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坂口博信と共に『ファンタジアン』を作った“弟子”が、ついに自分のゲームを完成させるにいたるまで。『ONI – 空と風の哀歌』に込められた、師匠直伝の技とは?

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「ちょっと触ってみたいな」というフックを仕込む

──今回の『ONI』はどんなゲームかと言われるとけっこう、説明の難しいゲームだと思っているんです。もちろん、桃太郎に復讐するというストーリーはあるんですけど、ゲームとして何が売りで、どう面白いのかと説明するのが難しくて。

坂口氏:
  僕は鬼のキャラクターがポコポコ、可愛く殴ったりするのがすべてだなと最初に思いましたけどね。「あ、カワイイ~」という。あれが売りじゃないですか。手にして遊んでみたいな、というのがある。

  「鬼ヶ島の鬼が主人公」「アクションゲーム」とだけ言われると、「とりあえず、積んでおこう」となる(笑)。けど、あの可愛さが何だか触ってみたいなと思わせてくれて、そこはちゃんと押さえていると感じましたね。

──個人的には背景とか、色遣いがいい感じだなと思っていまして。

坂口氏:
  それもありますよね。

葉山氏:
  自分が見せたいビジュアルを存分に見せている感じです。

──そこがすごくインディーゲームらしくて。この葉山さんが思う“いい感じのもの”はどう突き進んだ末に辿り着いたのかに興味がありまして、坂口さんから学んだ何かが活かされているのかな、と思うんですね。

葉山氏:
  そうですね……ただ今回はもう、自分で企画して自分で作るゲームでしたから、100%の自分を出そうとは思いました。ですから、音楽も自分の好きなものにこだわって、いいなと思う人に声をかけて作曲してもらいました。

  音楽はゲーム中、常に流れているのですが、ボーカルの曲ってオープニングやエンディング以外で流れるケースって少ないと思っていまして。それでフィールド上でもボーカル楽曲をかけたりして、とにかく自分の好きなものを詰め込んでいますね。

──喫茶店でもいい感じの所だと、オーナーの好きなものを集めている感じが出ていると思うのですけど、『ONI』にもそれに近い感じがあるように思いますね。

葉山氏:
  まさにそういう感じで。やっぱり、大きな会社だと自分のやりたいことを100%できないことの方が多いんですね。

  今回は自分でやる分、いろんな責任もあったりして大変なこともあったのですが、それ以上にやりたいことをやれる喜びが勝りました。大変ではあったけど、やり切ったという手応えはありますね。

──坂口さんから見て、最近のインディーゲームのように個人がひとりでゲームを1本作り切ることについて、どう思われているのでしょうか?

坂口氏:
  まあ、日本のクリエイターはこういうスタイルでどんどん作っていくことで、業界も元気になっていくだろうとは思いますね。エンジンのおかげというのも大きいとは思います。
  もともと、ファミコンの時代なんて5~6人で作っていましたからね。そこに先祖返りしているとも言えるかもしれません。

  今って二極化と言われますけど、ゲームなんてまさしくそうじゃないですか。片や予算100億の1000人以上のクリエイターが世界で売れるものを作る、片や少人数のクリエイターが自分だけの世界観にこだわって作る。どちらかというと、少人数で作るのが日本人が得意とすることですよね。アイディア勝負みたいなところもありますし。
  僕は正直、そういう小規模の方が好きなんです。ファミコンで育ってきたせいもあるんだろうけど、キラッと光るアイディア、デザインがあるものが好き。あまり大作ばかりになるのはツマらないと思っている派ですので。

  今はエンジンというベースがありますから、昔ほど小粒でもなく、中規模のボリューム感はありますけど、だからこそ商品としても成り立ちますし、作品性としても強い。
  なので、日本のクリエイターはこのスタイルで行くのが合っているんじゃないのかな、と。日本では今、なかなか大作が作れませんからね。けど、悲観する必要はないと思っています。

葉山氏:
  『ファイナルファンタジー』って、2や3ぐらいまでは少人数だったんですか?

坂口氏:
  1の時は最初4人で、最終的に音楽も含めて12人ぐらいじゃないかな。2は少し増えたけど、出だしは10人ぐらい。まあ、容量があまりないから、絵がそれほど必要なかったんだよね。

葉山氏:
  でも、制限がある中でいかに綺麗に表現するか、という環境で作られていたんですよね。

坂口氏:
  そうだね。ああいう方が楽しかったですね。みんなの顔も見えてますし。
  ですから、未だに集まって飲んだりもします。

葉山氏:
  まあ、何百人も参加しているプロジェクトだと、誰が誰だか分からなくなってしまうんですよね……。少人数ですと意見も通りやすいですし、話も早いんですよね。パッと決めてパッと作る感じで。

昔、一緒に仕事をした集英社と仕事の仲間がタッグを組んだ感慨深さ

坂口氏:
  今回、集英社さんとやってみてどうだった?
  あ、僕はここには居ないものと思って喋ってくれれば(笑)。

一同:
  (笑)。

葉山氏:
  いやいやいや!(笑)。
  本当に山本さんと森(通治)さん【※】にはものすごく助けていただきまして。
  いなかったら進まなかったです。

※森通治
集英社ゲームズ執行役員。インディーゲーム開発を支援するプロジェクト「集英社ゲームクリエイターズCAMP」を手掛け、『ONI』もこの取組みから生まれたタイトルとも言える。

坂口氏:
  それはよかった。ちょうど、集英社ゲームズの立ち上げと葉山くんが作り始めたタイミングが絶妙だったんでしょうね。端から見ていて、「本当にラッキーだな」と思いましたよ。

葉山氏:
  いろんなタイミングが重なって、今に至った感じでしたね。

坂口氏:
  ねえ。よかったよね、本当に。
  ファイナンスもですけど、個人じゃ無理ですから。

葉山氏:
  はい、無理ですね。特に宣伝に関しては、個人だと限界がありました。

──プロジェクトが暗礁に乗りかけるとか、ヤバい時期とかはなかったんですか?

葉山氏:
  まあ、ないことはなかったんですが……(笑)。
  スケジュール的なこととか、ちょっとヤバいぞみたいなのはありましたね。

坂口氏:
  集英社からプレッシャーはなかったの?

葉山氏:
  いやいや!プレッシャーはそんなに……!(笑)
  むしろ、「じゃあ、どうやって乗り切ろうか?」みたいに一緒に考えてやっていきました。

──坂口さん的には、一緒に仕事をした葉山さんが集英社さんと組んだことに対して、感慨深いところもあるんじゃないですか? ご自身が昔、集英社さんと一緒に仕事をされていたことがありましたし。

坂口氏:
  まあ、感慨深いという意味だと葉山くんがやったことより、「集英社がそういうことをやるんだ!」という時代の変遷を感じましたね。

 出版社さんがゲーム事業に進むのはビックリと言いますか。そこからさらに遡ると、確かに葉山くんが組んだというのは感慨深いと同時に「へえー!」という驚きがありましたね。

──集英社ゲームズさんと坂口さんとの繋がりができたのは今日が初めてですか?

坂口氏:
  そうですね。名刺交換したのも初めてです。
  即メールしようかな(笑)。

一同:
  (笑)。

坂口氏:
  投資のお願い、しちゃおうかな(笑)。

集英社ゲームズ担当:
  3年前でしょうか。ある授賞式の会場にいらっしゃっていただいたんです。

坂口氏:
  そうですね。その時、鳥嶋さんと一緒でしたね。

集英社ゲームズ担当:
  鳥嶋さん、堀井さんの3人で喋っていて、僕がそれを横で見ていて(笑)。

坂口氏:
  そうでした、そうでした。
  あそこの料理、おいしいんですよね。天ぷらとか寿司とかいろいろあって。
  それで「坂口、寿司はまず先に行かないと売り切れるぞ!」と鳥嶋さんに教わりました(笑)。

一同:
  (笑)。

──坂口さんって今、日本にはどれくらいいらっしゃっているんですか?

坂口氏:
  基本は年に4回ほど帰ってくるつもりでいるんですけど、ここしばらくはコロナのこともあって、去年の9月、一昨年に1回かな。去年は年末年始も考えていたんですけど、インフルエンザになっちゃって断念しました。

  まあ、だいぶペースは減りましたね。昔は月1ができていたんですけど、リモートに慣れちゃいましたので。僕自身だけでなく、チームのみんなも基本的にリモートでやれるようになってしまったんですよね。

坂口博信と共に『ファンタジアン』を作った“弟子”が、ついに自分のゲームを完成させるにいたるまで_021

──『ファンタジアン』がリモートで作られたというのを思えば、尚更ですね。

坂口氏:
  ただ、反省会の時、「ブレインストーミングの時にコロナが来ていたらヤバかったね」というのはみんな言っていました。さっき言ったように手探りで作り出すので、そういう時はそばに人がいないとコミュニケーションが上手く取れないですし、ちゃぶ台返しが起きた時の反動がデカいんです。
  それこそ「ふざけんな!」になっちゃう。リアルだと、そばに人がいるから細かいニュアンスも雰囲気で伝わりますからそのあたりのすれ違いがカバーしやすい。

  けど、後半の作り込む段階になったら全然大丈夫、これで僕ら行けちゃうねという話はありました。

葉山氏:
  最後の方は道筋が決まっていましたし、量産もすんなりいけそうな感じでしたからね。

坂口氏:
  量産になるとリモートでも大丈夫だよね。
  ただ、出だしは集まった方がいいかもしれない。

葉山氏:
  僕も『ONI』の制作を開始した当初はオフィスに3人ほど集まって企画を詰めたんですが、その後はリモートでした。

坂口氏「エゴサはいっさい見ないと決めている、見てもネガティブな気持ちになるだけだから」

──葉山さんは今回『ONI』を作り切ったことで、坂口さんに聞いてみたいことってありますか。ちなみに開発中に坂口さんに相談をされたとかはあったんですか?

葉山氏:
  いや、全然していないですね。

──となると、坂口さんがツイートされていたのは本当に個人的なもので……?

葉山氏:
  僕が企画を立ち上げて、「今回、発表させていただきました」と連絡しましたら、坂口さんがツイートしてくれたんです。ミストウォーカーを離れる時も坂口さんが「何かあったら宣伝してあげるよ」とおっしゃっていただいていたことを、僕は真に受けまして(笑)。

──ええ!?

坂口氏:
  いや、全然オッケーですよ!

一同:
  (笑)。

葉山氏:
  「実際、どうなのかな」というのもありましたけど、せっかくおっしゃっていただいたので連絡してみました。そうしたら、本当にツイートしてくれまして。ありがたいです……!

坂口氏:
  別に、ツイートぐらいね(笑)。

葉山氏:
  いやいやいや!(笑)。でも、本当に恐れ多いと言いますか……!

──(笑)。質問を戻しますが、作り切ってみて坂口さんに聞いてみたいことってありますか。

葉山氏:
  そうですねぇ……たとえば、今はもういろんなものが表に晒される時代になりましたから、ユーザーからの意見もすぐに見えちゃうじゃないですか。僕も発表した後にTwitterで調べたりしたんですけど、やっぱり中には否定的な人もいて。
  そういうのに対して坂口さんはどうされているのかな、と。

坂口氏:
  僕はもう完全にシャットアウトです。僕も、ときどき「裏ではどうなっているのかな?」という気持ちにはなりますよ(笑)。でも、いっさい見ないと決めている。見てもネガティブな気持ちになるだけだから、決していいことなんてない。
  まあ、「そんなのを見ているどころじゃない!」というのもあるかもしれないけど。

──葉山さんはエゴサされるんですか? タイトルで引っかけたりして。

葉山氏:
  エゴサまでは行かないですが、レビューは見たりしますね。
  それで参考になる意見があれば、取り入れようと思ったりはします。

坂口氏:
  まあ、あまり気にしない方がいいと思うよ。

葉山氏:
  SNSが無い時代だと、そんな情報は世に出てこなかったんですけどね。

坂口氏:
  昔はハガキだったからね。

葉山氏:
  あ、そういうのは来ていたんですか。

坂口氏:
  パソコンの頃とかはパッケージにハガキを入れていたんだよね。すると、けっこうな頻度で感想を書いて返してくれるんですよ。それが毎朝100通ぐらい会社に届きまして、それを読むのが楽しみでした。で、読んでから気分を上げて仕事を始める(笑)。

  ハガキだから、基本的に悪いことは書かないんだよね。なかなか居ないでしょ、ハガキに「サイテーッ!」って書くやつなんか(笑)。わざわざ書いて出すんだからね。
  だからSNSもそうやって切り分けた方がいいと思う。「気分が上がるところだけ見る」みたいにね。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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