SNSをきっかけに本格化した開発、坂口氏から学んだ“ナンパ”な人材集め
──今回、葉山さんが「ひとりでゲームを作ろう!」となるのには何かきっかけがあったのでしょうか。ミストウォーカーを辞められ、そのまま他の会社に就職するのではなく、今回の道に至るまで、考え方の変遷があったとか……。
葉山氏:
そうですね……まあ、ゲームって作るのに時間がかかるんですね。それで自分の人生を考えた時、どこかの会社に所属したとしても自分の思い描くものが作れるとは限らない。なので、「残された時間の中で、自分で作れるものを何か作ってみたい」と思い、企画を立てたんです。
ただ、最初はそこまで深く考えていなかったんですね。それで、試しにTwitterで画像を出してみたところ、反響があったんです。そこからいろんなお誘いの言葉やダイレクトメッセージ(DM)が来たりしまして。それで「じゃあ、本格的に作ってみようかな」という流れで始まった感じです。
けど、最初はひとりでしたから、そこから人を集めていくというのが本当に大変で。その時は支援を受けてもいませんでしたからお金はないですし、「どうやって人を集めて作ったらいいのだろう?」と悩んでいました。
──先ほどの試遊の時、「Twitterで人を募る坂口さん方式」と仰っていましたが、坂口さんもそのようなやり方をしているんですか?
葉山氏:
はい。絵描きさんをTwitterなど、SNSで見つけたり、探したりしていました。
坂口氏:
正攻法よりもそちらの方が効率的なんですよ。『ファンタジアン』のジオラマも、その場でTwitterで検索して3人ほど見つけて、それですぐに連絡を取ったんです(笑)。でも、そこから長い付き合いになる人もいるんです。
葉山氏:
Twitterに限らず、作品を直接見られますからね。
開発会社じゃなくても、その人の作品を見て「あ、いいな!」と。
坂口氏:
今、フリーランスの方でも自分で描いてツイートするとけっこう、反響があるじゃないですか。そこから「あ、この子、いいかも!」という感じでフォローして、後々になって連絡を取ってみたりするんです。
──まさに坂口さんから学んだことを実践されたのですね。
坂口氏:
まあ、ナンパ方式ですね。「ねえねえ、キミキミ~」と(笑)。
葉山氏:
けど坂口さんの場合、実名なので、最初は怪しまれたりして(笑)。
坂口氏:
怪しまれるよね(笑)。
──坂口さんでも怪しまれるんですか?
坂口氏:
「本物ですか!?」と聞かれますよ。
一同:
(笑)。
「ひとりでなんでもやる」というミストウォーカー在籍時の経験が活きた
──逆にミストウォーカーに入られた葉山さんは、坂口さんから見てどんな印象だったのですか?
坂口氏:
やっぱり絵に出ると言いますか。几帳面で真面目で、仕事はコツコツとやりますし、早いんですね。なので、すごく楽をさせてもらった……というとちょっと違うけど、プロジェクト全体の推進役になるんですね。
ゲームって本当に日々、コツコツ日々積み重ねて作っていきますから。そのペースを崩さないスタイルの人がいると、全体が引き締まるんですね。
ですから、本当に頼もしかったですし、随分助かりましたね。最初に絵を見た時にも「多分、こういうタイプかな?」という印象がありましたけど、その通りで。だからもう、すぐに次のをやり出したくなっているのかもしれないけど……どう? 『ONI』も一段落したことだし、またちょっと仕事する?
一同:
(笑)。
──今回の『ONI』で、今までのデザイナーに留まらず、ディレクターとしての仕事もたくさんされたと思うのですが、実際に体験してみていかがでしたか。全然違ったこととか、ゲームを作っていくことの難しさが見えたりとか。そういうエピソードはありますか。
坂口氏:
今回、いろいろ背負ったでしょ? 結局、『ONI』が面白いかどうかは自分にかかってくるわけですから。そういう意味では今までとは全然違ったよね?ユーザーの反応とかも全部来るわけだし。
葉山氏:
そうですね……。やはり人を雇ったりすると責任が出てきますし、プロジェクトが止まる可能性もある中でどうしよう、と悩んだりすることはありました。
坂口氏:
プログラマーからの「本当にこれでいいんですか」攻撃は来た?
たまに起きるんだよね。僕はこれでいいと思っているけど、作っている本人が「これ、本当に面白いと思ってます?」みたいな感じで。そういう攻撃が来たりはなかった?
葉山氏:
いや、なかったですね。
坂口氏:
ああ、それはよかった。たまにあるからね……。
葉山氏:
ありますよね!(笑)
坂口氏:
それで「こいつ!」と思ったり(笑)。「いいから作れよ!」と。
葉山氏:
今回は幸運にも人に恵まれまして。プログラマーさんも本当に僕の作りたいものを形にしてくださいました。
企画でも集英社ゲームズの山本さん(山本正美氏)と一緒にいろいろなアイディアを出し合ったりして、多方面で助けていただきました。
※山本正美
元ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で、『勇者のくせになまいきだ。』、『無限回廊』などを生み出したクリエイター発掘支援を目的としたオーディション「ゲームやろうぜ!2006」、また『TOKYO JUNGLE』、『rain』を生み出した「PlayStation C.A.M.P!」を主宰。2021年にSIEを退職し、株式会社エピグラズムを設立、ひょんな縁から集英社ゲームズの執行役員となる。
坂口氏:
だったら僕もちょっと加わっておけばよかったね。
「ええ~?キノコっすかー?」みたいに一言言ったのに(笑)。
一同:
(笑)。
──そのプログラマーが「これでいいんですか?」というのは、責任を負いたくないからというのがあるんですかね……?
坂口氏:
うーん……大体そういう時って、本当に面白くない要素が入ってしまっているんですよね。僕とか企画サイドも手探りの状態だったりするので、そうすると泥沼状態になります。ただ、ある程度は作り切ってもらわないと答えが出ない。
先ほども言ったように、スクラッチアンドビルド的な作り方になりますから、答えが見えてこない限り、「申し訳ないけど、もう少し手を進めてよ」と、なるんです。そこでたまに反撃が来たりして。まあ、仕方がないんですけどね。
葉山氏:
まあ、『ONI』の場合は本当にコンパクトにギュッと作った感じなので、手探りの期間が少なかったのかなと思います。最初の方向性も決めて、途中でいろいろ意見をもらいながら良くしていくとか。そういう変更を加えていったりしましたね。
──その『ONI』を作っていく過程でミストウォーカー時代に学んだことが使えたとか、自分でやってみて、坂口さんの言葉を思い起こすことはありました?
葉山氏:
「ひとりでなんでもやる」というのはミストウォーカーの時の経験が活かせたと思います。ミストウォーカーは人が少なかったので、ひとりでエフェクトから何まで作ることがたくさんあったんです。
そこでいろいろやったことで、自分のスキルが増えていくというのがいっぱいありました。やっぱり、インディーだと人をたくさん入れられませんから、いくつかは自分が兼任する必要があったんですね。それをするに当たって、ミストウォーカーの時の経験が活きたと言いますか、人数を抑えて作れたというのはありますね。
あと、坂口さんのように1度、動かすものを作ってみて感触を確かめて、良ければそのまま進め、ちょっと違うと思ったら改良を加えたりして進めていくのはやりましたね。
──作っている時にちゃぶ台返しはなかったのですか?
葉山氏:
それは無かったですね。
坂口氏:
なら「ちゃぶ台返し」という技を入れても良かったんじゃない(笑)。
葉山氏:
いやいや(笑)。まあ、スケジュールとかもありましたから、やること・やらないことは決めていました。ただ、「こういうのを入れたかったな」というのは少しありましたね。
坂口氏:
規模感が難しいよね。
だから、僕が最初に気になったのが「プレイ時間は何時間かな」「ボスは何体いるんだろう」というところだったんです。少なすぎると成り立たないし、逆に大きくしたらインディーズ的に作り切れないからね。そのバランスは本当に難しいと思います。
とくに、ボスは心配だったんですよ。10時間ぐらいの規模でボスが少ないと、隙間だらけのゲームになっちゃいますから。
葉山氏:
ボス戦は所々に入れることでアクセントになりますからね。ですから、インディーで価格も抑えたゲームですけど、「10時間ぐらいは遊べるもの」というのは最初に目指したところです。
坂口氏:
ただ、10時間でも大変だよね。
葉山氏:
大変ですね。テストプレイをするにもけっこう時間がかかりましたし。『ファンタジアン』に比べますと、テキストもイベントの量も少ないですけど、それでもけっこう見逃しがちと言いますか、確認する部分が出てくるんですね。
坂口氏:
まあでも、完成して何よりですよ。世の中、暗礁に乗り上げてどうにもできなくなるプロジェクトも多いですから。
そうなると、プログラマーもけっこう、優秀な方だったんだね。
葉山氏:
そうですね。けど、コンシューマのゲームを作るのは初めてでして。
坂口氏:
え、そうなんだ!? それはすごい。
葉山氏:
スマホでカジュアルゲームを作られたことはあるんです。
けど、『ONI』を作っていくうちに彼もどんどん成長していきまして。
──そういった方々が社員ではないですけど、みんな専属みたいな形で?
葉山氏:
もう、それこそ本当に傭兵部隊みたいな感じです。フリーランスの方にお声がけして、このプロジェクトだけ参加していただいたりしまして。
なので、3Dからモデリングも5~6人のフリーランスの方に都度、お願いしました。常に人を集めている感じでしたね。
日本の昔話を題材にした“和”ものをやりたいという思いから『ONI』は生まれた
──ミストウォーカーでは主にRPGを作られていたと思いますが、今回の『ONI』はアクションゲームじゃないですか。RPGとアクションだと作り方も全然違ってくると思うのですが、それを決められた理由はなんだったのでしょうか。
実際、作ってみて過去に学んだことが活きたりとか、ゼロから考え直さなければならなかったりしたこともあったのでしょうか。
葉山氏:
「自分だけでRPGを作る自信がなかった」というのが一番大きいと思います。坂口さんを後ろから見ていて、「こういうのは作れないな」と(笑)。だから、新しいことをしなければいけなかったんです。
──見てきた人が偉大すぎたあまり……。
葉山氏:
はい(笑)。ですから、RPGは考えられなかったです。
それにアクションゲームを作れるようなノウハウもまったくなくて。
ただ、アクションゲームにすれば、RPGよりもストーリーなどの部分を抑えられるから作りやすいだろう、という目算はあったんです。
ところが、アクションゲームはアクションゲームで大変と言いますか、いざ作ってみると操作の触り心地とか、けっこう奥が深くて(笑)。そのようなところで山本さんに菅野さんという方をご紹介いただいて、アドバイスをもらいながら作っていった感じでした。
──そもそも『ONI』で葉山さんが作りたかったものとは何だったのですか?
葉山氏:
日本の昔話を題材にしたものをやってみたい、という思いが少し前からあったんです。ゲームって西洋ファンタジーが主流だと思うんですけど、自分は日本人なので、それを題材にした何かができないかな、と。
それで日本の昔話って、ヒーローものが多いなと考えた時、『桃太郎』が浮かびました。けど、それだとオープンワールドのフィールドを桃太郎が冒険する、とんでもなく壮大なものになってしまうと思ったんですね。そこに小鬼のキャラクターがいたんですけど、それが可愛らしくて、じゃあ、「鬼を主人公にしてみようかな」と思って作り始めたんです。
ただ、最初はスマホ向けに作るつもりだったんですよ。けど、思っていた以上に反響がありまして。それで自分も調子づいて世界観を作り始めて、「じゃあ、コンシューマ向けにやってみようかな」と、少しずつ広がっていった感じでしたね。
坂口氏:
それはUnityで?
葉山氏:
はい、Unityですね。
坂口氏:
ああ、やっぱり。そこも大きいよね。
ゲームエンジンですから、そのままUnity上で動いていればコンシューマにも乗りますし。
葉山氏:
あのフィールドもUnityに制作用のアセットがあったので、コンセプトアートもなしに直感で作っていきまして。それでキャラクターを載せてみたら、いい感じになっていきました。
──勝手なイメージですが、ミストウォーカーさんって西洋ファンタジーに強く、美しい世界を作られるイメージがあると思うんです。葉山さん的にはミストウォーカーさんで学んだ西洋ファンタジーの路線に行くのがやり方としては楽だったのでは、と思ったのですが……もともと、葉山さん自身、和の世界をやりたいんだという考えがあったんですね。
葉山氏:
そうですね。とはいっても、もともと僕は西洋かぶれなので、和にはあまり興味がなかったんです(笑)。
けど、歳を重ねるにつれ、神社やお寺に行った時に日本の美しさを感じるようになりまして。もっと日本のものを、という感覚が芽生えてきたんですね。
坂口氏:
確か、葉山くんって阿蘇の生まれだよね?
葉山氏:
はい、そうですね。
坂口氏:
お父さんが阿蘇で美術館をやっているんですよ。
──え、そうなのですか!?
葉山氏:
はい、絵本の美術館をやっています。
坂口氏:
だから鬼ヶ島が出てきた時、「阿蘇山だね」と思ったんですね。あれが彼の原風景なんですよ。
葉山氏:
それで、ミストウォーカーの時のファンタジーとは違う、自分ならではというところで和がいい、今までとは雰囲気を変えたものもありかなと思いまして。ただ、和ではありますけど、新しい“モダンな和”をイメージしましたね。UIにアルファベットが記されていたり、英語の歌が流れるという、グローバルに受け入れられるような工夫はしました。
『テラバトル』の時もUIの中に無駄に英文字を入れたりとか、けっこうやっていたんです。「いらないよ」とか言われても、無理矢理入れたりして(笑)。
坂口氏:
僕はいつも「見づらい!」と言っていましたが(笑)。
葉山氏:
(笑)。けど、自分の中に英文字が入るとカッコイイというのがありまして。
それで無理やりねじ込んでいましたね。
──先ほど、坂口さんは葉山さんを「真面目だ」と評していましたけど、そういったこだわりの強い部分もあるんですね。
坂口氏:
まあ、だいたいみんなそうですよね。自分の主張は当然のように持っていますから。良くしたいという気持ちからやっているわけですし。
訳の分からない文字が入っている感じはしますけど(笑)、とはいえ、そこに何かがあることで見栄えがよくなりますからね。
葉山氏:
でも、『テラバトル』の時はあまりデザインに関しては言われたことがなかったんです。普通はけっこう細かく言われて、自分のやりたいものから脱却していくことがあるのですけど、『テラバトル』では本当、好き勝手にできまして。
坂口氏:
僕自身、彼のUIデザインが好きなんですよ。だから、そのまんまやってくれればいいという感じです。
そこに『テラバトル』でしたら、藤坂(藤坂公彦氏)【※】の絵が乗るんですけど、彼のシンプルさと藤坂の強烈な色が自然に組み合わさる感じで、ちょうど合うんですよね。
だから「すごい!」となって、そのままOKという感じでしたね。
※藤坂公彦
ミストウォーカー所属のイラストレーター、キャラクターデザイナー。キャビア所属時には『ドラッグオンドラグーン』シリーズのキャラデザを務めた。
葉山氏:
ただ、画面遷移とか、そのようなところでは意見をもらっていろいろ調整したりしましたけどね。
──デザインのディレクターとやり取りするのではなく、坂口さんと直接的にやり取りして作り上げていったのですか?
葉山氏:
基本的にそうです。アートディレクションの役割も、坂口さんが兼ねていました。
坂口氏:
まあ、そんなに指示出しはしないんですけど、嫌なものにはしっかり言います。「これ、ダサくない?」みたいに(笑)。
一同:
(笑)。
──そういう指示の出し方なんですか(笑)。
葉山氏:
良かったら「いいね」のマークが付くんですよ(笑)。
それにくわえて、「いいね」の段階があったんです。ひとつ付くと「これはまあまあだったんだな」、3つ付くと「あ、これはよかったんだ!」みたいな感じで判断していましたね。
──(笑)。
葉山氏:
藤坂さんも基本的には描いていて、アートディレクションに関しては坂口さんが全部見ていましたね。
坂口氏:
藤坂もそうだよね。ディレクションはしないです。コツコツとキャラクターの絵を描くという感じですから。
──その坂口さんのディレクション、たとえばゲームシステムの構成やアートの感じとかを最初に提示するのではなく、「いい感じのものを使っていく」というやり方がとても興味深いです。そのようなやり方でもブレずに行けるものなのですか。
坂口氏:
いや、最初は一応、Photoshopで自分だけのデザイン案をコッソリと組みます。それである程度の雰囲気が見えてきますので、「こう動かしたい」みたいに考えてスタートする、という感じですね。
僕自身、たとえば葉山くんが手がけるUIとか、背景画などの部品は描けないんですよ。ただ、プロジェクトが始まるとある程度の部品は集まってきますので、そこから最初の案を元に選んでいくという感じですね。
なんと言いますか……宣伝商材みたいな感じで、見つけてきた画像を使って作るんですよ。戦闘シーンに背景、それからタイトル画面を。特にタイトル画面ってけっこう大事で、ロゴの位置とかを考えるんです。すると、自分の中で雰囲気が出来上がってくるんですね。
──それを社内のチームの人に共有して……?
坂口氏:
「僕がイメージするために作った」みたいな見せ方はしませんね。最初の企画書…、たとえば『ファンタジアン』であれば、Appleに説明するためのベースの企画書は社内に共有しますけど、これは見せない。本当はすごく悩んだりしているんですが、その姿を見せたくないんですね(笑)。