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『サイバーパンク2077』8000曲から選ばれた国内アーティスト・春ねむりさんってどんな音楽家? 話を聞いたら「仮初めの自由」らしくジョニー・シルヴァーハンドみたいな人だった

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 最新鋭を謳うビデオゲームであるならば、その作品に収録される楽曲も「置き」ではなく「挑戦」をしてほしい。

 これは非常に“贅沢なわがまま”かもしれないが、『サイバーパンク2077』の拡張パック「仮初めの自由」に際して配信された「アップデート2.0」では、本編の充実した収録楽曲に飽き足らず「更なる勝負」が展開される。前述の“わがまま”も問答無用で黙らせ、聴覚から更なる刺激を与える作品となる。

 『サイバーパンク2077』といえば「加速し過ぎた未来」を描くシナリオやオープンワールドの描写、シナリオ、様々なアプローチを用意した戦闘など、もはや“過剰”なほどに各コンテンツを作り込んだ作風で大きな話題を呼んだ作品だ。

 そんな“過剰な作り込み”のひとつとして、本作のサウンドトラックの存在も忘れてはいけない。

 サウンドトラックに2010年代のHIPHOPを語るうえで欠かせないASAP Rockyや、イギリスの名門レーベル・4ADなどからオルタナティブなエレクトロポップを展開するGrimesなどの著名アーティストが参加。

 そして、先進的なダンスミュージックからハードコアパンクブラックメタルブルータルデスメタルマスコア日本のアイドルユニットの楽曲なども収録され、「いかにも“解っている”」感を芳醇に醸し出すトガった選曲になっている。

 そして新ラジオ「グラウルFM」はコンペティション形式で募集され、なんと国内のシンガーソングライターである「春ねむり」さんの新曲『さまよえるままゆけ』の収録が決定したのだ。

『サイパン2077』春ねむりさんインタビュー_001

 2018年リリースのアルバム『春と修羅』を機に海外からの視線を集め、ヨーロッパと北米で実施したツアーはソールドアウト。2022年にリリースしたアルバム『春火燎原』はアメリカの権威ある音楽メディアPitchforkにて10点中8点と高得点を獲得。

 ポエトリーラップハードコアパンクロック、そしてポップ。情動を剥き出しにしたリリック、現代社会に中指を立てるそのアティテュード。その唯一無二の作家性・音楽性が、世界的に評価されつつあるミュージシャンだ。

 本記事では、そんな注目のミュージシャンである春ねむりさんのインタビューをお届けする。

 インタビューでは気になる収録楽曲『さまよえるままゆけ』の制作秘話や『サイバーパンク2077』に共鳴する社会への眼差し、ミュージシャンのゲーム事情などについてお話を伺うことができた。

 本インタビューにより、春ねむりさんが持つジョニー・シルヴァーハンドが如くガッツと信条、そして『サイバーパンク2077』が目指す「ゲーム音楽の新たな地平」の予感を味わって頂ければ幸いだ。

聞き手/りつこ実存
撮影/佐々木秀二


讃美歌やパンク、HIPHOPが融合する実験的な音楽は、Vが突き立てる「社会への中指」とシンクロする

──春ねむりさんが2022年にリリースしたアルバム『春火燎原』はハードコアやヒップホップ、讃美歌などが各楽曲内で融合し、同時に社会問題への明確な言及が作品に組み込まれていますよね。

 そうした「複数ジャンルの融合」と「政治的なメッセージ」という点から、春ねむりさんが共演したロシアのアクティビスト集団・Pussy Riot【※1】やDorian Erectra【※2】といったアーティストを思い出しました。

※1 Pussy Riot
ロシアのモスクワを拠点に活動するフェミニスト・アクティビスト集団でありミュージシャン。本格的な政治運動の一環として音楽活動を展開しており、近年ではエクスペリメンタルなヒップホップやいわゆる“ハイパーポップ”調の楽曲なども手掛けている。

※2 Dorian Erectra
アメリカ、テキサス州出身のシンガー。チャーリーXCXのepや100gecsのリミックスアルバムにも参加しており、「ハイパーポップ」と呼ばれる動向における重要人物のひとり。過剰にジャンルが交錯した実験的な楽曲でトランプ政権やトランス差別、オルタナ右翼を理論的に批判するアルバム『My Agenda』などが代表作。

春ねむり氏:
 Pussy RiotDorian Erectraも大好きですし、影響をとても受けています。

 いっぽうで、2018年にリリースしたアルバム『春と修羅』の時点では「自分の頭の中の日記」のように、自分だけが存在する日記のように制作していましたね。

──たしかに、『春と修羅』は「自分のことを語る」という私小説的なニュアンスが強いように感じます。

春ねむり氏:
 どの作品も自分のために作っているものの、『春火燎原』からは「自分のためであり、結果として皆のためになる」というモードで制作するようになりました。

 きっかけとしては、いわゆる“後輩”みたいな子と会ったり共演する機会が増えて「大人としてしっかりしないと!」と感じる機会が増えたことです。

 そういった環境の変化を考えていくうちに、今まで個人的な問題だと思っていた考え事を、「社会の構造の中で起きている出来事」であると捉えられるようになりました。

──ある種「大人であることを自覚していく」ことによる変化が大きな影響を与えているんですね。

春ねむり氏:
 やはり自分には「誰にも理解されたくない」という頑固さがありつつ、その感覚を音楽にしたいという欲望があります。そういったことも含めて、私は自分の作品に暴力性があると思っているんです。

 ただ、暴力性のある作品をそのまま発信すれば、マッチョな作品になってしまう。なので、世の中に表現を発信する者として、「やるべきことをやる」という意識で社会的なテーマを作品に組み込んでいますね。

 つまるところ、アクティビズム的なイデオロギーが制作や作品の中心にあるのではなくて、「自分の言いたいこと」を提示するうえでの責任として認識しています。

──確かに、最近の春ねむりさんの作品は「暴力性があるけど、マッチョではない」し、「中指を立てているけど、ポップ」な印象を受けます。自分が高校生くらいの頃にも、「こういう音楽が欲しかった!」と本当に思います。

春ねむり氏:
 私も「自分が高校生の頃に欲しかった音楽」を春ねむりとして作品をつくっているので、嬉しいです(笑)。

『サイパン2077』春ねむりさんインタビュー_002

──ストーリーに分岐があるものの『サイバーパンク2077』もまた、Vが遭遇する権力に対して「中指を立てる」様を描く作品だと思うんです。そういう点で、春ねむりさんの楽曲が『サイバーパンク2077』に収録されるのも納得が行きました。

 そうした「社会に対して中指を立てる」という態度や、ある種の「権力ダルいよね」という感覚について、春ねむりさんがどう思っているのか、詳しく教えて頂きたいです。

春ねむり氏:
 例えば私はライブをするのがとても好きなんですけど、日本でライブをすると「暑苦しすぎてウザイ」って言われる機会が多い多かったんです。

 例に挙げたのはライブの話ですが、この反応は様々な場面に共通していると考えていて、政治などにおいても冷淡さや諦めを他人に強いる方が非常に多いように思います。とりわけ政治に関しては、そうした態度は個人的に同意しかねるものです。

『サイパン2077』春ねむりさんインタビュー_003

──日本は民主主義国家でありながら、国民が声を挙げることを否定したり、諦めを強要するような、冷笑的な風潮が長く続いていますよね。

春ねむり氏:
 とはいえ、私たちより上の世代でも「若いころは権力に抗っていた」ものの、そこから転じて冷笑的な態度を取っている人も少なくないようにも思います。でも、結局のところ、そうした冷笑的な態度は、前時代的な権力や社会構造を維持しつづけているようにしか思えないんです。

 むしろ、私から見ればそうした人たちは誰かを冷笑することで、社会の構造に傷付けられることから身を守っているようにも見えます。

──そういう人たちも、ある意味では社会構造の犠牲者でもあると。

春ねむり氏:
 そういう側面もあると思います。ただ、そういう人たちは“聞く耳を持たない”ことも多いですよね。そういう背景があるから、仕方のないことだとは思うんですけど。

 私は今28歳なので、ちょうど中間くらいの世代です。なので、私たちよりも下の世代の人たちが「自分と同じ不快さ」を感じなくて済むように、少しずつでも変えていきたいと思っています。

──なるほど。

春ねむり氏:
 私は、公共的な権力や国家は市民のために存在しているはずだと考えています。そうでないなら国家なんて必要ないと思うほうです。

──拡張パック「仮初めの自由」には、「新合衆国」という国家にまつわるドロドロとした物語が新たに展開されます。この点は春ねむりさんの信条とマッチしていますね。

春ねむり氏:
 自分も先ほど「仮初めの自由」の冒頭をプレイをさせて頂いたんですが、作中では新合衆国の大統領ロザリンド・マイヤーズに宣誓をする場面があるんです。そこでは選択肢が用意されていたので、当然「宣誓しない」を選びました。

──納得の選択肢です(笑)。

春ねむり氏: 
 私はジョニー・シルヴァーハンドが大好きなのですが、宣誓するとジョニーがものすごい顔をするというお話を聞いて、製品版ではぜひジョニーの顔を確認したいと思いました(笑)

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編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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