新作タイトルを“5本同時に”開発、うち1本は『エンダーリリーズ』続編!?
──『エンダーリリーズ』の時って、どれくらいの開発規模だったんでしょうか。
小林氏:
チームのコアメンバーは10名くらいでした。開発の初期段階でディレクターの岡部くんが全然違うのを作っていて、それを急いで止めたりとかもあったんですが(笑)。
それを含めても、開発期間は2年ちょっとくらいでした。
──それも含めて10人ぐらい・2年で収まっているのも、プロジェクト進行の上手さを感じます。
小林氏:
「作りこむこと・やらないこと」を明確に分けていたのは大きかったと思います。あとはエンジニアがすごく良かったというのもありますね。『エンダーリリーズ』のプログラムはほぼすべてを彼ひとりが担当しています。フランス人なんですが、本当にスゴいヤツで。
元からスゴいのは知ってたんですが、「こんなにすごかったんだ!」と改めて実感しました。技術力がしっかりと担保されていたので、「あれやりたい!これやりたい!」というイメージがスムーズに実装されていき、本当に助けられました。
──5本同時に動かしているということから推測すると、新作の『Redemption Reapers』のスタッフも別チームによる開発なのでしょうか?
小林氏:
モーションやエフェクトは『エンダーリリーズ』のチームが平行して担当していますが、コアメンバーはそうです。5チームすべてに人員を均等に割り振っているわけではないですが、大体1チーム10名前後という感じですね。
──お答えいただける範囲で、開発している5本のタイトルの内訳を教えていただけますか?
小林氏:
じつは、5本のうち1本は『エンダーリリーズ』の続編です。僕らも「続編を作ってます」と告知をしているつもりなんですけど、イマイチあまり伝わってないみたいで……(笑)。
これを機会にご期待いただければと思います。ディレクターは前作に引き続き、岡部くんが担当しています。
残りの4本は、すべて3Dのゲームで1本は僕がプロデューサー、2本はディレクター、1本が総監督のような感じで関わっています。総監督のプロジェクトは監督兼ディレクターというスタイルではなく、別にひとりディレクターを立てているのですが、彼はすごくいいですね。
──その方は外部ではなく、アドグローブ叩き上げの人材ですか?
小林氏:
はい。まだディレクターは未経験ですが、『Redemption Reapers』でもリードプランナーをやってくれています。まだ30代半ばなんですが、しばらく彼を担いでいこうかなと。
──どういった方なのでしょうか。
小林氏:
一言で表すなら「ゲームが分かってるなぁ」という感じですね。構成する要素を分解して話せるんですよ。
世界観とか空気感に強いタイプではないんですが、そこは僕が総監督とかの立場でフォローしつつ、システム全体としては彼メインで進行しようと考えています。
──なるほど。ちょっと話がずれるんですが、いわゆる国内の受託メインのデベロッパーさんで「オリジナルを作りたい」と仰られる方は多いじゃないですか。ただ、その中でどう見ても、その方向に向かっていない場合も多い。
これがなぜできないのか、そして小林さんはなぜそれができているのか、何が違うんでしょう。
小林氏:
難しい問題ですけど、僕も経営者としてやってきて、「自社タイトルを出す」って「生きるか死ぬか」みたいな部分はあると思うんですよ。うちはある程度の余力をつけてからやりましたから、仮に『エンダーリリーズ』がコケても、会社が立ち行かなくなるというわけではないんです。もちろん、ノーダメージというわけではないですけど。
経営者の方々がおっしゃられる「オリジナルタイトルを作りたい」という言葉は嘘ではないと思います。ただ、そのために具体的に準備ができている会社がどれほどあるのかは分からないです。やはり、「自社タイトルを出す」というハードルは相当に高いと感じています。
──個人的には、そうした経営的な問題に加えて、ディレクターの問題もあると思っているんです。そもそも優秀なディレクターって数が少ないし、受託をしているとディレクターって育ちにくいと思ってるんですよ。
小林氏:
おっしゃる通りだと思います。
──そういう事情もあって、ディレクターって実際にゲームを世に出して台頭してきている人は目に入るんですけど、その手前の時期だと、なかなか前途有望な人って目につきにくくて。とくに若手、次世代のスターになるような人ってどこにいるんだろう、と思います。
小林氏:
ディレクターって、すぐになれる職種ではないうえに、チャンスも掴みづらいのかなと思います。ただ、ディレクションのセンスがある人は間違いなくいると思いますし、今まで作ったモノがなくても、センスと情熱があればできると思うんですよ。
「職種」というより「人種」ですよね。経験があるからどうこうできるという役割ではないですし、「イケてる・イケてない」で終わっちゃう。
──小林さんはディレクションに必要な能力や才覚って何が必要だと考えられていますか?
小林氏:
どのようなゲームを作るかにもよると思うんですが、うちのスタイルで言うなら「世界観と雰囲気をどのようなものに仕上げたいのか。それが画面も含めてイメージできているか」という部分だと思います。なぜかというと、それがユーザーに真っ先に刺さる情報だからです。
ゲームとして面白くするのも実直で根気のいる作業なんですけど、そこは前提のラインというか、できる会社さんがいっぱいあると思うので。うちの場合は、やはり「いかに世界観が頭の中にあるかどうか」という部分を大事にしています。
“情緒のあるゴア表現”を目指した『Redemption Reapers』
──新作タイトル『Redemption Reapers』のコンセプトやモチーフはなんでしょうか?
小林氏:
企画の始まりからお話すると、うちの大阪のスタジオに、インテリジェントシステムズで働いていた堀川が入ってきて。
で、僕が『ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡』で大好きなマップがあるんですよ。攻城戦のマップなんですが、そのマップを作ったのが彼だと知って、「面白いシミュレーションRPG作らない?」と話をしたのがキッカケですね。
ストーリーや世界観は僕が考えてるんですが、局地戦を描く作品なんです。『ガンダム』シリーズでも『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』とか『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』が好きなので。
こういうのって、本来は本編を踏まえた上での“スピンオフ”なんですけど、それをあえて「一作目でやってやろう」と(笑)。
──『スター・ウォーズ』で言えば『ローグ・ワン』みたいな感じですね。堀川さんはどういった経緯で入社されたんですか?
小林氏:
とくに縁があったというわけではないんですけど、本当にたまたまなんですよ。僕も「たまたま来るんだ」って驚いて(笑)。
──縁が強いというか、“引き”が強い……。『Redemption Reapers』では小林さんがディレクターとのことで、アート面以外でも何か担当していらっしゃったんですか?
小林氏:
『Redemption Reapers』の基本的なシステムは僕が考えたものがベースになっていて、堀川はバランス調整とかマップデザインをメインにやってくれています。
ただ、「このアイテムの値段はもう少し安いほうがいい」とか「このスキルの消費ポイントは高いほうがいい」とかの細かい部分の調整は、僕自身もどんどんやっていってますね。
──小林さん自らバランス調整されているんですか! 一方で、もちろん社長業もされてるわけですよね?
小林氏:
そうですね。ただ、以前に比べて社長業務の一部を代わりにやってくれる人が増えたので楽になりました。
──経営業務とゲーム開発の業務、今のバランスはどれくらいなんでしょう。
小林氏:
ゲームが9割です(笑)。
──(笑)。それができてしまう体制もすごいですね。
小林氏:
もちろん、ずっとこのままでは絶対に許されないだろうなと思っています(笑)。せめて7割ぐらいにはしないと……。
アドグローブは自己資本だけでやってこれているので、それも大きいと思いますね。ゲームを作れる環境を作り上げるのに時間はかかりましたけど、好きなものを作れる自由度は確保できたと思っています。
──別のインタビューでも触れられていましたけど、完全に100%自己資金なんですよね。
小林氏:
そうですね。外部の資本は一切入っていないです。よく「上場しないんですか?」とは聞かれるんですが、うちは上場しないのをコンセプトにやっています。
──話を戻しますが、『Redemption Reapers』を開発するにあたっての目標みたいなものはなんだったんでしょう。
小林氏:
『ディアブロ』シリーズに負けないような背景や雰囲気があるセットの中で、キャラクターがヌルヌル動いて、血の出方がカッコいいものですね。そういうゲームがあったら、画面映えするなと思いまして。
──『ディアブロ』ライクな雰囲気のゲームってSteamでも多いと思うんですけど、個人的にはなんというか「バタ臭い」ものが多いと感じていて。ただ、『Redemption Reapers』の画面を見ると、不思議とバタ臭くないんですよ。
小林氏:
技術的な視点でいうと、“テカリ”をわざと抑えてるんです。できるだけマットな質感を目指すのは意識しています。
──なるほど。そう言われてみると、最近のゲームってけっこうテカリがちかもしれませんね。映画でいう「地面を濡らす」みたいな、情報量を増やすための手段だとは思うんですけど。
小林氏:
僕もあまりテカテカしている画面が好きではないんです。でも、テカリに頼らずに画面のパワーを引き出すのって難しくて、実際に僕らも時間を掛けています。
やっぱりAAAタイトルの画面づくりなんかは、テカリに逃げていないですし、ライティングを含めてやっぱり本当にすごいと思います。AAAの亜流みたいなゲームって、パッと見では似てるけど、物量差というか、そういうところの差がやっぱり大きく出てしまうんですよね。
その点、『Redemption Reapers』では手書きとは言わないですけど、“情緒のある画面作り”に取り組めたのはとても良かったと思います。
チーム内でも“情緒”という表現をよく使うんです。『Redemption Reapers』では「情緒のあるゴア表現をやろう」と言っていて(笑)。
──「情緒のあるゴア表現」、とてもいい表現ですね。
小林氏:
「ゴア表現を見せたくてやっている」のではなくて、「必要な演出として、綺麗に・丁寧に扱おう」という意味合いのスローガンですね。
──「情緒」という言葉の中にいろいろなニュアンスが含まれている気がします。仮にですけど、ものすごく豪華で綺麗なイラストを売りにしたゲームがあるとするじゃないですか。ただ、そこに「情緒」がないと、画面としては“イケてない”ものになってしまう。
小林氏:
基本的な表現って、ゴールが分かりやすいんですよ。プロダクトの品質もカチッと決まりますし。
ただ、そうではない物を追い求めた人だけが到達する「画面のパワー」があると僕は信じていて。それが「情緒のある画作りから逃げない」ということだと思うんです。
──なるほど。すごく表現が難しいですけど、単純に作ると「記号的になりがち」みたいな話なんでしょうか。
小林氏:
そうですね。しかも、その最終的なアウトプットも企画書の段階から影響してくると思います。
──生活感や戦場の雰囲気を感じられるみたいなことって、ある種の情報量の問題だと思うんですよ。ただ一方で、情報量を上げすぎると受け取るものが分散して印象に残りにくかったりする。だから逆に、あえて情報量を引くみたいなことも意識されているんでしょうか。
小林氏:
僕はどちらかというと密度の高いゲーム画面が好きなのですが、あくまでゲームの画面においては「必要な情報がスッと入ってくる」状態になるよう意識しています。
特に背景では、いわば“ガヤ”のような「実際のゲームプレイではほぼ影響はないけど、雰囲気づくりに必要な要素は注意して足していく」というような部分には力を入れていますね。『Redemption Reapers』では僕がアートディレクターをやっているので、直接モデリングのスタッフと話して調整しながら進めていました。