロジェクトって求めているユーザー側がとにかく濃いじゃないですか。ユーザー側が求めるものって、結構偏っていたり、尖っていたり。それをきちんと受信できる人か、あるいは求めることすら思いつかなかったようなものをポンと出せる人、そのくらいコンテンツに対する理解がないといけないと思っています。
だから、復刻系のプロジェクトは一般的なプロデューサーとはまったく異なるものが求められる、すごく特殊な世界だと感じていますね。深く、濃く求めるユーザーを満足させるだけのものを用意できる人。これは奇跡的なマッチングだと思うんです。そう、だから奥成さん死なないでくださいね。まだ続きを待っていますから。
奥成氏:
(笑)。
──ところで、そもそもの話ではありますがどうして「メガドライブミニ2」にしようと思ったのでしょう? メガドライブのミニ化はすでに実現しているわけで、その第2弾をやるというのは、なかなか難しい部分もあったかと思うんですが。
奥成氏:
僕が最初にメガドライブミニを作っているときは、いまとはまったく違う部署にいたんですね。アジアビジネス部というところにいて、たまたまやることになったわけです。無事にメガドライブミニを作り終えて、じゃあまたアジアの仕事に戻るか、と思っていたら営業部の物販チームから、セガの60周年記念の商品として大がかりなものを作りたいからと「ゲームギアミクロ」のアドバイスを求められたんです。「SEGA AGES」でもスーパーバイザーをやっていたので、「似たような感じでの参加なら全然やりますよ」と話をしていました。
そうしたら突然、宮崎【※】から「お前はゲームギアミクロをやっている物販チームに異動してくれ」という内示が出まして。「どうしたんですか?」と聞いたら「メガドライブミニが成功したので、もっと中期的にミニのビジネスができるのかどうかをお前が考えろ」と言われたわけです。僕としては願ってもないことなので、ゲームギアミクロを準備しながら次のミニを考えていたんですね。そんな中でいわゆる「コロナ禍」が始まったわけです。
※セガの宮崎浩幸氏。メガドライブミニの開発に携わったほか、『ダビつく』シリーズや『ドリームスタジオ』をプロデュースしたことで知られる
──世の中が一気に変わってしまったわけですね。
奥成氏:
はい。これから世の中がどうなるのかさっぱりわからない中では、新しいプロジェクトを立ち上げるのはあまりにリスクが高い。それでもせっかくミニをやるチャンスがあるなら何かやりたい。じゃあ「メガドライブミニ」の2なら同じ座組でやれるわけですし、お客さんがどのくらいいるのかも数字が出ている。「メガドライブミニがベースならできる」という形で始まったわけです。
なので、ある意味ではコロナ禍によって「メガドライブミニ2」が生まれたというわけです。コロナ禍になっていなくてもやっていたかもしれませんが、直接の原因はやっぱりコロナだったと思っています。
──その後にメガCD【※】もあるし、といった考えにいたったのでしょうか?
※CD-ROMに対応したメガドライブ用の周辺機器
奥成氏:
はい。「メガドライブミニ第2弾をやるよ」というだけだと、前回から漏れたタイトルが入っているだけみたいになっちゃって、微妙じゃないですか。そうは見られたくなかったので「メガドライブミニ2にはこれがあります」と言えるものが必要だったんです。メガドライブミニで諦めたものが、メガCD、32X【※1】、あとSVP【※2】を積んだ『バーチャレーシング』だったわけです。それで、この3つをエムツーさんに相談したところ「メガCDは何とかいけそうだ」と。さらに「『バーチャレーシング』もがんばれば何とかなるんじゃないか」との言葉をいただいたんです。ただ「32Xはがんばっても無理です」とも言われました。
※1 スーパー32X 32bitゲーム機としてメガドライブを稼働させられるようになる周辺機器
※2 『バーチャレーシング』メガドライブ移植版に用いられたカスタム演算チップ。こちらの採用によって移植が実現した
神谷氏:
そうなんですね……。ハードウェア的な問題でしょうか?
奥成氏:
これはメガドライブに限った話ではなく、セガのハード全体に言えることなんですが、周辺機器に本体とは別のCPUがふくまれているんです。それにくわえて、32Xは「SH2」というセガサターンに積んでいたRISCチップがふたつ入っていて、内部処理はほとんどこっちで行っているわけです。だから、メガドライブとは完全に別物なんですね。
あと、エムツーさんはゲームを遊んだときの操作感や手触りにすごくこだわりをもってくださる会社さんなので、彼らが許容できる範囲内の遅延で収まらないと仮に動いたとしても許されません。プレイフィールが違ったら出さない、そんなこだわりですね。
──まさにプロ意識といった感じですね。
奥成氏:
もし32Xのゲームをやるなら「開発費を2倍にしてくれれば、1本ぐらいはフルスクラッチで作ります」ともいってくださったんですが、さすがにそこまですることはないかな、と。メガCD、『バーチャレーシング』がいけるのであれば、とりあえずの目途は立ったわけですし。
エムツーさんはセガから頼まれもしないうちから、メガCDのエミュレーションの研究を進めてくれていたんです。これはすごくうれしかったですね。もっとも完成していたわけではないし、実際に動くのは想像よりもずっと後だったのでハラハラもしたんですが(笑)。
「何タイトルいけます?」って聞いたら「15本」って返ってきたので、「開発費を上乗せしてスタッフも増やしていいから20本にしよう」とまとめました。
──15本でも充分ですよね……。やっぱり奥成さん、狂っていますよね(笑)。版元さんのあるタイトルも当たり前のように入っていますけど、昔の版権もののゲームを復活させるのって、ものすごい苦労があると思うのですが。
奥成氏:
そのあたりも、Wiiでバーチャルコンソールをやっていた経験が活きましたね。当時、任天堂さんから「メガドライブのことはお任せします」と言われていたので、セガ以外のタイトルも各メーカーさんにお声掛けしてライセンスを取らせていただいていました。その際に改めてつながりができていたんですね。
あとこれは僕が担当したわけではないですが、セガとしては「セガゲーム本舗」というPC向けのメガドライブタイトルの配信もやっていたんです。そのときの担当者と話をして、場合によっては連絡先も聞いたりしていて、本当にいろいろなところのご協力をいただいてきました。
くわえてミニハード系のプロジェクトって、ハードウェアを作る以上、プロジェクト自体がかなり大きいお金を動かすものになるんです。そうなると、ライセンス獲得のお金はそれほど重い負荷にはならない。このあたりは配信タイトルを10本くらいという規模で進めるSEGA AGESみたいなものと比べて、やりやすい部分であると思います。ミニハードならではのチャレンジ、といったところでしょうか。
──もっとも収録が難航したタイトルはどのあたりになるのでしょう?
奥成氏:
収録できた作品の中で一番時間がかかったのは『キャプテン翼』です。コーエーテクモゲームスさんや集英社さんにはスムーズに承認をいただけたのですが、問題はゲームに声が入っていたことだったんです。クレジットを見ると大御所声優さんの名前が30何人も並んでいる。しかもゲーム内に字幕がないから、全員の許可を取らないと収録できない。こういった事情があって声優さん全員の許諾を取るのに非常に時間がかかりました。
あと『ナイトトラップ』も権利者までアクセスするのが大変でした。そこをクリアしたら今度は日本語音声の権利許諾を取らなきゃいけなかったりで、いろいろと手間のかかる作品でしたね。
──お聞きしているだけで工程の量がすごいことになりそうに思えるのですが、メガドライブミニ2の開発チームってどのくらいの規模で動かれていたのでしょうか?
奥成氏:
エムツーさんが何人いるのか、というところは正確にはわかりませんが、セガのメインメンバーは4人ですね。開発以外ではライセンス担当がふたり。ライセンス周りについては「ライセンス部」と位置付けられたものがセガサミーホールディングスにはあるので、とにかくそこにお願いする形でした。
もっとも、これまでのつながりで僕が直接電話して連絡を取ったり、話を全部つけてから契約だけライセンス部に回すというパターンもたくさんありましたけど。
神谷氏:
超少数精鋭じゃないですか……やっぱり、奥成さんが死んじゃったらこのシリーズはヤバいですよね。奥成さんはPCエンジンminiには関わっていないですよね?
奥成氏:
『スペースハリアー』とかのライセンスは僕のところでやりました。そのくらいですかね。
神谷氏:
ですよね。僕、もしも奥成さんがPCエンジンminiを手がけていたら、Huカードを挿すところに絶対穴を開けていたと思うんです。メガドライブミニも、意味は別にないですけど、それでもちゃんとパカパカするじゃないですか。開くのが前提だよね、というのがスピリットとして根付いているべきだと思うんです。
あとPCエンジンのパッドのケーブルを挿す端子の形状って、本来は丸じゃないですか。でもミニだと思いっきり四角になっている。USBの規格を丸にしろって言っているわけではなくて、丸いモールドくらいつけられると思うんですよ。そういう部分で見て、昨今ではいろいろなミニ製品が出ていますが、セガの製品だけ濃度が違うのが伝わってくるんです。
奥成氏:
まあ、自分なりにお客さんが喜ぶ部分については考えていますし、何よりも予定調和で終わりたくない、というのがあります。お客さんに期待してもらって、そのうえでもう1歩先のサプライズを用意する、という形でプロジェクトを準備していくので。
もっとも、本体のディテールにこだわることができたのは任天堂さんの「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」の後追いであったから、というところも大きいです。なんでこのフタは開かないんだろう、開いて欲しいよね……という気持ちがあったからこそ、こだわることができた感じですね。中身だけじゃなく外側までバカ正直にやりましょう、という。