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“炎上”したクリエイターはどうしたらいいのか? 『FGO』塩川洋介が『ニーア』ヨコオタロウに教えを乞う。ヨコオ氏「塩川さんはもうダメかもしれない」

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「ワード選びが辞書で横ふたつくらいズレている」

ヨコオ氏:
 それから時は流れて2018年7月の「弟子入りプロジェクト」。「勘違いしている」と批判が集まった、と。また性懲りもなく……(笑)。

塩川氏:
 その当時、ちょうど『FGO』が急拡大していた時期だったんです。サービスは拡大していかないといけないのに、必要な人材の採用が全然追いつかなくて。長期的に苦戦していた時期でした。

 もちろん地道な採用活動も行っていたんですけど、それは他社さんもやっていることでもある。そこで、「目立つことをやったほうがいいんじゃない?」という話になり、こういう見せ方となってしまいました。当時の社内に、私以外で表に立てる人間もいなかった、という理由もあるのですが……。

ヨコオ氏:
 これは僕もニュースで見たんですけど、まさしく「採用イベントなんだな」と思ったんです。採用と育成を兼ねている、声優さんでいうと養成所みたいな試みですよね。

 ただ、本当に言い方がよくない。
 一番最初に思ったのは、「弟子は来るものであって、呼ぶものではない」ということです(笑)。

FGO』塩川洋介×『ニーア』ヨコオタロウ対談:“炎上”したクリエイターはどうしたらいいのか?_007

塩川氏:
 おっしゃるとおりです。

ヨコオ氏:
 塩川さんは、ワード選びが辞書で横ふたつくらいズレているんですよね(笑)。これが炎上する原因のひとつになっている気がします。

 ちなみに、そこで華々しく募集した弟子は今どうなったんですか?

塩川氏:
 私自身がすでに退社しているので、詳しくは……。

ヨコオ氏:
 つまり、弟子を捨てたことになるわけですね(笑)。そして、その1か月後に「捨てるプロデュース」プレゼン……まさに“捨てる”という発言があったそうですけども。綺麗に話が繋がりましたね。

 「今FGOを楽しんでいないユーザーのことは、捨てる」と、ちょっと強めなワードでプレゼンされたとのことで。これは「まあ燃えますよね」という印象なんですが、塩川さん的にはどうだったんですか?

塩川氏:
 ここに書いてあることは事実です。事実なんですけど、そうですね……。

ヨコオ氏:
 「事実だけど、燃える」というシンプルなパターンですね。

──ただ、この件は「CEDEC」というゲーム開発者向けイベントの講演での発言なんですよね。直接ユーザーさんに向けて発表されたものではなかった、という点では情状酌量の余地があるかもしれません。

塩川氏:
 この件につきましては、『FGO』に携わる数百名の方々が集まる機会があったのですが、その際に、皆さまの前で謝罪させていただきました。

ヨコオ氏:
 僕がメインで関わっているのはコンシューマーゲーム(家庭用ゲーム)なので、お客さまって基本的には「買ってくださった方」なんですよ。だけど、スマホゲームって無料と有料のお客様がいる。どこに開発のリソースを注力していくか、という議論では当然接し方は異なってきますよね。
 そういう意味では、スマホゲームの宣伝は飲食店に近くて、無料でずっと試食しているお客様にもアピールをする必要がある。でも、飲食店が「美味しいって言ってる客以外は捨てる」と言ったら、まあ燃えますよね(笑)。

 ここまでいろいろな炎上を見てきましたけど、塩川さん的には「言うべきではなかった」のか「言い方は悪かったけど、言いたいことは間違ってなかった」のか。そこがどうなのか、気になりますね。

塩川氏:
 もし仮に、今の私が当時の『FGO』を対応していたら、もっと違った言い回しにしていたと思います。ただ当時、ユーザーさんの『FGO』への熱量が凄まじかった一方で、サービスとしてはまだまだ荒削りな状態でもあった。

 なので、当時の私なりに「熱量を持って楽しんでくれている方々に対するメッセージ」を発信する必要があると考えていました。

ヨコオ氏:
 「単純なプレゼンだけだと面白くないし、刺激があったほうがいい」というのは正論だとは思います。だけど、やっぱり言い方はよくなかったんですね。

FGO』塩川洋介×『ニーア』ヨコオタロウ対談:“炎上”したクリエイターはどうしたらいいのか?_008

クリエイターは、叩かれることよりも話題にならないことのほうがデメリット

ヨコオ氏:
 有名人が叩かれるときって「有名税だから仕方ない」って世間ではよく言われますけど、これについてはどう思われてます?

塩川氏:
 個人的には複雑な気持ちです。叩かれたことで良いことなんて、ひとつもありませんから。

ヨコオ氏:
 とはいえ、「クリエイターは叩かれることよりも話題にならないことのほうがデメリット」ともよく言われるじゃないですか。僕自身もそう思うし、とある知り合いのクリエイターさんも「炎上のほうがまだいい」と言っていました。
 それ自体を目的にして養分にする、いわゆる「炎上商法」はまた話が違ってきちゃうんですけど。

塩川氏:
 それはたしかにそうですね。クリエイターとしては、「無関心」が一番怖いです。

ヨコオ氏:
 一般論ですけど、一定以上の人間が集まると「変な人」も一定の割合で現れますよね。SNSだけじゃなく、現実社会でも極端で共感出来ない人っていうのは出てきます。それと同じでゲーム業界でも、お客様が増えれば変な人が増えてくる。そして、変な人が増えると「行動力のある変な人」も増えてきますよね。たとえばクラスに30人いて、そのうちのひとりが変な人だとして、母数が300万人になったら、変な人が10万人になるじゃないですか。10万人の中でX(旧Twitter)をやっていて、突撃してくる人が10人にひとりだったとしても、1万人は突撃してくることになる。
 そうなるともう大変だし、対処も追いつかない。そういうのって普通のお客様には見えないんですけど、「有名税」的な現象としてはたしかに発生している。

 そういう構造があるので、Xでイヤなことを言ってくる人は一定数いると思うんですが、僕の場合は気軽にミュートしちゃいますね。酔っ払ってX見てるとよくあるんですけど、タメ口で話しかけられただけでイラッとしてミュートしたり(笑)。

──なるほど。そうやって突撃してくる1万人に対して、矢面に立つのがプロデューサーやディレクターひとりでは、たしかに物理的にどうにもならない側面はありそうですね。

ヨコオ氏:
 そうなんです。で、こういう炎上のいろいろなケースを考えていたんですけど、最近のケースだとプラチナゲームズの神谷さんが面白いですね。神谷さん御本人はシャイで真面目なのに、Xだと乱暴なんですよ、普通に引用RTで晒しとかしてて(笑)。

 あんまり他のクリエイターさんってそういうことをやらないと思うんですけど、お客様の中にも極端な人がいるように、「クリエイターの中にもそういう人がいる」という現実を突きつけている。
 そういう意味では良い事例だと思いますし、乱暴に振る舞うことで、結果的に変な人を避ける機能もあるじゃないですか。だから、塩川さんのやった、ああいう極端なプレゼンテーションもやり方としてはなくはないな、とも思ったんです。

 そういえば、自分が関わっている『ニーア オートマタ』のアニメ版も原作とは変えているんですけど、「原作と違うと叩くユーザーさんがいる」ことは分かっていたので、最初から「ヨコオが原作と変えるんだ。アニメサイドは悪くない」という話をずっとしていたんですね。そして、それは割と効果があった。

 色んな炎上パターンを見ていると、ある程度予測できる気もしますね。僕らって漁師みたいなもので、市場が荒れていようが汚かろうが釣りをして生きていかないといけないじゃないですか。
 そこをどうやって生き延びていくかということを考えると、有名税が存在する事を認めた上で、神谷さんのやり方とか、コストも時間も掛かるけど、悪質な誹謗中傷はきちんと訴えるとか、これからはそういう方向も模索していく必要があるのかなと。

FGO』塩川洋介×『ニーア』ヨコオタロウ対談:“炎上”したクリエイターはどうしたらいいのか?_009

塩川氏:
 その意味でいうと、ありがたいことにいろいろな意味で自分はまだ「見てはもらえている」状況なんです。一部のユーザーさんからは色々と懐疑的に思われていると自覚はしていますが、徐々に関心に繋げていけるように頑張らなきゃなと思っています。

「部下をねぎらえない」「ドレスコードが無理」 ダメなエピソードに意外な共通点

ヨコオ氏:
 こんな「『FGO』ユーザーさんが知りたい話」を「『FGO』ユーザーでもなんでもないオレ」が聞くのは面白いですね(笑)。

 「塩川さんが好かれる」という未来についてですが、シナリオを書く立場の人間からすると、どういうキャラクターが愛されて、憎まれるのか。そういったものって、細かいディテールから印象が形づくられるとは思うんですね。

 今までの話を聞いていて思うのは、塩川さんの本来的な「上から目線」が嫌われがちなポイントだと思うんです。でもこれ、簡単には変えられないじゃないですか。だから、むしろ逆に塩川さんは「ダメに見える」方が愛されると思います。

──ということで、今回は元部下の方々から、事前に塩川さんのダメなエピソードのリストをいただいております。ヨコオさんから、気になる箇所をかいつまんでお聞きできればと思います。

塩川氏:
 よろしくお願いいたします。

ヨコオ氏:
 まず、「部下をねぎらえない」「イベント出展後、ねぎらいもなくその場でダメ出しするのはやめてほしい」。……美しいコンボですね。

塩川氏:
 アニメジャパンというイベントで、当時のディライトワークスが出展したんです。ただ、当日の展示や動線があまりよろしくない状態で。みんなが朝早くから夜遅くまで頑張ったことは重々承知しているんですけど、「みんなお疲れ様、よかったね!」で終わらせちゃうと、次に活かせないじゃないですか。
 なので、イベントが終わった直後に、その場で課題を指摘したんですけど……。

FGO』塩川洋介×『ニーア』ヨコオタロウ対談:“炎上”したクリエイターはどうしたらいいのか?_010

ヨコオ氏:
 多分ね、みんな思ってたことがあると思うんです。「やる前に先に言えよ!」と(笑)。「そしたらやっといたわ!」というね。ダメ出しするとしても、普通はまずねぎらいの言葉をかけてからですよね。順番が逆なんですよ。いや、でもこれ僕も似たような事やってますね……。

 僕は「人をねぎらえない人はディレクターに向いている」とずっと思っていて。そういう人間って、人よりモノを大事にするじゃないですか。僕が知ってるディレクターさんにもどこかおかしいというか、人間の扱いがおかしい人が多い気がしますね。ゲームでもアニメでも。

 えーと、次は「とにかくルールが嫌い」「ドレスコードが無理」と書いてあります。

塩川氏:
 そこは仕事の話というか、ただ単純に個人的な話になるんですけど。

ヨコオ氏:
 個人的にダメな話ですね(笑)。でも、こういうのが大事ですよ。

塩川氏:
 ルールが嫌いというか、人に合わせることが苦手というか……。
 昔、ある社長さんから誘っていただいて、ドレスコードのあるお店で食事をする機会があったんです。お相手の秘書さんから「襟付きの服をお願いします」とお願いされたので着ていったんですけど、店に入るときに私だけ止められて。「くるぶしが出てます」と。

 「いや、そんなこと事前に言われてないよ!」と帰ろうとしたんですけど、「今すぐ買ってこい!」と普通に怒られて、速攻で買いに行ったんですが……。

ヨコオ氏:
 すごいですね。ちなみに、「ズボンを腰履きにする」みたいなソリューションはなかったんですか?(笑)。

塩川氏:
 かなり腰履き気味にしていったんですがダメでした。

ヨコオ氏:
 いや、これ実は僕もけっこう抱えてる問題で。自分はとにかく「脇がキツイ服」が嫌いなんです。だから脇がゆるい服を見つけると一気にまとめて買っちゃうので、似たような服ばかりになる。
 足がタイトなのも嫌だから長ズボンも履かないし、家に一本もない。だから僕からすると、その店は絶対に入れないですね。襟のあるスーツもないし。

塩川氏:
 ファッションに興味がないので、同じ服ばっかり買っちゃうんです。

ヨコオ氏:
 そこは完全に僕も一緒です。いや、塩川さんの効率厨的な感じというよりは、「世の中にもっとゆるい服が増えてほしい」と思ってるんですけどね(笑)。

 この間、無印良品で靴下を安く買えたので大量に同じものを買ったんですよ。うちは基本的に妻が洗濯してくれるんですが、「組み合わせを考えなくていい」と喜んでいて。自分で洗う時もあるんですけど、どうせ靴下なんて見られないし、同じほうが健全だなって思うようになりました。

 ただ、この項目って「よくないことの例」として書かれているんで、お互いに「うんうん」と頷きあってちゃダメなんですよ(笑)。

FGO』塩川洋介×『ニーア』ヨコオタロウ対談:“炎上”したクリエイターはどうしたらいいのか?_011

塩川氏:
 ディライトワークス時代に、「同じ靴下を何個も買う人」が私のほかにもいて。ふたりで「楽でいいよね」という話をしてたら「あいつらサイコパスだ」と言われました(笑)。

ヨコオ氏:
 どんどん僕との共通点が出てきて、最終的に「ヨコオもよくない」みたいな話になるんじゃないですか、これ(笑)。

 次の話で、「ダイエットが趣味なのに、お菓子をめっちゃ食べる」とありますが。

塩川氏:
 カロリーオフのダイエット菓子を大量に食べちゃうんですよ。

ヨコオ氏:
 すごくわかります。僕も糖質30%オフのお菓子を2袋食べちゃうんです。だから実質、糖質140%になるんですよね。「気づけよ」と(笑)。

 もう歳なので、「早死にするの嫌だな」と思って健康に気を遣い始めたんですが、焼け石に水というか。低糖質の麺を選べるラーメン屋でライスを頼んでる。もう無茶苦茶なんですよ。ダメですね。塩川さんと僕は、完全に同じ方向のダメ人間です(笑)。

一同:
 (爆笑)。

ヨコオ氏:
 そして最後に、「オフィスが築50年」

塩川氏:
 これは私のせいじゃないですよ(笑)。一応オフィスがあるんですけど、もうボロボロでして……。

ヨコオ氏:
 「給湯器が壊れてお湯が出ない」「どこからか虫が出てくる」と。

塩川氏:
 そうなんです。バルサンを焚いてみたり、穴という穴にガムテープを貼ったり……。

ヨコオ氏:
 塩川さんともなると『FGO』で莫大な富を叩き出して、スイートルームでイヤらしいパーティーを開いてたと思うんですけど……(笑)。

 にも関わらず、そこから築50年のオフィスに行くという転落っぷり、ユーザーさんは喜ぶエピソードですね。こういうのが求められている。今はどう落ちぶれているのか、『FGO』から離れてどうなったのかという話はすごくいいと思いますよ。

塩川氏:
 看板を作るのももったいないので、表札はテプラで「ファーレンハイト213株式会社」って打ってそれをドアに貼っています。

ヨコオ氏:
 ここまでいろいろと塩川さんのダメエピソードを聞いてきたわけですけど、振り返っての感想とかあります?

塩川氏:
 最初にダメエピソード集を見た時にも思ったんですけど、「なんて自分はこんなにダメな人間なんだろう」と思いましたね。

ヨコオ氏:
 とはいえ、この振り返りはだいぶ人間味があったと思いますよ。ついでに僕も巻き込まれて、ふたり揃って仲良くダメ人間なのがバレてしまいましたけど(笑)。一緒に反省するという。まさかこんなことになるとは思ってなかった。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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