実際に会って話してみると分かる坂口氏の“フランクさ”
──坂口さんとこうしてお話していると、当時のゲーム業界はかなりベンチャー気質で、インディーマインドが強かったんだなと実感することがけっこうあるんですよね。
葉山氏:
スクウェアって最初はゲームじゃないことをやっていたんですか?
坂口氏:
もともとは最新のパソコンを自由に使えるラボみたいなところだったんですよ。ただ、近くに大学があって、「その学生が来るのでは」とオーナーが読んでいたらしいんです。それで、そこからいい子を引き抜いてチームを作ろう、って。
けど、学生はふたりぐらいしか来なくて……(笑)
──坂口さんって横浜国立大学でしたっけ?
坂口氏:
そうですね。田中弘道は大学のクラスメートです。ふたりとも電気情報工学科ですね。
葉山氏:
それで、ゲームを作る方向に流れて行ったんですか?
──もともと、坂口さんはゲームが好きだったんですよね?
坂口氏:
田中がApple IIで遊んでいて、それを僕に教えてくれまして。そこから『ウィザードリィ』や『ウルティマ』に触れたんですが、それはもうカルチャーショックでした。見たことも触ったこともないものですから、もうドはまりしちゃって。
あとは『Horizon V』に『Zenith』とか、「これ、3Dですごいな!」となっていたらグルっと回って、それを作ったナーシャ(ナーシャ・ジベリ氏)【※】と一緒に仕事することになっちゃいましたし。
ナーシャが来日した時は感動しましたよ。「ナーシャだ!」と。僕からしたら本当にスターですから。
※ナーシャ・ジベリ
イラン出身のプログラマー。坂口博信氏の開発チームのもと、『ファイナルファンタジー』の飛空艇の高速スクロールや、『聖剣伝説2』のメニューUIなどを実現。当時のスクウェア作品の技術面で大きな影響を与え、天才プログラマーとして名を馳せた。
──今、ナーシャさんってどうされているんですか?連絡はとられているんですか?
坂口氏:
今は取れていないんですけど、元気にはしているようで。
なんかグラフィックツールを作っているとか言ってたかな。
──ちなみにミストウォーカーの時、葉山さんは先ほどの昔のスクウェアとか、仕事以外の話もされていたのですか?
葉山氏:
そういうのはお酒の席とかで聞いていました。
最初の人数が少ない頃は坂口さんが食事に誘ってくれていたんですよ。
──それはけっこう頻繁に?
坂口氏:
けっこう、飲んでいたよね。
葉山氏:
朝からご飯に行こうとか(笑)。会社行く前の朝イチで。
──最初にまず食事に行くのですか(笑)。
葉山氏:
そういうこともありましたね。
坂口氏:
そうですね、昼から焼肉とか(笑)。
葉山氏:
あと、そういう場でいろんなお話が聞けますので。
坂口氏:
なので、さっきの美術館をやっているとか、プライベートもけっこう知っているんですよ。
──坂口さんはそのフランクさがすごいと思うんですよね。僕の世代でも、坂口さんは知った時からすでにレジェンドゲームクリエイターとして有名な方ですし。
けど、この距離感で話していただけるというのが本当、一種の才能だなと思っているのですが。
坂口氏:
『FF14』内でも言われますよ。「え、こんな人だったんだ!?」「もっと怖い人かと思ってたー」と(笑)。
一同:
(笑)。
──それは昔から変わらないんですか?
坂口氏:
そんなに変わらないよね。
葉山氏:
こんな感じです(笑)。
坂口氏:
ただ、初期の頃に紙媒体のインタビューで偉そうなことを言っていたから、そのイメージが付いちゃっているのかもしれませんね。
葉山氏:
最初は「怖い人なのかな」というのはありましたね。ダメ出しがすごいのかな、と。
そしたら全然で、なんでもざっくばらんに話してくれて。
──それがすごいと思うんですよ。
坂口氏:
すごいというよりは性格ですから(笑)。
葉山氏:
けっこう、掘り下げて聞けば何でも話してくれまして(笑)。
『FF1』の衝撃で、ゲーム作りを志した
──葉山さんにとって、ゲーム作りの面白さって何なんでしょう……?
葉山氏:
ゲーム作りの面白さですか……やはり、「自分がデザインしたものを動かせる」ことにあるかと思います。映画とかですと観ているだけですが、ゲームって実際にその世界に入れて、自分でキャラクターを動かしながらいろんな体験ができる。
そういう自分が作り上げた世界をお客さんに提供できると言いますか、神様じゃないですけど自分が創造したものの中で遊んでもらえるというのはすごく面白味を感じます。仕掛けたものに驚いてくれたり、感動してくれたりとか。
──もともと、そのようなゲームを作りたいという思いが強かったのでしょうか。
葉山氏:
そうですね。僕がゲームにはまったのが、自分のお小遣いで買った『ファイナルファンタジー1』(FF1)だったんです。その頃には『ドラゴンクエスト』もあったんですけど、『FF1』は友達が紹介してくれまして。
そこで、ゲームって単にピコピコやるだけじゃない、そこにストーリーと世界があることに驚いたんですね。あと、『FF』って雰囲気が子ども向けではなく、ダークな感じがあってそこにも惹かれました。そこからいろんなゲームを遊ぶようになっていったんです。
あと、ゲームはトータルで“世界を楽しめるもの”というのを『FF1』を通して感じたんですね。ストーリーがあることで没入感が生まれ、単に遊ぶだけのものではなくなるという。
坂口さんもストーリーに関してはすごく重視されているんですよね。
坂口氏:
ナラティブですからね。
葉山氏:
ただ、ゲーム業界に入ったのは遅かったんです。最初は全くゲームとは関係のない所でした。そんな中、たまたまソニーさんの「プレイステーション・キャンプ」の募集を見まして。
そこに経験は必要ないとありましたので、「じゃあ、ちょっと挑戦してみようかな」と応募しまして。その「プレイステーション・キャンプ」を指揮されていたのが山本さんだったんですね。そこから業界に入って、ゲーム作りに関わっていったんです。
すでに3つの構想が決まっていて、止まっているどころじゃない
坂口氏:
次回作はどんな方向性で行くの?
葉山氏:
次回作は……一応、3つほど構想が決まっています。
坂口氏:
おおー。
葉山氏:
ひとつは矢部さんって覚えていらっしゃいますか? プログラマーの。
坂口氏:
ああ!いたよね、矢部くん。おお、繋がっているんだ。
葉山氏:
彼が作っているものを今、手伝っていまして。
坂口氏:
おおー。
葉山氏:
あとふたつは……小ぶりなものと、もうひとつはまた和風のものなんですが。
坂口氏:
和が好きだね。
葉山氏:
和にハマっていまして(笑)。
それで、さらにもう一個はモダンなものになります。そういう構想は進めていますね。
坂口氏:
オープニングで、一番最初に桃太郎みたいなやつが出てくるじゃん。
あれが主人公のものは考えていないの? あれ、カッコイイんだよね(笑)
一同:
(笑)。
葉山氏:
あ、でも実は桃太郎を題材にした漫画はやります。
それはそれでありつつ、次はモンスターではなくて人間が主人公になります。
あと新しい所で、自分でキャラデザもしてやってみようかというのもありまして。最初は『ONI』が終わったらゆっくりしようかなと思っていたのですが、完成が見えてきたら、これやりたいあれやりたいというのが出てきちゃいまして。
──そのモチベーションが続くのがすごいと思います。
葉山氏:
うーん、なんですかね。落ち着きがないんでしょうね……(笑)。
坂口氏:
落ち着きはないよね(笑)。
葉山氏:
止まっていられない(笑)。
でも、坂口さんも止まっていられないタイプだと思うんですよ。
坂口氏:
「あれ?止まってる?」と思った時は二日酔いです。
一同:
(爆笑)。
──最後になりますが、坂口さんから葉山さんの今後の活動に関してのエールと言いますか、コメントをいただければと。
坂口氏:
このまま行き着くところまで頑張ってほしいですね。今、聞いたみたいに次の構想もいっぱいあるみたいだし。ひとりでやり始めるのって、なかなか簡単にできることじゃないし、勇気が必要ですから。
その意味では本当に賞賛します。なにせ1本、こうして作り上げたのだからすごいですよ。多分、今まで語ってきたこと以上の苦労もあったでしょうから。まあ……完成おめでとうございます(笑)。
葉山氏:
ありがとうございます(笑)。
自分は坂口さんの元で10年弱でしょうか、ミストウォーカーでエフェクトからUI、グラフィックスまで任せていただいて、本当にいろんな経験をさせていただきました。
その自分のカラーみたいなものは、ミストウォーカーの時、坂口さんにいろいろやらせていただいたおかげで出来上がったと思います。これからはその持ち味を活かして、いろんな新しいゲームを作っていきたいですね。
──本日はありがとうございました!
坂口氏:
ありがとうございました、頑張ってね!
葉山氏:
はい!
SNSでデザイナーさんなどを探しては声をかけ、自分なりの傭兵部隊を編成する。
まずは動かせるようにしてみる。
可愛いキャラクターを始め、「ちょっと触ってみたいな」と思わせるフックを仕込む。
対談で語られたエピソードを通して見えてきたのは、葉山氏がいかに坂口氏に多大な影響を受け、そして一緒に仕事をした時の経験を最大限に活かそうとする“弟子”としての姿だった。
UIに限らず、エフェクトからグラフィックスまで幅広く任せられていたことが今回、ひとりでゲームを作るという経験に活きたことにも、ミストウォーカー在籍時、そのような挑戦の機会を与えた坂口氏の懐の大きさ、師匠としての貢献の大きさを感じさせられるところだ。
昨年に還暦を迎えた坂口氏も、今もなおゲーム作りに新しいものに対する情熱、好奇心を燃やし続けるそのパワフルな姿に感銘を受けた。
『ファイナルファンタジー』という世界的にも愛される名作を生み出したレジェンドでありながらも、ベテランから若手のクリエイター、そしてユーザーにもフランクに接するその人柄、時折発するお茶目(?)なコメントにも、幅広い世代から愛され続ける理由が分かる。
今回の『ONI』が完成してもそれでゆっくりしようとはせず、早くも次の構想の実現に向けて動き始めているという葉山氏。そんな創作に対する意欲も坂口氏譲りな葉山氏が今後、どんなゲームをお披露目するのか。
そして、弟子の成長と活躍を見て、坂口氏は次にどのようなものを出してくるのか。今回の対談での集英社ゲームズとのファーストコンタクトは、どうなるのか?
いずれも少し先の未来の話にはなるが、この師弟関係のこれからに注目しつつ、まずは完成を迎えた『ONI』を余すところなく楽しんでみよう。
『ONI – 空と風の哀歌』ディレクター、葉山賢英さんと、その師匠といえる坂口博信さんのサイン入りアクリルスタンドを1名様にプレゼント@denfaminicogame のフォロー&RTで応募完了
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) March 27, 2023
▼坂口さんと葉山さんの“師弟”対談記事はこちらhttps://t.co/84CxQZDXM4 pic.twitter.com/13zhKsyZ4o
【あわせて読みたい】
100%自分がやりたいデザインができた――ディレクターがそう言い切る『ONI – 空と風の哀歌』はいかにして作られていったのか? 異色の経歴を持つ開発者に聞く、小規模チーム制作だからこそ実現できたこと『ONI』のディレクションを務めるのは、「PlayStation C.A.M.P!」出身で、ミストウォーカーにて『TERRA BATTLE』や『FANTASIAN』のアートを手掛けた葉山賢英氏。『ONI』発売を控えた2月下旬、電ファミ編集部は『ONI』で描きたかったビジュアルや制作チームに関することを葉山さんにうかがうことができた。