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宮本茂はどうやって「ゲームの映画化は面白くない」に立ち向かったのか――『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がちょっと面白すぎたので、宮本さんに直接訊いてみた

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宮本さんが語る、「僕はこんな人と仕事をしたい」

──先日の舞台挨拶で、宮本さんは「クリスさんと初めて話した時に、ものづくりのやり方が自分に似ていると感じた」とおっしゃっていました。具体的にどのような部分で似ていると感じたのでしょうか?

宮本氏:
 ちょっと細かい部分は触れにくいんですけども……ひとつわかりやすい例を挙げるとすれば、今のゲームって完成しても、発売まで大体1ヶ月くらいあるんですね。その1ヶ月の間に、チーム内でご飯を食べたりしながら、そのゲームの「まずかったところ」をお互いに話し始めるんですよ。

 ここはまずかった、あそこがまずかったって……「お前はネガティブなのか」と言われるかもしれないんですけど、僕はその「傷の舐め合い」が結構好きなんです。「あそこはこうしておくべきやった」、「工場に行って直せるなら今からでも直したい」とか……僕はその発売までの1ヶ月間で、「傷口に塩を擦り込んで楽しむ」ということを、必ずするようにしているんですよ(笑)。

一同:
 (笑)。

宮本氏:
 なぜかというと、発売後に人気が上がると全てが良かったような気になるし、逆に人気が出ないと大失敗したような気になるじゃないですか。

 それは卑怯なので、「結果が出る前に、自分たち(制作側)の考えは固めよう」と決めているんです。これって実はすごく大事なことで、その作品の続編のネタや大まかな方針は、ほとんどそこで決まるんですよ。

 だから、「ゲームが売れてからはあんまり右往左往しない」ということをいつもやっています。

 クリスさんと自分が似てると感じた部分は、まさにここですね。クリスさんは、僕と話をしている時に「失敗の話」をしてくれたんです。失敗から学べる人は、すごいと思います。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が面白すぎたので、宮本さんに直接いろいろ聞いてみた_017

宮本氏:
 もうひとつ、クリスさんは「大事な物事の優先順位をどう決めるか」「問題が起こった時に、その答えを出す解決方法をどんな風にするか」ということに関するプレゼンをしてくれたんです。その時に、僕がいろんなところでしゃべった取材の内容をパワーポイントに映し出して、クリスさんは「宮本さんはこの取材でこう言ってるけど、ここは俺も本当にそう思う」みたいなことを言い出して……(笑)。

 こんなプレゼンを受けるのは初めてやったんですよ。クリスさんは「自分のものづくり」に関するプレゼンを素直にやってくれて……。これに「プレゼン術にハメられたんちゃうか」と思う人もいるかもしれないんですけど、全然そんなことはないんです!(笑)

一同:
 (笑)。

宮本氏:
 こういうプレゼンって、「私に任せればあのメジャースタジオとあの監督とこの脚本家を連れてきて、あなたの作品をハリウッドで大成功する映画にして見せる」という感じのものが多いんです。正直、こういうプレゼンって……怪しいじゃないですか(笑)。

 ただ、「実際にものを作っている人」はここの勘がいいんです。USJやUSH【※6】に「スーパー・ニンテンドー・ワールド」を作る時も、アメリカのユニバーサルのマネージャーにお会いしたんですが、やはりマネージャーの中にもコンストラクションや設計を担当してきた人が多いんですよ。

 僕はどちらかというと、その人自身から「作ってるなあ」っていう感じのする人たちと仕事をしたいんです。

 クリスさんも、ユニバーサルのマネージャーも、「この人は“ものを作ってる人”だな」と感じたんです。そういう人たちに出会えたから、映画や「スーパー・ニンテンドー・ワールド」を作ろうと決めました。

 だから、制作中はクリスさんとは揉めてないんですよ。彼はすごい高みにいる人ですから、そんなクリスさんと一緒に仕事ができているのはすごく幸せだと思います。

※6「USH(ユニバーサル・スタジオ・ハリウッド)」
アメリカのカリフォルニア州にある映画スタジオ及びテーマパーク。USJに続き、「スーパー・ニンテンドー・ワールド」がオープンした。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が面白すぎたので、宮本さんに直接いろいろ聞いてみた_018

宮本氏:
 ただ、僕が制作の終盤で心配になってクリスさんによく言ってたのが、「監督が『もうコリゴリだ!』と言ってしまわないだろうか」ということです。

 というのも、僕はたまに監督の領域に口を挟んで「ここの演出はコンマ5秒長いと思う」といったような口出しを、本当はやったらダメなのに言ってしまうんですよ。ディレクターの域に入っちゃダメなプロデューサーなのに、ディレクターの域にちょっと入り込んでしまうことがあったんです。

 たとえば、ブルックリンの工事現場のシーンで、ルイージがマリオを追いかけて工事現場から出るじゃないですか。その時、ルイージがドアを開けっ放しにしていくんですよ。そこで僕が、「ルイージはドアを閉めてほしい」と……(笑)。

一同:
 (笑)。

宮本氏:
 制作陣は「もう今さら直せない!秒数が足りない!」とか言ってたのに、気がついたらドアを閉めるシーンが入っていました。

 他にも、大きなウツボの身体の中でマリオとドンキーが暴れて、ウツボの口からポコポコと泡が出るシーンがあったじゃないですか。そこにも「ポコポコのあとに、最後にもう一個『ポコッ』と泡を出してほしい」と僕が口出ししたり……(笑)。

 そういうやり取りを続けている間に、どんどん僕が監督の領域に入り込んでしまい、最後にオッケーが出るギリギリのところまでひとつひとつのコマを作り込みました。そんなことがあったので、僕は「監督が『二度とゴメンだ!』と思ってないだろうか……?」と心配してたんですけど、映画が完成するより前に、監督が「この仕事はずっと続けたい」と言ってくれたんです。その言葉にすごく救われました。

 こんなに時間をかけて作ったのに、みんな仲良くやれたのは本当に珍しいですね(笑)。

──今回の映画はすごく楽しいと同時に、「見終わったあとに元気がもらえるような映画」だとも思うんです。見終わったあと、「よし!明日も頑張るか!」と活力がもらえたような気がしました。宮本さんは、この「エンターテイメントが人間に与える力」をどう捉えているのか……ということをお聞きしてみたいです。

宮本氏:
 さっきも言いましたけど、マリオのキャラクターって「根っから明るい」んです。そして、日々の暮らしの中でも「根っから明るい時間」って要ると思います。

 映画やアニメなどの他のメディアで「この作品を通して、色々なものを考えるきっかけにしたい」と言われる方もいると思いますけど、任天堂の考えるマリオのキャラクターとしては、とにかくお客さんが「あー楽しかった!」と思えるものにしたいです。そして、マリオのゲームはお客さんが自分からクリエイティブになり、「自分でいろいろ試行錯誤するのが楽しかった」と思えるものです。

 一方、マリオの映画は「受動的にお客さんが楽しくなるもの」としているので、その両方の楽しさを積み上げていけたらいいなと思います。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の膨大な任天堂ネタ。「スパイク」が出た理由

──今作には『レッキングクルー』などに登場した、マリオの元祖ライバル「スパイク(ブラッキー)」が登場しています。なぜ今作で、改めてスパイクを登場させようと思ったのでしょうか?

宮本氏:
 今回の映画制作ですごく痛感したんですけども……もうマリオのファンの人たちが、世界中で仕事をしているんですね。IT業界からアミューズメント業界まで、マリオが大好きな人からちょっと知ってる人まで。

 そしてユニバーサルにも、僕らよりもマリオのことをよく知っているようなスタッフがいっぱいいるんです。USJやUSHの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」は、あちら側のクリエイティブマネージャーが「ユニバーサルパークにマリオのエリアを作りたい」と言ってくれたことから始まったりしてるくらいで。

 だから、映画の制作チームの中にも、マリオのファンがたくさんいました。監督も、脚本家も、アニメーターも、みんなマリオに詳しいので、どんどん提案が出てくるんですよ。しかも、マリオのファンというより任天堂のファンでもあるので、僕の知らない任天堂のゲームのネタまでどんどん脚本に取り入れてきてくれるんですね。

 まさに「スパイク(ブラッキー)」が登場するのはイルミネーションチームからの提案で、逆に僕らが「懐かしい!レッキングクルーや!」とか言いながら(笑)。

宮本氏:
 他にも作中に登場するピザのお店の至るところに『パンチアウト!!』のイラストがあったり、『しゃべる!DSお料理ナビ』のコックさんの絵が入ったコショウ入れとかをこっそり入れてたり……(笑)。

 僕らはこれを「トリビア」「イースターエッグ」と呼んでるんですけども、制作初期の頃からみなさんからどんどん小ネタの提案が来て、逆に僕らが後から元ネタを調べるようなものがたくさんありました。映画全体で「一体いくつ小ネタを詰め込めるか」ということに挑戦したくらいです。

 でも、あまりいっぱい詰め込むと収拾がつかなくなってしまうので、「8bitの頃までのネタにしよう」というルールを決めていました。ただ、『お料理ナビ』のコックさんのような、特例で8bitの頃じゃないものもいくつか入っているので、探してみてください(笑)。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が面白すぎたので、宮本さんに直接いろいろ聞いてみた_019
任天堂公式サイトより

──海外のプレミアには宮本さんに加え、近藤浩治さん【※7】もいらっしゃっていたとお聞きしましたが、近藤さんとの現地のエピソードがあれば、お聞きしてみたいです。

宮本氏:
 いや……みんなね、おとなしいんですよ(笑)。

一同:
 (笑)。

宮本氏:
 「ここまで来てんねんやから、みんな目立って!もっとしゃべって!」と(笑)。

 ちょうど近藤さんはアメリカ議会図書館に『スーパーマリオブラザーズ』のテーマ曲が登録されて、その取材もあったんです。本当に数えるほどの作曲家しか入れないようなところに入れましたし、すごく名誉なことですよね。ただ……とにかくみんな物静かでした(笑)。

※7「近藤浩治氏」
『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼルダの伝説』など、数多くの任天堂タイトルの楽曲を手掛けた作曲家。現在は任天堂企画制作本部サウンド統括グループマネージャーを務めている。

なぜ、今作はヒットしたのか?宮本さんが任天堂の新人研修で必ず言うこと

──世界中で『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が公開され、さまざまなニュースの報道やお客様の反応を目にしていると思うのですが、率直に今、宮本さんはどう思われているのでしょう?

宮本氏:
 えーっと……もう、「ラッキー」そのものですよ(笑)。

 僕は、「世の中に良いものはごまんとあるけど、誰かに気がついてもらえるものはわずかしかない」と思ってるんですね。特に、ネットでこれだけいろんな情報が流れるようになると、映像でもなんでも、ほとんどのものが埋もれます。

 その「世の中にごまんとある良いものの中から、選んでもらう。埋もれないようにする」ということを続けてきたのが、任天堂の歴史そのものだと思います。

 あんまり良い言葉じゃないかもしれないですけど、日本には「猫も杓子も」という言葉があります。任天堂は、その「“猫も杓子も”の状態を何回経験するか」を大切にしている会社です。これは、年に1回でも多いぐらいなんですね。だから、僕は「何年に1回かはその“猫も杓子も”を経験したい。そのために働いてると思った方が良い」ということを、新人研修でも言うんですよ。

 今回の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』では、ちょっとその手応え自体はあったんですけど……いざ蓋を開けてみたらすごい反応で、正直驚いていますね。この状態は、何かしらの幸運が手伝わないと、中々ならないです。

 しかも、評論家が結構低い評価をしているのが、ある意味で追い風になって……(笑)。

一同:
 (笑)。

宮本氏:
 今年の2月にUSHの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」のオープニングがあったんですけど、その時の熱量もすごくて……オープニングの次の日には、USHに来る人のほとんどがニンテンドーワールドで遊ぶために来ていたそうなんです。日本のUSJでマリオカートに3時間並ぶのは当たり前かもしれないですけど、「アメリカでマリオカートに3時間並んでる」なんて、とても考えられないですよ!

 このすごい熱量を感じていたので、映画の反応も期待はしていたんですけど……まぁ、とにかく「ラッキー」でしたね。

  それともうひとつ熱量を感じたことがあって……僕がアメリカに渡る時、税関の入国審査で「任天堂で働いてる!マリオ作った人や!」と答えることが多いんです。
 昔はそこでサインを求められたりしたんですが……ここ最近は「今度パークが開くよね!」「映画もやるよね!」「レゴが売れてるよね!」と、ちょっと別の方向で盛り上がるようになって(笑)。

 それで税関の人も、「パークに必ず家族で行くよ」「映画に子供を連れていくよ」と言ってくれます。アメリカの人たちも、家族ぐるみでマリオを楽しんでくれているんです。

 いま40~50歳のお父さんたちの世代がやっぱりマリオで育っていて、子供たちも結構マリオを知ってくれています。それで面白かったお客さんの反応が、お父さんの世代が見ても、あの映画で「涙が出てきた」と言うんですね。僕らは「良かった昔を振り返って、思い出で涙を出してもらおう」と思って作った映画じゃないんだけども、そういう感動が蘇っているのは意外でもあるし、ありがたいですね。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が面白すぎたので、宮本さんに直接いろいろ聞いてみた_020

──少し気が早いお話ではあるかもしれないのですが、宮本さんは今後も映画製作は続けられるのでしょうか?

宮本氏:
 まず「ニンテンドーピクチャーズ」を立ち上げましたし、任天堂としても「映像もコンテンツのひとつなので、ゲームに絞らずにコンテンツを作ろう」と考えています。だから、今後もやります。

 ただ、次はまだ当分できあがらないので、今回は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』に集中してください(笑)。

 これもちょっと特殊で、任天堂の映像作品は制作発表とかは絶対しないんです。今回の映画も、株主総会や経営方針説明会で「映像事業をやります」ということだけは説明したんですね。そして、「任天堂は面白いと思うものができたら発表するので、それまで待ってください」とも答えました。

 だから、今後も面白いと思えるものができたら発表するので、その時にまたお願いします(笑)。

──なるほど(笑)。本日はありがとうございました!(了)

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が面白すぎたので、宮本さんに直接いろいろ聞いてみた_021

 宮本茂さんって、実在してたんだ……。

 いや、なんだか失礼な言い方かもしれないが、インタビューを終えたあと、ただ率直に「宮本さんって実在したんだ……。」と思ってしまったのだ。

 インタビューで少し話した通り、私が初めて遊んだ「スーパーマリオ」はDSの『New スーパーマリオブラザーズ』だった。そんなDS世代の私が、「マリオ」も「ゼルダ」も「ドンキーコング」も作った宮本さんと会話を交わしたという事実が、ただ信じられない。なんたる恐悦至極。正直、私の人生の中で、「宮本茂に出会う日」が来るなど、夢にも思っていなかった。

 ……というのは一旦置いておきつつ、私が特に印象的だった宮本さんの言葉は、やはり「世の中にごまんとある良いものの中から、選んでもらう。埋もれないようにすることを続けてきたのが、任天堂の歴史そのもの」という言葉だ。確かに、私は気がつけば任天堂の製品に触れていた。

 気がつけばDSを買っていて、『New スーパーマリオブラザーズ』で遊んだ。気がつけばWiiを買っていて、『大乱闘スマッシュブラザーズ X』で遊んでいた。気がつけばSwitchを買っていて、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』で遊んでいた。全く意識などしていなかったが、気がつけば任天堂のゲームは数多の作品に埋もれず、私の手元にあった。

 そんな「埋もれないようにする=気がつけば遊んでいた」ようなゲームを作り続けたのが任天堂であり、それを気がつけば遊び続けていたのが私の人生でもある。ゲームや娯楽は常に人の傍らにあり、その中でも「気がつけばそばにあった」のが任天堂のゲームなのだと、私は納得した。

 そして、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』も変わらずに「多くの作品に埋もれず、選びたくなるような映画」なのだ。まさに「猫も杓子も」な娯楽映画に、この記事から足を運んでいただければ、これ以上の幸せはない。

 きっと、あなたもマリオのように「根っから明るい」時間を過ごせるはずだ。

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
編集
新聞配達中にトラックに跳ね飛ばされたことがきっかけで編集者になる。過去に「ロックマンエグゼ 15周年特別スタッフ座談会」「マフィア梶田がフリーライターになるまでの軌跡」などを担当し、2017年4月より電ファミニコゲーマー編集部のメンバーに。ゲームと同じぐらいアニメや漫画も好き。
Twitter:@ed_koudai

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