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100%自分がやりたいデザインができた――ディレクターがそう言い切る『ONI – 空と風の哀歌』はいかにして作られていったのか? 異色の経歴を持つ開発者に聞く、小規模チーム制作だからこそ実現できたこと

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 いわずもがな、ゲームは総合エンターテインメントである。音楽、映像、物語。そして「その世界に入って、自分が体験する」というインタラクティブ性によって、高い臨場感、没入感を得ることができる最強のエンタメだ。

 とはいえ、世には数多のゲームがある。大作からインディー、家庭用やスマホアプリ、さらには作り手の想いが突き抜けた風変わりなものなど、選択肢は非常に多い。だからこそ、自分に合ったゲームと出会えたときには喜びもひとしおで、その体験は格別なものとなる。

 大作シリーズの新作が好みの人もいれば、ふと視聴したPVの音楽に心を奪われる人もいるし、体験版でおもしろかったから買う、という人もいるだろう。

 僕個人のことを述べさせてもらうと、偶然見かけた1枚のスクリーンショットから「あ、このゲームは買おう」とスイッチが入ることが多い。レコードのジャケ買いのように、その場ですぐに買うわけではないが、1枚のビジュアルに興味をひかれて購入に至ったことは一度や二度ではない。

 正直に言えば、そうやって購入したゲームには当たりもハズレもあった。ただ、ここで伝えたいのは、1枚のビジュアルがそこまでのインパクトを与えることが可能だということだ。そして、最近気になっていたゲームがある。それがクラウディッドレパードエンタテインメントから発売された3Dアクションゲーム『ONI – 空と風の哀歌』(以下、『ONI』)だ。

 2021年のBitSummitで初披露となった『ONI』。独特の淡い色彩とトゥーン調のデザイン。桃太郎という日本古来のおとぎ話を題材としながらも、アンニュイでナローな、西洋美術が入り混じったビジュアルは非常に目を引いた。なにより「このゲームは伝えたいことがはっきりとしているんだな」というのが、スクリーンショット1枚から伝わってきた。

 経験上、それは極めて属人的な、ある種の才能に溢れたディレクターが手がけたゲームに出会ったときの感覚であり、実際に『ONI』のお披露目を扱った電ファミのTweetも、新作インディーゲームとは思えぬ反響があった。

 『ONI』のディレクションを務めるのは、「PlayStation C.A.M.P!」出身で、ミストウォーカーにて『TERRA BATTLE』『FANTASIAN』のアートを手掛けた葉山賢英氏。『ONI』発売を控えた2月下旬、電ファミ編集部は『ONI』で描きたかったビジュアルや制作チームに関することを葉山さんにうかがうことができた。

 インタビューには『ONI』のプロデューサーであり、開発サポートを行っている集英社ゲームズの山本正美氏にも同席いただいている。

聞き手・文/豊田恵吾
撮影/佐々木秀二

※この記事は『ONI – 空と風の哀歌』の魅力をもっと知ってもらいたいクラウディッドレパードエンタテインメントさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。


──『ONI』は発表からかなり注目度が高かったと感じているのですが、発売直前のいま、発表からこれまでを振り返って、葉山さん自身はどのような手応えがあったと感じているのでしょうか?

葉山氏:
 2年前のBitSummitで発表したあと、たくさんのメディアで取り上げてもらって、とにかくうれしかったですね。どんな反応があるのか未知数だったわけですが、想像以上の反響をいただいて。タイトル発表時はゲームの内容に触れていなかったにもかかわらず、おかげさまでビジュアルだけで大きな反響をいただくことができました。

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 僕はもともとデザイナー出身なので、自分が表現したいビジュアルに対して、さまざまな人に興味を持っていただけたのは本当にありがたかったですし、「よっしゃ!」となりました(笑)。

──(笑)。

葉山氏:
 また、集英社ゲームズさんとクラウディッドレパードエンタテインメントさんの両社には本当にいろいろとサポートしていただいて、感謝しかありません。BitSummitで大きく展示していただいたこともそうですし、PVを用意していただいたり、目立つ形で発表してもらえたことに感謝しています。

 でも、反響の高さに対して、そこまでできていない部分もあったので、不安はありましたね。

──「できていない部分」というのは?

葉山氏:
 じつはアクションのコアとなる“心通連撃”【※】もそのときには入っておらず、発表のタイミングでは手探りの状況だったんです。

※心通連撃(しんつうれんげき):『ONI』のバトルにて、複数の敵の心玉を連続破壊するアクション。敵を倒すには相手がダウンしたときに現れる“心玉(こころだま)”を攻撃し、破壊する必要があるのだが、複数の敵がいた場合、一部の敵をダウンさせても、ほかの敵に手間取っているあいだに心玉が戻り、復活してしまうことも。そこで役立つのが複数の敵の心玉を連続して破壊する“心通連撃”で、爽快で気持ちのいいアクションとなっている

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──なるほど。そのあたりの詳細はのちほどおうかがいするとして、『ONI』のビジュアルについてまずは聞かせてください。色味だったり、描き方だったり、『ONI』のアートは独特で目を引くものがあると思っていて。西洋的に「和」を描いているといいますか。

葉山氏:
 年を重ねるごとに、日本のものだったり、和に対して改めて「いいな」と思うことが増えていったんですね。神社仏閣を訪れたときにも、それまでは当たり前でなんとも思っていなかった「和の美しさ」を少しずつ感じとれるようになってきて。

 ゲームにおいてもフロム・ソフトウェアさんの『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』やソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)さんの『Ghost of Tsushima ( ゴーストオブツシマ )』、少し前ですとカプコンさんの『大神』のように、和を扱った作品はワールドワイドで受け入れられています。西洋ものではなくて「和を題材にした日本人ならではのゲームを作りたい」と思ったのが『ONI』着想のきっかけでした。

 日本を題材として「昔話だったら」、「ヒーローものだったら」と考えたときに、ベタかもしれませんが桃太郎が思い浮かびました。カジュアルなスマホ向けRPGと考えて作り始めていたのですが、制作しながら構想を練っていったときに、話がどんどん膨らんでしまって……。

──たしかに、川に桃が流れてきて、犬猿雉を仲間にして……と描き始めたらコンパクトに収めるのは難しいですね。

葉山氏:
 そうなんです。これはひとりだと手に負えないと悩んでいたときに、雑魚キャラとして描いた小鬼の「空太(くうた)」がかわいかったので、小鬼をフォーカスしてカジュアルに作れないかと考えを変えたんですね。

 題材は桃太郎でありながら、鬼側から話を描くように変えたわけです。小鬼を主人公とするなら「桃太郎への復讐」がキャッチーになるかなと考えて。けっきょく、それなりのボリュームとゲーム規模にはなってしまったんですけども(笑)。

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──『ONI』をいまのチームで制作することになった際、最初に一枚絵のビジュアルを作って共有するなど、チームとしてのゴールを明確に定めたのでしょうか?

葉山氏:
 いや、コンセプトアートは作らず、まずはUnity上でひとりでゲームを作っていったんですね。「こういう地形だったらおもしろいかな」、「こういうビジュアルが新しいかな」と作っていって。

──それって、かなり独特な進め方ですよね。いや、Unityの使いやすさ、手軽さを考えると、いまの時代だとそちらのほうがいいのかもしれませんが……。

葉山氏:
 ゼロベースからUnity上で手探りで作り、自分が表現したいビジュアルを作っていったといいますか。ふつうはコンセプトアートがあってそれをもとに作っていくものだと思うんですけども。

──なぜそのやり方を選ばれたのですか?

葉山氏:
 背景イラストを描くのが得意ではないので、Unity上で作っていくほうが早かったんですね。

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山本氏:
 彫刻家のようですよね。彫っていくうちに見えてくるといいますか(笑)。

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葉山氏:
 ゲームの内容も企画書も仕様書もなにもなくて進めていくというのは、ミストウォーカーで学んだことでした。じつは、企画を進める前の段階では僕が用意したアートがあったんですね。まだゲーム内容もなにも決まってないときに、山本さんと菅野さん【※】にお会いする機会をいただいて、アートをお見せしながら話をして……。

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※菅野有造:『サルゲッチュ』シリーズや『SOUL SACRIFICE』に携わっている、元SIEのデザイナー。『ONI』ではゲームデザイン部分を担当している。

山本氏:
 ちょっと補足すると、もともと僕がSIEに所属していたときに、クリエイターオーディション企画「PlayStation C.A.M.P!」を開催したのですが、そのときの合格者が葉山くんだったんです。アートワークのセンスがずば抜けていて満場一致の合格だったのですが、いろいろな事情からPlayStation C.A.M.P!で葉山くんのタイトルを発売するまでは至らなかったんですね。

 その後、葉山くんはミストウォーカーさんに入り、退社したあとに「アクションゲームをやりたいんです」と相談を受けて。そこで、元同僚の菅野さんを紹介しました。最初に、僕と葉山くんと菅野さんの3人で会ったのですが、『ONI』のアートを見た瞬間、「これはイケる!」となって(笑)。それほど葉山くんのアートにインパクトがあったんですね。僕も菅野さんも葉山くんの近くに住んでいたこともあり、約2年間、3人で集まって『ONI』をゲームとして磨き上げていった、というわけです。

 僕が集英社ゲームズにジョインする前から動いていたプロジェクトですし、不思議な縁があるタイトルだと感じています。

──『ONI』は集英社ゲームズのサポートを受けていますし、プロデューサーとして山本さんも参加しているわけですが、集英社ゲームズさんに最初に見せたときも、仕様書やコンセプトアートはなかったのですか?

葉山氏:
 はい、仕様書もコンセプトアートもなく、フィールドを歩いているデモをお見せしました。

──いやー、それでサポートすると決めた集英社ゲームズさん、そしてクラウディッドレパードエンタテインメントさんがすごいですよ(笑)。

葉山氏:
 本当にありがたい限りです。さきほどお話ししたように、もともと『ONI』はRPGでいこうと考えていたんですね。ですので、当初は小鬼の「空太」と相棒の「風丸」を動かすというメインのアクション部分も決めておらず、キャラクターをどう見せようか、というところから仕様やバランスを考えてきました。

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小鬼の「空太」と相棒の「風丸」

──RPGからアクションに変えたきっかけは、具体的にどういった考えからだったのですか?

葉山氏:
 RPGはミストウォーカーで経験を積んでいたのですが、実際にプランナーをやっていたわけではありませんでしたし、物量を考えたときに無理があるなと。アクションであればRPGほどの物量はなくても大丈夫……と思っていたのですが、アクションゲームのノウハウがまったくなかったので苦難の道のりでした。

──なるほど。そこを菅野さんにサポートしていただいたのですね。ちなみに、葉山さんっていまおいくつなんですか?

葉山氏:
 46歳です。

──PlayStation C.A.M.P!、ミストウォーカー時代よりも以前のお話を聞きたいのですが、葉山さんはどんな環境で育ってきたのですか? 美術を専門的に学んできたのでしょうか?

葉山氏:
 叔父が絵本作家だったり、建築家だったりと、クリエイティブな「何かを作る」というのは幼いころから触れていました。実際に叔父が設計した家に住んでいたときもありましたし、そういった環境もあって、つねに作ることや考えることが好きでしたね。ゲームもかなり遊んでいて、『ファイナルファンタジー』はとくに好きでした。

 ただ、高校生くらいになるとマンガだったら『AKIRA』とか、映画だったら『ベティ・ブルー』とか、音楽だったら洋楽とか、もう少しシャープな方向に惹かれていって。同時にファッションにも興味を持ち始め、パリコレやロンドンコレクションをチェックしたりしていました。

 もともと兄がファッション好きで、その影響もあってアート系に流れていったんですね。じつは、うちの家系は高校卒業後に海外留学に行く風習がありまして(笑)。

 兄はファッション、僕は油絵を学ぶためにロンドンへ留学していました。ただ、そのときに先生から「もう油絵では食べていけないよ。これからはグラフィックデザインがくるから」と言われて、そのときからグラフィックデザインを学び始めたんですね。

──ちょっと待ってください、情報量が多過ぎです(笑)。もしかして葉山さんの叔父さんは、葉 祥明【※】さんですか?

※葉 祥明:絵本作家・画家・詩人。セツ・モードセミナー卒業後、ニューヨークに留学し、油絵を学ぶ。

葉山氏:
 そうです。じつは、今日取材を受けているこの場所は、叔父の資料部屋なんです。半分くらいは洋書の資料で、あとは実際に叔父が手がけた絵本ですね。

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──なるほど。いろいろと理解できました(笑)。ある種、英才教育といいますか、特殊な環境で育ってこられたのですね。お兄さんは、画家の葉山禎治【※】さんですよね?

※葉山禎治:ヨーロッパ、アメリカで活躍している画家。現在は黒と白を基調に人物を描く現代アートを制作している。

葉山氏:
 はい。兄はいまスイスに住んでいるんですけれども、ロンドン留学のあと、帰国してからは兄といっしょにアパレルをやっていたときもあって。僕はTシャツのグラフィックデザインを担当していました。

──ゲーム開発者で、アパレル経験があるというのは異色ですね。

葉山氏:
 そうかもしれませんね。帰国後は、ロンドンでCGを学んでいたことが花開き、CDジャケットや本のデザインをしていました。セレクトショップのビームスが2001年に「BEAMS T」を立ち上げたときには、デザイナーのひとりとして、ブランドを2シーズンくらい担当していたり

 ただ、時代の流れで本やCDがデジタル化していき、どんどん仕事が減っていって。そんなときに、ふとPlayStation C.A.M.P!の募集を見つけたんです。アパレルをやっているときもゲームはずっと好きだったので、このタイミングでゲーム業界に入ってみたいと考えたんですね。ふつうにゲーム会社に就職するのは無理だと思ったのですが、PlayStation C.A.M.P!は募集要項に「経験は必要ないです」と書いてあったので(笑)。

山本氏:
 さきほども言ったように、葉山くんのポートフォリオを見て、満場一致で決まりました。「すごいのがきたぞ」と。2D、デザイン、アートとしてのポートフォリオを送ってくれたのですが、レベルが違っていて。ゲームっぽくなくて逆にそれが刺さりました。

──ゲーム業界に飛び込もうと思ったときに、「これまでの経歴が武器になる」という考えはあったのでしょうか?

葉山氏:
 ゲーム作りのノウハウはまったくなかったのですが、おもしろいデザインや新しいものが生み出せるんじゃないかな、とは漠然と感じていました。UIデザインを担当していたときも、ほかのゲームを参考にするのではなく、webデザインや雑誌レイアウトを参考にしていたので、ほかのゲームとは違うデザインはできたのかなと。

 ただ、PlayStation C.A.M.P!が解散したあとにゲーム業界で就活したのですが、ミストウォーカーに決まるまではことごとく落ちまして(笑)。おそらく、テイストが偏っていたからだと思うのですが、まったく採用されなくて。

──個性が強すぎると思われたんでしょうね。

葉山氏:
 ちょうどスマホアプリの勢いがあるときでしたから、ゲームらしくないデザインだと思われたんじゃないかなと。採用してくれたミストウォーカーは、坂口さんが「自分がいいと思えばまわりからどう言われても関係ない」という方だったんですね。新しい可能性、デザインを感じていただいて、採用してもらったのだと思っています。『テラバトル』も、ほかのスマホアプリと比べると、UIのデザインとかはぜんぜん違いますからね。

──ミストウォーカーには入るべくして入った感じですね(笑)。

葉山氏:
 ミストウォーカーでは本当に自由にやらせていただいて。いろいろなデザインも試せましたし、自分のカラーがそこで出来上がった気がします。

──ここまでお話いただいた経歴、経験を経て『ONI』を作られているわけですが、『ONI』のアート、ビジュアルで描きたかったこととはどういったところなのでしょうか?

葉山氏:
 原色の強い色だったり、原色よりも淡いヨーロッパ的な色。スタイリッシュなデザインだったり、和にモダンを入れ込んだ、自分なりの型にはまらない、新しいビジュアルが作れないかと思って制作を始めました。

 デモ版を作っていたときに、淡い色合いで風合いがあるフィールドのビジュアルがUnity上でできたときに手応えを感じましたね。

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──それは、小規模制作だからこそたどり着けたことなのでしょうか?

葉山氏:
 そうですね。大きなチームですと、いろいろな方がいて好みも分かれると思うんです。『ONI』は小規模で自分が立てた企画でしたので、100%自分がやりたいデザインができました

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──「100%自分が出せるデザイン」ってふつうのゲーム会社に務めていたら、実現できないことですよね。しかも支援を受けているタイトルでできるというのは、本当に稀有なことだと思います。

葉山氏:
 できたとしても、70〜80%までいけばいいほうですよね。それが、今回初めて100%の自分を出せたというか、「これぞ自分だ」というデザインが出せましたし、またそれを受け入れてもらえたことも本当にうれしくて。

山本氏:
 最初に決めたんですよ、絵周りに関しては何も言うまい、と。

──褒め言葉として言いますが、その判断ができる集英社ゲームズと山本さんがおかしいですよね(笑)。そこまでの信頼があったということなんでしょうけど、どうしてその判断ができたのですか?

山本氏:
 良し悪しを言えるほど、葉山くん以上に僕らに絵心があるわけではないからです(笑)。ゲーム内容については、「こうしたほうがいいよ」というのはかなり伝えましたが、アートに関しては葉山くんのやりたいように進めてもらったんです。

──いやー、その進め方ができるのは本当にすごいことだと思います。葉山さんはもともと油絵を習っていたということですが、ゲーム制作の手法として、葉山さんは継ぎ足していくタイプなのですか? それとも削ぎ落とすタイプなのでしょうか?

葉山氏:
 削ぎ落とすことが多いですね。極力シンプルにやっています。『ONI』のビジュアルでは風合いを出したかったので、被写体をボカしたり、ブルームで淡い光を出したり、周りをボカして画面全体の風合いを作ったり。トゥーン調のアニメスタイルなんですが、パキッとした日本的なアニメではなくて、風合いのある、アート性に富んだアニメーションビジュアルを目指しました。

 僕は音楽も好きなので、つねに音楽に溢れたゲームにしたかったんです。さまざまなシーンでボーカル曲が流れるようにしているのですが、これもふつうの会社だったら止められると思うんですよね。でも、そこも自分が好きな音楽、好きな曲を発注させてもらって。

──ビジュアルについてもう少しお尋ねしたいのですが、葉山さんのこだわりが行き渡っている、100%自分が出せたデザインを実現できたのは、『ONI』のサイズ感だからこそ達成できたことなのでしょうか? 狭い、広いの話ではなく、密度の濃さを実現できた要因を聞きたくて。

葉山氏:
 たとえば広大なオープンワールドですと、処理が重くなったり、画面効果を全体にかけられないんですよ。『ONI』はコンパクトに作っていたので、ビジュアルの加工ができたことが大きかった。僕ひとりでフィールドを作っていたので、コンパクトにせざるを得なかったのですが、それが逆によかったんだと思います。

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 インディーのゲームで開発人数も少ないわけですから、もちろんアラを探せばいろいろ出てくると思います。ですが、自分がやりたいものを詰め込んで、アクション部分にしてもキャラクターを2体同時に操るとか、そういったキャッチーさがあるゲーム性とビジュアルで、ほかにはないものができたという手応えはあります。

──さきほどお話に出ましたが、楽曲もかなりのこだわりがありますよね。和を題材にしたゲームで、英語曲をチョイスしようという発想はなかなか出ないかと。

葉山氏:
 もともと洋楽ばかり聴いてきたので、シンプルに英語の歌が好きというのもあります。和で、モダンなデザインで、グローバルに展開したいと考えたときに、日本語の歌詞だと伝わらないところもあるんじゃないかと考えたんですね。英語って日本の歌にも自然に入っていますから、日本の方は聞き慣れていますし、英語であれば世界中、どんな方にも伝わると思って。

 メインテーマの作詞はボーカルを務めるKannaさんにお願いしています。『ONI』の設定などは事前にお伝えしていて、ゲーム内容をもとに作っていただきました。基本的には自由に作っていただいたので、こちらから「こうしてください」というのもなく。

 ボーカル楽曲は5曲入っていますが、曲調は抑えめな感じのものが多いかもしれません。ただ、バトルやメニューで流れる曲はちょっとエレクトリック系にしています。和風でエレクトリックなものはあまりないと思いますので、プレイして感想を聞かせてもらえるとうれしいですね。

──ボーカル楽曲を最初にゲームに載せてみたときの手応えはどうだったのですか?

葉山氏:
 草原の綺麗な景色にバチッとはまったなと。狙っていたところのひとつだったのですが、PVを見ているような感覚があって。フィールドに歌を載せて、その場所をキャラクターを操作して動いてもらうことにより、PVの中を自分で歩いている感覚を味わってもらいたくて。

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 ゲームではあるんですが、さまざまなエンタメを詰め込んでいますので、音楽だけでも世界を楽しんでほしいですし、風景だけでも楽しんでほしいなと。

 『ONI』はしばらく操作しないとカメラが引きになるので、遠景をバックにボーカル楽曲が流れます。ぜひ、そのままお酒でも飲んでいただければ(笑)。

山本氏:
 ふつう、遠景になったときってゲーム的な作為が見えますよね。「ほら、あそこに塔があるでしょ、行ってみようね」ですとか。でも、『ONI』にはそういった作為がまったくないんですよ。本当に葉山くんが作りたかった世界があるだけで、丸太をぶった斬ったみたいなマップになっていますから(笑)。僕と菅野さんがやったことは、そこに意味をつけていくということだけでした。「ここに湖があるから敵を登場させよう」とか。

──(笑)。葉山さんは『ONI』が初ディレクション作品となるわけですが、譲れない部分はどういうところだったのですか?

葉山氏:
 いちばんはビジュアルですね。先ほどお伝えしたように、いままでデザインで自分を100%出せたことがなかったので。UIデザインをひとつとっても、誰になにを言われたとしても「これをやりたい」、「これを表現したい」というのはありました。ただ、ゲームシステムに関しては、意見をいただいたときには柔軟に対応しましたね。

山本氏:
 キャラクターの名前も頑なに変えなかったよね?

葉山氏:
 そうでした(笑)。鬼の空太と相棒の風丸の名前はなぜかピンときて、自分の中でバチッと決まっていたんですよ。あ、そういえばボスの名前も変えませんでした(笑)

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山本氏:
 「分身して増えるから”分多(ぶんた)”ですよ!もっとかっこいい名前にしたほうがいいんじゃない?」という話はよくしました(笑)。

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──「空と風」はサブタイトルとキャラクターの名前に使われていますが、思い入れが強かったのですか?

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葉山氏:
 じつは、そこはまったく意識していなくて(笑)。タイトル名も山本さんから提案を受けたものなんですね。

山本氏:
 キャッチコピーが必要になった際、「これは空と風の物語」と僕が書いたら葉山くんが「あ! 空と風だ!」となって……「え? 気づいてなかったの?」 と(笑)。

──(笑)。ちなみに、フィールドに風は流れているんですか?

葉山氏:
 エフェクトで風を作っています。「この世界はこういう風の動きですよ」と表現しています。

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──なるほど。ストーリーを描かれるうえで、どういったことを意識されたのですか?

葉山氏:
 じつは、集英社ゲームズさんにサポートしていただけるということで、マンガの編集者さんにいろいろとアドバイスをいただいたんですね。物語を書くことには不安があったので、『テラバトル』や『ラストストーリー』のシナリオを手がけた、波多野大さんにお声がけして入っていただいて。僕と波多野さんと集英社の元マンガ編集者の山中さんの3人で、週一で物語を練って作り上げていきました。

山本氏:
 山中さんは集英社で週刊少年ジャンプ編集部に所属し、「呪術廻戦」の芥見先生なども編集担当された元編集者です。集英社ゲームズが制作支援をしているという意味で、集英社と連携して物語の面にも付加価値を生み出せました。すごく美しい座組みとなりました。

葉山氏:
 漫画って、いかに読者を惹きつけるかということを考えているわけですね。つねに受け手のことを考えていて、「こういう設定だと読者が見ていてしらける」とか、「こういう展開だと自然に話が動く」とか、いろいろとアドバイスをいただきました。

 自分ではおもしろいと思っていても、山中さんから「それだと読む側、見る側の心に響かない」と指摘を受けたり、客観的な視点で意見をいただけたので、とても助けられましたね。

 ストーリーではラストに分岐があるのですが、人によっては意見が生まれるような展開があります。物語も空太と叶渚(かんな)との出会いから始まって、そこから少しずつ桃太郎のことに触れていき、直接伝えるのではなく、ふたりの会話から感じていただくものになっています。直接的に答えを伝えるのではなくて、プレイヤーに想像の余地があるものにしていて。なんとなく読む人側に委ねる、という。

 見せ方としてもムービーでドラマを見せるのではなく、セリフを吹き出しにしていたり、空中にテキストを浮かぶようにしていたり、3D空間を活かした新しい表現をしています。

──アクションゲームって手触りですとか、気持ちよさをどう設計するかというのは、とても難しさのあるジャンルですよね。

葉山氏:
 バトルは当初、テストプレイをしていても、めんどうくさいとか爽快感がないとか、自分としてもアクションとしての手応えがなかったんですね。爽快感や手触りを模索していたときに、心玉をつないでパパパパーンと連続で敵を倒す“心通連撃”を入れたことで、アクションの気持ちよさがひとつできたと感じました。シビアさよりも爽快感を追求していますので、難しさのあるゲームではないと思います。

──開発チームの人数と役割について詳細をお聞きしたいのですが、何人くらいの規模だったのですか?

葉山氏:
 コアメンバーとしては、プログラマー担当の村石さん、モーション担当の徳森さん、プランナーとして菅野さん、プロデューサー兼プランナーとして山本さん。僕を入れて合計5名ですね。あとは、必要な要素に応じて、作っていただける外部の方を探して、都度発注をさせていただいた、という感じですね。

山本氏:
 Twitterで見つけて、Twitterでお声がけするという(笑)。

──そのエピソード、集英社ゲーム クリエイターCAMPのnoteで拝読しました(笑)。

葉山氏:
 Twitterでお声がけしたのですが、すごくうまくいきました。みなさんスキルがある方ばかりで。

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──いまの時代だからこその動き方ですよね。5人での制作を振り返ってみていかがですか?

葉山氏:
 楽しかったですね。企画の規模は抑えつつも、やりたいことは実現できましたし、少人数ならではの利点もあって。話したことがすぐつぎに移せましたから、スピーディーに進行できました。毎週月曜日にチームMTGを行なっていたのですが、話したことをすぐプログラマーさんに作っていただいて確かめるなど、無駄なく進んでいった感じですね。

──アクションを作る部分で壁があったということでしたが、制作全体で乗り越えるのが難しかったのはどういった点だったのですか?

葉山氏:
 敵の数やバリエーション不足をどう解消するかというところで苦労しました。工夫しないと使い回し感が出てしまうので、内容や場所に応じて、いかに違った見せ方にするのかを考えて。たとえば、敵と戦うという内容は同じでありながら、真横から2Dのように見せたり、画面が切り替わって上から見せたりと、飽きさせないように作り上げました。

 少ないリソースの中でいかにアイデア勝負で乗り越えるかというのは苦労しましたが、一方でそれが作る楽しさにもつながったんだと思います。

──ディレクターを務めるのが初めてだったわけですが、チーム内で揉めるようなことはなかったんですか?

葉山氏:
 目標とするゴールに対して最後まで同じ方向を向いていましたので、まったくなかったですね。じつは、人にお願いしたり、指示を出すのは得意……じゃないんですよ。

──「得意」と言うのかと思いました(笑)。

葉山氏:
 (笑)。なにかを頼むときは丁寧に、相手がイヤにならないようにもっていきたいですし、「こうしてください」と指示をするのではなく、「こういうことをやりたい」とお願いしていったといいますか。ディレクターを務めている感覚はあまりなく、フラットな感じで接していました。山本さんや菅野さんのサポートもありましたし、頼りながらディレクションをやらせていただきましたね。

山本氏:
 チームビルディングとして困ったようなことはなく、シンプルに進められましたね。葉山くんが形にしたいものがみんな見えていましたので、壁をどう乗り越えて向かっていくかということに集中できていました。ほかのプロジェクトで同じ規模感のものが何本かあり、揉めることもあったのですが、どちらかというとそれが普通です(笑)。葉山くんがどのように指示を出していたのかは見えていませんでしたが、相当うまかったんだと思います。Twitterでの人材探しもそうですし、人を選ぶのもうまかったのかなと。

葉山氏:
 人に恵まれた、というのがあったと思います。プログラマーの村石さんが僕のやりたいことをとてもうまく形にしてくれて。

 プログラマーさんのことはとても尊敬しているんですね。プログラマーがいないとゲームに命が吹き込まれないわけですから、作業以外でストレスを抱えずに作ってほしかったので、指示を出すときの言い方にはつねに気をつけていました。

──さきほど「制作が楽しかった」とおっしゃっていましたが、もう少し具体的に説明をしていただけますか。

葉山氏:
 自分が作りたいものが日々どんどんできていくということに、このうえない喜びを感じたんですね。表現したい世界を作って、その中でキャラが動く。自分が作りたいと思った世界の中を、実際に触って動かせるというのがものすごく楽しくて。

 ゲームにはビジュアルも、音楽も、ストーリーもあって、インタラクティブでその世界の中に入れる。その世界を作れること自体が楽しかったんです。僕が作った世界を実際に触って遊んでくれる人がいる。それを思い描いただけでニヤニヤしてしまって(笑)。

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──ゲーム開発者インタビューで、ここまで「やりきった」と答えてくれる方は珍しいんですよね。そう思える制作環境だったというのが、とてもよくわかりました。

葉山氏:
 発売直前ですので、ここにきてプレッシャーを感じていますけども(笑)。楽しく制作させていただいた分、恩返しをしなければいけませんから。「恩返し=売れる」ことですし、結果も残さないとつぎにつながりませんし。

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──マスターアップのときは「やりきった」という感じだったのですか?

葉山氏:
 細かい調整は触っているとどうしても出てきてしまうので、「もう少しだけ……」というのはずっとありました。ただ、いまの時代、パッチを当てることもできますし、昔と違って「マスターアップしたら終わり」ではないですからね。

──葉山さんと山本さんの出会いや関係があり、集英社ゲームズ、クラウディッドレパードエンタテインメントさんのサポートがあり、小規模チームでの円滑な運用があり、Twitterを活用した人材探しの成功もあり……。ここまでお話を聞いて感じたのは、奇跡的な出会いとか縁が積み重なっているなと。

葉山氏:
 出会いと人が大事ですよね。自分ひとりでできることはたかがしれていて。人との出会い、サポート、どれかひとつ掛けても成り立たなかったと思います。

山本氏:
 アートでいうと、最初に葉山くんがiPhoneで作ったものと完成形がほぼ同じなんです。最初からゴールが見えているプロジェクトは、ある意味でこんなに楽なんだと感じました。チーム全体が同じ方向を向けるということが、いちばんの武器だったなと。

葉山氏:
 企画書があってそこからデザインをして、という進め方が一般的だと思いますが、自分の場合はそこで用意するのは仮のデザインではなく、100%のデザイン。その世界に合わせてどういうゲームを作っていけばいいのかという、イレギュラーなやり方でした。

──とはいえ、企画書って必要になるじゃないですか。会社の稟議にも必要なわけですよね。そういったときはどうされていたのですか?

葉山氏:
 そこは山本さんにやっていただいて(笑)。

一同:
 (笑)

山本氏:
 個人的に大きな会社での経験、大きなコンテンツの作り方はわかっている中で、葉山くんがひとりで作るというときに、使えるノウハウ、使えないノウハウがあって。わからないからこその作り方というのは、僕自身も勉強になりましたね。人の集め方もそうですし、チームで揉めないコミュニケーションというのもそうですし。集英社ゲームズの初期プロジェクトとしても、とてもいいモデルケースになったのかなと感じています。

──なるほど。いろいろと話が聞けてたいへん興味深かったです。最後に、『ONI』が発売を迎えますが、買ってくれた方にどう楽しんでほしいかをお聞かせください。

葉山氏:
 繰り返しとなりますが、『ONI』は自分が表現したいものを100%注ぎ込んだタイトルです。みなさんにもその世界に入っていただいて、体験していただいて、楽しんでほしいですね。きっと、「世界」として観ていただくだけでも、楽しんでいただけると思います。

山本氏:
 お手ごろ価格ですので、ぜひ手にとってみてください。

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 葉山さんの話を聞いて思ったのは、「100%自分がやりたいデザインができた」と笑顔で答えられる手応えが『ONI』にはあるということだ。

 記事でも述べたとおり、商業で自分を100%出せる機会というのは皆無だ。それを許した集英社ゲームズ、クラウディッドレパードエンタテインメントの器の広さもあるが、PlayStation C.A.M.P!時代からの人のつながり、時代性に合わせた人材探しなど、さまざまな縁がつむいで実現できた、稀有なプロジェクトだったのだろう。

 取材をさせていただいた絵本作家である葉山さんの叔父さんの資料部屋には、本棚に手掛けられた絵本が並んでいた。みなさんは、幼いころに絵本を読んだときに「特別な想い」を抱いたことはないだろうか? 大人になっても捨てられず、大切に持ち続ける。そんな魔力を絵本は秘めていると思う。『ONI』もそういった絵本と同じように、体験した方に「特別な想い」を抱かせてくれるタイトルなのかもしれない。

【あわせて読みたい】

坂口博信と共に『ファンタジアン』を作った“弟子”が、ついに自分のゲームを完成させるにいたるまで。『ONI – 空と風の哀歌』に込められた、師匠直伝の技とは?

ひとつのゲームを自分個人の力を頼りに作り上げるに当たり、どのような苦労があったのか? そしてミストウォーカー時代、坂口氏との仕事を通して得られた経験はどのように活かされたのか?

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電ファミニコゲーマー副編集長。

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