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坂口博信と共に『ファンタジアン』を作った“弟子”が、ついに自分のゲームを完成させるにいたるまで。『ONI – 空と風の哀歌』に込められた、師匠直伝の技とは?

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 インディーゲームの台頭とその広まりによって、現代では個人、少人数によるゲーム開発がスタイルとして確立され、その中から大きな人気を博す名作が誕生してくるようになった。
  また、そのような才能あふれるクリエイターを支援・発掘し、育成することを目的に講談社、集英社といった大手出版社がゲーム事業へと乗り出す動きも起きている。

  2023年3月9日に発売された『ONI – 空と風の哀歌(エレジー)』(以下、『ONI』)は、集英社の新人クリエイターの発掘・支援プロジェクト「集英社ゲームクリエイターズ CAMP」より誕生した作品である。
  本作は『テラバトル』『FANTASIAN(ファンタジアン)』などで知られるミストウォーカーにデザイナーとして在籍されていた“KENEI”こと葉山賢英氏が原案、ゲームデザイン、ディレクションを担当。これまで、ユーザーインターフェース(UI)にエフェクトといったデザインをメインに担当してきた氏にとって、初めてゼロから組み上げた新作となる。

  ミストウォーカーと言えば、『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親として知られる坂口博信氏が代表を務めるゲームスタジオだ。葉山氏はそんな坂口氏のもとでゲーム作りに勤しみ、今回、独立してオリジナルのゲームを作り上げた。まさに坂口氏の弟子とも言えるクリエイターが、かつての師匠と同じくゲームのディレクションへと挑んだのである。

  実際にひとつのゲームを自分個人の力を頼りに作り上げるに当たり、どのような苦労があったのか? そしてミストウォーカー時代、坂口氏との仕事を通して得られた経験はどのように活かされたのか?

  今回、電ファミニコゲーマーではそんな葉山氏と坂口氏の対談の場を設け、『ONI』を完成させるまでの苦労、これまでとは異なるゲームのディレクションを経験して感じたこと、そしてミストウォーカー時代のエピソードについて伺った。

  また、坂口氏が実際に『ONI』を遊んでみての感想、ミストウォーカー時代の葉山氏への印象、そして還暦をすぎた今もなお、ゲーム作りに対して情熱を燃やし続けるモチベーションの源泉にも迫る。

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左から坂口博信氏、葉山賢英氏

取材/TAITAI
文/シェループ
編集/実存
撮影/佐々木秀二


坂口氏、『ONI』の序盤を体験

坂口氏:
  おおー、綺麗だね。葉山くんっぽい。

葉山氏:
  ありがとうございます(笑)。トゥーン調にしています。
  あと、シナリオは波多野さん(波多野大氏)にやっていただいていまして。

坂口氏:
  あ、波多野くんなんだ。

葉山氏:
  本当に最小限ではあるんですけど。

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坂口氏:
  総プレイ時間はどれぐらい?10時間ぐらい?

葉山氏:
  10時間ぐらいですね。

坂口氏:
  まあ、10時間以上だと大変だよね。ボスは何体作ったの?

葉山氏:
  ボスは6~8体ですかね。

  (少しステージが進んで)

坂口氏:
  お、いきなりバトル? チュートリアルかな。

葉山氏:
  そうですね。心玉というのが出てくるんですが、これを叩き切ってやっつける感じです。

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坂口氏:
  曲はどうしたの?

葉山氏:
  曲はいろんな人にお声がけしました。
  ……あ、それで、敵を倒しますと、次の幻影が現れまして。

坂口氏:
  なるほど、ステージクリア型で進むんだね。

葉山氏:
  本当は地続きにしたかったんですけど、そうすると処理が重くなってしまうので、ステージクリア型にしました。

坂口氏:
  でも、割と広いよね。

葉山氏:
  普通のオープンワールドに比べたら100分の1ぐらいですけどね。

坂口氏:
  まあ、それはね(笑)。

葉山氏:
  それと今回、モデラーと音楽は坂口さん方式で、Twitterでいい人を見つけては声をかけたりしました。

坂口氏:
  そうなんだ!会社というよりは個人で?

葉山氏:
  そうですね。会社だとお金がべらぼうにかかってしまいますので……。
  このメインモデルも、〇〇円ほどで作ってもらっていまして。

坂口氏:
  そこで金額が出てくるのは生々しい(笑)。

葉山氏:
  (笑)。
  あと、この世界の通貨はキノコにしています。

坂口氏:
  マリオだね(笑)。ジャンプはしないの?

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葉山氏:
  ジャンプはないですね(笑)。

  (ボス戦中)

坂口氏:
  風丸を使わなくても倒せる?

葉山氏:
  敵によっては、使わなくても倒せますが、ボス戦などでは風丸が必要ですね。
  風丸を使えば離れた場所からでも攻撃できます。

坂口氏:
  風丸が面倒くさいな……って言っちゃいけないよね(笑)。
  風丸を練習しなきゃいけないんだね……。

──まさかの修正依頼が……(笑)

葉山氏:
  いやいや(笑)。

坂口氏:
  風丸の操作法が……ちょっと難しい(笑)。
  そうか、自分で突っ込んでいくとやられるんだな。それで風丸が張り付いていると……

  あ、そういうことか。風丸の操作はリアルタイムで考えなければならないんだね。

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葉山氏:
  それで叩いて気絶させて、を繰り返して……

坂口氏:
  そういうことね。
  ……あれ?やられた?やられてんじゃん。残念……(笑)。

  なるほど。ありがとうございました。

女房も「あ、葉山くんのゲームだね」と言っていた

──今までで一番緊張されたのでは?

葉山氏:
  緊張しましたよ!(笑)。

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坂口氏:
  そりゃそうでしょ(笑)。
  自分の作ったものを人に見られるとなればね。

──それをゲームクリエイターの御方……しかも、坂口さんに遊んでもらうというのは、イベントでユーザーさんに試遊してもらうのとはまったく違いますよね。

葉山氏:
  本当にそうですね……「ダメ出しされたらどうしよう」かと。

坂口氏:
  ダメ出しはしないよ……(笑)。

一同:
  (笑)。

──坂口さんは葉山さんとお会いになるのは久しぶりですか。

坂口氏:
  直接会うのは2年ぶりじゃないかな。コロナがあって、日本に帰ってきていませんでしたから。大抵の人とは2年近く会っていないんです。

葉山氏:
  ほとんどリモートで仕事していましたからね。

坂口氏:
  まあ、それもありますね。『ファンタジアン』も最後の1年間はリモートだったんです。だから、そこを踏まえると3年以上会っていないのかな。

──では、ミストウォーカーを退社された後に会うのは今回が初めてですか?

葉山氏:
  そうですね。

──逆にそれだけの時間が経ってみて、どうですか?「何か変わったな」とか感じたことってありますか?

坂口氏:
  まあ……2年そこらじゃ、そんなに変わらないよね(笑)。

一同:
  (笑)。

葉山氏:
  でも最近、身体の衰えは感じています(笑)。

坂口氏:
  いや、それを言ったら俺なんて還暦だから!昨日も久しぶりに天野さん(天野喜孝氏)に会ってから飲んで、さっきまでベッドで倒れていたし(笑)。

──えっ!? 今日のインタビュー、大丈夫でしょうか……?

坂口氏:
  あ、もう大丈夫です(笑)。

──それを聞いて安心しました(笑)。
  改めまして、本日はお時間をいただきまして誠にありがとうございます。今回、坂口さんがSNSで『ONI』にお祝いのコメントを出されているのを見て、ミストウォーカーに在籍されていた葉山さんと退社後も関係が続いていらっしゃることに感動しまして。そういった師弟関係的なことや坂口さんが『ONI』に対してどんな印象をもたれたのか、お話を聞ければと思います。
  さっそくとなりますが、先ほど『ONI』を遊んでみていかがでしたか?

坂口氏:
  うちの女房も言っていたのだけど、パッと見て「あ、葉山くんのゲームだね」と。
  綺麗なんですよね。シンプルで清楚、と言いますか。

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  僕は彼にUIのアイコンを含め、いろいろデザインをやってもらったのですが、それが今の『ONI』と一緒で清楚な感じなんですよ。僕はそれがとても好きでして。
  『テラバトル』ではエフェクト周りもやってもらっているんですけど、そこでも清楚さという葉山くんならではの個性が出ていたんです。

  だから、逆に葉山くんはコテコテなものが描けないんですね。
  「ここはコテコテにして」と伝えても、シンプルなのを返してくるんです(笑)。

一同:
  (笑)。

葉山氏:
  そうでしたね……(笑)。

坂口氏:
  あと、文字フォントも上手いんですよ。そのようなデザイン系のセンスがあると感じています。

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  今回はUIだけじゃなく、鬼のキャラクターから背景まで全部のグラフィックをやっていると思うんですけど、不思議と見るだけで「あ、葉山くんだね」となるんですね。

  うちの女房って普段、ゲームをしないんですよ。なのに「あ、これ葉山くんでしょ?」とすぐに言い当てたんです。
  やっぱり、独特の美しさがあって個性がにじみ出ているからだと思うんですよ。色使いとかも原色じゃなく、彩度を抑えたポジフィルムっぽいと言いますか。透明感があるよね。

葉山氏:
  そうですね。四隅をカメラのレンズ越しみたいな感じにボカしています。

坂口氏:
  ああ、ビネット【※】みたいにかけているんだ。ビネット好きだもんね。

※ビネット効果
画像の四隅を中心部よりも暗くして、アーティスティックな雰囲気を出す表現。

葉山氏:
  好きですね(笑)。

一同:
  (笑)。

坂口氏:
  いや、僕も好きだから、なんでもビネットをかけている(笑)。
  あれをかけると、それっぽくなるんですよね。

葉山氏:
  ただ、処理が重くなっちゃうんですよね……。

坂口氏:
  それはまあ(笑)。

カスタマーサポートからダメもとで応募した結果、ミストウォーカーに入社

──もともと、葉山さんがミストウォーカーに入られたのって、どんなきっかけからだったんですか?

坂口氏:
  応募か何かだったかな……。自分で来たんだっけ?

葉山氏:
  そうです。もともと、ミストウォーカーは全く募集をしていなかったんですね。
  ちょうど自分自身、「次のステップに移りたいな」というタイミングだったんですけど、行きたい会社が全然なくて。ただ、坂口さんのゲームをずっとやってきていましたから、ダメもとでミストウォーカーのカスタマーサポートにポートフォリオを送ってみたんですよ。

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坂口氏:
  ああ!そうだ、そうだ!

──カスタマーサポートに送られたんですか!(笑)。

葉山氏:
  それで、最初はサポートの方から「すみません、うちは募集していません」と返答があったんです。それから15分後でしたか。「すみません、坂口が会いたいそうなので、今度お会いしませんか?」というメールが送られてきまして。
  それで、すぐ会いに行かせていただきました。

──坂口さん、その問い合わせの内容でなにか引っかかるものがあったのですか?

坂口氏:
  あの時って、作品のサンプルを付けていたんだっけ?

葉山氏:
  はい、付けていましたね。

坂口氏:
  だよね。それを見てですね。「あ、これもういいじゃん」と。

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一同:
  (笑)。

坂口氏:
  あとは人間性さえ問題なければ(笑)。

葉山氏:
  それで面接当日に「いつから働ける?」という話になって、他の社員の皆さんも来られたんです。

坂口氏:
  そうですね。まあ、僕的には渡りに船で、ちょうどデザイナーを探していたんですよ。
  本当にドンピシャで良かったですね。

  しかも「PlayStation C.A.M.P!」【※】に参加していたということで、ゲーム作りの経験もあるから「うん、いいんじゃない」と。
  最初は『テラバトル』だったよね。あれはプログラマーもひとりだけと、本当に少人数の内制でやっていましたので。

※PlayStation C.A.M.P!(プレイステーション・キャンプ)
旧ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン (SCEJ)が実施した、クリエイター発掘支援プログラム。このプログラムから生まれたゲームに、『TOKYO JUNGLE』や『rain』といった作品がある。

葉山氏:
  そうですね。今の『ONI』みたいに4~5人ぐらいでしたね。

──そんな飛び込み応募からの坂口さんとの面接では、どういうお話をされたのですか?

葉山氏:
  いや、最初は緊張しましたね。それこそ写真などで見ていた人が自分の目の前に居ましたから(笑)。
  けど、けっこう気さくに話してくださったので、緊張はすぐにほどけまして。

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坂口氏:
  話したのって、会議テーブルみたいなところだったっけ? 応接間だったかな。

葉山氏:
  そうですね。それで作品を見せて、あとはもう雑談と言いますか、けっこうラフな感じで話をしました。

──それでミストウォーカーに入られ、坂口さんと一緒に仕事をしてみてどうでしたか。印象が変わったりとかしました?

坂口氏:
  あ、トイレ行っておこうか?

一同:
  (笑)。

葉山氏:
  いやいやいや!(笑)。
  まあ、入社前にはどんな方という明確なイメージはありませんでしたので……。

  ただ、作り方で印象的なことがありまして。
  普通、ゲームを制作する時って企画書があって、それを元に作っていくと思うんですけど、坂口さんの場合、企画書がないんです。
  まず坂口さんのなかに「こういう感じのものを作りたい」というのがあって、すぐに僕がデザインをし、プログラマーさんに動かすようにしてもらってから、それを触りながら作っていくという感じで。それが自分としてはすごく新しいと感じました。

坂口氏:
  まあ、ファミコンの頃とか、昔はそうだったんだよね。

葉山氏:
  いまはまず企画書を書いて、それに従って進めていくのが普通だと思いますし。

坂口氏:
  まあ、今のように巨大な組織になってしまうと、企画書がなければ動けないですよね。
  とはいっても、結局ゲームは実際に動かしてみなきゃ分かりませんから。

葉山氏:
  だから、企画書の上で「面白いな」と思ったとしても、実際に動かしてみると全然違っていたりとかするんですね。
  けどその分、ちゃぶ台返しもあるんです。「ええーっ!?今、変えるんですか!?」みたいに(笑)。

──え? 坂口さんってけっこう、ちゃぶ台返しされるんですか?

坂口氏:
  けっこうあります(笑)。

葉山氏:
  でも、坂口さんの直感ってすごくて。
  そこで変えたものが良くなっていく、ということは多いです。

──『テラバトル』と『ファンタジアン』もそのようなスタイルで作られたのですか?

坂口氏:
  そうですね。「ディメンジョン」なんて最初、なかったもんね。「これ、面倒くさくない?」「というか、ジオラマ歩きたいんだけど?」みたいに。それでみんな「うーん……」となる(笑)。

──どちらかというと「ゲームやろうぜ!」や「プレイステーション・キャンプ」の方がそんな作り方をしていそうな気がしましたけど、そうでもなかったと?

葉山氏:
  そうですね。基本的に開発会社さんと一緒に作りますので。ちゃんと企画書がないと、作る時に困ることになるんです。

──見ている方向を揃える、ということですね。むしろ、「プレイステーション・キャンプ」の方が自由にやっていたと思っていました。

葉山氏:
  もちろん、自由は自由でした。けど、坂口さんはそれ以上に自由で(笑)。
  本当に坂口さんが思い描くものを形にしていく、という感じでしたね。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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