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坂口博信と共に『ファンタジアン』を作った“弟子”が、ついに自分のゲームを完成させるにいたるまで。『ONI – 空と風の哀歌』に込められた、師匠直伝の技とは?

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「常に考えていたい、常に作り続けたい」。師匠譲りのモチベーションの源とは

──ゲーム業界って、映画や漫画に比べるとまだ若いと言いますか、今になって「歳をとったから引退していく人」が出始めた状況にあるように思います。そんななかで、坂口さんは今なお第一線で作り続けられています。
  葉山さんから見て、たとえば10年後、20年後どうなっているのかと考えた時、やはり坂口さんはある種のロールモデルとして映っているのでしょうか。

葉山氏:
  坂口さんって、「常に何か考えていたい、常に作り続けたい」という独自のイメージを持っておられるんですね。その気持ちは自分もよく分かりまして、「常に考えていたい、常に作りたい」というのがあるんです。
  ですから、次の企画だったり、アイディアは湧いてきていますし、多分、70歳ぐらいになっても作り続けているんじゃないのかな、と思いますね。何もせずに生活し続けるというのは、ちょっと自分の中では考えられない。

  常に何か考えているのが楽しいんです。たとえば映画を観た時とか、ちょっとしたことで刺激を受けるとやりたい意欲が湧いてきますので。そういう気持ちが強いので、何十年後もきっと作り続けているのだろうと思います。

──逆に坂口さんが今もなお、制作のモチベーションを保ち続けている源泉はあるのですか? 特にインディーの話になると、けっこうパッションの話が多くあって、葉山さんもどこにそれを持っているのだろう、維持し続けているのだろうというのはすごく興味があります。

坂口氏:
  うーん……こうしたらモチベーションが上がるよ、みたいなのはないかもしれませんね。今、葉山くんも言ったように内側から出てくる人は勝手に出てきちゃうんですよ(笑)。

  ただ、作りたくないという時はありますよ。コロナが流行ってから僕はロスでこもることになったんですけど、あの時ってちょっと気が落ちたんですね。作りたいという気持ちが出てこなかった。
  その意味では外の世界と接したり、人と会ったりするのは刺激になっていて。そういうのが無くなってしまうと逆にモチベーションは落ちるのかもしれないです。

  あとは元気にやっている人を見るとね、「大変大変、休んでいる場合じゃない!」と。昨日も天野さんに会って、実は「こうでこうでさ、こんなのをやろうと思っているんだ」という話を聞いて、「あらら、僕も頑張らなくちゃ」となるんです。そういうのありますよね。意外とそんな単純なことなんです(笑)。

葉山氏:
  それですと坂口さん、なんか新たなプロジェクトを考えられていると聞きましたが、それも何かきっかけがあったんですか?

坂口氏:
  それは……あまり言うとヤバいんだけど(笑)。

葉山氏:
  あ、すみません(笑)。

一同:
  (笑)。

坂口氏:
  まあ、アメリカで一緒に仕事しているやつがとってもアグレッシブで。
  それに若干、引っ張られている感じだね。

──坂口さんが普段いろんなエンタメを含め、常にアンテナを張り続けている秘訣って何かあるんですか?

坂口氏:
  いや、普通じゃないですかね。この間なら『トップガン マーヴェリック』面白いなー、って思ったし。今は帰国してて『THE FIRST SLAM DUNK』観に行かなくちゃって思っているし。
  それはまあ、世の中で話題になっているので、けっこう見ていますね。テレビドラマも『どうする家康』と、あと……なんだっけ。あ、『ブラッシュアップライフ』だ!あれは今季のベストだと思ってます(笑)。

一同:
  (笑)。

葉山氏:
  坂口さんはミストウォーカーにいた時から、いろんなものを見られていましたね。メールで「これ面白いよー」と送られてきたりもして。

坂口氏:
  アニメとかも藤坂と葉山くんに「え、『血界戦線』見てないんですか!?マジっすか!?」と言われたり(笑)。横の繋がりでいろんな情報が来るからね。

──でも、そんなふうにアンテナを張れることって、それも一種の才能だと思っていまして。うちはゲームメディアなので、普通の人よりもアンテナを張り巡らさないとダメなんだよとは言いますけど、教えてできるようになるものではないと言いますか。
  習慣的にはできるんですけど、その素養みたいなものは「自分が知りたいんだ!」というところにあると思うんですね。

坂口氏:
  まあ、僕が女房によく言われるのは「ハマり度がすごい」ってことですかね。
  今はブレスレット作りにハマっていて。これ、自作なんですよ。

──え!? 素材から作っているんですか?

坂口氏:
  そうです。イチから作るのにハマっちゃっていまして。だから、いまはデスクの周りも革だらけです。

一同:
  (笑)。

坂口氏:
  還暦だったんで、赤いブレスレットがほしかったんですね。でも、赤って意外と売っていないもので。そもそも、皮革だと赤の発色が難しいんだよね。いろんな赤があって、なかなか気に入るものがない。となれば、もう作るしかないなと(笑)。

葉山氏:
  いや、なかなかそこまではならないですよ(笑)。

坂口氏:
  まあ、ハマると発見があるじゃないですか。ブレスレット作りもこんなことをやるんだ、みたいなのがある。
  だから、その意味ではハマりやすい性質ですね。

パリの街並みの映像を見たとき、そこで立ち止まるのか、実際に行って散策するのか

葉山氏:
  坂口さんは、『ファイナルファンタジーXIV』(FF14)にもすごくハマっていますよね……。

坂口氏:
  『FF14』も……いや、MMOはやり始めたら止まらないのが自分でも分かっていたというか、昔そうだったから(笑)。
  だから封印していたんだけど、吉田さん(吉田直樹氏)と対談することになって、対談する以上は遊んでおかないと失礼だなと思い、始めました。

 そして、そこに松野(松野泰巳氏)がすでにヘビーなヒカセンとして居て、彼が手取り足取りいろいろ教えてくれたんです。
 今思えば、あれで『FF14』の世界にハマった……いや、もしかしたら松野にハメられたのか……。
  「松野~、これお金足りないよ?」と言ったら、(ゲーム内で)100万ポンとくれたしなぁ(笑)。

葉山氏:
  もう抜け出せませんね(笑)。

坂口氏:
  抜け出せないねぇ(笑)。

──MMOはここしばらくコロナだった影響もあってハマっていたのもあるんでしょうかね。

坂口氏:
  いや、本当にハマるのは分かりきっていたんですね。

──『エバークエスト』【※】をかなりやり込んでいたと聞いたことがあります。

※エバークエスト
Sony Online Entertainment社が1999年にリリースしたMMORPG。種族、職業、信仰の異なるプレイヤーキャラクターが闊歩するノーラスと呼ばれる世界を冒険する。坂口博信氏をはじめ、『FFXI』の開発スタッフたちが入れ込んでプレイしていたエピソードが有名。

坂口氏:
  あの頃は『エバクエ』から出てこなかったですからね。
  『エバクエ』内に「会議ですよー!」と呼びに来られたほどですし。

一同:
  (爆笑)。

──電話やメールじゃなくて『エバクエ』で呼び出しですか!(笑)。

坂口氏:
  「あー、いるいる」「坂口さーん、始まっていますよー」と(笑)。

葉山氏:
  『パズドラ』(パズル&ドラゴンズ)の時もすごくハマってましたよね。

坂口氏:
  あれは課金も含めて、よくできていると思ったからね。

葉山氏:
  そうですね。『テラバトル』をやる前にスマホを研究するというところで。

坂口氏:
  正直、最初は甘く見ていたんですけど……あの課金のシステムって、人間の欲望が複雑に入り込んでいるじゃないですか。「成長して強くなって、倒せなかった敵を倒せればいいや」ぐらいに思っていたのが、あれによって「もっと強くなりたい!」という欲望が刺激される。
  「あ、これはすごいな」と思ってハマっちゃいましたね。確か200万ぐらい注ぎ込んだのかな……。

坂口博信と共に『ファンタジアン』を作った“弟子”が、ついに自分のゲームを完成させるにいたるまで_022

──ええぇ……(笑)。

坂口氏:
  いや、「お金使ったらどうなるんだろう?」と、突っ込みまくったよね。
  今はもう、アプリのデータもどこかに行っちゃったけど(笑)。呼び出せばあるのかな……。

──でも、そうやって「好奇心を持ち続ける」って意外と難しいじゃないですか。歳を取ってくるとなおさらそう感じられるのですが、そこは自然体なのですか?

坂口氏:
  なんでしょうね……。たとえばパリの街並みの映像を見たり、綺麗だよねって人から話を聞いたとき、「そこで立ち止まるか、実際に街に行って散策するか」の差みたいなことだとは思うんですよね。
  やっぱり、実際に見たり、やったりすると受ける刺激や発見が違うんですよ。それで「あ、俺にはこう感じるのか」と、自分だけの“なにか”を感じるはずなんです。

  ただ、今の時代はネットでやれちゃうから、立ち止まるじゃないですか。そういうことはしないように、とは思っています。ちょっと億劫になるんですよね。けど、「それはダメだ、行かなきゃ」と。そこを意識しているのが大きいと思いますね。

葉山氏:
  僕も実際に見て、感じたい派です。
  やっぱり、写真で見るだけじゃなくて、直接感じてみたいと言いますか。

坂口氏:
  感じ方が違うよね。まあ、お父さんが美術館をやられていますから、そういう素地があるんだろうと思います。生のものを見よう、と。

葉山氏:
  1回、いろんなものを見たり、聞いたり、感じたりすると自分にさまざまなインスピレーションが湧きますからね。ただ、今ですと『Netflix』『Amazonプライム・ビデオ』とか、常に見られるものが溢れてしまっている感じで。

坂口氏:
  そうなんだよね……見切れないよね。映像作品なんてすごいことになっちゃった。よく、ここまで作る人がいるんだなと(笑)。まあ、ネタも量もすごいですからね。

葉山氏:
  昔は「これを見たいけど借りられない、借りに行くのが億劫」とかあったんですが、レンタル屋に行けなくてもその場で見れちゃうんですね。ゲームもダウンロードで買えちゃいますし。ちょっと触ってみたいな、と思ったらすぐに買えてしまう。

坂口氏:
  そうなんだよね。で、積んでしまう(笑)。

葉山氏:
  積みに積みまくっています(笑)。

一同:
  (笑)

──今ですと、Steamで頻繁にセールがやっていますので、その時に買って積んでしまうみたいなこともありますね。

坂口氏:
  確かにね……。まあ、パッケージとの差というのがダウンロードだと出てしまうのでしょうね。まあ、そういう時代ですから、こればっかりはしょうがないことだとは思います。

ミストウォーカーが少人数なのは、ジェームズ・キャメロンへの憧れから

──葉山さんがミストウォーカーを辞められ、独立することになった当時ってどういう状況だったんですか。

坂口氏:
  『ファンタジアン』が一段落してから、だよね。

葉山氏:
  はい。皆さん、自分の作業が終わって散り散りに去っていく感じでした。

坂口氏:
  一番多い時で、あのオフィスに30人ぐらいいたんですね。今は4~5人で、もともとその規模の会社なんです。だから『ファンタジアン』が終わりに差しかかる頃には葉山くんも仕事が一区切りついていて、本人としてもちょうど動きやすかったんじゃないかと思います。

葉山氏:
  タイミング的にもちょうどですね。最初はフルタイムでやっていたんです。それから一週間の半分だけ関わることになって、あとはどんどん短くなっていきまして。その間に時間ができましたから、準備も少しずつできたんです。

──なるほど……。しかし、坂口さんがそういったスタイルの物作りに行き着いたのって何か経緯があったのでしょうか。

坂口氏:
  僕、CG映画をやったことがあったじゃないですか。あの時にキャメロン(ジェームズ・キャメロン)【※】に会えたんですよ。当時は『タイタニック』の頃で、オフィスにはイカリが飾られていたりもしました。
  で、すごいなと思ったのが「スタッフは何人いるのですか?」と聞いたら、「え?秘書と俺だけだよ」「スタッフは映画を作るたびに集めるんだよ」という話になって、「カッコイイ!」「これだよーッ!」となりまして(笑)。それでミストウォーカーに至ったんですね。

坂口博信と共に『ファンタジアン』を作った“弟子”が、ついに自分のゲームを完成させるにいたるまで_023

  だからもう、僕はキャメロンを目指している感じなんですよ。しかも今の時代、葉山くんもそうですけど、みんなフリーランスになってきて、優秀な人材が外に溢れている。多分、これが十年前だったらそうはいかなかったのかもしれませんけどね。
  いい人たちの多くは会社に所属されていることが多かったですから。それが大きく変わって、時代がやってきたなと感じていますね。

※ジェームズ・キャメロン
『ターミネーター』シリーズ、『エイリアン2』、『タイタニック』、『アバター』シリーズで知られる映画監督。なお2023年現在、世界歴代興行収入ランキングの上位5作品中、3作品が同氏の監督作品である。

──20~30人は在籍されていると思っていたのですが、本当に4~5人なのですね。

坂口氏:
  まあ、実質5人ですね。

──アメリカの映画業界ですと、人材の流動性が高いから、あのようなことができるみたいなことが言われていたように思うのですが、日本でそれをやるに当たっての苦労はあるのですか。

坂口氏:
  たしかに昔は難しかったですけど、今はけっこうできるようになってきましたね。ただ、前に一緒に仕事したことのある人の方がいいんですけどね。事前に連絡を取り合って、「あと1年後ぐらいに始動しそうなんだ」という話をすれば、すぐに仕事の調整をしてくれたりしますし。

  ただ、『ファンタジアン』の時はそうじゃなかったんですね。本当にゼロから集めた感じで。まあ、その時に元スクウェアの人間にも多少当たりましたけど、基本的に半分以上は初めてお会いする人たちでした。
  それでも最終的には上手くいったんですね。本当に優秀な人たちが集まりまして。プログラマーも優秀だったよね。

葉山氏:
  そうですね。いい人材が揃って、本当に良かったです。

坂口氏:
  けっこう、いけちゃうんですよ。

──葉山さんから見ても「そういうの行けるんだ!」みたいな印象を抱かれたのでしょうか。

葉山氏:
  そうですね。傭兵部隊みたいに集めて「行くぞ!」みたいな感じでできるんだな、と。なので、僕も「ひとまず声をかけてみて、ダメならば次の人へ」みたいにやっていきました。あと、その人のツイートも見るんです。どんな性格なのかが見えてきますので。

──過去までさかのぼってチェックされるのですか(笑)。

葉山氏:
  それで「ちょっと合わないな……」という人は止めたりして。

坂口氏:
  だったら、毒を吐く用のサブアカを作っておこうかな……(笑)。

葉山氏:
  (笑)。なので、Twitterでも毒を吐かない人は多分、現実だともっと吐かないと思うんですよ。
  SNSだとつい、吐いてしまう人もいるとは思いますけどね。

坂口氏:
  否定的なことが多かったりね。

葉山氏:
  ただ、今は本当に作りやすい時代になったと思います。

──プログラマーで優秀な方が揃ったというのがすごいです。

坂口氏:
  僕の場合だと、ひとりは『ブルードラゴン』『ラストストーリー』で一緒だったんです。『テラバトル』でもオンライン対戦は彼に作ってもらいましたので、もともと優秀であると分かっていたんですね。あと、彼からの繋がりもありました。プログラマーにもネットワークがありますからね。

葉山氏:
  ゲームを作る上でプログラマーさんは本当に重要ですので。

坂口氏:
  大工さんだからね。いくら設計図が良くても、大工の腕が悪いとガタが来ます。

葉山氏:
  僕がデザインしても、そこに命を吹き込んでくれるプログラマーさんがいないと成り立ちませんので。最初は自分でプログラムを勉強しようかなと思ったんですけどね。ちょっとこれは無理だな、と。

坂口氏:
  あれはなかなかね……。

葉山氏:
  なので、下手に足を突っ込むよりは、やはりその道のプロにお任せするのがいいな、と。自分は自分のできることに専念するという。ただ、今回はディレクション自体が初めてでしたので、最初は何をどう作ったらいいのか分からない部分がありました。ただ、小規模だったので、何とか乗り越えられた感じですね。

──プログラマーとのやり取りも全部、葉山さんがやられたのですか?

葉山氏:
  そうですね。あとはフリーのデザイナーさんを始め、外注の方々への声かけとか。
  それこそお金の振り込みまで、全部自分でやっていました。

──スケジュール管理からマネジメントまですべて、ですか……。

葉山氏:
  もう、何をしているのか途中から分からなくなる時もありまして(笑)。

──プロデュースも?

葉山氏:
  そうですね。ただ、そういったところは集英社ゲームズさん、クラウディッドレパードエンタテインメントさんにサポートいただきまして、山本さんからもプロデュースに関しては何かとアドバイスをいただきましたね。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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