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「作りたいゲームを自由に作る」ために、まずはIT企業として10年かけて500人規模の大会社を作り上げ、その利益をゲーム制作に──ってどういうこと!? 100万本を売り上げた高難度2Dアクション『エンダーリリーズ』開発元の社長が“ただ者ではない”

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売れ筋ではないジャンルに挑むときに必要なのは、“ジャンルを意識させない力”

──ちなみに、小林さんが考える『Redemption Reapers』の“勝ち筋”ってどう言った部分なんでしょう。シンプルな懸念として、「ターン制シミュレーション」って売れ筋ではないジャンルだと思うんです。

小林氏:
 このゲームの魅力の伝わり方って地域によっても違うと思うんですけど、まず最初に意識したのは、「作りこまれた背景と雰囲気の中で、キャラクターがヌルヌル動く」という部分です。これをきちんと作れれば、マーケットはともかく、「イケてるもの」にはなると思っていました。

 うちは「何本売れたら成功」みたいな基準については、他社さんよりも低いと思っています。なので、「この数は絶対に売らなくちゃならない」「マーケットが小さいからやめておこう」という感覚はないです。
 良いゲームって、小さくても数十万本は売れるじゃないですか。「マーケットが小さいなら、遊んでくれる人を引っ張ってくればいいじゃない」というような、“ジャンルを意識させない力”とでも言うべきでしょうかね。

──なるほど、“ジャンルを意識させない力”ですか。これもいい言い方ですね。

小林氏:
 世に出せばどうしても何かしらのジャンルにカテゴライズされてはしまうんですけど、やっぱり根底にはその思いがありますね。

 とはいえ、ベースはターン制シミュレーションですから、ゲームシステム的には考えることは多いんですけど、「アクションゲームのように動かせる」ということを意識していて。

──アクションゲームのように動かせる、というと?

小林氏:
 駒を動かす時、アナログスティックでダイレクトに動かすんですけど、そこから攻撃するまでのテンポを非常に速くしているんです。ジャンルとしてはアクションゲームではないんですけど、「アクションゲームのようなテンポのよさで遊べる」というプレイフィールを目指しました。

──なるほど。Binary Haze Interactiveさんの作るゲームの方向性が見えてきた気がします。

小林氏:
 今のところ、「ダークでシリアスなもの」というのが『エンダーリリーズ』を含めた各作品の共通点です。ファンタジーの比率は高いかもしれませんが、ファンタジー縛りというわけではないですね。

『エンダーリリーズ』開発元Binary Haze Interactiveインタビュー:社長・小林宏至氏が“ただ者ではない”_011
(画像はSteam『エンダーリリーズ』ストアページより)

──アドグローブとしてではなく、「Binary Haze Interactiveそのものをブランディングしていこう」という意思はあるんですか?

小林氏:
 ありますね。今はパブリッシャーのいちレーベルみたいな感じですけど、今後は名実ともにゲーム会社にしていきたいと考えています。

──将来的には、「AAAクラスのタイトルを作りたい」みたいな気持ちはありますか?

小林氏:
 何の制限もなく、「本当に良い物を作ろう」と考えたとき、最終的に到達する場所は、あの辺りになってくるのかなと思います。世界中すべての人が「〇〇だから」って理由で買うんじゃなくて、「なんかスゲーから買う」みたいな感覚。それを引き出せるのは、やっぱりAAAクラスだけなのかなと。

 作品としての格があの場所まで到達していないと、そもそも「買う」という選択肢に入らない人も、まだまだ多いと思います。とはいえ、「作りたいものを自由に作って発表していく」のがうちの方針なので、あまり格みたいなものにはとらわれず、いろいろなものを作っていきたいと思っています。

──普通は経営者・プロデューサー・ディレクターって、全員が微妙に違う方向を向いてるんですよ。だから、そこでよく衝突が起きる。一方で、小林さんのように社長自らが「ゲームを作りたい」と、間に挟まってくる“ノイズ”がない。そこって、じつはけっこうな強みだと思うんです。

小林氏:
 ありがとうございます。でも、僕自身はプロデューサーとしては失格だと思っています。「これが作れれば行けるだろ!」という勘で勝負している部分が大きすぎるので……(笑)。

マーケティングはせず、「俺たちの作りたいもの」を届ける

──ちなみに、プロモーションについてはどのように考えられてるんでしょう。

小林氏:
 じつは、いわゆるマーケティング的なことはほとんどしていないんです。

──! それはまたチャレンジングですね。

小林氏:
 もちろん、普通はマーケティングしたほうが絶対にいいと思います。でも一方で、今時のゲームの売り方って難しいじゃないですか。ゴリ押ししても炎上する可能性だってありますし。
 『エンダーリリーズ』の時に「インフルエンサーさんにPRをお願いする」という試みを海外を含めて何度かやってみたんですが、「イマイチ刺さってないな」と感じたこともありました。

 そう考えると、やっぱりPRって「ゲームをありのまま見せる」しかないんじゃないかな、と。むしろほかにやりようがない、というか。
 それよりは「インフルエンサーさんを含め、ユーザーさんが手に取りたくなるような、前段階」に投資する方がいいのかなと思ったんです。

──なるほど。だから、『Redemption Reapers』の最初のトレーラーでも、インゲームの画面がガッツリ入っていたんですね。

小林氏:
 そうですね、あれは意図的な見せ方でした。もちろんカットシーンを挟んで、お話や雰囲気を伝える努力もしていますが、真っ先に見ていただきたいのは「作りこまれた背景でキャラがヌルヌル動く」という部分でしたし、我々が勝負したのもそこだったので。

 実際、『エンダーリリーズ』も『Redemption Reapers』も、プロモーションビデオは全部僕自身が編集しているんです。「どういう順番で情報をお客様に伝えるか」については、やはり自分たちの手でやりたいという思いは大きいですね。

──なんと、PVまで小林さん自らが編集されているんですね。PVは拝見しましたが、硬派で媚びてないんだけど、勝負どころは外さない。そんな意図を感じます。

小林氏:
 ゲームを遊んだり、トレーラーを見たりして、「制作者はこういうのが好きなんだろうな」って感じる時って、あるじゃないですか。

 あれって、「俺たちはこれを作りたいんだよね」というメッセージが通じた瞬間なんだと思っているんです。マーケティングよりも、むしろそういう感性に訴えたい。

──お話を聞いていて、公式ホームページに書かれている「自分たちが作りたい物を作る国内でオンリーワンの存在になる」「世界観や雰囲気を重視したオリジナルタイトルだけを全世界に発信する」というビジョンの説得力がぐっと増しました。
 Binary Haze Interactiveさんのゲームを見た時の、“センスの良さ”の出どころみたいな部分が少し分かった気がします。

小林氏:
 ありがとうございます。

──最後に、Binary Haze Interactiveの今後の展望をお聞かせください。

小林氏:
 規模としては分からないですけど、世界の一流デベロッパー、メーカーと同じような期待感を持ってもらえる会社になりたいとは思っています。「何を出してくるかは分からないけど、毎回ちゃんと面白い」というようなイメージが理想ですかね。

 おかげさまで『エンダーリリーズ』は成功いたしまして、多くのファンの方々にもついていただきました。ありがとうございます。今後も大切にしていくタイトルですが、社としてのチャレンジもずっと続けていきたいなと思っています(了)。

『エンダーリリーズ』開発元Binary Haze Interactiveインタビュー:社長・小林宏至氏が“ただ者ではない”_012

 ベールに包まれたBinary Haze Interactiveの姿が見えてきたのはもちろんだが、小林氏の「本当に作りたいものを作るためにはどうするか」という、リアリスト的な部分にもフォーカスできたことは非常に有意義だった。氏の場合、それは過去の経験を踏まえた、「ゲームを制作する環境作り」から始まっていた。

 ご本人も語っていたが、「これを作ったら勝てるから行こう」という確信には何の保証も理論もない。それでも、ゲーム画面を1枚見ただけで「これは面白そうだし売れそう」と感じる“筋のよさ”を生み出している源流は、間違いなく“そこ”だった。

 いい意味で媚びず、ファッション的な硬派さをまとうのでもなく、本気で「ちょっと尖ってる」。このストロングなスタイルは、レッドオーシャンのインディーゲーム界において、その存在感を今後も増していく要因になるのではないだろうか。

 そんなBinary Haze Interactiveは本文中にもある通り、5本のタイトルを同時に制作しているという。これらが世に放たれる日はまだ先だが、どのような「自分たちが作りたいゲーム」を見せてくれるのか、その日が楽しみでならない。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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